「白」の書・第7話 新たな力と史上最強の邪羅鬼
『五聖神』第32話。最初の黄希玉の欠片を手に入れて、更に移動の力を手に入れたファランは着々と黄希玉の欠片を集めていく。だが、最後の一つで邪羅鬼に奪われてしまい、更に邪羅鬼は黄希玉の欠片で強化してしまいファランはピンチに襲われてしまう……。
離れと母屋とねむと李の木がある丘の家の上で、ファランは自室の机の上で最初に手に入れた〈伝説五玉〉の一つ、黄希玉の破片を見つめていた。窓から入る冬の清々しい淡い青空と西に傾く白金の日光に照らされて、黄希玉の欠片は蜂蜜のように透き通った黄色だ。
「最初の一個を手に入れたのはいいけれど……、残りの欠片の気配が全然しないぞ」
白虎からは「黄希玉は残りの破片に反応する」と言っていたが、ファランの担任の安円先生が持っていたのを譲ってから二日目。家族や友人や近所の人に知られぬよう黒い小巾着に入れているけど、欠片は光らない。
と、その時、ファランの服の内ポケットに入れていた転化帳がピピピ、と鳴った。邪羅鬼が出たのか、と確かめてみると、それは五聖神の白虎からであった。転化帳を開くと、白い毛に橙の眼の五聖神白虎の顔が現れる。
『すまないが、転化帳と黄希玉を持って月長殿に来てくれ』
白虎はファランにこう要請する。
「あ、わかった」
そう言ってファランはタンスから闘者の衣とは違う正装のような〈移転の衣〉を出し、普段着の黒い立て襟のベストと白いシャツと赤いズボンを脱いで、絹のような〈移転の衣〉に着替えて、仄かな白い光に包まれて白虎のいる神殿へと移転した。
天井も高く壁も床も広く、全てが虹色月長石でできている月長殿の大広間、そこに鎮座する巨大な虎、白虎がやってきたファランに問いかける。
「転化帳と〈黄希玉〉の破片を持ってきてくれたか?」
ファランは転化帳と黄希玉の破片を白虎に差し出す。すると白虎に仕える犬や猫が白虎の体の毛をいくつか抜いて、黒混じりの白毛をファランの転化帳の上に置き、白虎がふtっ、と軽く息を吹きかけると、その二つが白い真珠色に光って、ファランは新しい転化帳を手に取る。
転化帳は画面と転化・邪羅鬼レーダー・通信機能・国語辞典・メモ機能・計算機のパネルの他に黒い丸と矢印と星の付いたパネル、それから図のようなパネルがついている。
「白虎、これは……?」
ファランが転化帳の新しい機能を白虎に訊いてみる。
「これはマップパネルとマップの行き先に行けるパネルだ。マップパネルを一回叩くと、地図が画面に映し出され、画面の地図をタッチすればその行き先に行ける。
〈移転の衣〉は家と月長殿の行き来しかできないが、遠くに行くにはこれがいいだろう。
尚、黄希玉のデータは転化帳の中に入っているから、足や交通機関を使わなくても行ける代物だ」
白虎はファランに改良された転化帳の使い方を教える。
「ありがとう、白虎。黄希玉探しはどうしようかと思ったけれど、もう大丈夫だよ」
ファランは明るく笑って礼を言った。
*
そしてファランは〈移転の衣〉の帯止めで淡岸の自分の家へと戻っていった。ファランは〈移転の衣〉から普段着に着替えると、早速転化帳の地図機能を使ってみた。
パネルを叩いて、画面をペンで叩いて連極の地図を拡大。その後はどの方角に伝説五玉のありかが強いか欠片を使ってみると、西南の方角に反応したかのように蜂蜜色から山吹色に変化した。そして画面の地図の一ヶ所が黄色い点めつを発した。
「西南の方角……。ってことは、連極の西南っていうと、この辺りか。西平省の真下あたり」
ファランは連極地図の西南をタッチして、西平省の地図を調べる。
