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五聖神黙示録  作者: 浅葱沼 氷雨乃
34/54

「青」の書・第7話 欠片と見知らぬ土地と

『五聖神』第34話。転化帳の改良で見知らぬ土地にある緑幸玉の欠片を探しに行けるようになったケンドリオン。しかし最後の5つ目が邪羅鬼の手に入り、更に邪羅鬼は強化してしまい、ケンドリオンは危機にさらされる。

 机と本棚が一体化した部屋の机上でケンドリオンは問題集と受験用のノートを広げて大学入試試験の問題を解いていた。

 叔父一家の住む地域の法学大学の下見に行ってから五日目。ケンドリオンは高校から下校すると、二、三時間勉強に励み、クラブのある日は二時間、土日は五時間勉強していた。

(シュミット大学、行きたかったなぁ……)

 ケンドリオンはウォルナットヒルズに行ってからの出来事を思い出す。悪いことはオープンキャンパスに邪羅鬼が出た。良いことはシュミット大学に五聖神・蒼龍から探してほしいと頼まれた伝説五玉の一つ、緑幸玉が見つかったこと。

 ウォルナットヒルズから帰ってきた後の夜、ケンドリオンは父が寝静まると蒼龍のいる神殿へ行って、シュミット大学の像の中にあった石を蒼龍に見てもらった。

「これは本物の緑幸玉だ。これは欠片で他の四つの欠片はサンセリア各地に散ってしまったのだろう。

……となる、と」

 蒼龍はそう言ってケンドリオンに転化帳を差し出すようにすると、自分の体の鱗を一枚口先で器用に剥がし、転化帳の上に乗せた。すると転化帳は群青色の光に包まれたかと思うと、改良された転化帳をケンドリオンに渡した。開いてみると、今までの転化や邪羅鬼レーダーや事典機能の他、パネルが新しく加わった。一つは地図らしき絵文字、もう一つは〈・→☆〉と表示されている。

「地図機能と瞬間移動機能を入れておいた。地図は行きたい所を探すのに、瞬間移動は乗り物がなくても遠くの場所へ行ける。〈移転の衣〉は自宅とこの天青殿しかいけなかったからな」

 蒼龍はケンドリオンに新しい転化帳の機能を教え、更に伝説五玉の破片は他の破片のある方角に反応すると教えた。

「ふぅむ……」

 ケンドリオンは欠片と転化帳を見つめる。その後は移転の衣の帯止めで家に帰り、その後眠った。その後は珍しく、寝坊してしまったケンドリオンは父も出ていってバスも行ってしまったことを知ると、転化帳のワープ機能を使ってテストしたのだ。するとケンドリオンは群青色の光に包まれ、オレンジバレーハイスクールの裏庭に到着し、遅刻せずに済んだのだった。

「この能力……すごい」

 ケンドリオンはワープ機能を信じていなかったが、改めて五聖神のすごさに感心したのだった。


(とはいったものの、欠片は本当に反応するもんかね)

 ケンドリオンは机上の小ビンに入れてある緑幸玉の欠片を見て呟く。すると手に持っていたビンが滑って床に転がり落ちてしまった。

「はわわっ」

 ケンドリオンは慌てて拾い、するとビンがケンドリオンのいる方角で光ったのだ。欠片は明るい緑から深緑になっている。ケンドリオンは不思議がって三歩進んだ。

すると欠片は輝きを失せた。戻ると輝いた。

「この方角の何十キロか先にあるのか!? この方角は……」

 ケンドリオンは地図帳を広げて自分がいた数分前にいた所を中心にして方角先を調べると、北にあるウェスティム州のハリーパークという地域にあると知ったのだった。

「ここに行けばいいのかな。そういや、父さんは今日は一泊するから、今のうちに行っておこう」

 父は都会の勤め先の医療センターで会議のため、一晩泊まることになったのだ。それを機にケンドリオンは玄関から内側がボアになっているブーツ、コートも最初に薄いフリース、その上にダウンを着て、転化帳のワープ機能を使い、ハリーパークへと瞬間移動した。この時期のハリーパークは昼は一〇度、夜はマイナスにもなるからだ。


 真っ暗な闇に仄明るい月が照らす中、ケンドリオンは雪が薄く積もった平原を歩いていた。充分着込んだのに、それでも寒い。その先に岩場の高台があり、そこからハリーパークの町を見下ろせた。モミなどの針葉樹が生息し、木板でできた家は雪よけのために地面より高く階段がついていた。夜のため、家はどれくらいあって、どこが役所でどれが学校かわからないが、中心の建物には十字架がうっすらと見えて、それが教会だとわかった。どの家も屋根も雪が積もりにくい三角屋根で、道路も雪で覆われていた。家々の灯りはポツポツとオレンジ色に照らされている。

