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五聖神黙示録  作者: 浅葱沼 氷雨乃
43/54

「黒」の書・第9話 最高の勝利をつかめ!!

『五聖神』第43話。ペルヴェドの地下水道で超邪羅鬼とリシェールの戦いのさなか、藍静玉が変化を起こして、リシェールは聖神武匠に進化し、邪羅鬼を撃破。

 そして肝心の友人、ヴァジーラとの行方は!?


 聖神闘者に転化したリシェールは腰に下げていた三節棍を取り出し、白い装甲と鋭角さと四つの目を持つ超邪羅鬼に三節棍を叩きつけた。

「リシェールがザブラック村に現れた怪物をやっつけた子だったなんて……」

 ヴァジーラは超邪羅鬼と戦うリシェールを見て校外学習のことを思い出す。

「この瞬間はほっとけない! 今のうちに撮らないと」

 エクシリオがデジタルカメラをリシェールと超邪羅鬼に向けるが、二人とも跳んだりはねたりしているので中々いいショットが撮れない。

「あんた、何やってんのよ。こんな時に……」

 ヴァジーラが写真を撮ろうとするエクシリオに注意する。

「リシェールはあんたやあたしを守るためにあの怪物と戦ってんだよ! 何呑気に写真なんか……」

「写真を撮っておかないと、ペルヴェドや他の町の人たちが怪物の存在を知っておかないといけないんじゃいの? セメタリーの強盗変死事件とか」

「……!?」

「リシェールだけに怪物退治を任せるなんて、町の人も無責任すぎるんじゃないのか? ペルヴェドやその周辺の町が平和なのはあの子のおかげだってこと」

 エクシリオは真顔になって超邪羅鬼の写真を撮ろうとする。エクシリオは好きで超常現象を追及している他、超常現象を見聞きした者の気持ちを公に伝えるために超常現象研究会を作ったのではないのか、とヴァジーラはふと思った。

 一方、リシェールは超邪羅鬼との戦いに奮闘していた。超邪羅鬼の装甲は堅く凹みも出ることなく、リシェールが三節棍を銃にして激流弾を放っても、ヒビ一つ入らない。リシェールは右手の指先に水行の聖力を込めて指先から水の鎌を出してきた。

流撃手(りゅうげきしゅ)!!」

 リシェールが放った水の鎌は超邪羅鬼に振ってくる。超邪羅鬼は自身の体の装甲で防御し、リシェールの攻撃をしのいだ。両腕に切り目が少し入ってしまったが、両ひじのハサミを伸ばして水の鎌を弾いたのだった。

「まだまだぁ、流撃(りゅうげき)長槍(ちょうそう)!!」

 リシェールは両掌に水行の聖力を込めてそこから水の槍を出し、超邪羅鬼を貫こうとした。超邪羅鬼は水の槍を両掌で受け止め、水の槍を握りつぶして砕いてしまった。

「それでも! わたしは諦めない!!」

 リシェールは今度は下水道の水を操り、水路から大きな渦を出して超邪羅鬼に向けた。

超流渦昇(ちょうりゅうかしょう)!!」

 下水路から出てきた大渦は超邪羅鬼に向けられ、超邪羅鬼は渦に呑みこまれ、そして渦は超邪羅鬼を壁に叩きつけた。壁に叩きつけられると同時、水が弾けて壁や床や柱に水飛沫が散らばった。リシェールは聖力をおおいに使う超流渦昇を使って、激しい息切れを鳴らした。