「行ってみるか……。こういう石って、大概無人地にありそうだしね」
ファランは呟いた。
翌日、ファランはこの日の最後の授業が終わると、ヤンジェと秀龍と大成に一緒に帰らないかと誘われたが断った。
「ごめん。ちょっと……、野暮用ができちゃって」
ファランは三人に申し訳なさそうに言うと、ヤンジェたちは顔を見合わせて「?」という表情をする。ファランはそそくさと教室を抜け出し、家へ帰ろうとしたり習い事へ行こうとする生徒たちに混じってすり抜けていき、一階の階段下の隙間に隠れて服の内ポケットに入れておいた転化帳を出して、地図を画面に出し、タッチペンで。西平省の点滅した場所を着地点とし、〈・→☆〉のワープパネルを叩いた。するとファランは白い光の球に包まれて、学校から姿を消した。
ファランはとある森の中にいた。黒に近い木肌と空を包むような針葉樹と広葉樹の森の中である。ピージュピージャア、と鳴く鳥の声に黒い地面を覆う茶色と緑が混じった落ち葉。ファランの住んでいる淡岸と違うのは意外に少し暖かい所である。
「そうか。西南はそんなに寒くないんだ」
ファランはコートを脱ぎ腰に巻きつけ、黄希玉の欠片を懐から出すと、山吹色に光り輝くのを当てにして、黄希玉の破片を探した。
「確かここは……香桜山だ。春になるとピンクの桜の他、白や黄色や緑がかった桜も咲くので有名な……」
ファランは着いた先の場所の地名と特有性を思い出す。森をうろうろしていると、手に持っている黄希玉の色が濃くなっていくのを目にした。そして……。
「ここに、黄希玉があるのか!?」
ファランは一本の桜の大樹の前で立ち止まった。それは他の樹よりも大きい桜で三倍の高さと幹を持っていた。葉はないが、花と子葉のつぼみが数え切れないほどについている。その時、木々の枝が凍るように荒ぶり、幾種ものの鳥の鳴き声が響き、狐や狸やイタチなどの生き物がファランのいる向こう側から逃げるように走ってきたのだ。
「この気配は……」
ファランの持っている転化帳が激しく鳴り、ファランは息を飲む。頭に二本のねじれた角、全身は黒い地肌ともしゃもしゃの毛に覆われ、金眼と蹄脚に古衣をまとった羊の邪羅鬼が出てきたのだ。
「邪羅鬼……! まさか本当に人の気のない所にも出てくるなんて……」
ファランは転化帳の転化パネルを叩き、白い金属膜に包まれて、虎の耳と尾と白い衣の聖神闘者に転化する。
羊邪羅鬼は柄の長いハンマーを出してきて、ファランと戦う。ファランは周りの桜のつぼみが取れないよう気を使い、邪羅鬼のハンマーをよける。ズシン、ズシンと地響きするものの、流石に長年も地に根を張っている香桜山の桜は強かった。ちょっとやそっとの振動で子葉やつぼみは散らない。ファランは両手に金行の聖気を込めて、白虎閃光で邪羅鬼を倒した。白い光の白虎に呑まれた邪羅鬼は体が砂になって消滅した。
「砂になった……。てことは土行の邪羅鬼でそんなに苦じゃなかったんだ」
ファランは倒した邪羅鬼の最後を見て呟いた。そして一番大きな桜の木の中心が黄色く光るのを見ると、ファランはその樹の表面を細剣で削った。樹皮と共に白に近い木片をえぐると、樹の中に黄希玉の欠片を見つけたのだ。
「これで二つ目。やった!」
ファランは二つ目の黄希玉を手にすると、転化を解いて尾と耳のない地味な学校用コートと普段着の姿になった。そして黄希玉をとりこんでいた桜に言った。
「黄希玉を見つけるにはこれしかなかったんだ……。ごめんよ」
そして、転化帳のワープ機能を使って淡岸の自宅近くの海岸についた。海は紫になり、空は朱色、翠変遷の上の太陽は赤くなっていた。ファランは何事もなかったかのように、祖父とヤンジェの待つ家へと帰っていった。
