「青」の書・第9話 化わりゆく者
『五聖神』第43話。ケンドリオンの受験先で超邪羅鬼が出現し、テイラーを人質にとった! ケンドリオンが窮地に追い詰められていると、緑幸玉が変化を起こし、ケンドリオンが聖神武匠に進化した!! ケンドリオンの合否は!?
ジャックロンド中央大学で超邪羅鬼が出現し、受験生や試験監督が逃げていく中で、ケンドリオンはただ一人、超邪羅鬼に立ち向かっていった。
聖神闘者に転化したケンドリオンは腰に下げた龍頭の銃を持ち、風の力を持った光の弾丸を撃ち放った。
「風林弾!!」
ケンドリオンは両手の銃を秒速十秒撃ち放ったが、超邪羅鬼はびくともしない。ケンドリオンは弾の連続撃ちが無理ならと、銃を同じ角度にそろえて引金を同時に引いた。
「双飛閃!!」
銃口から一条の青い光線が放たれ、超邪羅鬼に向かってくる。だが超邪羅鬼はクワガタムシの大あごの形をした剣を取り出して、薙ぎ払って消滅させた。ケンドリオンは飛び道具が無理なら、と銃を腰の帯に戻し、超邪羅鬼に立ち向かっていった。
「はああああっ!!」
超邪羅鬼の肩に右ストレートパンチ、左脚で回し蹴りを起こして脇腹に入れた。体が硬く覆われているためか中々倒れない。だがケンドリオンはとっておきの技を拳に込めて超邪羅鬼のみぞおちに入れたのだった。
「吸力撃!!」
ケンドリオンの右拳が青く光り、超邪羅鬼は自分の力が三分の一ほど吸われ、そしてケンドリオンは左手の拳で邪羅鬼から奪った体力を込めて、胸に強く打ちこんだ。
「うおおーっ!!」
超邪羅鬼はケンドリオンの吸力撃を受けて、壁を突き破って教室のち外壁を突き破って吹っ飛んだ。壁には超邪羅鬼型に抜かれた亀裂と孔ができ、粉塵を巻きあげていた。
超邪羅鬼は校舎の外の学生運動場まで飛ばされ、その近くの体育館へ避難しようとする人たちの列を見つけ、末尾にいた一人の女子高生を捕らえた。
「きゃあっ!!」
「来い! お前は人質だ!」
そう言う也、超邪羅鬼は背中の甲翅と薄翅を広げて女子高生を中庭へ連れ去った。それと同時に空が鳴り、雨が流れるように降ってきた。
ケンドリオンが超邪羅鬼を吹き飛ばした壁の孔の中へ入って探っていると、上空で超邪羅鬼が人質を連れて中庭へ跳んでいくのを目にして、校舎の中へ引き返した。
中庭は今は緑と茶色が混ざった芝生と石のベンチ、ポプラの木が植えられていた。雨水が入ってきて、乾いた土が少しずつ濡れていく。
超邪羅鬼は人質に取った女子高生を左腕で押さえつけ、持っている太刀を喉元につける。
ケンドリオンは中庭へ入ってきたと同時、人質の顔を見てハッとなった。
(テイラーじゃないか……)
そう人質はケンドリオンを勝手に敵視していたテイラー・カーリンだったのだ。テイラーは小刻みに震え、目が涙ぐんでいる。
「こいつを助けたければ、お前の持っている伝説五玉を全部よこせ! もし渡さなかったら……わかっているだろうな?」
超邪羅鬼はケンドリオンに取引条件を出す。
「ひっ、人質を取るなんて卑怯だぞ!」
「卑怯も何もあるか。俺たち邪羅鬼にはお前ら人間のような迷いや悩みはない。
おお、そうだ。俺はお前を早朝から見ていたぞ。確かこいつは、お前のことを敵視していたようだが、お前は本当はうざがっていたんじゃないのか? こいつをこの場で殺れば、いや、俺がここにいる受験者を全部襲えば勝者はお前一人になって、せいせいするんじゃないのか?」
超邪羅鬼はケンドリオンを挑発させるように言った。人質にされているテイラーはおびえながらも、正面に立っているケンドリオンの顔を見た(但し、テイラーはケンドリオンだとは考えもしなかった)。だが、ケンドリオンはこう言った。
「確かに、どんな学校や会社に入る時は、入れるかどうか不安や恐怖もあるよ。だけど、誰かを蹴落としてまで勝とうとするのはずるいだけだ。蹴落としたい気持ちはあっても、自分の努力と才覚でいくのが人間だ、と僕はそう考えている!!」
その時だった。ケンドリオンの持っている懐の伝説五玉が深緑に激しく輝いたのだ。
「な、何だ!?」
ケンドリオンだけでなく、人質にされたテイラーも驚いた。それだけでなく、超邪羅鬼の体内の破片も黒ずんだ緑から深緑へと変貌し、超邪羅鬼の体内から出ていったのだ。
「おい、どこへ行く!? 伝説五玉よ!」
