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狭軌最強鉄道伝説~新幹線がない世界~  作者: ムラ松
第2章 東北本線
7/20

民営化の夜

 1986年11月28日に、1987年3月31日を以て日本国有鉄道、通称国鉄は7つの会社に分割民営化されることに決定となった。

 それに先駆け、11月1日にはダイヤ改正が行われた。

 そして俺ら国鉄職員には

「俺は国鉄残留に丸っと。」

民営化後、新たな会社に残るのか、それとも民営化を気に退職するのかアンケートが行われた。

「先輩も残留ですよね!!」

田原が俺のとこへ来た。

「もちろんだ!!」

「よかった~。」

「これからもよろしくな。」

「はい!!」

田原は俺に抱きついた。

 正月が明け、1987年の2月、俺は中学の同窓会に行った。

「井上は国鉄で運転士だろ?」

と、同級生に聞かれた。

「あぁ、東北本線で特急のな。」

「国鉄といえば、民営化騒ぎになってるけど、どうだ?」

やっぱり聞かれた…。

「俺は国鉄に残るけど。」

「やっぱり国労とかに属してるのか?」

国鉄の印象悪いな~。

「いや、対立してるよ。おかげで、一時期は別の場所に左遷されたし。」

「なんか大変だな~。」

みんな、俺には国鉄の話ばかりを聞いてくる…と思った。

「お前ら結婚までしたのかよ!!」

それは同級生に中学の頃から付き合っているカップルがいて、そいつらが結婚までこぎ着けたらしい。

「そうなんだよ~。」

その彼氏は照れていた。すると俺に

「井上も彼女いるだろ?この前、大宮で見たぞ。」

まぁ聞かれても特に問題ないし、俺は

「いるけど。」

すんなり答えた。

「てか、大宮にはよく来るし。」

するとみんなは唖然とした。

「みんなどうしたんだよ?」

みんなはクスクス笑いながら

「いや、ごめん、大宮で見かけたのはジョークで、本当は井上は電車と書いて彼女の読む、彼女と大宮で一緒にいるというジョークを言ったのだが…。」

「なんかおもしろいことを言うな。」

俺も笑った。

「ってお前彼女いたのか。」

「まぁな。電車と書いて彼女と読むの理論も間違ってはいないけどな。」

実際に田原に「私と485系どっちが大事なの?」と聞かれたことあるし。

「相手は何してる人だ?」

「同僚。てか俺の後輩。」

それを聞いたみんなは

「えっ?まさかのこっちか!?」

「田原はニューハーフじゃねぇ!!てか国鉄にも女の子いるわ!!」

「すいません!!」

俺はそれを言い出したやつの首を絞めた。

「彼女、運転士なんだ~。」

「そう。俺にとってはかわいいんだよな~。」

俺は写真を見せた。すると

「井上、結婚とかは考えてるか?」

「えっ?まぁ少しは」

そんなに考えたことはなかった。

「お前もこんなにいい娘いるんだから、早く結婚しなよ~。」

「そうだな。」

 次の日の昼下がり、俺は特急ひばり・やまばとに乗務していた。

 昭和57年のダイヤ改正で、特急ひばり、やまばと、やまびこの一部とあいづが、編成がひばりとやまびこは7両(クハ481-0、100が先頭の場合は8両)、やまびことあいづが6両となって、福島と郡山まで連結運転を行う。