その夜、ファランは自分の家の机上でこの間アンユエン先生が持っていた黄希玉と香桜山で見つけた黄希玉を置いてみた。すると、二つの欠片は磁石と鉄がくっつくように引き寄せ合って、一つの形になった。正しくは五芒星の下半分といった方が正しいだろう。
「そっか……。元々は星の形をしていたもんな。全部そろえば本来の形になるんだな」
その時転化帳が鳴って、またどこかで邪羅鬼が出たのかと、聞いてみると白虎の顔が映った。
「見て、二つ目の黄希玉を転化帳のワープ機能で。西平省の香桜山で二つ目の破片を手に入れたんだ。邪羅鬼も出てきたけど、やっつけたから」
ファランは転化帳越しで白虎に今日の出来事を報告した。
『そうか。それはよくやった。だが、今のうちに全部集めるのは精神にも体にも負担がかかる。疲れた所を邪羅鬼が狙ってきたら、元も子もないからな』
「わかっている。ちゃんと寝て、学校にも行ってご飯も食べるよ」
『あと、邪羅鬼が人間のいない場所に出てきたのにも、理由がある。今、連極皇帝が病で国民が不穏になっているのも邪羅鬼が影響している、ともいえよう』
ファランは白虎の話を聞いて、納得するように顔をこわばらせる。
『だが、次の破片探しには気を抜くなよ』
白虎はファランに伝えた。
その一週間後、ファランは次に連極の北東に位置する竜道省の長竜中央へワープしてきた。長竜中央は乾海から流れる長竜川の近くの町で、他に西・東・南町もある。北部の町なので冬は雪が多く建物は何世帯の家庭が集まって暮らす四階建ての巨大な円状の建物がいくつもあり、家庭だけでなく店や職場もある地域である。建物の他には春夏には緑生える小山と森と平原。今は浅いとはいえ、雪で白く染められている。
ファランは白い衣と獣の耳と尾を持つ姿で、長竜川と町のある小森と平原で邪滝と戦っていた。邪羅鬼は折り曲がった耳とフサフサの尾と爪と牙を持つ猟犬の邪羅鬼である。
深々と降りゆく雪の中で、赤茶色の毛だらけな分、邪羅鬼の方が優勢である。しかも瞬発力も素早さもあり、ファランは苦戦していた。
「我が同胞を倒してきた聖神闘者よ、お前の武勇伝もこれまでか?」
邪羅鬼は淡岸の夜中よりも寒い場所で震えて口から弾けるように出す白い吐息を出しながら地べたについているファランをあざける。
だがファランは赤い眼で邪羅鬼を睨みつけ、起き上がって近くに落ちていたハリエニシダの枝をつかむと邪羅鬼に言った。
「これを見てみろ!」
それから思いっきり高く放り投げて、高く投げられた枝を見た邪羅鬼は元となった動物の本能で高く跳んで口で枝をキャッチした。着地も見事にこなし、ファランは吹き出す。
「邪羅鬼も普通の犬でも変わらないんだな」
枝をくわえた邪羅鬼は我にかえり、ファランに一杯喰わされたことを知ると、怒って突進してきた。
「バカにしてえっ!!」
だがファランは二本目の枝をつかんでおり、さっきよりも遠くに放り投げた。
「わふっ」
邪羅鬼はまたしても枝に気をとられ、枝を追いかけていった。三段跳びをして見事に口でくわえた後、氷の張った長竜川の真上にいることに気づき、そのまま落下した。薄く張った氷がバリッと音を立てて割れ、邪羅鬼は氷点下二〇度の冷たさに叫びを上げた。
「ギャイイイイイイイ」
つんざくような叫びが空に響き渡り、建物の中でくつろいでいた長竜中央の人たちは思わず耳を向けてしまった。
邪羅鬼は冷たさと金行の邪気を持つゆえに水に力を吸われていく慌ての末どうしようもなく、否応なしにファランの白虎閃光に呑みこまれて、鉄粉となって消滅した。