「リシェール、大丈夫!?」

 陰からリシェールと超邪羅鬼の戦いを見ていたヴァジーラが駆け寄る。

「ヴァジーラ、何で逃げなかったの……!?」

 リシェールはかすれ声を出しながらヴァジーラに言った。

「何言ってんの。あんた一人であんな怪物と戦っているのに、逃げる訳にはいかないのよ」

「危ないよ あの怪物……邪羅鬼は人間の魂を喰らうんだよ。そしたらヴァジーラは……!?」

「友達を置いて逃げるなんて、あたしは助かっても嫌だよ。ごめんね、気づかなくって。あんたがたった一人で怪物と戦っていたの」

「ヴァジーラ……」

 その時、リシェールの攻撃を受けて立ち上がった超邪羅鬼がリシェールとヴァジーラの方へ足を向けてくる。

「友情の再会もここまでだ。お前には聖神闘者と一緒にくたばるか? それとも聖神闘者の身代わりになるか?」

 超邪羅鬼はリシェールに投げつけてくる。

「……っ!」

 ヴァジーラは唇をかみしめ、リシェールを抱きしめる。

「おい、ずるいぞ! 女の子によってこんな酷いことを……」

 エクシリオも現れ、超邪羅鬼に言った。

「二人とも……」

 リシェールのためにわが身を張るヴァジーラとエクシリオを見て、リシェールは涙を零した。その時、リシェールの懐に入れてある藍静玉が輝き、浅葱色に激しく輝いたのだ。

「なっ、何!?」

 リシェールから放たれる輝きを見て、ヴァジーラとエクシリオも驚く。それだけでなく超邪羅鬼の体内の藍静玉の破片も濁った青から浅葱色へと変化し、超邪羅鬼の体から出ていったのだ。

「でっ、伝説五玉がーっ!!」

 藍静玉の欠片はリシェールの方へと飛んでいって、リシェールの懐の中の欠片と結合し、しずく型の水色の石になったのだ。完全な姿を取り戻した藍静玉は宙に浮いて、リシェールの前で激光したのだった。


 リシェールは水色に輝く空間の中にいた。リシェールの目の前には藍静玉が眩しく輝いていた。

「リシェール、私を元通りにしてくれてありがとう」

 せせらぎのような優しい声がリシェールの頭の中に響いてくる。

「あなたの“安”の意とお友達の“清静(せいじょう)”が重なりあって、私は本来の姿を取り戻せました。

 あなたに新しい力を与えましょう」

 藍静玉が激しく光り出して、リシェールも思わず目を閉じた。

 ペルヴェドの地下水道の管理場に薄墨と水色の光が混ざり合って、その中からリシェールが出てきたのだ。以前とは違う姿で――。

 玄武の角と尾と前髪の黒い二房はそのままだが、聖神闘者の衣が大幅に変わっている。

 黒とバラ色と白の波を思わせる布飾りが袖と胴体に付けられ、両手に黒いグローブ、波型とクリーム色のバブルスカートの重ね着、脚はバラ色のレッグカバーと黒い靴、頭部には五色の真珠がはめ込まれた鎖状ヘッドギアが頂いていた。

「この姿は……!?」

 リシェールが変化した自分の姿に驚いていると、藍静玉の声が頭に響いてきた。

「あなたを聖神闘者から聖神武匠へと進化させたのです」


 


「ふん、変わったのは見かけだけではないのか!? こちとら伝説五玉はなくなっても、その強化の効果は残っているんだぞ」

 超邪羅鬼は藍静玉の欠片による強化は残っており、姿は四つの目と鋭角な装甲からのスケールダウンはなく、聖神闘者から聖神武匠へと進化したリシェールに言った。超邪羅鬼は体の表面の殻を立て、リシェールたちの方へ刃を向けた。

「ひぇぇ、また来る~っ!!」

 超邪羅鬼の攻撃を見てエクシリオが頭を抱えてうずくまり、リシェールがヴァジーラとえっクシリオの前に立ち、両掌から薄墨色と水色の波動を出し、亀の甲羅を思わせる氷結の盾を張ったのだった。氷の盾は超邪羅鬼の刃飛ばしを受け止め、パンと砕けて氷の欠片が四方八方に散った。

「なっ、何!?」

 超邪羅鬼はリシェールが見かけだけでなく、力も上がっていることに驚く。

「ならばこれはどうだ!!」

 超邪羅鬼は腹部の甲殻を扉のように左右に開いて、その中に入っていた細身の曲刀を取り出し、リシェールに刃を向ける。だがリシェールは布飾りの下に隠れた二本の棍棒を取り出し、それをトンファーにして受け止め、トンファーの持ち手を変換させて棍をトンファーからヌンチャクに変えたのだ。リシェールが投げたヌンチャクから鎖が伸び、宙で折り返して超邪羅鬼の腕に絡みつき、リシェールはそこで超邪羅鬼を投げ飛ばしたのだ。

「とりゃあああっ!!」

 リシェールに投げ飛ばされた超邪羅鬼は後方の下水路の方へ投げ落ち、ザブーンと水路に落ちたのだった。リシェールが棍を振るとヌンチャクの鎖は巻尺の用に戻り、二本の棍に戻った。

「アイテム一つだけでこんなに強くなるなんて……」

「これならあの怪物に勝てるわよ」

 エクシリオとヴァジーラも聖神武匠となったリシェールの戦いを見て安堵する。

「ううう……。五聖神に力を与えられただけの人間の娘が、邪気から生まれた俺の方が強いなんてありえん! 邪羅鬼は世の邪気の分だけ強くなるというのに……」

 ザブッと下水路から這い出た超邪羅鬼は憎まれ口を叩き、超邪羅鬼の前に玄武の幻影が現れた。半透明の立体映像のようだが声が聞こえる。

『お前とわしが選んだリシェール。藍静玉を入れた者同士どうして差が出るかわかるか?