 仙台に所属している485系のほとんどが12両から6、7、8両になっている。足りないクハは新造している。

 7両編成の485系にはサハシ485というサハシ455・451から改造したビュッフェ車が連結されている。

 俺の乗務する列車は福島で切り離しを行う。だが…

「すごい雪だな。それにものすごく寒い…。」

福島に着く直前でものすごい大雪。まぁこれもよくあることなんだが。だけど、いつも以上に運転室が寒い…。

 列車は定刻より、30分遅れで福島に到着したのだが…

「ヒーターが故障してる!?」

車掌からひばり編成のヒーターの故障の連絡があった。通りで寒い訳だ。

 この事を指令に連絡すると

「了解しました。ひばりは運転打ち切りでお願いします。」

「打ち切りですか?」

「代車で455系は出せるらしいのですが、485系足りないみたいなので。それにこの先、大雪で危険が伴うので、運転は打ち切りです。」

「わかりました。」

「ただし、列車は大宮まで回送できます?」

「えっ!?でも危険だから運休と…。」

「安全がとれ次第なので。」

「了解です。」

これが生死の境目となった。

 結局、やまばとも運転打ち切りとなり、この13両を大宮に回送することになった。回送する理由は、明日の運用のためだとか。

 俺は暇なので少し考え事をしていた。それが、きのうみんなに言われた結婚のことだ。

「田原はかわいいし、俺の手から離れて欲しくない…。いやこれじゃ、告白するかしないだからな。家庭的に考えると、まぁ弁当作ってくれたり、俺のためにセーター編んでくれたし。まぁ今着ているのだが…。嫁には…」

なんでボソボソ呟いているとほぼ真っ白になった全面にぼんやりと光りが揺れていた。

「うん?俺のこと呼んでるのか?」

運転室の窓を開けると

「先輩~!!」

そこには田原がいた。

「どうしたんだ~?」

「乗せて下さい~!!」

「えっ?」

「私これから大宮に戻るのですけど、乗務するはずの列車が運休になっちゃって回送に乗せてもらえと指令から~!!」

「わかった乗れ。」

 田原は俺の列車に乗った。

 それからしばらくして

「臨時回送列車発車してください。」

「了解。4番出発~!!」

汽笛ともに俺はマスコンをフルにし、列車は走り始めた。

 運転しながら、今、この状態で安全か?や、田原のことを考えながら走った。田原とは、何も言葉を交わさなかった。

 だが、すぐに非常事態が起きた。

「先輩あれ!!」

田原が前に指を指した。

「あれって!?」

そこには大きな雪の塊が。そして俺はブレーキを非常にまわした。

「止まれ~!!」

この時点で100㎞/h近くは出ていた。このままだと確実に雪の塊に突っ込んでしまう。俺は止まれと願うばかりだった。

「このままだと脱線します!!」

田原は俺に掴まりながら言った。だがもう…。

「遅かった!!田原!!」

俺は田原を抱き抱え衝撃に備えた。

 そして…

ガッシャーン!!