「流石にこの作戦はかわいそうだったかな……。でも、僕も必死だからね」
ファランは邪羅鬼の亡くなった跡にそう言うと、長竜川の河原の中の茂みに隠れていた三つ目の黄希玉の欠片を見つけ、急いで転化帳の地図を淡岸の自宅に合わせて、ワープパネルを叩いて白い光の玉に包まれて、自分の部屋の中に舞い戻ったのだった。
「ああ、寒かった」
転化を解いて耳と尾のない姿に戻って、暖房機の電源を入れた。そして部屋が充分に暖まると、暖房からは離れて三つ目の欠片を前に回収した欠片と合わせた。
「これであと二つだ」
ファランは小笑いして、晩御飯になるまで夜露を防ぐ家と暖かな寝床のある自分の部屋で今日の疲れをいやしたのだった。
そのまた一週間後、ファランは連極の福泉省の福泉という湖のある街へやって来た。連極の北西に位置する福泉は連極最大の湖があり、北から流れる北天川と接しており、東から流れる長竜川とつながっている。福泉は夏は観光地や避暑地として扱われており、湖の周りには様々な店や富裕者の別荘が建てられている。どの建物も二階や三階建てバルコニー付きの建物である。
今は冬季のため、街は閉鎖されていて福泉にやってくるのはせいぜい観光街の近くの村や町に住む人民が魚釣りに来るくらいだった。夏は涼しい空気と澄んだ空と群青色の福泉だが、冬は鉛色の空と降雪、濃紺に沈んだ湖水となっている。街の他には杉やナラや椎の木などの林で、冬でも木の葉が残っているのも多い。
福泉の観光街にやってきたファランはどの店も宿屋も三月まで閉鎖されている街を歩いていた。コートを着ているとはいえ、今日も学校が終わった後にやってきたので、学校のコートでは流石に寒かった。手袋やマフラーもつけてはいるが、まだそれでもだ。
「早く見つけて、帰ってあったまりたいな~」
ファランが白い息を吐きながら街の通りを歩いていると、掌の上に乗せていた黄希玉の黄色い光が濃くなってきた。
「あっち!? って……、森の中じゃないか……」
ファランは観光街の近くの森を見て呟いた。森の中は薄暗くて茶色の落ち葉が散らばっているが、雪は積もっておらず、時折縞リスが枝の上に昇ってくるくらいで、ファランは黄希玉の欠片を探していた。
ファランが黄希玉の輝きを当てに森を歩いていると、転化帳が激しくなった。
「はっ、じゃ、邪羅鬼か!?」
ファランが転化帳の音に気づくと、辺りを見回した。転化帳を開いて邪羅鬼レーダーを見てみると。反対側の福泉の方であった。
「邪羅鬼は湖、黄希玉はこの森……。くそっ!!」
ファランは黄希玉をコートのポケットに入れると、湖の方へ引き返した。邪羅鬼を倒す方が優先だと。ファランは走りながら、白い衣と虎の耳と尾を持つ姿に転化し、観光街に戻った。
福泉のほとりの街に戻ると、福泉の中から水流が出てきて、ファランの方へ向かってくる。ファランは水流からよけ、水流はバッシャーンと言う音を立てて、石と砂と草の騎士を濡らした。
「凄い水圧だ。受けたら一たまりもない」
ファランは邪羅鬼の攻撃を見て呟く。
(水の中のいる、ってことは水行の邪羅鬼。金行は水行に弱い。どうしたらいいものを……)
ファランは学校の先生にとりついていたカナリアの邪羅鬼が自身の苦手な敵だったことを思い出す。あの時は給水場があったから勝てたが……。ファランはぼやぼやしていると、水飛沫が立って、中から巨体の邪羅鬼がファランのいる湖岸に降り立った。白に近い灰色の体に雪だるまのような体型に手足も太くて指にひれがあり、腰に魚のような尾をつけた海牛の女邪羅鬼である。背も二メートル越えており、のしかかってきたらファランは潰れそうであった。
