「暗闇」の書・第2話 最強邪羅鬼・金剛真斬(こんごうしんざん)
『五聖神』第48話。ファランの学校では春の文化祭で持ち切りになり、ファランのクラスでは小劇場を催すことになった。1回目の上演が成功した後、ファランの周囲に異変が起こり、最凶で最後の邪羅鬼が現れる!!
西大陸の中部、連極帝国の何処かで、新たな生命の誕生が起こっていた。黒くて暗闇に覆われた空間で、周りはゼラチン質のように弾力性があり、その中に赤黒い結晶のような殻からそれが生まれた。
「今こそ生まれし、最強最邪の邪羅鬼、我の妨げをする聖神武匠となった者を倒せ」
その邪羅鬼は朱色の眼を光らせていた。謎の声、いや邪羅鬼の創造主の命に従い地上に出た。
白い砂浜と塩水に強い石造りの家がいくつも並ぶ中、反翼瓦の屋根が水はけを良くし黒い屋根の住宅に対して、学校の瓦屋根は赤い連極南東部にある白浜省の淡岸の町。学校では初級学校も中級学校も庭の桜の木が薄紅色の花を咲かせ、それがピンク色の雲を思わせる春の季――。
淡岸中級学校――校庭では体育の授業を受けているクラスの生徒が男子は一〇〇メートル、女子はポートボールの競技を行っている。中級学校四年四組社安円先生の授業である国語の時間を使って四月下旬に行う文化祭の催しを何にするか決めたところだった。ファランは真ん中の列の後ろから二番目の席に座り、その右隣にファランの義妹であるヤンジェが座っている。
「――という訳で、お祭り屋台五票、アマチュアコンサート七票、お芝居が十三票で四年四組はお芝居に決定しました。次はお芝居を何にするかです」
三つ編みに銀縁眼鏡青い立襟の服の女委員長、男委員長は七三分けに緑の服でファランたち他の生徒も立襟の連極の民族の服を着ている。布地は色付きや花などの柄入りと個人によって異なっている。アンユエン先生は白い折り返しのブラウスと臙脂のタイトスカート、生成のニットベストという堅めの教師らしい服装である。
「あのー、中には台詞を覚えたりするのが苦手な人もいるから、その人たちは照明とか音響とかの方が向いていると思います」
ファランが芝居を何にするかの前に委員長に言ってきた。
「そうねぇ。となると、一二、三人ぐらいが役者の数としては妥当よね」
アンユエン先生が言うと、他の生徒たちはオーソドックスにシンデレラとか、一二〇〇年前の連極が類と呼ばれていた時代が舞台の『類戦王』とか、ルディアーネの作家でカストラリ=トゥラコッロの民話集『おとぎの花園』の中の七つ首竜を退治した主人公マルツィオの物語とか、ドゥエフの文豪ニコライ=ドブゥグライが書いた革命戦争を下敷きにした『アナトゥルの涙』だの出し合った。
芝居は女子が主役やヒロインをやりたがっている様が見られ、そしてその結果、プレゼオの作家でSF作品で有名なミロシュ=ブラッターの『機械人の町』に決定した。このSF文学は不時着した飛行士が人間そっくりのロボットの町に迷い込み、ロボットのふりをして生き抜こうとしたが、ロボットの独裁者を反乱軍と共に立ち向かう物語である。
「芝居が決まったから、次は役作りね。登場人物は一二人だから……、主役は誰がいいかしら?」
アンユエン先生が黒板を見てみると、男子委員長が黒板に主人公やヒロインや悪役の名前を書き、その下に演じる人の名前を入れる()を書いていた。他にも台本書きや照明係、衣装や小道具、看板といった役割も書かれていた。
「俺、考えるの苦手だから、看板やります」
そう言ったのはが体のある宮大成だった。タイチャンはファランとヤンジェの友人である。
「じゃあ僕は音響やりまーす。BGMに相応しいCDを持っているから」
そう自薦したのは軟派に見えるが実は優秀な両秀龍だった。シウロンもファランが淡岸に来て以来の友人である。
「私は衣装をやります」
ファランの右隣にいたヤンジェが自薦した。ヤンジェは裁縫が得意なので自分の服もいくつか手製である。そして次々に係りが決まっていき、最後は役決めとなった。だけど衣装や照明と違って演じる役は決定が意外と難しく、誰かが推薦したからといって本人が嫌がれば無理なのだ。そこで平等だからという理由であみだくじで決めることにして、ジ上に生徒の名前、下に役名を書き、先生が白いチョークで書いた線の上から赤いチョークで上書きになぞっていく。
