シンデレラエクスプレスの車掌
今回は「シンデレラエクスプレス」をテーマにした物語です。シンデレラエクスプレスに乗務している車掌と乗客の物語です。
1987年の夏の日の日曜日の夜。今日も東京駅の15番線にはたくさんのカップルが溢れかえる。
このカップルたちは、大学時代に東京に出会い、卒業後、彼氏は大阪や名古屋で働くことになり、カップルは離れ離れになってしまう。だから毎週金曜日の夜に東京へやって来て、彼女と素敵な48時間(2日間)を過ごし、21時東京発の超特急ひかり289号大阪行きで彼氏は帰って行く。
日曜日の21時はシンデレラで言うところの0時になったら魔法が消えてしまうのと似ているのでこの列車は「シンデレラエクスプレス」と呼ばれている。
だが、この48時間の魔法を消してしまう悪い魔法使いがいる。それが俺ら車掌である。
俺は超特急ひかり289号の車掌長の岩倉龍一。
「龍一くん!!発車1分前だよ~。」
「もうそろそろだな。」
こいつは俺の同僚で彼女でもある、栗林梨花。
毎週、俺と栗林は、シンデレラエクスプレスの乗務をしている。俺らはシンデレラで言うところの魔法を消す悪い魔法使いだ。まぁシンデレラにはそんなの登場はしないが。
そして魔法が消える21時丁度。
「時刻よし!!レピーター点灯!!」
俺は点呼をすると
プルル…
「まもなく15番線から超特急289号、大阪行きの列車が発車いたします~!!お見送りのお客様は列車から離れてお見送りください~!!」
0時の鐘が鳴るように、15番線には発車ベルとアナウンスが21時を知らせている。
彼女たちは涙を流しながら、別れを惜しむ。
そして俺は
「乗降よし!!」
と、指差し確認し、ドアスイッチを押して、ドアが閉まる。シンデレラの魔法が溶ける瞬間だった。
「列車から離れてお見送りください~!!」
どうやら、ドアに張り付いている彼女がいるらしい。彼女が離れると、駅員の発車の合図が出て俺は発車のブザーを鳴らした。
すると、シンデレラエクスプレスは動き出した。ホームでは涙を流すたくさんの彼女を見かけた。それと、魔法を消されたのを恨むように俺ににらみつける彼女もいた。
俺と栗林は毎週のように、このような光景を見ている。
切符の確認に車内に行くと寂しそうにしている、彼氏の姿も見えた。また、ドアで寄りかかって泣いている彼氏の姿もあった。
これが毎週日曜日の超特急ひかり289号ことシンデレラエクスプレスである。
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だがひかり289号の悪い魔法使いはたくさんいて、乗務に嫌がる奴がいた。
「俺なんか21時丁度まで待たないなからな!!まぁ岩倉には彼女いるからな~。」
俺が所属するJR東日本東京車掌区では、俺とほか数人以外の彼女いないやつらはシンデレラエクスプレスでのカップルの別れるのを見るのを楽しんでいるとか。ほとんどの車掌がこのことを言うが、栗林は
「シンデレラエクスプレスに乗務したくない?」
「うん。なんか、これに乗務していると、なんか寂しくてね。」
「嫌なのか?」
「龍一くんはどうなの?」
「俺は仕事だからしょうがないと思ってる。だから、栗林も。」
「それでもね。あれが自分だと考えるとね…。」
「栗林、大丈夫だよ。俺はどこにもいかないから。」
俺は栗林の頭をなでた。
だが、次の日曜日に、早速問題が起きた。
「優くん行かないで!!」
「また来週来るから!!」
乗務員扉の真ん前のドアで「行かないで!!」と大泣きする彼女の姿があった。
超特急ひかり289号の使用車両は、JR西日本の485系となるのだが、先週から車両車両の交換となり、JR東海の183系となった。
ちなみに超特急ひかりは、西鹿児島、博多、大阪と、3つの行き先がある。
485系は乗務員扉の前に、乗客用のドアがないに対して、183系は真ん前にあるため、ちょっと勘弁してほしい…。
それを見た栗林は
「龍一くん、今日は私無理…。」
「栗林、大変なことはがんばって乗り越えるものだ。」
「龍一くん…。」
俺はちょっと厳しいことを言ってしまったみたいだ…。
そしてドアの前で彼女は大泣きが続く。そして、また今日も21時がやって来た。
「時間だぞ。」
「うん…。」
栗林は、泣きそうになりながら
「時刻よし!!レピーター点灯!!」
プルル…
「まもなく15番線から超特急289号、大阪行きの列車が発車いたします~!!お見送りのお客様は列車から離れてお見送りください~!!」
今日も、0時の鐘が鳴るように、15番線には発車ベルとアナウンスが21時を知らせている。
「うわ~ん!!優くん~!!」
彼女は彼氏から離れず…。
そして発車ベルが鳴り終わった。
「乗降…よし!!」
栗林は少しためらっていた
「優くん~!!」
「ちょっと!!」
彼氏は少し、勘弁してほしいという顔をする。
栗林はそれを見ながら、ドアスイッチに手を置いたが…
「どうした?」
「龍一くん、やっぱり私無理!!」
「栗林、発車時間過ぎちゃうぞ!!」
「私には…私には…。」
栗林は泣きそうになる。このままだとヤバイな。俺は栗林に飛び付き、
「ごめん!!」
俺は栗林の手ごと、ドアスイッチを押した。そしてブザーを鳴らした。栗林はただ無言で外を見ていた。
俺も安全確認のために、外を見ていたが、外に向けて、栗林の涙が散っていた。
ごめんな栗林。
俺はそう思いながら、チャイムのスイッチを押し、マイクのスイッチを入れた。
「本日もJRをご利用いただきましてありがとうございます。この列車は超特急ひかり289号、大阪行きです。列車の停車と到着時刻は、名古屋22:49、京都23:36、終点大阪には23:52に到着いたします。この列車は1号車を先頭とし、一番後ろが16号車です。担当車掌はJR東日本東京車掌区、岩倉、栗林が終点大阪までご案内いたします。」
俺の横では、丸くなって泣いている栗林がいた。
「栗林、無理させてごめん。」
「龍一くん!!」
栗林は俺に抱きついてきた。
「栗林…。」
俺はよしよしとなぐさめた。
「ねぇ、龍一くん」
「ん?」
「龍一くんはどっか遠いところに行ったりしないよね?」
栗林は俺とそんなに一緒にいたいのか。
「もちろん。絶対、俺、栗林から離れないから…。」
俺は栗林をぎゅっと抱きしめた。
俺はシンデレラエクスプレスの恋人がどんなに寂しくて悲しいことがわかった気がした。
そして、超特急ひかり289号の乗務がどんなに大変かもわかった。
でも、シンデレラエクスプレスの恋人たちよ、悲しまないで。また、列車で会いに来てくれるから。俺ら車掌があの人を届けてやるから。
また来週会えるさ!!
俺ら車掌はシンデレラエクスプレスから見たら48時間の魔法を消す、悪い魔法使いかもしれない。でも、その彼氏たちを東京へ届けるなら、48時間の魔法を与える、いい魔法使いかもな。
次回は乗客目線の話を予定してます。ちょっと「狭軌最強鉄道」から話がそれそうになりますが、温かく見守ってください。
今後ともよろしくお願いします。