「おい、邪羅鬼。お前が欲しいものはこれだろう」
ファランは懐から三つ集まった黄希玉の欠片を出し、邪羅鬼に見せびらかす。すると邪羅鬼は黄希玉を見て、眼の色を変える。
「これが欲しいか!? なら、力づくで奪ってみな!」
ファランは駆け出し、邪羅鬼も巨体をドシドシ鳴らしながら、ファランのあとを追いかけた。湖岸から観光街、観光街から白い瀝青の国道、枯れ葉と落ちた枝のある森の中へと入っていった。森に入った時、邪羅鬼はファランの姿がないことに気がついた。
「あっ、せ、聖神闘者は、ど、どこだ!?」
キョロキョロと辺りを見回すけど、ファランの姿が見当たらない。すると、一本の木の上からファランが姿を現した。
「引っかかったな、邪羅鬼。湖じゃどう考えたって勝てそうにないから、黄希玉を出汁にしてお前をこの森に寄せたのさ。水行は何に弱いか、わかるよね……?」
ファランは邪羅鬼の余裕の笑みを見せる。悔しがった邪羅鬼は地団駄を踏み、その振動で葉を枝に残している木が揺れただけで、ファランは何のためらいもなく、掌から白虎閃光を出し、邪羅鬼は光の白虎に呑みこまれて泡となって消滅した。
ファランは着地して邪羅鬼の邪魔がいなくなると、森の中の四つ目の黄希玉を探した。ファランはふと、一本の木の根元に生えているキノコの群生の中に一ヶ所だけ黄色く光っているのを見つけた。いつも食べているシメジの何倍もある一本シメジを抜くと、黄色い欠片があったのだ。
「あった……。これで、残るはあと一つだ!!」
ファランは四つ目の欠片を拾うと、今まで集めた欠片と寄せ合わせて、つながったのだ。あと一つで、黄希玉は完全な五芒星となる。
『ファラン、よくやった。残るはあと一つだ。今まで頑張ってくれた……!』
四つ目の黄希玉を見つけてから数日後、ファランは就寝前に白虎と転化帳越しで話し合っていた。
「うん。最後の欠片が見つかったら、白虎に預ける約束だったんだよね……」
普段着とは違ったゆったりとした型の寝間着姿でベッドの上に寝転がりながらファランは返事した。黄希玉探しも大切だけど、ファランにとっては祖父とヤンジェとの暮らし、学校の勉強やクラブ活動、友人との付き合いも大切だった。いや、邪羅鬼との戦いのない日常こそが、ファランにとって平和であった。
『それで……最後の欠片はどこにあるかわかるか?』
白虎がファランに訊いてみると、ファランは黄希玉の光る方角にあると思われる場所を訊ねる。
「うん。地図帳と転化帳のマップを頼りにして、最も光った矢先が南林省の雷っていう地域に反応したんだ。社会の授業で習ったんだけど、穀倉地帯で連極南部の年間の作物量が生産されているんだ」
ファランは白虎に最後の欠片があると思われる雷区の情報を白虎に語る。
『雷区か……。ファラン、君が生まれるくらいの頃、この地はかつて上民は裕福で下民は苛酷な労働や重い年貢で虐げられていた地だ……』
白虎はファランに雷区の暗黒の歴史を教える。
『領主は現在、先代領主の親族にあたる者が治めているが、十五年前までは領主は強欲で無慈悲で娘も一人いたが、娘も冷酷な人間だった。
今は病に伏せっているが、連極の皇帝が雷区の視察に来た時、領民の暮らしを見てひどいものだと知って、領民の暮らしを和らげるために条件として雷区領主の娘を側室にすると約束した』
ファランは連極皇帝の善き心に感心した。皇帝はテレビの映像や新聞や書籍の写真でしか見たぐらいだが、あごひげを生やし髪も綺麗にまとめた標準体型の男で、若い頃は男前で花嫁候補もたくさんいたということは知っている。
