「赤」の書・第7話 砕けた秘石
『五聖神』第35話。邪羅鬼を倒すための秘石、紅熱玉の欠片を探すために転化帳の新機能で国中を行けるようなったサユ。最後の5つ目は首都にあり、更に邪羅鬼が出現して事態は混沌を起こす……。
「伝説五玉の一つ、紅熱玉がロプス内で砕けて、その破片が各地にある……」
サユは朱雀から聞いた砕けた伝説五玉の話を聞いて、呆然とした。
「てことは、私がいちいち聖神闘者に転化して、ロプスのどこかにある紅熱玉を探すの? 邪羅鬼の所へ行くだけでも体力使うのに」
サユが不安げになると、朱雀が言った。
「サユ、あなたの転化帳を私に渡して」
「……?」
サユは何をするのかと、自分の転化帳を朱雀に渡した。すると朱雀は嘴で器用に自分の胸の羽毛を一枚抜いて、サユの転化帳の上に乗せた。すると転化帳は緋色の光に包まれ、サユは転化帳を手に取る。中を開いてみると、パネルが増えて、一つは地図のような絵、もう一つは〈・→☆〉の絵がついたパネルである。
「地図パネルを使うと、ロプスや南大陸のどこでも画面に地図が映って、もう一つのパネルは地図に合わせた目的地に行けるの。
〈移転の衣〉は日長殿との行き来だけだけど、新しい転化帳なら砂漠や遺跡にあるかもしれない紅熱玉を見つけられるでしょう」
「……ありがとう、朱雀!! これで労をせずに行けるのね」
サユは転化帳の新しい機能を手に入れて大喜び。そして、移転の衣の帯止めでランゴにあるツドイ家へと帰っていった。
夕方になり、ツドイ家の人たちが戻ってきて、イロナはサユから伝説五玉の欠片と転化帳の新しい機能を手に入れたことを話した。
「へーっ、五聖神さんもずい分と、気前のいいことをするんだね」
制服からサンドレスに着替えたイロナはサユの部屋で、サユの今日の出来事を聞いていた。
「で、これがベラルダの口の中に入っていた紅熱玉ね。ぱっと見は、安っぽい天然石に見えるけど」
イロナは紅熱玉を手にとって眺める。
「紅熱玉が光ると、その方角の先に同じ破片が見つかる、っていうんだけどね」
「ふーん、これがただの石だったら、欲しいんだけどな」
イロナはそう言いながら、紅熱玉の欠片を指に乗せて回した。その時、開けていた窓から風が吹いて、イロナの指先に乗せていた紅熱玉の欠片が転がり落ちた。
「ちょ、イロナ!」
サユが叫んだ時だった。落ちた紅熱玉の欠片が真紅に光ったのだ。暗い所に落ちた筈なのに、日光に当てたように光を帯びていた。
「石が……光っている!」
机の下に落ちた破片を見て、イロナが驚いて言う。
「ちょっと、イロナ、まだ取らないで。落ちている方角で地図を調べてみるから」
サユはイロナにそう言い聞かせ、地図帳を出して自分の部屋の方角と紅熱玉の光った場所を調べて指を地図上に乗せてなぞった。該当した場所は、ハブル州のピフィスという地域であった。ハブル州はサユの住むヒシオス州の北隣で、ピフィスは平原に位置している。
「そこに二つ目の欠片があるんだ?」
「うん。そこに行けば見つかるよ……多分ね」
そう言ってサユは床の紅熱玉を拾い、欠片をハンカチに包んで机の上に置いた。
「サユ」
イロナが堅く思い声で言った。
「責任感の強すぎるサユだから言っておくよ。焦ったり無理は絶対にしないこと。あんたが去年の一学期に倒れたことや昨日のことだって、疲れがどっと出て、一日以上も寝ていたじゃない。そういう心配はさせないでね」
イロナからの忠告を聞いて、サユは少し沈黙してから返事した。
「わかってる。絶対にしない」