 お前は自分の強さにうぬぼれ、そこしか見とらん。リシェールは自分の強さだけでなく弱さを見つめ、弱さも使い方次第で強さになると覚えたからだ。

 それがお前とリシェールの違いだ!!』

「だっ、黙れぇぇぇ!!」

 超邪羅鬼は狂ったように叫び、胸から出した予備の剣で玄武の幻影を斬り裂いた。そして全肢の装甲からリシェールに刃を飛ばしてきた。

「危ない!!」


 ヴァジーラとエクシリオがリシェールに向かってくる危機を見て叫んだ。だがリシェールは自分の前一面に水の鏡、水流鏡の強化版を張り、超邪羅鬼のあまたの刃を押し返し、刃は超邪羅鬼に返ってきて、超邪羅鬼に突き刺さり壁に張り付けにされたのだった。体から紫の血が無数に滴り、身動きがとれなくなっていた。

「これで終わりよ」

 リシェールは二つの棍に水色と薄墨の波動をまとわせ、一つの棍棒に合わせ、棍棒を地に着き薄墨と水色の二つの氷柱を走らせ、二色の氷柱は超邪羅鬼を串刺しにしたのだった。

(げん)()氷結波(ひょうけつは)

 リシェールが叫ぶと、超邪羅鬼は薄墨と水色の二つの氷に埋もれ、断末魔を上げながら消滅していった。超邪羅鬼のいた処には氷が砕け、超邪羅鬼のあとかたもなく消えていった。

「リシェール!」

 超邪羅鬼を倒したリシェールの近くへヴァジーラが駆け寄る。

「無事でよかった、ヴァジーラ……」

「何を言っているの! あんたってば、あたしとエクシリオくんを助けるために無理してまでも怪物と戦って……」

 ヴァジーラはリシェールを抱きしめて、安堵の涙を流した。そしてエクシリオもリシェールと超邪羅鬼の戦いに見とれて、写真にするのも忘れて突っ立っていた。

 その時、リシェールは思い出した。地上にはヴァジーラの弟、ボルトを置いてきたことを思い出した。リシェールは転化帳を懐から出し、転化パネルを叩いて武匠の衣は弾く水のように消え、角と尾がない普段着のリシェールの姿に戻った。

「そうだった、もう引っ越しのトラック出発しているよ。新しいお父さんもお母さんもあたしのことを……」

「そうだよ、早く行こう! エクシリオくんだって超研のことあるでしょ!?」

「え、ああ。そうだった……」

 リシェールに言われてエクシリオも思い出す。リシェールは転化帳のワープ機能を使ってヴァジーラとエクシリオを連れて地下下水道から地上のペルヴェド基礎学校の門前へワープした。


 


 三人が地上に戻ってきた時は、学校の時計は十三時五分前を指していた。エクシリオは超研メンバーに待たせてしまったことをわびて、いつものUMA探しに出かけた。だが、ヴァジーラは門前で待っている筈のボルトの姿がないと探した。すると超研メンバーの一人がヴァジーラに言った。

「ボルトくんなら、お父さんらしき人と一緒に帰りましたよ」

 それを聞いてリシェールとヴァジーラは顔を見合わせてツグミ荘へ行った。あらゆる商店街の中の人とすり抜けて二人はヴァジーラ姉弟の住むアパートへ行った。ところがアパートに着くと家の中は空っぽで誰もいなかった。その時、大家のおばさんがヴァジーラに言ったのだ。