『だが約束が果たされる前に雷区領民は反乱をおこし、領主を抹殺して娘を追放した。
今は上民下民の暮らしは安定しているが、国全体だけでなく国内の一地域でも共和制や独裁性があるのだ。
追放された先代領主の娘は皇帝の子供を宿しており、流離っている間の寺院で子供を産み落として亡くなった。
悪人とはいえ最後は儚かった』
ファランは雷区領主の親子の最後を聞いて、口をつぐんだ。
「その子供はどうしたの?」
ファランは皇帝の血を引く雷区領主の娘の赤ん坊のことはどうなったのか気になった。
『いや、その子は生まれて間もなく孤児院に入れられて、ある家の養子になった。
たぶん、「皇帝の子供」とわかっていても、その子は養親の元から離れることはないだろう……』
白虎は皇帝の子供の行方をファランに辛苦を感じさせながらも語った。
「……?」
ファランは皇帝の子供と関係している雷区に何がまだあると思っていたが、訊ねるのをやめて、そのまま寝入った。
ファランが伝説五玉を集めてから三週間がたった。あと一つ、あと一つで黄希玉は本来の姿を取り戻す。その後は五聖神・白虎の手にゆだねられる。
ファランは南林省の北東部に位置する地域・雷区へとやって来た。雷区は南林省と白浜省の境目と長竜川の間にある穀倉地帯で、緑と茶色が混じる山々と広い草原、北から流れゆく紺色の線、長竜川に囲まれた風景で、その中に麦や米などの五穀、李や桃などの果実、根菜や葉菜などの野菜の畑、黒い羊や黒牛や黒豚などの家畜も多く、雷区は連極南部の食糧の生産量一位と云われるほどの豊さである。
家は木造二階建てが多く、金持ち農家はその家四軒分ものの建物に住み、領主は上空から見ると円塔と長方形をつなげた石造りの屋敷に住み、人々は畑仕事や家畜の世話に精を出していた。
ファランは今回は雷区内近くの小山にワープして、峠から雷区の様子を見ていた。
(ここが十五年前まで貧富の差が激しくて、反乱があったなんて信じられないな)
晴れ渡る青空に白金に光る太陽と草木と大平原に、恵まれた地域を見て、ファランは思った。
「さて、最後の黄希玉はどこにあるもんかね……」
ファランは峠から見た雷区の街を見終えると、山に入って最後の黄希玉を探した。山といっても鳥やリスなどの生き物しかいない訳でもなく、ありとあらゆる場所に木で出来た東屋や丸太を削ったベンチなどが置かれ、住民たちの遊び場や憩い場として扱われている。南部とはいえ冬はやっぱり寒く、ファランはコートと手袋とマフラーの姿で山を歩いた。黄希玉は欠片があるにつれ、色が濃くなっていく。ファランが歩くたびに落ち葉がカサカサと鳴り、ブナや椎やカシの木はまだ葉をつけているのを目にした。
「この辺りかな」
ファランが峠から大分歩いた先に入ると、突如カラスやムクドリやヤマバトが騒ぎ出し、飛び交い始めた。それもたくさんである。同時に転化帳が激しく鳴った。
「これは、邪羅鬼!?」
ファランは黄希玉と邪羅鬼の出が同じだったら……と思いつつも、邪羅鬼レーダーを頼りにして駆け出していく。ファランがやってきた先は、長南川と街の景色が見える高台であった。そこは丸太の柵で囲まれ、上から見ると山の木々がぽっかりと空いている。
「どこにいるんだ、邪羅鬼は……」
ファランが辺りを見回していると、空を切る音と耳鳴りが聞こえてきた。超音波である。ファランの背後から殺気がして、ファランは耳を押さえつつも素早く後ろの木の一本へ下がった。ファランの目の前に現れたのはウサギのような大耳に傘のような羽を背に生やし、口から牙を生やした悪魔のような姿の――コウモリの邪羅鬼である。
