「青」の書・第8話 二つの勝負の日
『五聖神』第39話。超邪羅鬼に襲われ、ピンチになったケンドリオンだったが、邪羅鬼は強化の代償で休眠状態に入り、ケンドリオンは蒼龍に助けられて自分の家に帰ることができた。
それから三週間後、ケンドリオンは大学進学入試を受けに行くが、休眠状態から目覚めた邪羅鬼が試験会場に現れた!!
ジャニールートの街の中心にそびえたつ展望所の下元の広場でケンドリオンは、展望所の頂にあった緑幸玉の欠片を手に入れて強化を遂げた超邪羅鬼の圧倒的強さにひれ伏した。砕けた木々や崩れた地面の上に横たわっている。
「欠片一つでも伝説五玉でこんなに強くなるとは……。今のうちに聖神闘者を始末しておかないとな……」
クワガタ超邪羅鬼が両眼を閉ざし失神しているケンドリオンの首に手を伸ばした時だった。
「ふぬっ!?」
超邪羅鬼の体に鉛を覆うような眠気と疲労が襲ってきたのだ。圧倒的な力の他、それ也の反動も得たのだった。
「むぅ、こんなに体に負担が来るとはな……。まぁ、命拾いしたな聖神闘者、今度会う時はお前の最後だ」
そう言って超邪羅鬼は背中の甲翅と薄翅を広げて夕焼け空の彼方へと去っていった。その日のサンセリアは、ジャニールートの展望所の破壊騒動で話題になった……。
ケンドリオンが目覚めたのは、どれ位が経ってからだろう。ケンドリオンは小ぶりな浴場の浴槽の中に入っていたのだ。浴場の中には湯気が立ち、ケンドリオンはバラ色の湯の中に使っていた。壁も床も透きとおった空のような青で、ケンドリオンもぼんやりながらも、自分のいる場所を把握していた。
「ここは……天青殿か?」
ケンドリオンは意識をはっきりさせ、いつの間にバーリーチューン州の展望所から天青殿に来たのか、と考える。その時、閉ざされていた扉が横に開いて、中に植物を思わせる服を着た男児がケンドリオンの制服と体の水気を拭うタオルを持って現れたのだ。
「君は……そうか、蒼龍に仕えている……。やっぱりここは、天青殿なんだね」
ケンドリオンはバラ色の湯が入っている浴槽から這いあがり、タオルを童子から受け取る。体を見てみると、うっすら傷跡はあるけれど、傷が塞がっていた。ケンドリオンは体の水滴を拭い、衣類を身に着けると童子の案内を受けて蒼龍のいる大広間へとやってきた。
中央に鎮座する蒼龍はケンドリオンを見て心配そうに言う。
「おおお、ケンドリオン。目が覚めたか。良かった。再生の薬湯が効いたようで……」
「蒼龍、済まない。邪羅鬼に最後の……緑幸玉の欠片を奪われた上に、負けてしまった……」
ケンドリオンは苦い顔をして、蒼龍に自分の失敗を伝えた。
「いや、私も思わなんだ。まさか、欠片一つで強くなるなんて……。だが、超邪羅鬼は今休眠状態に入っている。お前を圧倒的な強さでのした後、その反動で力を蓄えている。そして、私のほんの少しの力でお前を天青殿に転送したのだ」
「それでか……。天青殿にいた訳は」
ケンドリオンは蒼龍から緑幸玉を奪われた後の出来事聞いて納得する。
「だが、気をつけろ。ケンドリオン、超邪羅鬼は休眠状態に入っているとはいえ、いつ目覚めるかわからない。油断は禁物だ」
「……わかっている」
ケンドリオンは蒼龍の忠告に応える。
「あ、そうだ。蒼龍。父さんが三日間出張で家を空けているとはいえ、そろそろ帰らないと、ヘルパーのおばさんが家の出入りができなくて困っていたらどうしようかと……」
「ああ、そうだったな。では私の力を使って君をグラスフィールドに送り還す。いいな?」
「ありがとう、蒼龍」
ケンドリオンは蒼龍の力によって、群青色の光に包まれて天青殿からグラスフィールドの自宅に送り還してもらった。
「うーむ、何てこった……」
家に帰ったケンドリオンはどこもかしこも閉め切った久しぶりの我が家の家に入り、ソファに座った。
「ジャニールートに行ってから、三日も経っていたなんて……」