緑幸玉の最後の欠片はケンドリオンの方へと飛んでいって、ケンドリオンの懐の中の欠片と結合して、正方形の緑の石になったのだ。完全な姿を取り戻した緑幸玉は宙に浮いて、ケンドリオンの前で激光したのだ。
ケンドリオンは深緑に輝く空間の中にいた。ケンドリオンの目の前には緑幸玉が眩く浮いている。
「ケンドリオン、私を元通りにしてくれてありがとう」
風が吹いて木の葉がこすれ合うような落ち着いた声がケンドリオンの頭の中に響いてくる。
「あなたの“智”の意と多くの親しい人たちの“幸福”が重なり合って、私は本来の姿を取り戻せました。
あなたに新しい力を与えます」
緑幸玉が激しく光り出し、ケンドリオンは思わず目を閉じた。
ジャックロンド中央大学の中庭で群青と深緑の光が混ざり合って、その中からケンドリオンが出てきたのだ。以前とは違う新しい姿で――。
龍角と龍尾と青い二房の前髪はそのままだが、聖神闘者の衣が大幅変わっている。
青い大きな襟がついた水色の半袖衣、衣の裾は長く、黒いズボンと白いレッグカバー、足元は青い編み紐ブーツ、両腕は青と水色のグローブ。以前の衣よりも軽やかに見えるが丈夫である。
「この姿は一体……!?」
ケンドリオンが変化した自分の姿に驚いていると、緑幸玉の声が頭に響いてきた。
「あなたを聖神闘者から聖神武匠へと進化させたのです」
「お前が変わったのは見かけだけではないのか!? こっちは伝説五玉はなくても、その強化は残されているんだぞ」
超邪羅鬼は緑幸玉の欠片による強化はまだ残っており、欠片を取り込む前の暗い色の姿に戻ることはなく、聖神闘者から聖神武匠へと進化したケンドリオンに言った。
「こっちは人質がまだ残っているんだ。人質がいる限り、お前は……」
超邪羅鬼が言うか早いか、ケンドリオンは両掌から群青色と深緑の波動を出し、波動は木の葉の形に変化して、超邪羅鬼の方へと向かってきた。
「ぐおおおっ!?」
超邪羅鬼は無数の木の葉の刃となった波動を受け、後方へ吹っ飛び後ろの壁に埋め込まれた。人質にされていたテイラーは傷一つないままで、超邪羅鬼から解放されると、その場から逃げて校舎内に入り、避難所の体育館へと走っていった。
「逃げていってくれたか……。思う存分、お前とやりあえる!!」
人質から自由の身になったテイラーを見て、ケンドリオンは超邪羅鬼に言う。超邪羅鬼はめり込んだ体を動かし、クワガタムシのあご型の太刀を両手に持ち直した。
超邪羅鬼は太刀を振るい、刃をケンドリオンに向ける。刃が地に着く前にケンドリオンはまるで自分自身が風になったように、バック転や側転で邪羅鬼の太刀をよける。
「なら、これを受けてみろ!!」
太刀振るいによる攻撃を避けられまくった超邪羅鬼は太刀を重ね合わせて、ハサミのような形に変えた。そしてケンドリオンに向けて真っ二つにしようと襲ってくる。
ジャキン、と音がして振り向くと、後ろのポプラの木の一本が斜めに切れて、ズシーンと上半分が折れた。
「お前はスピードにたけているようだが、力の方ではどうかな……」
超邪羅鬼はケンドリオンに余裕を見せてへっつらう。
「力が劣るのなら、テクニックで補うだけだ!!」
そう言ってケンドリオンは腰に下げられていた銃を持とうとして、二丁拳銃の感覚でないことに気づいた。銃も変化しており、龍頭の二丁拳銃から龍頭の長銃に変わっていた。弾丸を入れる装てん式ではなく、自然のエネルギーを弾丸に変えるものである。
「拳銃もライフルも一緒だっ!!」
そう言って超邪羅鬼はケンドリオンにハサミ太刀を向けてきた。ケンドリオンはライフルを構え、引金を引いた。群青色と深緑の光が弾丸になって、ハサミ太刀を粉々に砕いた。
「そっ、そんな俺のハサミ太刀が……」
ケンドリオンの銃で砕けたハサミ太刀を見て、超邪羅鬼が驚く。ケンドリオンはリズミカルに拍子もつけるようにライフルを連続撃ちした。超邪羅鬼はケンドリオンのライフル裁きを受けて、膝まづいた。
「五聖神から力を与えられただけの人間の小僧が邪気から生まれた俺よりも優れているなんて嘘だ! ただの付け焼刃じゃないか……」
超邪羅鬼は憎まれ口を叩き、超邪羅鬼の前に蒼龍の幻影が現れた。半透明の立体映像のように見えるが、声が聞こえる。
『お前と私が選んだケンドリオン、緑幸玉を入れた者同士、どうしてこうなったかわかるか?