「ここに緑幸玉の欠片があるのか?」

 ケンドリオンは白くつく息を出しながら、眩く光る緑幸玉の欠片を頼りにして、平原を見回す。よく見てみると、白い花こう岩がいくつもある。ケンドリオンが見とれていると、殺気を感じて宙から飛んできたものを避けた。よく見てみると、地面がドロドロに溶けている。と、同時に転化帳が鳴った。

「邪羅鬼か!?」

 ケンドリオンが空を見上げると、大きな複眼と触角、口が突き出していて背に二枚の翅を持つアブの邪羅鬼が彼を襲ったのだった。アブ邪羅鬼は口からケンドリオンに向けて、溶解液を吐き出す。

「聖神木転化!!」

 ケンドリオンは蒼い風に包まれて蒼龍の角と尾を持つ青い衣の闘者になって、腰に下げた龍頭の拳銃を手に取る。

 ケンドリオンは銃の引き金を引いて青い光弾を邪羅鬼に向けてはなった。しかしアブ邪羅鬼は口から出す溶解液でケンドリオンが撃ち放った光弾を空中分解させて溶かしてしまった。そのうえケンドリオンが光弾を撃ってくるよりジグザグに飛びながら溶解液を吐きだしてくるアブ邪羅鬼は的になりにくかった。

 ジグザグに飛ぶため邪羅鬼に攻撃はどこに降ってくるか分らない。ケンドリオンは風の防壁、風防盾を出しながら邪羅鬼をどうやって倒すか考える。

(どう考えても、背中の翅を失わせるしかない。奴の次の動きを予測して……)

 ケンドリオンは不規則に飛び回るアブ邪羅鬼の動きを見て、邪羅鬼が花こう岩の近くに来た時、ケンドリオンは風防盾を解いて、全力で駆け出し、花こう岩を踏み台にして銃を邪羅鬼に向けて引き金を引いた。

 青い光弾が邪羅鬼の翅を砕き、邪羅鬼は弧を書くように地面に落下した。

「フゲェッ」

 邪羅鬼は地に落ち。ケンドリオンは空中落下しながら両手に木行の聖力を込めて、蒼龍風剛を邪羅鬼に放った。青い風の蒼龍がアブ邪羅鬼を呑み込み、消滅して無数の枯れ葉となって散っていった。

 ケンドリオンは片手と両脚で着地し、邪羅鬼を倒せたことに一息を突く。

「さて、次は緑幸玉がここにあるかだけど」

 ケンドリオンは懐から緑幸玉の欠片を取り出し、方向を変えながら花こう岩のある草地を回る。すると、二時の方角に向けると、緑幸玉の欠片が深緑に輝き、ケンドリオンがアブ邪羅鬼を倒すのに踏み台にした花こう岩の下が輝いているのを目にした。そこを掘り出し、深緑に輝く石片を見つけた。

「あった……」

 ケンドリオンは土まみれになった手で、石片をつかみ、自分が持っていた緑幸玉の欠片を取り出すと、磁石のS極とN極が寄せ合うようにくっつき、一つになったのだ。

「これで二つ入った……」

 ケンドリオンは一つになった欠片を見て呟く。すると身震いして、居間が夜中だということに気づき、転化帳のワープパネルを叩いて、グラスフィールドの〈草笛荘〉に戻ったのだった。

〈草笛荘〉の中の私室に戻ったケンドリオンは転化を解き、通信機能を使って蒼龍に二つ目の欠片を見つけられたことを報告した。

『そうか。よく見つけられたな。だが無理は禁物だ。五日ぐらい間を空けながら新しい欠片を探すことだな』

 転化帳の画面から蒼龍はケンドリオンに言った。

「ああ、そうするよ……。学校もクラブもあるし、もうすぐ受験も近いしな」




 それからケンドリオンは次の土曜日に緑幸玉の欠片が光る方角を頼りに、再び緑幸玉の欠片を探しに行った。

 三つ目の欠片はグラスフィールドから西北にあるエミリオンズ州の南下にあるトミーディックという地域だ。

 トミーディックは春になっても雪が降り、最低が零下二〇度までにも及ぶ。しかし尽きた先は町ではなく、山の中のトウヒ林であった。ケンドリオンはコートを三重に着こみ、ブーツもボア付き、ロングマフラーもぐるぐる巻きにして手袋も厚手のものを身につけ、降雪のトミーディックへやって来た。そして父はまた都会の医療センターで一泊することになったため、翌日の日曜日の昼まで帰ってこない。