ケンドリオンが超邪羅鬼に負けてから天青殿にいる三日の間、グラスフィールの自宅に誰も入れずにいたことに頭を悩ませていた。
金曜日の夕方はモニカおばさんが夕御飯を作りに行った時、ケンドリオンが帰ってないと気づいて、父に電話した。父もケンドリオンの携帯電話やジェイミーの家に電話をしたが棒にもめどが出ず、父は首長から帰りたくても帰れない状態であった。
ケンドリオンが蒼龍の力で戻り、グラスフィールドの町を歩いていると周りは帰宅、空は朱と紫になっており日が傾いており、ケンドリオンは『草笛荘』に戻るところを、ホームヘルパーとして働いているモニカおばさんに見つかり、三日間帰ってこなかったことを問われたのだった。
ケンドリオンは必死にモニカおばさんと電話越しで父に謝ったが、「犯罪に巻き込まれた訳じゃないから」と答えて許してもらえたのだった。
郵便受けに溜まっていた新聞を見てみると、土曜日の朝刊にジャニールートで展望所爆破事件の記事と写真が載っていたのだ。
(現場にいたら、父さんやモニカおばさんや学校のみんなだけでなく、母さんたちも迷惑かけたことになるんだよな~)
ケンドリオンは新聞を居間のテーブルに置くと、制服から着替えるため、自分の部屋に入っていった。その後、モニカおばさんがやって来て、ケンドリオンに夕食の野菜キッシュとたらスープを作ってくれた。その後は三日間溜まっていた分の受験勉強を一教科を少しずつ終わらせ、ケンドリオンは眠りに就いたのだった。
「ごちそうさま」
ケンドリオンが超邪羅鬼に敗北してから六日経った日曜日の昼、ケンドリオンはナッツパンとサラダとマスのフライを食べ終えると、二階に上がりセーターとチノパンツから黒と銀のdスポーツウェアに着替えた。
「お前、何だ? どこへ行く気だ?」
コーヒーを飲んでいる父がケンドリオンに訊ねてきた。
「うん、家にこもって勉強してたら体がなまると思って……。一時間ばかし、運動しに行ってくる」
「そうか」
父は何も言わずに、ケンドリオンが家を出るのを目にした。
白い空の下、ケンドリオンは草原に家々と木々と畑のあるグラスフィールドの町を走っていった。今日は日曜日だが農夫は畑でトラクターを動かし、子供たちは家の門前や教会の広場や公園で遊び、婦人たちは教会の寄り合いで春の祭りで語り合っていた。
ケンドリオンは受験生といえど、家の中で勉学に留まるだけでおらず、、超邪羅鬼との再選のために土曜日の夕方と日曜日の昼はジョギングと腹筋などの基礎体力づくり、平日の夜はダンベル運動や腕立て伏せなどの室内でも出来る運動で体を鍛えた。
あれから一週間経つが、邪羅鬼は出てくることはなかった。超邪羅鬼は休眠状態に入っているが、いつ目覚めるかわからない。そのためにジョギングなどで体を鍛え、前よりも強くいられるようにしたのだった。
学業の面では、ケンドリオンの進学先はジャックロンド中央大学法学部に受験することになった。卒業後の弁護士就職は難儀だが、家の経済のために受けると決めた。念のためにもう一ヶ所、滑り止めの大学も受験することにした。
模擬試験では数学も化学も歴史も公民も九十点以上採り、申し分なかった。ケンドリオンの学校では、三年生の半分が大学進学を希望し、個人によって文学部や外国語学部と分かれていた。
「ふー」
模試結果発表の放課後、ケンドリオンは自販機のある憩い場のベンチに座ってカフェ俺を飲んでいた。
「どうしたの、ケンドリオン。何か顔、疲れていない?」
中学校からの親友、ジェイミー・ハーマンがケンドリオンの顔を覗いて隣に座る。
「ん、まぁね……。あーあ、来週で入学試験か……」
ケンドリオンは来週の予定に呟く。
「ジャックロンド中央大学だっけ? ケンドリオン、あんなに勉強したのに、自信ないの?」
「いや、そんな訳じゃないけれど……」
すると二人の前に、ショートにしたコッパーブロンドに四角眼鏡にエメラルドグリーンの瞳をした女子生徒、テイラー・カーリンがたまたま通りかかった。
