表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
五聖神黙示録  作者: 浅葱沼 氷雨乃
47/54

「暗闇」の書・第1話 聖神武匠の日常

『五聖神』第47話。超邪羅鬼との戦いが終わってから2ヶ月半後。5人の聖神武匠は各々の家族や友人と穏やかな日々を過ごしていた。だが、それは嵐の前の静けさだった……。


 玫化浪(メイファラン)


 

 白い砂浜はまっすぐで長く、海は沈んだ青で空は白がかった青で、冷やかな風と潮の匂いが混じっていた。

 港町近くの海岸に人はあまり来ない。来るとしたら、砂浜をランニング場にする若者、犬の散歩に来ている老人、海の波を見つめにやってきた通りすがりの者くらいだった。

 その海岸の一ヶ所に少年と少女が座っていた。少年は短い黒髪に白い肌、眼は虹彩の部分が赤く、白い襟の立った上着を着、上着は裾の部分が股近くまであり、紺色のズボンを履いていた。

 隣の少女は長い黒髪を高く結い上げ、色白の肌に琥珀色の瞳が冴え、黄色い一つなぎの衣と黒い中衣とズボンを身につけていた。

 波が白く立って引いたり上がったり、沈んだ青の水面との対比が美しく、遠くの沖ではマストのある商船や商船より小さな漁船は近くの港町の波止場に泊まり、外国からの商人や客、漁師が手に入れた魚を港の市場に運んでいた。時折、カモメやアジサシなどの海鳥が空を飛んでいるのを目にした。

「もうファランが淡岸(タンアン)に来てから九ヵ月が経つのね」

 少女が白い服の少年に声をかける。

「うん……。何かね、淡岸(タンアン)に来てから何もかも変ったのが信じられなかった」

 少年ファランは隣の少女、陽傑(ヤンジェ)に言った。

 二人とも十四歳で港町、淡岸(タンアン)で暮らしている。だけど二人の生い立ちは異なっていた。

 ファランは一年前の夏初めまで、両親とともに(れん)(ごく)帝国の首都、美都(メイツー)で暮らしていた。母が元々淡岸出身のため、両親が不慮の事故で亡くなった時、ファランは母方祖父の昇雄(ジェンシュン)に引き取られた。その時、祖父の養子となったヤンジェと出会い、二人は義兄妹になった。

 ヤンジェは生まれて間もなく孤児院で育ち、五歳の時にファランの祖父に引き取られて、その後祖父に本当の孫がいると知ると動揺するも、打ち解ける事ができた。

 それからだった。ヤンジェは(レイ)族の領主の娘で皇帝の六妃として迎えられるはずだったが母方祖父と母が領民を酷使したために不満を持った領民によって祖父が処刑され、母は孤児院に自分を預けて病死したことを皇帝の使いから聞かされた。

 今から二ヶ月半前にヤンジェの父で皇帝が急死したためにヤンジェも皇位継承のために皇宮に連れて行かれるが、正妃の長男の即位式に起こった出来事のため、ヤンジェは淡岸に帰ってきたのだった。

「皇宮に帳邪羅鬼が現れてきてから、邪羅鬼が出てこなくなって学校に行ったり友達と遊んだりの普段の暮らしが出来たのはいいけど、ファランはどうなの?」

 ヤンジェが尋ねると、ファランは肩をすくめる。

 世の悪から生まれた超生命体、邪羅鬼と戦えるのは五大大陸の五聖神によって選ばれた人間だけが邪羅鬼と戦う聖神闘者となり、人間を襲う邪羅鬼を倒し続けてきたファラン。

 更に西の五聖神、白虎に頼まれて探しだした伝説五玉の一つ“黄希玉”でファランは聖神武匠に進化して、今までの邪羅鬼よりも格上の超邪羅鬼を倒したのだった。

 その後は何事もなく平穏な日が続いていた。

「大丈夫だよ。邪羅鬼が出てきたら、聖神武匠の僕がいるんだから」

 沖の漁船の一そうが汽笛を鳴らして、春の晴天に鳴り響いた。






 リシェール=グラコウス


 住宅街近くの林の枝は鮮やかな若い芽を吹き、空は澄んだ青で冷やかな風と暖かな日光が鳥や虫、犬や猫に浴びせて、春の訪れに人々は活気を受けていた。

 フロイチェク通りは様々な色の屋根や壁、庭の構造も家屋によって異なり、その茶色の屋根にベージュの壁の家から一人の少女が出てきた。

「行ってきまーす」

 色白の肌にストレートの桃金髪(ストロベリーブロンド)のセミショート、若葉色の瞳、七年生にしては少し小さめの背丈、黒と金縁のブレザーにローズピンクのスカート、足元は黒いスウェードのハイカットブーツに薄いピンクのハイソックス。背には黒とピンクのタータンチェックの小さなリュックを背負い、スラドフト通りへ向かっていった。