 ケンドリオンが雪と落ち葉のトウヒの山林道を歩いていると、使われていない筈の井戸から背中と四肢にぺらぺらしたヒレ、体が青黒い粘りのある肌のウナギの邪羅鬼が現れた。

 ケンドリオンは蒼龍の尾と角を持つ青い衣の聖神闘者に転化して、ウナギ邪羅鬼と戦う。だが、ウナギ邪羅鬼は粘液のある体であるため、ケンドリオンの銃の光弾も武器がダメなら肉弾戦でキックやパンチをかますも、体の表面で防いでしまうのだった。

(魚の姿をした邪羅鬼は水行の力を持っていて、木行には弱いのに……)

 ケンドリオンは五行相克と相生を思い出し、何故木行である自分が水行の邪羅鬼に苦戦しているのかと考えていると、邪羅鬼のいる周辺が涸れた井戸と雪、枯渇したトウヒだらけなのに気づいた。ケンドリオンはその場から駆け出し、邪羅鬼はケンドリオンの後を追った。ウナギ邪羅鬼が着いた先は石切り場だった。その時、待ち伏せしていたケンドリオンが石切り場の高場からウナギ邪羅鬼に袋入り石灰のぶっかけたのだ。

「ぎょおおおおおっ」

 ウナギ邪羅鬼は石灰をかけられ、表面が石灰によって粘液が吸い上げられ、水で練った麦粉のようになり弱体化してしまった。ケンドリオンがそこを狙って、蒼龍風剛を出して、邪羅鬼を消滅させ、ウナギ邪羅鬼は泡となった。

「ふう。危なかった。これで緑幸玉を探せる」

 ケンドリオンはトウヒ林の中へ入り、緑幸玉の光を頼りに欠片を探した。そして邪羅鬼がいた井戸とは別の井戸の中に緑幸玉の欠片があった。雪解けによる水があったけれど、そんなに深くはなく、ケンドリオンは飛び降りて、井戸底の欠片を回収した。これで、あと二つ。


 それからしてケンドリオンは一週間後、土曜日の午後にまた緑幸玉の欠片を探しに区外へ行った。行った先はサンセリアの真東の州、ヘンリーバルトの南部ラニスである。

 ラニスは北部ほどではないが、降雪があり、なでらかな丘がいくつもある地域で、丘には二段や三段の地に削られて家を建てている。ラニスでも三角屋根に高床式の構造である。

 町からそう遠くないセントラルパークは降雪のためジャングルジムやブランコなどの遊具が使えず、砂場も雪で埋もれ、夏では水浴び場として使われる地噴水も凍結になっている。周りに民家も学校のような公共機関もない代わりに若葉の芽吹いたヒノキが生えたこの地で、ケンドリオンは空飛ぶトンビ邪羅鬼に苦戦していた。

 トンビ邪羅鬼は頭と背と翼の裏が赤褐色、顔と翼の裏が白地に黒斑の羽毛で四肢が鋭い蹴爪、亜麻色の古衣をまとった姿である。戦場となっているセントラルパークでは、地面の雪が所々円状に雪が蒸発して溶けている。

(トンビ邪羅鬼は木行に強い火行の邪羅鬼。しかも空中で円を描くように翼から火弾をだしてくるから、銃の引き金を引くことすらも許されない……)

 緑幸玉は近くにあるのに、トケンドリオンは噴水の吹き口に目をやる。あの中が仄かに緑色に輝いているため、噴水の中に欠片があるのだ。

 トンビ邪羅鬼は空中で余裕の笑みを見せながら飛んでいる。しかし、ケンドリオンは戦っている中でセントラルパークの地形や構図を把握し、構えていた銃をそっと、邪羅鬼に向けようとした。

「何度やっても同じだ!!」

 邪羅鬼がケンドリオンに言うと、ケンドリオンは素早く銃の向きを変えて、雪で埋もれた砂場のある方角に引金を引いて、青い光弾を放ったのだった。光弾は爆ぜて砂と雪を歯により遠くまで弾けさせ、銃口を同じ方角へ向けた邪羅鬼は雪と砂の爆風を浴びて後方へ吹っ飛び、後ろにあった太い幹のヒノキにぶつかった。