「あら、あなたもジャックロンド中央に行くの? 奇遇ね。期末テストは私の勝ちだけど、模試は負けちゃったけどね。私は法学部じゃなく、教育学部に行くけどね。
もうあなたと競争できなくなるのは残念だけど、試験当日に体を壊したりしないでよ」
そう言って、テイラーは昇降口へと行ってしまった。
「あれで心配してやっているのかな……」
ジェイミーはテイラーの言葉を聞いて、溜め息を吐く。模試というのは本番試験と違って学部は違っても同じ大学の問題を解いたことになるから、ケンドリオンとテイラーはジャックロンド中央大の模試をそろって受けたことになるのだ。まぁ、ケンドリオンは上から三番、
テイラーは五番目だったが。
「僕は競おうなんて考えてないのに、向こうが勝手にライバル視しているだけだから」
ケンドリオンはテイラーを見て言う。受験勉強と体の鍛錬でケンドリオンは二つ同時にやっているけれど、無理はしないようにしていた。努力の範囲を越えたらかえって心身に負担が出ることを理解している。
この二週間の間、邪羅鬼も超邪羅鬼も出てこなくて良かった、とケンドリオンは思っていた。このまま来週の試験まで、出てこなければもっと安堵できるのだが……。
そして更に一週間が経過した。邪羅鬼も超邪羅鬼も出てくることなく、ケンドリオンは勉学に集中できた。ケンドリオンはバスと電車を使って、ジャックロンド中央大学へとやって来た。二月二七日の今日、試験日である。
大学は白い石材と赤茶の石材を使い上から見た「E」字型の三階建ての建物である。「E」の三本線にあたる校舎は各ゼミナールや研究室や特殊教室となっており、白と赤茶の塀や門前に様々な制服や私服の高校や浪人の受験生がぞろぞろと入ってくる。空は灰色に曇っているが、幸い雨は降っていなかった。
「今まで、邪羅鬼退治と学校の両立をやってきたんだ。絶対、今まで通り、行けばいいさ!」
他の受験生にまぎれてケンドリオンは呟いた。その時、制服のポケットかに入れておいた携帯電話がヴヴヴ……と動いた。乗り物の中に入れておいたので着信音の出ないマナーモードにしていた。ケンドリオンは制服のポケットから出すと、誰からのメールか確かめる。
「母さんか」
ピアニストに復帰するために父と離別し、年の近い妹と幼い妹がついていき、ケンドリオンは父と暮らしていた。弟が家出した時がきっかけで、月に一度携帯メールが来ていた。
『ケンドリオン、失敗してもくよくよしないでよ。あなたは私の子供の中で優秀なのだから』
「―……優秀っても、みんなに言えない秘密があるのにな」
ケンドリオンは母からのメールを読むと、校舎の中に入っていった。
大学構内の教室は階段状で、様々な学校や人種の受験生が座り、一番下の席前には教壇と授業の内容を映す巨大スクリーン。試験会場は学部によって、一階の教室で行われる。席は一段に一〇人が座れる長さで、五段ある。法学部の受験生はケンドリオンを含めて四十六人来ていた。受験者たちは参考書を読んだりと試験の準備をしていた。携帯電話の所持者は必ず電電を切り、試験官に預けていた。二、三年前に どこかの町の大学で、携帯電話を使ったカンニングがあったからである。
ブルネットに白い肌と眼鏡姿の四十代の男性講師が試験管で、試験の説明をする。試験は五教科で、一〇分おきの休みと三限眼の後に五十分の昼休みが設けられていた。
「それでは試験始め」
一斉がテスト用紙を表にし、解答用紙とは別々の問題用紙のプリントを見ながら記入していく。
ケンドリオンも一時間あてられた時間を基礎・応用・見直しに当て、エリスナ語のテストを解いていった。
その次が数学で、理数に強いケンドリオンは因数分解や正反比例、図形式を解いていった。