「おい、リシェール。折角の日曜日なのに、クラブ活動か?」

 少女リシェールのリュックから低い男の声がしてきた。

「仕方ないじゃない。超研に入ったんだから」

 リシェールが声の主に言い返す。リシェールの言う超研とは超常現象研究会のことで、リシェールは美術部の他、超研のかけもちをすることになった。

「まぁ、超邪羅鬼に捕まった友達を助けたからとはいえ、超研部長が勝手についてきたからなぁ」

 リシェールのリュックから黒い蛇が顔を出す。赤い眼で頭部に三対の角が生えている。

 プレゼオ国のリシェールは北大陸の五聖神、玄武によって世の悪気から生まれし生命体、邪羅鬼と戦う聖神闘者となり、様々なトラブルと衝突しながらも、神秘鉱石、伝説五玉の一つ“藍静玉(らんじょうぎょく)”を手に入れたことによって、聖神武匠に進化して友人ヴァジーラをさらった超邪羅鬼を一ヶ月半前に倒したのだった。その時にヴァジーラと超研部長、エクシリオ=プレッツァーにリシェールの秘密を知られてしまったけれど。

 三、四階建の建物が並び、一階が店舗になっているスラドフ通りは人々の活気や声、海の幸や花や果物の匂いであふれていた。

 リシェールはスラドフ通りを抜けて、その反対側の出入り口で待っている五人の男子、リシェールより高めの背に赤茶の髪に灰色の眼の少女が立っていた。

「リシェール、準備にかかってたからって、あたしを待たせないでよ」

 少女がリシェールに言った。リシェールの数年前からの友人、ヴァジーラ=オストチルで、今は母が再婚したためにヴァジーラ=ゼマネツクである。

「ごめんね、ヴァジーラ。UMAの絵を描くための色鉛筆がなかなか見つからなくって……」

 リシェールは口ごもりながら謝る。

 超常現象研究会の活動は幽霊の出る場所やUMA(未確認生物)の探索、UFOや地球外生命体との交信といったものばかりだった。リシェールは超研の部長に邪羅鬼や聖神闘者の秘密を漏洩の口止めとして、超研に参加していたのだった。

「いいよ、そんなこと。今日は七丁目の川辺に出てくる人面魚探しに行くからね」

 灰茶の髪にメロン色の眼に黒いベストとハイネックシャツとチノパンツ姿の少年、エクシリオ=プレッツァーが言う。エクシリオは四人の男子部員たちに声をかける。

「それじゃあみんな、人面魚探しに行くよ!」

「おおーっ」

 リシェールとヴァジーラについていき、超研の活動にはげむ。

 ペルヴェドの街はとても平穏だった。









 ケンドリオン=アーベル


 澄み渡った青い空、草原の中に一台の朱色の車体の三両編成のディーゼル車が走っていた。そのディーゼル車の中に慰安旅行中の老夫婦や出張に行く商社マンや幼い子供のいる家族連れに混じって、ストレートの金髪に銀目に眼鏡、白い肌に長身、金髪に生える青いジャケットの青年が窓際の席に座って変わりゆく景色を眺めていた。

 青年のはケンドリオン=アーベル。東大陸の大国の一つ、サンセリアの西部中心よりのグラスフィールドの高校生である。

(今のうちにやっておかないとなぁ、旅行……)

 ケンドリオンは弁護士を目指すべく、偏差値はそうではないが卒業後の進路は非弁護士の多い大学の入学試験に合格し、妻と別れてケンドリオンと一緒に暮らしている父が大学合格の祝いとして、春休みの電車旅行をプレゼントしてくれたのだ。

 優等生に合わず電車好きのケンドリオンにとって、地元のグラスフィールド以外の電車に乗るのはとてつもない喜びだった。

(大学入試日に超邪羅鬼が出たけれど、そいつのおかげで試験日がのびて合格できた、ってのが奇跡だからなー……)