「ぐおおっ」

 実はケンドリオンの計算のうちで、トンビ邪羅鬼は常に円を描いて飛ぶ時、必ず左へ飛び出すことに気づき、敵の動きを利用して銃の光弾を放ったのだった。

 爆ぜた雪と砂を浴びた超邪羅鬼はそのまま地に落ち、蒼龍風剛を浴びて消滅し、後には灰が残った。

 ケンドリオンは邪羅鬼が散るのを目にしてから、噴水に銃口を向け、噴水の吹き口に穴を空けた。そこから、緑色に輝く石の欠片が出てきて、ケンドリオンの懐の緑幸玉が反応して、ケンドリオンは四つ目の欠片を手にした。欠片は今まで集めた三つと接合して、ダイヤモンド型になった。

「蒼龍、四つ目の欠片、手に入れたよ」

 ケンドリオンは転化帳を出して、蒼龍に伝える。画面の蒼龍は口から白い息を出し、た立って顔が赤くなっているケンドリオンを見て言う。

『それはよくやった。だけど、お前の体の方も管理しておくように。あと一つとはいえ、そんなに焦らなくていいぞ』

「……わかったよ。家に帰ったら、休んで勉強して、食べるよ」

 ケンドリオンは白空の下で蒼龍との会話を交わした。


 


 その後ケンドリオンは六日間、骨を休めた。といっても、日曜日には父とちゃんと教会に行って礼拝し、平日には学校、校内クラブも受験と卒業のため引退しなくてはならないが、ケンドリオンは課題レポートを出したり野外活動も積極的に参加した。もちろん受験勉強も忘れてはならず、ケンドリオンは日ごとに今日の課目をこなしていった。

 ケンドリオンにとって大切なもの――普通の青春である。それはケンドリオン自身も蒼龍もことごとく理解している。

 そして金曜日、学校の授業が終わってクラブも終えた頃、ケンドリオンは昇降口へ向かう途中、親友のジェイミー・ハーマンと出会った。ジェイミーは吹奏楽部の管楽器担当で、来月の州内ハイスクール吹奏大会の参加が決まり、このコンクールが最後のクラブの活動であった。廊下の窓に朱色の夕日が差し込んで、生徒たちの影を作る。

「ケンドリオン、今日早めに終わったから、一緒に帰らないかい?」

 ジェイミーが下校の誘いを出してきた。が、ケンドリオンは断った。

「悪いけど……今日はやめとく」

 一人で帰ることが多いケンドリオンにとって、一緒に誰かと帰るのは喜ばしいことだった。でも、ケンドリオンはそれよりも大切なことがある。

「本当に……すまない」

 ケンドリオンはそう言って、さっと昇降口を抜け出し、あまり人が入ってこない裏庭の藪の中に隠れた。そして素早く転化帳を制服の内ポケットから出して、ワープパネルを叩く。ケンドリオンは群青色の光に包まれ、跡形なく消えたのだった。


 ケンドリオンが着いた先は在中区のジャックロンド州の東隣バーリーチューン州のジャニールートという街の外れの森林公園だった。葉の芽をつかせた木々の隙間から朱色の空が見える。

ジャニールートの中に最後の緑玉の欠片が反応して調べたのだった。

 ケンドリオンは公園の森を出て、白い瀝青と赤レンガの覆われた地に、三階建ての円塔を幅広くした白と銀のメタリック素材の建物を目にした。ジャニールートの文化ホールであろう。その周りには街路樹と低層ビル街。ホールの近くの看板には、

『エイミー・ポーリーン リサイタル会場』

と書かれていた。

(……そっか。母さん、この街でリサイタルすることになったんだっけ)

 ケンドリオンは四日前に届いた妹ティファニーからの手紙の内容を思い出した。ケンドリオンはホールを見つめて思った。母に顔を見せようか、それともこのまま緑幸玉を探しに行くか、と。

 だが、ケンドリオンは転化帳を開いて、緑幸玉の反応がある方角へと駆け出していった。


 ジャニールートの街並みはカバやプラタナスなどの街路樹、舗装道路とガードレール付きの人歩道が二車線になっており、低層ビルは三階から七階が多く、一階が店舗や事務所、二階が塾や美容所という風になっているのが多い。ケンドリオンは様々な人々や車が行きかうジャニールートの街を歩いていた。懐から少し出して手に乗せている緑幸玉、最後の一つを探しに。

 そして、ケンドリオンはジャニールートの街で一番高い、展望所を見つけた。展望所は七階建てビル二つ分の高さで、銀のメタリック素材と白い強固素材が特徴のろうそく型のビルであった。展望所から出ていく人々は有給をとったカップルや老夫婦などがぞろぞろ出てきており、しかも閉館になろうとしていた。左右に開く自動ドアの近くには券販売のおばさんや若い黒人の警備員がいる。