「ぃよぉし、それはちゃーんと守るんだよ。じゃっ、晩ご飯食べに行こう」
サユとイロナは同時に部屋を出て、一階の台所兼食堂へといった。
白い光がジャングルシティの地や木壁を照らす木漏れ日に変える日曜日の朝。
日曜日なら朝八時半まで寝ているサユは、学校もアルバイトもないこの日の朝、いつもより三時間早く起きて、寝間着から普段着の赤いワンピースに着替え、転化帳と紅熱玉の欠片を手に取る。転化帳を開き、地図パネルをタッチペンで叩き、画面を地図に変える。
すると現在地であるランゴの地図が映し出され、サユは目的地のハブル州のピフィスに地図をタッチペンで動かして、ワープ地点を調整して、ワープパネルをタッチした。するとサユは緋色の光に包まれ、サユの部屋には誰もいなくなった。
上半分が空、下半分が草ぼうぼうの荒れ地と所々にあるオアシスの無人地に緋色の光が現れ、光が弾けてサユが現れた。
「ここがピフィス……」
サユがほんのり涼しく夜明けから少し経った空の薄紅と薄紫を見て呟いた。左右上下を見回すと、真後ろにジャングルの緑が遠くにあるのがわかった。
「どこにあるのかしら? 欠片は。そうだ、転化して空から見てみよう」
そう思いついたサユは転化帳の転化パネルを叩き、炎に包まれて赤い衣と赤い翼の聖神闘者に転化した。そして翼を羽ばたかせてピフィスを上空から見てみた。所々にある小さなオアシスとヤシの木、バオバブの木々、サユは掌に紅熱玉の欠片を乗せて、光る方向を向けてみた。
すると一時の方角に欠片を向けると、紅熱玉が激しく光り、更に転化帳も鳴った。サユが転化帳を開いてみると、邪羅鬼の反応があったのだ。
「大変だ、行かなくちゃ!」
サユは全速力をあげて邪羅鬼と二つ目の欠片のある方角へと飛んでいった。
ピフィスの村は尖った樹の杭で外壁が造られ、人々は木と泥で固めたブロックで昔ながらの暮らしをしていた。男も女も頭巾をかぶり、風通しのいい衣を着て暮らしている。村では村の共同井戸での水汲み、畑仕事も行われていた。家畜もロバや羊とさまざまである。村のデイ入り口近くにはほこらもあり、村人はほこらの神に供物を与えて村の平和と安全を願かけていた。そしてその村に近づこうとする怪しき者――茶色と白の羽毛に覆われ、四肢の先が水かきになっているガチョウ邪羅鬼がいたのだ。
ガチョウ邪羅鬼が水かき足のペタシコ音を鳴らしながらほこらへ近づこうとした時だった。空から火の玉が三つ向かってきて、邪羅鬼の近くに降ってきたのだ。火の玉は地に着くと、爆ぜて消えてしまった。
「な、誰だぁ!?」
邪羅鬼が怒ると、空からサユが聖神闘者の姿で着陸した。
「お前は、聖神闘者! どうしてここに!?」
邪羅鬼はガラガラ声を発しながらサユに訊ねる。
「ここに近づけはしない!」
サユは視線を村とほこらに向け、邪羅鬼に言った。
「ふぅーん、そうか。我がほこらにある目当ての物と村人の魂を狙いにきたことを察して現れたんだな。ならば、早い者勝ちだ!!」
そう言ってガチョウ邪羅鬼は喉を振るわせてサユに嘴付きの口から超音波を出してきた。
「きゃあ!!」
サユは邪羅鬼の攻撃を受けて、そんな大きくではないが後方へ飛ばされた。サユが起き上がろうとした時、腕と一体化させた翼を振りまわした邪羅鬼が羽の刃を飛ばしてきた。
サユは帯に下げていた槍を組み立てて、弾き落した。サユが羽を弾き落とし終えると邪羅鬼はまた超音波を口から吐き出してきた。サユはまた受けたくないと、大きくとんぼ返りし、着地する前に両手に火行の聖力を込めて、邪羅鬼に掌を向けた。