「トラックならお昼に行っちゃったわよ。今頃、到着してんじゃないの?」

「どうもすみません、ありがとうございます」

 ヴァジーラとリシェールは大家のおばさんから事情を聞くと、ツグミ荘を出て再び活気のあるスラドフ通りへ出た。

「ねえ、ヴァジーラ。引っ越しのトラックってどこ行ったか知らない?」

「えと、それは……」

 二人がスラドフ通りの出入り口に入ると、見慣れた車がリシェールとヴァジーラの前に現れた。リシェールの父の車である。

「二人とも、こんなところで何をしているんだ。もうお父さんもお母さんもボルトくんも引っ越し先の家で待っているんだぞ!!」

 リシェールの父ザズは二人に怒鳴り、二人は謝ると車に乗せてもらい、スラドフ通りを去っていった。

「すみません、おじさん。乗せてもらって……」

「それよりも弟を待たせた上に一時間近くも帰ってこなかったじゃないか。どこに行っていんたんだ!?」

 リシェールの父親はヴァジーラとリシェールに問いだす。後部座席のリシェールとヴァジーラは顔を見合わせて、「げ、下水道……」と同時に言う。

「下水道!? そこに落し物でもしたというのか? それはそうとヴァジーラの新しい家、ってのはこの辺りじゃないのか?」

「あ、はい。次の角を曲がったところです」

 リシェールは車窓から景色を見て気がついた。庭と木と生け垣のある家々。ここはフロイチェク通りで見慣れた家がたくさんある。リシェールとヴァジーラを乗せた車はフロイチェク通りの一角に着いた。通りの西と北は月桂樹と菩提樹と柏の木。その近くの家というのがリシェールの家よりも広い家で、庭には車庫と小さな噴水、垣根はシュレーエ(からたちの仲間)で、家は茶レンガの壁に黒い丸みの屋根の二階建てで、家の近くには引っ越し会社のトラック、車庫にはゼマネツク氏の所有車の紺色のバン、引っ越し業者が三人、ヴァジーラの母親とゼマネツク氏とボルトと共に家具や荷物を家に入れている。

「えっ、ヴァジーラの家ってここ……?」

 リシェールはヴァジーラの新居を見てきょとんとする。

「うん。新しいお父さんが運よく見つけてくれたんだ。学区内の新しい家。転校は流石にかわいそうだから、って」

 ヴァジーラが自分の引っ越し先をリシェールに話す。

「あ、ああ……。そうなんだ……。良かった……」

 リシェールはヴァジーラにあげるお別れのプレゼントのハンカチと「引っ越しおめでとう」のメッセージカードを渡すのが気まずくなった。ヴァジーラがリシェールのコートのポケットからはみ出ているハンカチとカードを見つけて引っ張り出す。

「あっ、それは……」

「もしかしてあたしへ引っ越し祝い? ありがとー。じゃ、あたし手伝うからまた月曜日に学校でね」

 そう言ってヴァジーラは車から降りて、家族と一緒に引っ越しの手伝いをした。

「ヴァジーラったら、もう……」

 リシェールは自分がどんだけ針で指を突いたか知らないヴァジーラを見て呟いた。ふと、お腹が空いているのに気がついた。

「パパ~、お腹空いた。ご飯食べたい」

 リシェールは父親に言って、早く家に帰りたいと頼んだ。

「お前まだ食べていなかったんだな。母さんもアーシアも待っているぞ」

 父は車を動かし、ヴァジーラの新居から五〇〇メートル離れた自分の家に帰っていった。


「何だって? 伝説五玉の一つ、藍静玉が全部そろったって!? そのうえ、聖神闘者から聖神武匠に進化しただと!? それで超邪羅鬼を倒せたのか……」

 小ぎれいなリシェールの部屋でクァンガイはリシェールの活躍を聞いて喜んだ。

「お前が超邪羅鬼と戦っていた時に俺は、お前の部屋でのほほんと過ごしていて、気づいてやれなかった。そこは悪かった」

「大丈夫だよ。ヴァジーラは助かったし、エクシリオくんだって……あ」

 エクシリオのところでリシェールは気づいた。

「エクシリオくんに言うの忘れていた……。わたしが邪羅鬼と戦っていることは誰にも言わないでほしい、って言うのを……」

 エクシリオを邪羅鬼から守ってやったとはいえ、写真を学校や地域に公開しないかとリシェールはうなだれた。

「お、落ち込むなよ、そんなに……。いや、エクシリオって奴も、学校や近所のみんなにお前が聖神闘者だって話しても信用してくれない可能性が高い、と思うぞ」

「ホント?」

「ああ。聖神闘者の歴史はこの本にしか示されない、って」

 クァンガイは玄武・蒼龍・朱雀・白虎・麒麟の表紙の聖神闘者の記録書を見せる。リシェールがお気に入りの童話と一緒に古本屋で買った本である。但し、一九〇〇年代の一部は破れているが。