 東大陸を守る五聖神・蒼龍によって高い知性と冷静さゆえ、世の悪気から生まれし超生命体・邪羅鬼と戦うことになったケンドリオンは学校や勉強といった日常と邪羅鬼退治の両立を何とかこなした。父や友人、学校の先生や学校生、離れて暮らす母や弟妹、ウォルナットヒルズの大学の下見に来た時の親戚を巻き込まないように。

 最近ケンドリオンは精神の強い者に力を与える伝説五玉の一つ“緑幸玉(りょっこうぎょく)”を手に入れ、聖神闘者から聖神武匠に進化し、伝説五玉の欠片で進化した超邪羅鬼を倒してから一ヶ月半が経過していた。

(あれから二ヶ月近くになるけど、邪羅鬼が出てこなくなったのは、この世の均衡が治まったからだろうか?)

 ケンドリオンはそう思いつつ、父に携帯電話のメールを送り、車内販売で買ったミルクコーヒーのペットボトルを飲んだ。

 窓の景色は青々とした草原から木造住宅が点々と並ぶ農村になり、青い苗が植えられた畑が広がる景色はトラクターを動かす農夫や軽トラックを運転する若者の姿が見られた。

『ライスステップ、ライスステップ。お乗換えや下車するお客様はお降りください』

 若い男性アナウンスの声が出入り口上のスピーカーから流れ、下りたり乗ったりする客の姿が見られた。

 グラスフィールドを出発して三時間。あと一時間で目的地のハリーホライズンに到着する。そこにあるユースホステル宿でケンドリオンは泊まる予定を立てていた。もうお昼だけど、そんなには空いていない。

「もっと空いてからにしようかな。それともハリーホライズンで食べようかな」

 車内で駅弁当を食べるのも乙だが、目的地の飲食店もいいのがあったら、とケンドリオンは思った。





 サユ=コーザ


 ランゴをはじめとするジャングルシティは常に巨木バン=ダルーイの葉やアカシアなどの木の枝で空は覆われており、葉や枝の隙間から木漏れ日が地面を照らすが、今のロプス国は雨季に見舞われていた。

 地面はぬかるんで、茶色い濁流が地面を流れていき、学校や仕事が豪雨のため休みなることが多かった。

 ジャングルシティの住民はバン=ダルーイの巨木を空洞にくり抜いて、家や店舗にしていたが、雨が何日も続く時は洗濯類は部屋干しし、食糧も塩漬け肉や干し魚などの保存食で済ませていた。

 ランゴの一角に孤児となった少女・サユ=コーザは自分を引き取ってくれた主人の娘、イロナ=ツドイと一緒に勉強していた。バン=ダルーイ住居は木を机やタンスなどの家具として残し、備え付けたような机にはイロナとサユが並んで勉強している。

 家主の娘イロナは長い黒髪を三束の三つ編みにして高く結い上げて垂らし、ロプス人にしては白い肌で、青い半そでのワンピースを着て、椅子に座って数学の公式を書きとどめていた。

 イロナの隣に座るサユ=コーザは南国人らしく小麦色の肌に背中まである褐色の髪をたらし、赤いワンピース姿で世界史の内容を覚えていた。学校が五日も休校のため、自宅学習で雨のゆるい日の学校の授業についていけるようにするためであった。サユの小脇には学校の教科書の他、WUP(世界同盟警察)の養成学校の資格試験の参考書もあった。

 サユは幼くして父を亡くし、母も九ヵ月前に何者かに殺され、親戚は引き取ってくれず、サユは亡き母の知り合いであったツドイ家に引き取られてまた自立のためにマルゼイ動物保護園でのアルバイトで生活の足しにしてきた。

 そのためサユは南大陸の五聖神・朱雀によって世の悪、邪羅鬼と戦う聖神闘者となり、そして母を殺したのが邪羅鬼の一人と知るも、その後は母の様な犠牲者を出さないために戦うと誓った。そしてサユは一ヵ月半前の出来事で人生の目的が芽生えた。

「WUPに入って、子供たちを助ける」

 世界同盟警察は主に国内の凶悪事件の捜査や凶悪犯罪者の逮捕、そして南大陸では珍しくもない腐所や児童の被害事件が任務であった。

 二ヶ月半前、サユは自分よりもひどい運命を背負った少女が十年間体内に宿っていた邪羅鬼を覚醒させて、少女を虐げてきた養父母を殺し、邪羅鬼を倒せば少女も死ぬことを知ったサユは強き心の者に力を与える伝説五玉で強化した超邪羅鬼に襲われる。だが人間に宿っていた邪羅鬼の方が強く、超邪羅鬼は辺に邪羅鬼に取り込まれてしまう。