「ほう……、その身体能力、聖神闘者か」
コウモリ邪羅鬼は金色の瞳をファランに向け、尖った歯列をむき出しにして冷たい声を出す。ファランは転化帳を使って白い服の聖神闘者に転化して腰に下げている二本の細剣を抜いて、邪羅鬼と戦う。コウモリの邪羅鬼もコウモリの羽状の蛮刀を出し、大きくふるった。
ガチィーン
ファランの細剣と邪羅鬼の蛮刀がぶつかり合って、空気が振動して小山全体に響いて鳥や虫たちが騒ぎ出した。ファランは左手の剣で邪羅鬼の蛮刀を受け止め、右手の剣で邪羅鬼を刺そうとしたが、邪羅鬼は口を開けて目には見えない音波の衝撃を出した。
「うわあっ!!」
ファランは邪羅鬼の攻撃を受けて吹き飛び、後ろの大木にぶつかった。ファランだけでなく木の葉も粉状に砕け、木の枝も刃物で削ったように割れ、地面にも亀裂が入った。見かけや肌触りは絹や亜麻と変わらないけれど、鋼より頑丈な闘者の衣も所々に裂けた。
「くっ……」
ファランは起き上がろうとしたが、音波衝撃のせいで頭が激しく痛んでくらくらし、耳鳴りもして手足も痺れて動けない。
「これだけ受ければこっちは安心だ」
邪羅鬼はファランに背をむき、つかつかと歩いていく。そして町の人たちが作ったと思われる黒い屋根と赤い木材で出来た祠の前で立ち止まる。黄希玉がファランの懐奥深くで輝きを増した。ファランは祠に手を伸ばす邪羅鬼に気づいた。
「や……やめろ!!」
ファランは邪羅鬼は祠を開け、その中に祀られている物に手をつけた。
「おおお……ついに手に入れたぞ!!」
邪羅鬼は長い爪のついた手で祠の物をつかんだ。縦長の二等辺三角形の透き通った黄色い石の破片……。最後の黄希玉である。
「ふふ……あはははは!! これで、これで俺はどの邪羅鬼よりも強く、優れるようになる!!」
邪羅鬼は高笑いして黄希玉を掲げて叫んだ。そして右手に黄希玉、左手の爪で自身の胸を突き立ててぐっと力を入れて傷つけた。
「ぬぅん!!」
「!!」
ファランは邪羅鬼の自傷行為を見て衝撃を受けたが、邪羅鬼は無皿黄色の血が滴るのも気にせず、黄希玉を傷口に入れたのだった。
すると……。
邪羅鬼の体から黄色と黒のオーラに包まれ、口の牙が四本のびて、二枚の羽が四枚になって分裂し、頭から山羊のような二本の角が生え、体中の筋肉が隆起して、先程よりもとてつもなく恐ろしい風貌の超邪羅鬼になったのだ。胸の傷もふさがっており、胸がかすかに黄色く光っている。
「あ…ああ……」
ファランは邪羅鬼の変貌した姿を見て、恐怖と驚きにおののいている。
「おおお……、力が……みなぎるぞ!! 流石伝説五玉!!」
そう言う也、邪羅鬼は両手から黄色と黒のエナジーボールを出し、ファランに向けてはなったのだ。
ズドーン、と衝撃が起き、山の一部が吹っ飛び、木は砕かれ、地はえぐれ、ファランは体中に傷と痛手を負い、落下していった。それと同時に雷区の人たちが山が吹っ飛ぶのを目にしたのであった。
「な、何が起こったんだ!?」
「見ろ、あの小山が三分の一ほど削れている!!」
街でも光景を見てパニックになった。
「ぬははははは!! この力があれば、地上は全て邪羅鬼のものだ! 聖神闘者だけでなく、五聖神も恐るるに足りぬ!
ウフフフフ……ア~ハハハハハ!!」
三分の一吹き飛んだ山頂の上から邪羅鬼が高笑いをして、黄希玉の欠片一つといえど強くなった自分の力に慢心していた。
そしてファランは吹き飛んだ木や地の破片と共に小山の下の草むらで倒れて失神していた。体銃は傷だらけで、衣もぼろ布のように裂け、両目を閉ざしていた。