「私はヒロインだわ」
「俺はボスの部下だ」
自分の名前が役名にぶつかると、みんな口ぐちをそろえる。そして主役の飛行士カレルはというと。
「え!? 僕がぁ?」
何とそれはファランだった。
淡岸の町外れの小高い丘の上にある黄色がかった白い壁の家が二つあり、更に竹竿で作った洗濯干し場、李と合歓の木がある庭、そこがファランとヤンジェの家であった。ファランたちの部屋と居間のある母屋、離れは台所と風呂場と客間兼客用寝室になっている。
空は少し黄色がかった青で太陽が西に向かっていて、冷たい北風が吹いていて庭木の枝やこれから片付けられる洗濯物が揺れたりなびいてたりしていた。
「はー……、主役かぁ。出来るかなぁ……」
帰り道、ファランは自分が主役に決まったことに仰天しつつも自信ないのと成功させなければと口を溜息を吐いていた。
この日はクラブが休みだったので、学校のみんなは早くに帰宅していった。ファランたちの学校では、毎年クラブによる催しとクラスによる催しをどちらかを中心にするかで隔てて文化祭を開いていた。二〇二〇年の今年はクラスによる催しだった。
ファランの家ではファランとヤンジェと祖父の三人暮らしで、家事の分担は日ごとに決まっていた。今日はファランが洗濯物を取り込んでたたみ、ヤンジェが夕飯の支度をする。
離れの台所の食卓の上には、ヤンジェが作った晩御飯が置かれていた。カニ玉スープに春雨サラダ、青菜炒めとバンバンジーと白飯である。
「おお、丁度できたところか、ただいま」
灰色の髪をオールバックにして長いひげ、渋い色の衣服の老人が台所に入ってきた。ファランの母方祖父でヤンジェの養父である玫健雄である。ジェンシュンは町の風水館で風水師を勤めているのだ。
「おじいちゃん、お帰り。アイロンがけ全部じゃないけど、やっといたから」
ファランが台所にやってきて、三人は食卓についてスープをすすったり青菜炒めをほおばったりして過ごした。
「……でね、おじいちゃん。ファランはね文化祭でうちのクラスの催しの芝居で主役が決まったの」
「ほお。それは見てみたいな」
「おじいちゃん、まだ文化祭まで三週間あるんだよ。それに台本も衣装も出来てないし」
「私は衣装係りに自薦したの」
ファランとヤンジェは今日学校であった出来事を祖父に話し、祖父は是が非でもファランが主役を務める芝居を見たがっていた。
(……おじいちゃんがああ言っているのなら、やるっきゃないよなぁ)
ファランは主役に選ばれた時は戸惑っていたが、祖父の一言でやる気が少し出た。
そうしていくうちに一週間が経ち、ヤンジェともう一人の女子が作る衣装は次々に出来ていき、台本も完成してファランと他の役者たちは監督兼演出家の島美枝の指導の元、昼休みと放課後を利用して芝居の練習に励んだ。ヤンジェのような衣装係や催し物の必要な衣装を作る生徒たちはミシンのある家庭科室で作業し、タイチェンたち大道具は机を前に置いて教室の後ろ半分で背景のついたてや看板を塗ったり切ったりしていて、ファランたち劇の役者たちは廊下で台詞合わせや演技に励んでいた。
「待っていてくれよ、どうしても行くというかい? 人間の君には危ないよ」
「何を言っているんだ、みんな。このままヴェルフェル総統の言いなりのまま過ごすというのか? 今こそ、ルドルフ、一般機械人の君が革命の火を起こす時だ!」
台本通りの台詞を言いながら、前半部終了の練習をするファランたち。
「よーし、OK!! 前半部の台詞合わせは完璧ね。明日からは後半部の練習よ!」
左右に編みこんだ髪に一六〇センチ代の背丈の演劇部所属のメイシーが一同の演技を見て手を叩く。放課後の練習はクラブのない日は四時半まで、土曜日は昼食持参で三時半まで、日曜日は午後の一時からの二、三時間という具合に。
「あー、今日の練習も大変だったなぁ」
「お疲れさーん」