「朱雀突破!!」
サユの掌から炎の朱雀が放たれ、邪羅鬼を呑み込んで消滅させた。邪羅鬼は灰となって風にまかれて、サユは着地して持っていた紅熱玉が反応しているほこらを開けた。ほこらにはご神体として、紅熱玉の欠片が祀られていた。だがサユはためらっていた。
『どうしたの?』
朱雀が転化帳越しに問いかけてきた。
「これって村の人たちが神様として祀っているから、突然なくなったら大騒ぎになるんじゃないか、って」
『サユ。御神体がなくなっても村はやっていけるわ。欠片を一つでも邪羅鬼に取られたら……』
朱雀に忠告され、サユはピフィス村の御神体の紅熱玉を手に取った。そして自分が持っていた紅熱玉の欠片と近づけると、磁石が引きよせるように結合したのだ。
「二つ目入った……」
サユは結合した紅熱玉を見て呟き、村の人が来る前にランゴの自分の家へ戻ることにした。転化帳の地図をランゴのバン・ダルーイ家屋に合わせてワープパネルを叩き、サユは緋色の光に包まれて消えた。
ピフィス村で御神体として祀られていた二つ目の紅熱玉の欠片を見つけてから一週間。サユは学校に通い、児童保護局で事務バイトをし、友達やツドイ家の人々と何一つ変らぬ日々を過ごした。
その間にサユは紅熱玉を使って、三つ目の破片がある場所を調べて、次の日曜日にそこへ向かった。場所はランゴから北東にあるカヴェラン州のジェラサンという場所であった。その日もやはり早朝に出発し、サユはジェラサンへやって来たのだった。
といってもジェラサンは、ジャングルシティではなく、原住民ジェラセ族の住まう地で、しかもサユのような一般人は入れないという特別指定地区であった。ジェラサンにあるという三つ目の欠片はジェラセ族の居住区ではなく、その郊外にあったので助かった。
ジェラサンのジャングルはバン・ダルーイのような巨木はないが、アナナスやアカシア等の木々が生え、ヒョウのような猛獣も出ることはなかったが、サユはジェラサンに着くと、聖神闘者にすぐ転化して紅熱玉を探した。うす暗くて葉や枝の隙間から差してくる木漏れ日だけが頼りだったけど、透明な水が流れる小川を見つけると、紅熱玉が激しく光り、川上をたどっていくと、白い岩壁から流れる泉を見つけたのであった。
「泉の中にあるのかな。でも朱雀って火の鳥だから水には弱いんじゃ……」
サユが立ち止まっていると、泉の中から怪物が現れ、サユはいきなりの展開に思わず叫び、それと同時に転化帳が激しく鳴った。
「じゃ、邪羅鬼!?」
サユが目にした邪羅鬼は多く見てきたもので人間に鳥の嘴や蹴爪や翼をつけた姿ではなく、人間に昆虫の翅と触角を付け合わせた虫の邪羅鬼であった。黒曜石のようなつやのある甲翅と触角と関節と複眼を持つガムシの邪羅鬼である。
「こんな辺境……てか内乱もテロリズムも関係なさそうな場所に邪羅鬼が出るなんて……」
サユは戦いの構えを取とり、ガムシ邪羅鬼を見つめた。
(鳥の姿をした邪羅鬼は火行、WUPのアーメッドさんを襲ったアルマジロは金行、学校に現れた魚は水行……虫の邪羅鬼は確か木行だったから勝てる!!)
サユは以前朱雀から教えてもらった五行説と邪羅鬼の姿と属性を思い出し、翼を羽ばたかせ、翼から火をまとった羽の矢を邪羅鬼に向けて飛ばした。だがガムシ邪羅鬼は水の中に潜って、サユの攻撃を避けた。サユが放った火の羽矢は水の中に入って蒸発してしまう。
(しまった! 虫の中には水の中にも棲めるのがいて、邪羅鬼がその能力を基づかせているのは思ってもなかった!)