数学のテストが終わった頃、受験生たちは次の教科の勉強をし、すると大型のテレビカメラと大きな吊り下げ式のマイクを持った男性と反射パネルを持った女性、カールしたブロンドに青い眼と白い肌、薄緑のスーツを着た女性がマイクを持って現れた。カメラには『サンセリア国内放送』のイニシャルが入っている。
「こちらSCBです。今日はジャックロンド中央大学の受験生の様子を見に参りました」
女性リポーターがカメラの前で紹介する。
「一言どうぞ」
と、女性リポーターは受験生に訊ねていく。と、同時に試験官が入ってきて、受験者たちは着席し、試験用紙が配られていく。
「試験始め」
試験官の重くて堅い台詞と共に、紙をめくる音が鳴った。
「えー、どうやらジャックロンド大学法学部の三限目のテストが行われたようです。皆さん、どうやら集中しているようですね。特に真ん中にいるお方が冷静かつ熱くやっているようです……」
リポーターは静かに報告しながらも、三段目の中心にいるケンドリオンに手とカメラを向ける。他の受験者たちも頭を悩ませたり筆を止めたりしながらも、解答を解いていく。
そして三限目も終わり、時間は十二時二〇分になっていた。受験者たちは家から用意してきた弁当や店で買ったパンやデリカを食べ、一息ついていた。
ケンドリオンも家を出る時にモニカおばさんが持たせてくれたオープンサンドを食べた。主にオイルサーディンやスモークサーモンやチーズと野菜を使ったもので、一緒に持たせてくれたレモン汁と蜂蜜入りの紅茶もステンレスの水筒から飲んだ。
魚は頭に良いDHA,疲れた脳には糖分という具合に考えてくれたのだろう。
(あと二教科かぁ……。このまま何事もなく入試が終わればいいんだか)
サンドイッチをちまちま食べながらケンドリオンはそう思った。
ケンドリオンらが一〇二号教室で試験を受けている時、ケンドリオンを勝手にライバル視しているテイラー・カーリンをはじめとする一〇四号教室の教育学部受験者たちも昼食を採っていた。
誰もが何事もなく、午後の試験に取り組もうとした時だった。
誰もいない廊下で、校内を歩く一つの姿があった。それは人の姿でなく、二本の角を持つ白い甲に覆われた虫のような人間――邪羅鬼である。
教育学部受験者たちが与えられた短い休みを取っていると、突然出入り口の扉が大きな音を立てて吹っ飛び、粉塵と共に白い二本角のクワガタの超邪羅鬼が入ってきたのだ。
「うっ、うわああああ!! 化け物だーっ!!」
受験者の一人が恐れおののいて叫び、みんな我よ我よと立ち上がって後ろの扉を目がけていげ出した。
ピピピピ―
ケンドリオンは理科の参考書を開こうとした時、転化帳が邪羅鬼の出現した時の音を鳴らして、ハッとなった。
「今、凄い音がしなかったか!?」
「誰かが『化け物だ!!』って叫んだような気がするわ!!」
他の受験者たちは立ち上がり、ケンドリオンは鞄の底にこっそりと隠した転化帳と緑幸玉を出して確かめる。緑幸玉は深緑に輝き、転化帳は邪羅鬼レーダーにして様子を確認。
「これは……!」
何と大学内に超邪羅鬼が出てきたのだ。ケンドリオンは歯がゆく思いながらも、様子を見る。廊下では他の受験者たちが超邪羅鬼を見て逃げ出し、超邪羅鬼は頭の二本角から緑色の光線を出して、所構わず校舎を壊し、天井や柱が崩れて粉塵を巻いていた。
会場に誰もいなくなると、ケンドリオンは転化帳を出して、青い風に包まれて龍尾と龍角、青い衣姿の聖神闘者に転化する。
そして、破壊活動を行う超邪羅鬼の前に現れる。
「これ以上、勝手なことはさせない!」
「お前は……。休眠から目覚めて、こっちは暴れたいんだ。まずはお前を葬ってからだ」
こうしてケンドリオンとクワガタ超邪羅鬼の再戦が始まった。
その時、両者の戦いを目にした者がいた。それはSCBのテレビクルーたちで、他の現場に行こうとした時、破壊音を聞いて戻ってきたのだ。
リポーターの女性が言う。
「これを、これを撮って! 全国民に紹介するのよ!」