みんなが解散していく中、ファランも布の肩下げ鞄に台本を入れ、先に帰ったヤンジェと祖父の待つ家へと帰っていった。校庭では文化祭練習のために残ってこれから帰ろうとする生徒たちの姿が見られた。空は陽が西の方へ傾き、レモンのような黄色と青の二層に分かれ、まだ北風の冷たさがかすかに残っている。町中は学校帰りの初級学校生や公園から帰るところの幼児と親、犬の散歩をしている老人や商店街に行こうとする主婦に混じってファランは歩いていた。途中ファランは懐から白い掌大の機器を出して見つめる。
一見ただの電子手帳に見えるそれは西大陸の五聖神、白虎から授けられた道具・転化超である。開くと画面と計算機や辞書の他、レーダーや変身といった色々なパネルが並んでいる。世界の陰陽や善悪といった均衡が崩れる時、世の悪気から生まれし生命体、邪羅鬼を倒すためにファランは“勇”の意が強かった故、白虎の力を授かりし聖神闘者となった。
それから心強き者に与えられる伝説五玉の一つ“黄希玉”の欠片を集め、ファランは聖神闘者から聖神武匠へと進化し、黄希玉の欠片で進化した超邪羅鬼を倒したのだった。
それから一ヶ月半が経ち、邪羅鬼がこの間には一体も出てこなくなった。決して世界の均衡が整った訳ではない。いつどこで出くわすかわからないから、とファランは学校でも家に居る時でも休みの日でも常に転化帳を持ち歩いていた。
(もしこの世から邪羅鬼が一人も出てこなくなったら、転化帳が教えてくれるはずだ。ぱたりと終わる戦いなんてない。終わりになるとしたら、その兆しが見えるのだから――)
それからまた日にちが経ち、タイチェンたちが作ってくれた町や森の背景、テーブルなどの道具は正にSFの世界観を引き出してくれる感じで、ヤンジェたちが作ってくれた芝居用の衣装も本人たちの身の丈や役のイメージにぴったりであった。安く手に入る人工絹や木綿なのに立派に見えるのだ。ファランが演じる主人公の飛行士服も地味なベージュなのに、格好いいのだ。
「うわぁ、みんな似合っているわね!」
アンユエン先生がファランたち役者の衣装合わせを見て、感心する。主人公の飛行士カレルの他にも、つぎだらけの服を着た平民の機械人やエメラルドグリーンの服を着た機械人の総統、カーキ色の軍服を着た総統の部下もしっくりきているのだ。
他のクラスも屋台料理や喫茶店、アマチュア映画のセッティング、お化け屋敷、巨大迷路、クラブだけによる出し物もいくつかあり、美術なら似顔絵注文、調理部なら手作り樫の販売、メイシーが所属している演劇部何か午前と午後で違う劇を催すというのだ。
「でもメイシー。あなた演劇部の活動もしなくちゃいけないんでしょ? うちのクラスは午前も午後も同じ劇だからいいとして……」
役を務める女子がメイシーに尋ねてくると、メイシーは余裕のある笑みを見せる。
「そう言われると思って、演劇部の方は出番の少ない脇役にエントリーにしておいたから!」
用意周到とは正にこのことである。
そして四月二四日。淡岸中級学校の文化祭が開催された。空は白い雲がいくつも浮かぶ真っ青な晴天で、校庭の桜の木は緑の葉と薄紅の花の対比が半々となり、校庭にはいくつもののクラスやクラブの屋台やステージが設置され、正門には赤と黄色の斜め縞模様の看板が立てられている。町中の大人や幼児連れ、老人や他所の町の学校生が集まってきていた。
ファランたち四年四組の小芝居は体育館で午前は悲劇、午後は喜劇を行う演劇部の大掛かりな出し物とは違って午前と午後に二回行うプログラムであった。というのも、客が一度に十五人までしか入れないなので、一日で同じ劇を四回行うという形式だった。
入口ではメイシーが受付をして、小芝居を見に来てくれた客に整理券を一枚ずつ配り、客席では教椅子に座る親御さんや他のクラスの生徒が座り、舞台裏ではファランたちが衣装の合わせや台詞の記憶にはりきっていた。
「いいか、台詞をとちらせるなよ。毎日練習してきたんだ。演劇部よりも楽しませるんだ!!」
悪役のヴェルフェル総統を演じる杭連蔵が言った。クラスのほとんどが戯曲を基にした小芝居でそれも外国の作品をやるのは初めてだったけれど、見に来てくれた人たちを楽しませようと気合いを燃やしていた。
そして舞台裏でBGMを流すシウロンが冒頭の音楽を開始させ、『機械人の町』が始まった。