サユは虫邪羅鬼は簡単に倒せると思って甘く見ていたことを悔しがった。ガムシ邪羅鬼は口から泡状の弾をサユに向けて吐き出してきた。
「きゃあ!」
サユは邪羅鬼の攻撃を受け、髪と服が濡れた。負けていられないとサユは特殊技を使うのを止め、肉弾で戦うことにした。サユは邪羅鬼にストレートパンチをし、次に二回ボディブロー、怯んだ所で邪羅鬼に足払いをし、邪羅鬼は泉の中で倒れるが水辺なのですぐ回復した。
(このままじゃ私の体力が削られていくだけだ。泉の水を炎で蒸発させれば勝てる。でも、そうしたら村の人たちの暮らしに困る。だったら……)
サユは何を思ったのか翼を羽ばたかせ、ジャングルの上空へと飛びだっていった。
「逃げるのか!?」
サユが飛び立つのを見てガムシ邪羅鬼が背中の翅を広げて、更に甲翅の下の薄翅を出して飛んでサユを追った。木の枝や葉が体にあたるけど、邪羅鬼は構わず突き進んだ。
やっと抜けたと思った瞬間、邪羅鬼の眼に眩しい朝焼けの光と目にしみる薄紅の空が入った。
「な……奴はどこへ行った!?」
漂う風と目にしみる光が差すジャングル上空でガムシ邪羅鬼は辺りを見回す。真上を見ると、サユが掌を広げて、邪羅鬼に向けていた。
「朱雀突破!!」
サユの掌から炎の朱雀が放たれ、ガムシ邪羅鬼を包み、邪羅鬼は断末魔と共に木の葉となって消えた。
「空の上には水辺なんてないからね」
サユはわざと空の方へ行き、木行でも水があれば平気なガムシ邪羅鬼をおびき寄せたのだ。そして再び熱気と木漏れ日のあるジャングルの泉へ行き、三つ目の欠片を探した。すると泉の底に沈む石にまぎれていた赤い透明な欠片を見つけた。自分の持っている欠片と合わせるとぴったり結合し、サユは三つ目の紅熱玉も手に入れたのだった。
三つ目の欠片を手に入れてからまた一週間が経過し、サユは学校とアルバイトとツドイ家にいる間に四つ目の欠片をのある場所を調べて、サユの住まうヒシオス州の隣州ダジマンのサン・ブロン中央へとやって来た。ダジマン州とヒシオス州は直接隣り合っている訳ではなく、両州の間にエメラルドに輝く大きな湖、ハルノ湖があり、ダジマン州へ行くには飛行、ハルノ湖を遠まわり、ハルノ湖の水上船を使っての三パターンがあるが、転化帳のワープ機能を使って移動するサユには関係なかった。
サン・ブロンはランゴと同じくジャングルシティで、人々は巨木バン・ダルーイではなく、ジャングルの木々や石ブロックと粘土を固めた家に住んでおり、住宅や公共施設によって大きさが違っていた。そしてサン・ブロンは東西南北中央の五つの区にわかれており、サユは中央にいた。
サン・ブロン中央にある大きな丸太屋根と粘土と石ブロックで出来た役所でサユは邪羅鬼と戦っていた。
役所は日曜日や祝日は経営していないが、その中に邪羅鬼が現れてサユは表沙汰になる前に倒さねば、と闘者に転化して戦っていたが……。
「きゃあ!」
邪羅鬼に足をつかまれ、地面に叩きつけられた。二人のいる役所の階段の踊り場は閉鎖空間のため、音が高く響く。
サユと戦う豚の邪羅鬼は二メートルを軽く超える巨体で体型はメタボで衣から腹がはみ出ており、足は蹄、両手は鋭い爪のある指である。
「こんな邪羅鬼、見ただけで嫌になるよ……」
サユは豚邪羅鬼を見て弱音を吐いた。サユの住むロプスでは豚肉の食を禁忌としているため、一度も豚肉を口にしたことがないサユは豚邪羅鬼を見ただけでまいっていた。おまけに力強く防御もある。焼いてしまおうかと火炎羽を飛ばしたが、土行の力を持っているため弾かれてしまった。
「羊や牛だったら戦いやすかったのに~」
サユが愚痴をこぼしていると、邪羅鬼は肉切り包丁のような武器を出して振りまわした。サユは察すると急いで槍を組み立て、刃で防御した。邪羅鬼は鼻をスンスン動かし、サユに言った。
「お前、伝説五玉を持っているだろ。命が惜しいのなら、それをよこせ!」
(鼻もいいの!? 多分、私が逃げても匂いで追いかけてくるんだ……)
サユが油断して、邪羅鬼はサユを殴りとばした。サユは金属の扉に叩きつけられ、地べたに着く。
「……っ」
サユは邪羅鬼の圧倒的な強さにまいり、地べたに着いたまま静止した。
「これで終わりだ、聖神闘者」
邪羅鬼がのそりとサユに近づいた時だった。サユはあと一歩で邪羅鬼が近づく時、足を広げた邪羅鬼の下をスライディングでよけ、思いっきり蹴飛ばして、金属の扉に叩きつけた。
「ぐああああ!!」
野太い叫び声が階段内に響いて、サユは思わず耳をふさぎながら邪羅鬼の様子を見た。