「どうやって入るべきか……」

 ケンドリオンが展望所近くの電柱に隠れていると、ズドーンという音がして、何と展望所の最上部から煙が出ていた。

「なっ、何だ!?」

 異変を知った警備員とおばさんは展望所の中に入り、ケンドリオンも少し遅れて展望所の中へ入っていった。これができるのはテロリスト、あるいは邪羅鬼とかぎづけて突入していった。街の航空写真や都市模型が展示されている一階から非常階段に昇ると、ケンドリオンは三、4階辺りで青い衣の聖神闘者に転化し、転化の時に強化される筋力増加による駆け足で風のように最上階を昇っていった。半分昇ったところで息切れしているおばさんと警備員はケンドリオンが通り抜けたことに知らず、急に強風がきたことにきょとんとする。

 ケンドリオンは全てがガラス張りの展望階へ着き、展望所を破壊した者を確かめにやって来た。窓には朱色の空とかすんだ雲、八方にはコインを入れて十分だけ遠くの景色が見られる望遠鏡が一台ずつ置かれ、壁と床は藍色、そして天井の一部が破損した場所には、頭部に二本のギザ状の角を生やし金の複眼と双眸、体が黒鉄と甲に覆われたクワガタムシの邪羅鬼であった。それからケンドリオンの懐に入れてあった緑幸玉が深緑に輝いた。

(この建物の中に緑幸玉の欠片があるというのか!?)

 ケンドリオンが自分の所持している緑幸玉を見て思っていると、クワガタ邪羅鬼が自分の角と同じ型の剣を振りまわしてきた。ケンドリオンは殺気を感じると、後方へ跳ぶ。

「くっ、このままでは展望階が滅茶苦茶になる……!」

 ケンドリオンは邪羅鬼が空けた天井の残骸や粉々になったガラスを見て呟く。そして、大きく跳躍して展望階の真上である屋根の上に足場を変えた。穏やかな風の吹く地上と違って、上空数十メートルの屋根の上は風が強く、少し緩めただけで吹き飛ばされそうだった。朱い夕日と橙と紫に染まった空と低層ビルを背景にケンドリオンと邪羅鬼の戦いが開始。

 ケンドリオンは右手に銃を持ち、青い光弾を放ち、左手と両手で身体を飛ばされないようにし、クワガタ邪羅鬼は連射した光弾を剣ではじき返し、剣を振るって斬撃を放つ。邪羅鬼が放った三日月状の斬撃はケンドリオンに迫る。ケンドリオンは銃から光弾を放つも、斬撃が光弾を押し出してしまい、ケンドリオンもその圧力で屋根からはじき出された。

 ケンドリオンは真っ逆さまになるも、蒼い風の盾、風防盾で我が身を包んで落下の衝撃を防いで、一階の地上へケガをせず着地した。

「ああ……、落された!!」

 ケンドリオンはまた階段を昇るのかと思うと、悔しさが募った。その時、邪羅鬼は展望所の頂にある五つ目の緑幸玉の欠片を見つけた。

「!!」

 地上にいるケンドリオンは展望所の頂点が深緑と暗銅色の輝きに包まれた二つの波動を目にし、何があったのかと目を見開いた。ふと間もなく、ケンドリオンの近くにズドン! という落下音がして、振り向くと変貌したクワガタ邪羅鬼を目にしたのだった。肩や肘や脛からは鋭利な突起、背の翅は一対の甲翅と四枚の薄翅を持ち、体も象牙色の地に黒い縁取りのある姿となった。緑幸玉で進化した超邪羅鬼の胸には仄かの緑色の輝きが浮いていた。

「おおお、みなぎるぞ! 伝説五玉の欠片、一つでも進化するとは……!」

 超邪羅鬼は進化した自分の姿と体の奥からあふれる力を感じて恍惚する。

「そんな……緑幸玉をとられた……」

 ケンドリオンはがく然し、地面に膝まづく。そして、超邪羅鬼はケンドリオンに深緑と暗銅色の波動を出し、撃ち放った。

 ズドォォォン

 展望所の外庭の一角と周りの木々が一瞬にして爆ぜ、ケンドリオンは亀裂の入った地面に大の地で倒れ、鋼並みに丈夫な衣も破れ、体中に傷が走っていた。

 ケンドリオンは超邪羅鬼の圧倒的な強さに手も足も出せずにやられてしまったのだった。




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