物語の開始は嵐の中の飛行機を操縦するカレルを演じるファラン。飛行機が墜落するところで真っ暗になって町の見える森の場面に変わり、脇役の機械人が町を歩いたり燃料スタンドでオイルを飲んでいる場面を見てここが機械人の町だと気づく。生身の人間と悟られないように機械人のふりをする飛行士カレル。穏健派と機械人との交流、ヴェルフェル総統による町の支配、戦争、追われる穏健派の機械人、総統とカレルの決着、平和になった機械人の町、クライマックスで飛行機に乗って機械人の町を去るカレル――。カーテンコールは主役を務めたファランを中心にたっては客の拍手喝さいを受けた。午前一次の小芝居は大成功だった。
劇が終わると観客たちはファランたちの教室を出て、他のクラスの出し物を見に行き、ファランたち四年四組の面々もトイレに行ったり次の開始時間の十一時半まで他の催し物の見物や台詞合わせや衣装や道具の点検を行う。出入り口に『次の開始時間までお待ち下さい』の看板をかけ、監督のメイシーがみんなに言った。
「みんな、私は体育館に行って演劇部の出し物に参加しに行ってくるから、三十分後に葉戻ってくる」
「ああ、行ってらっしゃい」
メイシーは小走りで体育館で開かれている演劇部の午前のプログラムの劇『妖精女王への恋』に参加した。『妖精女王への恋』は十七世紀のルディアーネの作家、アレルッキオ=スヴァーニの書いた戯曲で物語の筋は、狩人の青年ステファーノが森で鹿を追いかけていると妖精の国に迷い込んでしまい、妖精の女王マスツィエラと恋に落ちるが、村長の息子ヌンツィオがマスツィエラを横取りしようと企んでマスツィエラの鹿を殺し、マスツィエラは怒り狂ってヌンツィオたち村人を木に変えていき、村人の中にはステファーノもいたためにマスツィエラは後悔して自分も木になった――という悲劇である。メイシーは主役や準主役ではなく、脇役のマスツィエラの家来であるが。
メイシーが体育館にやってきた時、彼女はとんでもない光景を目にしたのだった。
「!!」
体育館では観客も舞台役者も誰もが青銅の像のように硬くなって動かなくなっていたのだ。天井のスポットライトだけが舞台を照らし、明るい森の背景と青銅の人間がミスマッチになっていた。
「こ、これは一体……!?」
メイシーが驚いていると、周囲から黒い霧、床から黒い粘液が湧きだしてきて、メイシーの方へ向かっていく。
「い、いやぁ……」
メイシーは叫ぶ暇もなく、黒い霧と黒い粘液に包まれ、青銅のようになってしまった。
その頃四年四組の教室では、面々が休憩時間の間、次の観客導入や雑用係の生徒が買ってきてくれたジュースを飲んでいた。
ピピピ、ピピピ
ファランの芝居用衣装の下の普段着の懐に入れていた転化帳が鳴ったのだ。
「な、何だぁ!?」
他の役者メンバーがファランから聞こえてくる音に驚くも、ファランは咄嗟に舞台裏の隅に隠れた。ファランは転化帳を急いで取り出し、手帳を開いた。画面のレーダーには邪羅鬼を現すマークが浮かび上がり、それがファランたちのいる学校だと表示されていた。
(そんな……。文化祭の、それも人がたくさん来ている時に現れるなんて!)
ファランは周りが静かなことに気がついた。振り向くと、みんな青銅のように硬くなっており、同級生や先生だけでなく芝居を見にきてくれた人たちも、廊下を歩く人たちも青銅のようになっていたのだ。
「ヤンジェ、先生、シウロン、タイチェン、どうして……」
ファランが青銅のようになった人々を見て青ざめていると、黒い霧と地面から湧きあがる黒い粘液が周囲を染め、ファランは黒というより紫や紺がかった暗い空間の中に居たのだ。北も東も西も南もわからぬ空間に。
「そうか、邪羅鬼の仕業か。しかもとてつもなく強いのが……」
ファランが冷静になると、いちばん黒い場所から一体の邪羅鬼が出てきた。すらりとした長身に黒い体毛に覆われており、朱色の怪しげな双眸、腰から細長いぎざぎざ尾が下がり、黒い胸鎧と左右非対称の赤と白の装束をまとっていた。まるで狼男である。
「邪羅鬼……! お前がみんなを像にして、この空間を創ったのか!?」
今までの邪羅鬼と違った脅威に恐れおののつも、顔をあげて尋ねてきた。