サユはおじげついたと見せかけて、掌と翼から熱気を放ち、金属扉をホットプレートのように熱したのだ。そして隙を見計らって、溶けた金属で体の表面が焼き付いて動けない邪羅鬼を見た。
邪羅鬼がもだえるのもおかまいなしにサユは朱雀突破を向けて、邪羅鬼は燃えて最後には土くれとなって消えた。
「もうこれで一生豚肉を口にしないだろう」
豚邪羅鬼の最期を見て、サユは呟いた。
そして役所の廊下へ入り、色んな窓口と待ち合い席の並ぶ役所内をサユは歩いていった。役所に入った場所は三階の鍵の閉じ忘れた廊下だった。サユは三階の机や棚を探ると、二階へ行った。二階の棚や机を探っていると、柱の一つが赤く光っているのを目にした。柱を見上げると白の中に赤いものが光っており、サユは翼を動かして柱の中の紅熱玉の欠片を見つけた。埋まっているのでどうやって取ろうかと思っていたら、サユの懐に入れていた欠片が柱の中の欠片に反応して、欠片は柱から出てきてサユの持っている欠片と結合したのだ。
「とれた……」
サユは呟き、今まで集めた欠片が一つになったものを手に取った。欠片はハート型の尖った部分が欠けた形をしており、白いカーテン越しから差しこんでくる日光を浴びて輝いていた。
「あと一個だ。あと一つで、紅熱玉がそろうんだ……」
サユは表情が豚邪羅鬼と戦っていた時と違って明るくなり、紅熱玉を懐に戻すと転化帳を取り出してランゴへ帰るためにパネルを叩いて、緋色の光に包まれて消えた。
更に一週間が経って、サユがその間に最後の欠片がある場所を調べた結果、意外な場所に示された。それはロプス共和国の首都、ラトゥリエン――。
「ここに来れるなんて、思ってもいなかったなぁ」
サユはラトゥリエンの街中で呟いた。ラトゥリエンはロプス国最北州シウォス坤海寄りの北部に造られた街で、平地にアスファルトやタイル、レンガを敷き詰めた地面、ミラーガラスなどの素材が使われた大小様々なビル、所々にあるヤシの木やアカシア、ツゲやソテツなどの街路樹に水鉢には紅白のハスや桃色や紫の水連、滅多に見られない白いシャツとネクタイとスラックス姿の会社員にベストとタイトスカート姿のOLにランゴの学校より立派な制服の学校生が街中を歩いており、ジャングルシティと違って人々の声がざわめき、自動車のクラクションやエンジン音、上空で吹く風の音が街中に響く。二車線で交互に行きかう道路はコンピューターネットや図鑑で見た様々な形の車が走っていた。道路には白い梯子のような横断歩道があり、その近くには赤黄青に点滅する信号機が設置されていた。
「ランゴはそう車が走らないからなぁ」
サユはラトゥリエンの様子を見て呟いた。ラトゥリエンもそれなりに日差しが眩しく、時折ビルの素材やガラスで反射して眩しく、空が何か灰色がかっているように見えた。学校のから見た空は鮮やかな青だったような気がする、とサユは思った。
サユは街中を歩き、ラトゥリエンの中にある紅熱玉の欠片を探しだした。他の欠片はカーディガンのポケットに入れて、光の鮮度を頼りにして。時折、ビルの中にあるジャングルシティでは見慣れない店や色んな食べ物が売られている屋台も目にしたが、サユは我慢した。
今年の九月になったら最上級の六年に進級して、修学旅行の行き先である首都でいずれ楽しむからだ。
サユは何とかして街中の誘惑を無視して欠片探しに励んでいたが、しばらく経って喉の渇きを感じた。
(ああ、こんなところになるなら水筒を持ってくればよかった)
サユがそう思ったていると、背の高い二人の青年が現れた。二人とも黒い髪を一部金や青に染めており、浅黒い肌には耳以外にもピアスを施しており、派手な色や柄の服を着ていた。
「よぉ、君独り? 友達とかは?」
「ねぇ、俺らと遊ばない?」
青年は何を思ったのかサユをナンパしてきた。サユは青年を見て怖く思えた。
「あの、私、今忙しいんで。これでも……」
サユが青年たちから逃げようとしたが金メッシュの方がサユの前に立つ。
「遠慮するなって。悪いことじゃないから、さ?」
サユはおろおろした。街中を歩いている人は誰もサユを助けてくれない。青メッシュの青年がサユの手をつかもうとした時だった。
ドォォォン、と近くで爆破音が鳴った。その音に街の人たちは顔を上げた。
「なっ、何だ!?」
「あっ、あのビルから煙が出ているぞ!!」
男の一人がビルの一つに指をさす。白銀に青いミラーガラスを使った三〇階建てのビルの上部から煙が出ていた。
それと同時にサユのスカートのポケットに入れていた転化帳が鳴ったのだ。
(邪羅鬼!!)