 ところが伝説五玉の一つ“紅熱玉(こうべつぎょく)”がサユの邪羅鬼になった少女を救いたいという気持ちに応えて、サユを聖神闘者から聖神武匠に進化させた。サユの救済の炎で超邪羅鬼だけ死滅し、少女は赤ん坊に転生したのだった。

「この間、エバリの新しいご両親から手紙が来てて、エバリはとても元気で三ヶ月検診も終わりました、って」

 サユは自身が救済して赤ん坊に変えた少女エバリの様子を聞いて安堵した。

「……十年後には、どんな女の子になっているんだろうな」

 サユはイロナから聞いた手紙の内容を知ると、エバリが南サンブロンに住むエバリ=バオニコが養父母から愛されて、友人もできるようにと祈り、WUPの資格試験の参考書をめくった。




 バルトゥル=リムド


 晴れ渡る蒼い空に緑の稜線が連なる山、青々とした草が生える平原に一頭の白地に灰色のまだらの仔馬に乗った赤い髪と空色の眼と浅黒の肌の少年が駆けまわっていた。少年の乗る馬には金毛のヤマネコと二本角を頭に生やしたウサギがついてきて走っていた。

 風が吹いて少年の赤い髪や馬のたてがみや草原の草が揺れる。馬に乗った少年たちの走っているところから少し離れた場所に車椅子に乗った亜麻色の髪に青緑の眼に石英のような白い肌の少年、白い肌に生える長いブルネットのウェーブヘアにスミレ色の眼の幼女が馬に乗る少年の様子を見つめていた。

「ジョーイが仲間になってから、すっかりこの草原に来るようになったわよ」

 少女が車椅子の少年に言った。

「うん、バルトゥルが戻って来てくれて本当に良かったよ」

 車椅子の少年が馬に乗る少年を見て黒髪の少女に返事する。二人はバルトゥルの友人であった。

 三人はこの草原近くの町、フィロスに住んでおり、同じ学校の同級生だった。といっても車椅子のトルスカ=フェビアンはバルトゥルや今一緒にいるロザリンド=コロナより2歳下の少年だが、持ち前の頭脳で本来なら中級学校の三年生にあたるが最高学年に飛び級していた。

 ロザリンドもコロナ植物研究所の所長の娘で、九ヵ月前に転校してきたばかりのバルトゥル=リムドを助けてあげていた。

 バルトゥルは十年前の隣国ラザドが土地の所有をめぐってバルトゥルの生れた村を襲い、それが下人で父母を喪い、バルトゥルは十年間も森の動物たちと一緒に山で暮らし、九ヵ月前にフィロスの町に住むシャロン夫妻に発見されて、町で暮らすようになり、文字や言葉や文化を覚えていった。

 でももっと驚いたのはバルトゥルは中央大陸を守護する五聖神・翠麒(すいき)によって選ばれた聖神闘者で、世の悪気から生まれた超生命体・邪羅鬼と戦う戦士となり、トルスカもロザリンドも邪羅鬼に襲われるが、バルトゥルに助けられた。

 ある時バルトゥルはシャロン夫妻の甥っ子の出現でフィロスの町を飛び出し、山暮らしでの友達、金ヤマネコのミグと角ウサギのカルクと共に滅んだバルトゥルの故郷、レデス村近くの山へ逃げて暮らしていたが、迷い馬ジョーイと出遭い、フィロスに今までの邪羅鬼よりも強い超邪羅鬼の出現に伴い、フィロスに戻って更に精神の強い者に力を与える伝説五玉の一つ“紫誠玉(しせいぎょく)”で聖神闘者から聖神武匠に進化して、超邪羅鬼を倒したのだった。

「あれから一ヶ月半、邪羅鬼が出てこなくなったけれど、忘れた頃に災厄がやってくる、っていうからねぇ」

「大丈夫だよ。バルトゥルがいてくれるし、人間が欲望や憎悪に囚われない限り、平穏ってのがあるんだから」

 ロザリンドが呟くと、トルスカが応える。


 光と闇、善と悪、生と死、秩序と混沌、そして平穏と戦乱は常に隣り合わせなのが、世界の均衡を保っているのだから。

 彼にとって最大の試練の影が迫ってくることは後ほど――。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