「まぁ、半ばは俺の仕業だが、人間たちを像に変えたのは“あの御方”だ。この世界を新たな世界にするための下準備だ。俺はおまえを倒すために送り込まれた最強金剛真斬――いわば最強の邪羅鬼」
金剛真斬を名乗る邪羅鬼はファランに自己紹介を述べる。
「あの御方? 新しい世界?」
ファランが首をかしげつつも冷静に尋ねる。
「簡単には教えぬ。ただ、“あの御方”は五聖神の申し子が妨げになるから始末しておけとのことだ。さぁ、来い」
金剛真斬は腰にさげていた直刃の長刀を抜き、ファランに向ける。
「聖神金転化……!!」
ファランは転化帳を取り出し、聖神闘者より格上の聖神武匠に変わる。純白と黄色の二色の光がファランを包み、聖神武匠となったファランが現れる。
白虎の耳と尾と虹色が入った銀色の二房の前髪、腰に燕尾がついた白い袖なしの衣、腕には白い袖と茶色いグローブ、黒いひざ丈の下衣、茶色の中長靴、服や袖や靴にはベルデッド装飾で、服には金色の細部が入った光沢の装束である。
金剛真斬はファランに刃を向け、ファランも刀身に星型の黄玉が付いた二つのカタール刀型の細剣を持ち、ファランは×字状に邪羅鬼の刃を受け止め、ファランは左手の剣を素早く相手の脚に刺そうとした。だが金剛真斬が咄嗟に気づき、口から黒鉄の小針を出してきた。ファランはそれを見て刃で顔を防御し、邪羅鬼の針から逃れるが金剛真斬が隙を見てファランの鳩尾に蹴りを入れてきて、弾き飛ばした。
「ぐあっ!!」
ファランはだだっ広く壁も柱もない空間に倒れ、起きあがろうとしたが金剛真斬の方が早く、ファランの胸倉を掴んできて腹に拳を入れられて顔面を殴られる。
「ぐふっ」
ファランは顔を押さえられて起き上がり、鼻血と口から出る血を垂らしつつも、紅い眼で邪羅鬼を睨みつける。
「ここまでいたぶられても起きあがれるとは……。随分としぶといものだな、人間というのは」
金剛真斬は見下しつつも諦めないファランに感服する。ファランは血を拭うと邪羅鬼に言ってきた。
「お前を倒すまで……僕は負けない。人間ってのは簡単に滅ぶことないからね!」
ファランは先ほどとは違った様子を見せ、邪羅鬼はファランを見て目を丸くする。
「なら、お前を倒すまでだーっ!!」
金剛真斬は長刀を×字状に振るい、紫紺の斬撃を出してきてファランに向けてきたが、ファランの方が一・二秒早く剣に電撃を帯びた斬技、金雷斬を出して斬撃を弾いて一瞬明るい白光を出した。
「こしゃくな!」
金剛真斬は長刀を持って突進してきたが、ファランは両手から電撃の玉を出して飛ばしてくる光雷玉弾を放ち、邪羅鬼は感電して剣を地に落とす。
「が……は……」
自分は今までの邪羅鬼よりも強く、また伝説五玉の欠片という付け焼刃で強くなった超邪羅鬼よりも強く生み出されたというのに……電撃で体が焦げて痺れつつも金剛真斬は思った。
「お前を倒すのが俺の役目……」
邪羅鬼は剣を拾おうとしたが、ファランが二本の細剣を地に突き立てて一本に白、一方に黄色の電撃を走らせ、二色の電撃の柱が金剛真斬を貫いた。
「白虎雷刃!!」
金剛真斬はファランの最強技を受けて断末魔をあげて白と黄色の閃光の中、消滅していった。
「はぁ……、倒せた……」
ファランは一息つくが、この怪しげな空間が邪羅鬼を倒したら元に戻ると思っていたが、いつまで経っても残っていることに気づいた。
「そんな……、どうして……」
その時転化帳が鳴り、ファランは懐から取り出して開くと、画面には白い毛に鋭い牙と橙色の瞳を持つ西の五聖神、白虎が映し出される。
「白虎……!」
『久しぶりだな、ファラン。だがこの空間を創った者を倒さない限り、元には戻らない』
「創った者って……誰!?」
『いや、しばらく様子を探ってくれ。いずれわかるだろう』
白虎が渋い顔をしながらもファランにそう伝えた。ファラン白虎に従って、空間を歩き回った。
(本当にさっきの邪羅鬼が言っていた“あの御方”が創ったんだろうか? 何処へ行っても暗闇ばかりだ……)
ここでファランは足を止めた。自分のいる処に向かってくる足音を聞いたのだった。一人ではない。数人だ。
(また邪羅鬼か? それとも……)
ファランが片手で剣を抜こうとする姿勢をとり、ファランの目の前に現れたのは……。