サユは青年二人がビル爆破を見て立ちつくしているのを見て、近くのビルとビルの間に隠れて転化した、炎に包まれ、紅い翼と赤い衣の姿になったサユは翼を羽ばたかせて、例のビルへ飛んでいった。
サユはビルの二〇階目辺りの非常階段から中に入り、廊下を走った。青いカーペットに白い壁と柱、ドアの近くに『経理課』や『営業課』などの表札が張られており、ここはオフィスビルだと悟った。部屋の中を一つ一つのぞくと、事務机や椅子、コンピューターや書類ファイルはそのままになっていたが、人間はいなかった。どうやら避難したらしい。サユは一旦安堵すると、叫んだ。
「邪羅鬼! どこにいるの! あんたがいるのはわかっているのよ! 出てきなさい!」
すると曲がり廊下から嘴と翼と蹴爪の四肢を持つ邪羅鬼が出現した。長い嘴も翼も尾羽も紫がかった赤い羽毛のアカショウビンの女邪羅鬼である。
「はぁい。出てきてやったわよ」
邪羅鬼はサユをからかうように返事した。
「あなたがこのビルを襲ったの?」
サユが邪羅鬼に訊ねる。
「ええ、そうよ。だってここに、伝説五玉の欠片があるんだもの」
「!」
邪羅鬼の発言を聞いてサユは固まった。まさか邪羅鬼はサユが集めた紅熱玉の欠片のことを言っているのか、それともこのビルの中にあるのかと思われる五つ目の欠片のことを言っているのか、と。
「伝説五玉は渡さない!」
サユは腰に下げていた槍を組み立て、邪羅鬼に矛先を向けた。しかし邪羅鬼は片手一つでサユの槍の刃を向けたのだ。ケガ一つせずに。
「な……!?」
「“愛”の意を持つから落ち着いていると思ったら意外におっかないのね。そんな二邪羅鬼が嫌いなの?」
アカショウビン邪羅鬼はサユを挑発するように言う。
「当たり前よ。だって私、あなたの仲間に母を殺されたのよ。私の、たった一人の肉親なのに!」
サユは押さえられているか力を払いのけ、槍を振り回す。だが邪羅鬼はとんぼ返りをして易々と避けた。
「仲間? 肉親? そんなの私たち邪羅鬼には何も感じないわ」
「……?」
サユは邪羅鬼の言っていることに首をかしげる。邪羅鬼はあざけ笑いながら言う。
「私たち邪羅鬼はみんな自分のことしか考えていないもの。邪羅鬼にも仲間への愛とか友情とか情けなんてあると思ってた? アマちゃんね!!」
邪羅鬼はそう言って掌から赤紫の火球を出してきてサユに撃ち放った。邪羅鬼の攻撃を受けたサユは後方まで吹っ飛び、支柱にぶつかった。
「他者信奉なんて自分が損するだけ。私はね、他の邪羅鬼を押しのけてまで、これを手に入れたんだから」
そう言うか早いか、邪羅鬼は赤い半透明の石片をサユに見せた。それと同時にサユの懐に入れてあった紅熱玉が光った。
「紅熱玉……」
そして邪羅鬼は自分の上胸に紅熱玉の欠片を埋め込んだ。
すると邪羅鬼は真紅と赤紫の波動に包まれて、その波動の中から姿が変わった邪羅鬼が出てきた。蹴爪が前より鋭くなり、尾羽も足がつくほどになり、両腕と一体化した翼の他にも背に一対の翼、頭部にも三対の羽冠がついている超邪羅鬼へと変化したのだった。
「あああ……。力が体の奥底からあふれてくる……」
邪羅鬼は紅熱玉の欠片一つ取り込んだだけでも自分の進化に恍惚していた。サユは最後の破片が邪羅鬼に奪われたことと邪羅鬼が進化した姿に恐れおののいていた。超邪羅鬼は片手を上げて、真紅と赤紫が混ざり合った波動を出して、オフィスビルを崩壊させた。
ラトゥリエンの街の人たちはラトゥリエンビジネスビル五号の崩壊を目にし、震撼した。ビルが真ん中から閃光で二つに割れ、上層部が粉々になって砕け、瓦礫が街中に広がり落ちた。
その、崩れゆく瓦礫の中で衣が破れ、全体に傷を負ったサユが宙に投げ出されていった。
サユは自分が今まさに天国に行くのではないかと感じていた。