「ところで、ヴァジーラはどこに引っ越ししたんだ?」

「ああ、それは……」

 リシェールはヴァジーラの引っ越し先を話し、自分の住んでいるフロイチェク通りの一角と話し、今まで通りにペルヴェド基礎学校に通え、いつでも互いの家に遊びに行けることを話したのだった。


 それから数日後、リシェールたちの学校の校内新聞と市役所で一部一ラウンで買える地域新聞にリシェールと戦った超邪羅鬼の写真と記事が載っていた。幸いリシェールの写っているところはなく、見出しに『ペルヴェドの下水道に現れた白きUMA」として発表されていた。

「エクシリオ、あいつはホントに懲りないなー……」

 地域新聞の記事を見てクァンガイは苦笑いをし、リシェールは乾いた笑い声を発した。

「ははは……。エクシリオくん、わたしのことを載せなかっただけでもいいじゃん……」





 木々の芽が吹いて、白い曇天から日光が射し、冷たい北風と違って暖かな東風の吹く春が始まる頃、ペルヴェド市内の小さな教会でヴァジーラの母親と新しい父、ゼマネツク氏の結婚式が行われていた。

 ゼマネツク氏は濃緑のタキシードを着、ヴァジーラの母親は白水仙の飾りがついた白い帽子と長袖のウェディングドレスを着て、教会から出てきた。

「おめでとう! おめでとう!」

 結婚式の参列者たちは新郎新婦にカラフルな紙吹雪や金銀のラメをばらまく。参列者はヴァジーラとボルト、ゼマネツク氏の妹夫婦と大学生の甥とヴァジーラより年上の姪、年老いたゼマネツク氏の母、リシェール一家も来ており、二人の新たな人生の門出を祝った。

 リシェールとヴァジーラは教会の外に設置された野外テーブルの一角でごちそうのカツレツやオープンサンドを食べたりジュースを飲んだりしていた。他の参列者は新郎新婦に祝いの言葉を述べたり、酒を振る舞ったりしていた。グラコウス家の黒犬オラフもボルトのいるところで伏せていた。

「初めて結婚式に出たけれど、もっと豪勢なのかと思っていた」

 藍色のベルベッド時にレースがたくさんついたドレスを着たリシェールは隣で子供用カクテルを飲んでいるヴァジーラに言った。ヴァジーラはクリーム色のボレロ付のリンネルのワンピース姿である。

「え? これでもお金かかってんのよ、結婚式」

 ヴァジーラはあっけらかんと笑いながら答える。他にも新郎新婦は参列者と語りあったり、リシェールの父親はゼマネツク氏の義弟と駄弁していた。

「あたしはこれから念願のバスケットボール部に入って、リシェールやみんなと遊べるし前より暮らしは楽になれるからいいけど、リシェールは大変よねー。

 もしかして、この前よりも強い邪羅鬼と相手しなくちゃいけないんじゃないの」

「プフッ」

 リシェールは含んでいたレモンジュースを噴き出す。すると、テーブルの下でリシェールが投げ入れたごちそうを食べていたクァンガイが顔を出す。

「おい、折角のお前の両親の祝い事にこんなこと言うんじゃねー……」

「え、あたしはリシェールに念を入れただけで、不吉なこととは……」

「いや、ヴァジーラの言う通りだよ」

 リシェールはハンカチを出して口の周りを拭う。

「邪羅鬼との戦いはいつまで続くか分らないけれど……、今は伝説五玉とわたしの支えとなっている家族や友達がいればね、どんな強い敵でもやっつけられそうな気がするんだ……。今日のような安らかな日を迎えられるように、って」

 リシェールはヴァジーラに言った。この先、どんな困難が待ち受けているかわからないけれど、リシェールは人々の安楽を見つめられるように、と呟いた。その時、リシェールの姉、普段よりも着飾ったアーシアが二人の前にやって来た。

「リシェール、ヴァジーラ。みんなで記念撮影するわよ」

 リシェールとヴァジーラは笑い合って、みんなが教会の前で並んでいる列の方へ駆け寄った。

 その時、雲の隙間から白金に光る太陽が顔を覗かせた。

 リシェールたちの幸せを見つめるように。


〈黒の書・完〉


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