お前は私利私欲のために力を使い、ケンドリオンは持ち前の賢さを自分の他、友や家族、親しい者の幸せも考えてやっているからだ。
それがお前とケンドリオンの違うところだ!!』
「うっ、うおおお!!」
超邪羅鬼は聞きたくないと言うように叫び、先端が砕けた太刀で幻影を斬りつけた。幻影は霧のように消え、超邪羅鬼は頭の二本角の先端に濃緑と暗銅色のエネルギーを溜めこみ、二つを重ね合わせてケンドリオンの方へと投げ飛ばした。
ドォォォン、と中庭の半分と周りの壁に亀裂が入って崩れた。だが、ケンドリオンは無事だった。青い竜巻状のバリアに囲まれていた。風防盾の強化版である。
「ど、どこまで俺を苦しませる気だぁーっ!!」
ケンドリオンの圧倒的な強さに超邪羅鬼は叫び狂った。ケンドリオンは風防盾を解くと、ライフルを持ち直し、エネルギーカートリッジに群青色と深緑の波動が混ざり合ってチャージされていく。
「蒼龍木嵐砲!!」
ケンドリオンはライフルのチャージが終わると、引金を引き、銃口から群青色と深緑の波動の光線が超邪羅鬼の体を貫き、超邪羅鬼はその場で倒れ、枯れ葉の塊となって消滅した。
「な、何とか倒せた……」
ケンドリオンはライフルを下すと、崩壊した中庭を見て、超邪羅鬼と聖神武匠になった自分の強さを改めた。
「おっと、厄介事になる前に体育館に行かないと」
そう言ってケンドリオンは校舎に入り、青い旋風風に包まれて転毛を解き、他の受験生が避難している体育館へと向かった。
ケンドリオンと超邪羅鬼は気づいていなかったが、彼らの存在を目にした者たちがいた。
それはサンセリア国内放送のテレビクルーであった。
彼らは三階の窓から両者の戦いをカメラに収めていたのである。
ジャックロンド体育館は三方に観客席、その周りに囲まれているのが試合場で、受験生や講師たちはここに避難していた。ケンドリオンは他の受験生にまぎれて入ってきた。
「あら、アーベルくん。あんたいつの間に?」
テイラーがケンドリオンを見て訊ねてきた。
「え? 僕は最初からいたよ。最初から」
ケンドリオンは一度動揺するも、誤魔化す。
「いたっけ? 私が避難してきた時はいなかったような……」
テイラーが考えていると、講師たちは受験生たちに受験票を返していった。すると、そのうちの一人が受験生たちに言った。
「今日の午後の試験は中止となりました。更に校舎の数か所が謎の事故で壊れたために十日ほど、修繕しなくてはなりません。
残り二教科の試験は後日連絡します」
受験生たちはざわついたが、残りの試験が延期したので喜んだ。
グラスフィールドの『草笛荘』に戻ったケンドリオンが家に入ると、珍しく父が早く帰ってきていた。
「父さん? どうしてそんなに早く……」
「何って、お前の受験先の大学で大事件が起きた、っていうから早退してきたんじゃないか。この様子を見ると、お前は無事のようだな」
父は帰ってきたケンドリオンを見て安堵しながら言う。
「うん……。試験中止になったうえに壊れて修繕もしなくちゃならないから、試験は延びたよ」
ケンドリオンはこれまでのいきさつを父に話した。
「そうか……」
と父は居間のテレビの電源を入れ、テレビ画面にはジャックロンド中央大学の壊れた校舎内の様子が映し出されていた。
『見てください! この壁、中をも壊されております! これは人為的にしては破壊力があります!』
「い!?」
テレビに映った映像を見て、ケンドリオンは声を失った。
『中庭の様子をご覧ください! 頭に二本の角を持つ白い怪物が、女子高生を人質にして青い服の少年に何か言っております! この少年、頭に角、腰には尾を生やしているそうですが何者なのでしょうか!?』
更に超邪羅鬼がテイラーを人質にとり、聖神闘者姿のケンドリオンに交渉を持ちかける姿が見られた。
(い、いつの間にこんな映像を……!)