485系は雪の塊に突っ込んで脱線した。

 そして俺と田原は

「田原、大丈夫か?」

「大丈夫です。先輩、状況は?」

「多分、脱線とか言っても脱輪しただけだろ。」

「ならいいんですけど…。」

「とりあえず指令に連絡だな。」

 俺は指令にこのことを連絡した。

「救助に来るまで時間がかかると。」

「そうですか。」

「それまで待機。」

「わかりました。」

すると田原は少し震え

「寒いです。」

「悪いヒーター故障してな…。」

「大丈夫ですよ。」

すると田原は笑い

「先輩の体温頂き!!」

「田原!!」

俺は田原に抱きつかれた。

「先輩温かい~。」

「そうか。」

俺は田原の頭をなでて、抱きついた。

 静かに時間は流れてくる。だが俺の頭の中には「結婚」の2文字が頭に浮いてくる…。どうするべきなんだろう…?だけどこの状態でなんも言い出せない。

 すると田原が

「先輩、今後どうなるんでしょうね?」

「どうした?」

「いや、なんとなく気になっていて…。」

「確かにな。国鉄は民営化する。俺らは民営化後の新たな会社で運転士として活躍する。田原はどうする?」

ここで「俺の嫁になれ!!」とは言えないし…。

「まぁしばらくは運転士でいたいですけど。家庭を築きたいとも思いますね。」

「田原も結婚とかも考える?」

思わずこの言葉を出してしまった。

「考えていますけど、私はどうなっちゃんだろうな。」

「なら俺が…。」

だがその先の言葉は出なかった。

「この話はまた今度にしましょう。」

「とりあえず救助を待つか。」

「先輩、眠いです。」

「あぁそうか。っておい!!こんな寒いとこで寝たら…」

田原は大きなあくびをし

「大丈夫ですよ…。少しだけなら…。眠い…。」

「おい田原!!」

田原は目をつぶって眠ってしまった。

「田原!!ここで死ぬなよ!!頼むからやめてくれ!!」

俺は泣きそうになる。

「田原!!」

田原の幸せそうな寝顔は俺にとっては不安だった。

 だが、俺もそんなこと言っているうちに意識がなくなっていた。

 ありがとう国鉄。ありがとう田原…。


いやここで死ねるか!!民営化まで生きるぞ!!ってもう意識ねぇ…。


「先輩…。」

俺の耳にほのかに田原の声が聞こえた。

「田原…。」

「先輩!!」

俺が目を開けると田原が俺に飛び付いた。

「ここは?」

「スエ71(救援車)の中です。」

「救助が来ていたのか。」

「私も気がついたらここにいて。死んだように眠ってたと言っていましたよ…。もう本当に死んでいたら…。」

田原は泣き始めた。

「心配させてごめんな。大丈夫だよ。」

俺は田原を抱きしめた。

 これでわかった。田原にも俺が必要だと。俺は田原を嫁にとることに決意した。

 

 とうとう3月31日がやって来た。この日を以て国鉄は終わる。そして俺にとっても運命の日だ。

 夜11時、俺は国鉄職員として最後の運用を終え、運転所のメンバーで新たな会社「JR」を迎える準備をしていた。

 そして俺も

「頼むぞ!!」

俺はちょっとしたお願いをし、自分のロッカーから小さな箱を取り出した。この中には婚約指輪が入っている。俺は今日、まぁ厳密に言えば明日、田原にプロポーズをしようと思う。みんなの前で。まぁ運悪きゃ公開処刑だな。

 民営化まで1時間を切り、みんなで話していた。

「そういや、ここの新しい名前ってなんでしたけっ?」

田原が聞いた。

「ここの管轄のことだろ?今は日本国有鉄道東京北鉄道管理局だろ。」

「はい。」

「民営化するとJR東日本東京地域支社の管轄になるらしいよ。」

「JRか~。なんかわくわくする~。」

こっちは緊張する~!!

「民営化まで5分切ったぞ!!」

と、誰かが言った。

「俺はこれからも田原とJRといられるといいな。」

「私もです!!」

田原はにっこり笑った。時間はどんどん迫ってくる…。

「国鉄が終わる…。」

田原が呟いた。

「これまでいろんなことがあったな。」

「そうですね。これからもJRで楽しくいろんなことがあるといいですね。」

「そうだな。」

すると運転所のメンバーが

「10秒前!!」

そしてみんなでカウントを始めた。

「9、8、7、6、5…」

本当にこの国鉄でいろんなことがあった。たくさんの出来事が。でもその国鉄は7つに別れてしまう。なんかさみしい…。それでもJRがあるからさみしくはない!!

「…3、2、1…」

ピー。

運転所に時報が響く。

「JRが発足したぞ~!!」

「お~!!」

みんなで大騒ぎ。

 よし!!俺も!!勇気を出して!!

「あのさ、田原!!」

「先輩?どうしたんですか?」

「あの…その…」

言葉が出ない…。

「これから一生、俺といてくれないか?」

「それって…。」

俺は大きく息を吸い

「結婚してくれ!!」

勢いよく指輪を差し出した。

「本当ですか!?」

「もちろんだ!!」

「嬉しいですっ!!」

「うわっ!!」

田原は俺に抱きついた。

「本当に夢みたい。」

「本当だよ。」

田原は大泣き。

「それに民営化の夜にこんなこと言ってくれるなんて!!」

それを見ていた同僚は歓声と拍手をしながら。

「井上、今日なんの日か知ってるよな?」

「エープリルフールですよね?わかってます!!でも僕の言っていることは本当です!!それにそうなると民営化も嘘みたいですよ!!」

「そうだな!!」

みんなで大笑いした。

「先輩。いや、優馬さん。ありがとう。」

「よろしくな。花香。」

俺は田原じゃなくて、花香の頭をなでた。


ありがとう国鉄!!

そしてよろしくJR!!


幸せにするよ花香!!

※備考

485系の編成 上野→

6両TcMM'MM'Tsc←クロハ

7両TcTD←サハシMM'MM'Tc

8両TcMM'TsTDMM'Tc


M=モハT=付随車C=クハS=グリーン車D=食堂車


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