ケンドリオンは言葉も出ないほど、自分の映像を見て立ちつくしていた。
「何だこりゃ? こんな所で撮影か? でも撮影にしちゃ、敵やヒーローの攻撃がSFXやCGでもないな」
父が超邪羅鬼と聖神闘者姿のケンドリオンを見て述べる(父はテレビの中のケンドリオンが自分の息子とは気づいていない)。
「父さん、僕疲れたから自分の部屋で寝るよ……」
「ああ、そうか。晩ご飯はモニカさんが造ってくれたから食えよ」
ケンドリオンは二階の自室へと昇っていった。自室に着くと、制服のままベッドに寝転んだ。
今日は入試の筈が超邪羅鬼との再戦や闘者から武匠への進化、更にテレビクルーに戦いの様子を見られるという、ケンドリオンにとっては多災な日だった。
「あ、そうだ。母さんにメールしておかなくっちゃ……」
ケンドリオンは携帯電話を制服のポケットから出し、母に無事だということを送信した。携帯電話は試験の時に一度試験監督に預けられたが、受験票を返してもらう時に還されたのだった。
そして二〇分ほど経って母からメールが届いた。妹と弟と一緒に暮らしている母は今はピアノリサイタルだった、と思い出した。
母からのメールを読むと、こう書かれていた。
〈ケンドリオン、試験が中止になったのは大変だったわね。先程、控室のテレビで見てました。
あとテレビに怪物とケンドリオンそっくりな男の子が戦っている映像を目にしたけど、撮影じゃない、ってテレビは言っているようだけど……?〉
(母さんも見ていたのかよ!)
ケンドリオンは自分の家族だけでなく、サンセリア内で放送されていると知ると、凄く猛烈な恥ずかしさを感じた。
このまま自分と気づかれないままいてくれないかな……とケンドリオンは思った。
天青殿でも、蒼龍が闘者姿のケンドリオンと邪羅鬼が全国民に伝わったことを知ると、頭を悩ませた。
「邪羅鬼の存在は前世代の大衆には秘密にされていたというのに……。まあ、邪羅鬼の発端とケンドリオンの秘密が知られたら、私が何とかするか……」
グラスフィールドの町に若い芽が吹き、木や草のつぼみが大きくなりかけた三月の上旬。
草笛荘でささやかなパーティーが行われていた。
「ケンドリオン、大学合格おめでとう!!」
晴れ渡る空の下、草笛荘の庭で父やジェイミー、鉄道研究会の幾人かの生徒と顧問のランバード先生、妹のステファニーと弟のエヴァンスがケンドリオンの大学合格を祝ってくれた。
庭の折りたたみ式テーブルにはテーブルクロスが掛けられ、サンドウィッチやピックに刺したハムやチーズ、ガラスの器に入ったフルーツポンチ、パスタなどの三種類のサラダが置かれ、隣のバーベキューコンロには、串に刺した肉や野菜がじゅうじゅう音と立てている。
「いやー、試験が中止になったと知った時はどうなるかと思ったよ。でも、合格できてめでたいめでたい!!」
ケンドリオンの所属する鉄道研究会の顧問のランバード先生がケンドリオンに言った。
「え、ええ。ホントに……」
ケンドリオンは少しどぎまぎするものの、少し笑った。ケンドリオンと父と弟妹はスウェットなどの普段着に対し、先生はスーツ、ジェイミーたちは制服である。
「そーいや、ジャックロンド中央大の入試が延期したのって、あの怪物の仕業なんですよねー」
「そうそう、でもあの青い服と金髪の人が怪物と戦っていたようですけど、アレってヒーローなんでしょうかね。アーベル先輩?」
クラブの後輩が口々に言ってきたので、ケンドリオンは少し動揺したが、軽く返事をした。
「そ、そうだろな……ハハハ……」
そしてケンドリオン大学合格パーティーが進み、父と先生はビールを飲みながら駄弁し、生徒やジェイミー、ステファニーやエヴァンスはごちそうを食べあった。
ケンドリオンもクラブハウスサンドを食べていると、母からのメールを携帯電話で見た。メールは昨日届いたもので、合格通知はおととい届いた。
〈ケンドリオンへ
色々トラブルがあったけれど、合格おめでとう。合格祝いに母さんのリサイタルCDを送ります。
あなたは賢いけれど、慢心を起こしたりしないと信じていましたよ。
これからもバーリーをよろしく。
母より〉
母はピアニストの仕事で来ることはなかったけれど、父や友人、弟妹や学校の先生や仲間と合格祝いをやれて、ケンドリオンは自分の「やるべきこと」を一つ終えた。
もちろん、伝説五玉が集まったのも、超邪羅鬼を倒せたのも、「やるべきこと」であった。
空は白い千切れた雲と青い空、真上に輝く太陽、そして春の知らせである東風がケンドリオンの髪をなびかせてくれた。
(やるべきことはまだある。今までのは人生の二割。これから学校であれ、社会であれ、邪羅鬼との戦いの「やるべきこと」はまだあるんだから……)
ケンドリオンは蒼龍の一部と思える青空を見て、思ったのだった。
知性の使い方次第で幸福がどうかが決まる――。
〈「青」の書・完〉




