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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
90/90

守るべき存在、失われる世界

「射れ!」


 アルベールの一言に彼の因果創神器であるリード・アルーマの矢先から力が放出し、シンと邪神を飲み込んだ雷光の中を射抜く。


「やったか!?」


 シオンの言葉と共に光が薄らぎ、視界が鮮明になっていく。


「がはっ!」


 シンの大剣は邪神の肩から斜めに腹部まで切り裂き、リード・アルーマによって一点の穴が心臓部にあけられていた。だが、邪神に苦痛の表情は全く無く、それどころか口から吐血し苦悶の声を上げていたの

はシン方だった。


「無意味だと何度言えば分かるのです。全ての世界摂理は秩序によって管理され、私を守護している。そんな相手に貴方たち世界の内側に生きる者が倒せる道理はない」


 淡々と語る邪神はクルトの術式による束縛なんて無かったかのように、腕を動かしシンの腹に深々と刺さる腕を引き抜く。


「ぐあっ……聖な……る、乙女! 俺は……」

「消えなさい」


 瞬間にシンの身体は純白色の炎によって全身を包まれ、絶叫する暇も与えずに消滅していった。


「シン!」


 彼の最後まで諦めない表情はまるで後は託したと訴えているようで、アルベールは下唇を強く噛みしめる。


「ざっけんじゃねぇ! おいっ、クリスティア聞こえてんだろ! お前はこんなクソみてぇな野郎に世界が壊されてんだぞ、なに黙っておねんねしてやがるッ!!」


 シオンは声高に叫ぶが、邪神からは冷めた笑みが返ってくるだけだった。


「身体もだいぶ馴染んできました。そろそろ終わりにしましょう。私が浄化させる世界はまだほかにも多くあるのですから」

「あらら、つれないわねぇ。もう終わりにしちゃうの?」


 シオンの異空間を使いリリアンは邪神の上空に躍り出ては背後に舞い降り、地に転がる大鎌を手にし横薙ぎに一閃する。


「はぁ……」


 小さな溜息。


 どのような防御も無視する空間すらも断つ大鎌は邪神の身体を傷つけることなく、寸前の所で停滞していた。


「くっ」


 どれだけ力を込めようがびくともせず、これはまずいと判断し、距離を開けようとするが純白の炎が再び発せられリリアンの身体を包み込む。


 消えるその瞬間にリリアンは大鎌を振り回し、空間を切り開き愛用の大鎌をその中に投げ捨てる。


 これにどのような意味があったのかはアルベールには分からない。


「リリアン……そうか、よくやってくれた」


 クルトは散りゆく仲間に冥福を祈るかのような声で呟く。


「リリアン、テメェも勝手に逝ってんじゃねぇよ……」

「シオン?」


 力ないシオンをシラーは怪訝な視線を向ける。


「わりぃな、後は頼んだぞ!」

「おい、待てシオン早まるなっ!」


 クルトの静止も聞かず異空間に身体を滑り込ませ、リリアンどうように邪神の上空に飛び出すが、邪神はすでに上空に顔を向けていた。


「自暴自棄になったわけじゃねぇ、俺は俺の役割を果たすだけだ!」


 シオンの掌には異空間の塊があり、それを邪神の胸に突き立てる。


 神に触れる恐れ無き愚者の辿る結末は消滅。


 ヘルやリリアンのように燃え尽きるのではなく、その身体は跡形もなく爆ぜる。


「シオン、お前だけにカッコつけさせねーからな」


 シラーは残りカス程度の魔力を全身から掻き集め、雷を形成する。


「ぐぅっ!」


 魔力を酷使していたお陰で己の身体に負担が重なり、すでに限界を迎えていた。


「おらああああああああああああ!」


 身体の穴という穴から血が噴き出すが、それでも足を止める事なく駆け、邪神との距離を縮める。


「何も成せぬ力なき者たちは本当に救いようがありません」


 邪神は手を突き出し、純白の炎が放出され、そのタイミングに合わせてシラーも腕を突き出し雷を放出する。


 シラーは雷を放った直後に膝を折り倒れ、そのまま純白の炎がシラーを浄化する。彼が消滅してもなお雷は炎を避ける様に飛来し、シオンが残した邪神の胸元にある異空間に吸い込まれていった。


「仲間の攻撃が邪魔をしたおかげで命を捨てて放った攻撃も私には届かなかったみたいですね」


 残るアルベールとクルトの2人を嘲笑う。


「いや……それはお前の勘違いだよ邪神。アイツ等のした事に無駄なことなんてない」

「どういう事だクルト?」

「こういう事だ。アルベール全力でやれ!」


 クルトは駆けつつ常世言語による術式を使い、巨腕を展開し邪神に殴りかかる。


「舞え浄化の炎。楽園より創造されたこの槍に纏え」


 純白の炎が邪神の手にある槍に纏わりつき、それを横なぎに振るい巨腕を弾く。


「まだだ!」


 浄化の炎が巨腕を伝ってクルトに迫るので術式を解き、懐から彼女の因果創神器であるフュング・オブリリアを取り出し投擲する。


それぞれが、異なった力を有する5つの球はその全てが邪神に触れる。


 このフュング・オブリリアがどれくらいの効果を発揮してくれるかは分からない。ただ、わずかでもいい。アルベールに繋げられるくらいの効力さえ発揮してくれればと思い、静かに瞳を閉じ、浄化の炎が纏った槍がクルトの身体を切りつけ、意識がなくなる寸前の所でリリアンが切り開いた異空間に純白の炎がまとったまま落ちていった。


「あとは、貴方1人です」

「我は……」


 震える腕を押さえつけ、決死の覚悟で彼が持つ世界を銀に変える術式を展開するために祈りを捧げる。


「我が望むは地平線を満たす銀の世界。我が忌むは不浄の色。常世に存在する全を無謬の摂理にて管理すれば我が魂は返り咲くだろう━━━━リア エーベン ズィーストベルン(銀聖の女神の微笑み)」


 以前はクルトに対して使用し途中で止めたが、今回は純粋なるアルベール自身の魔力を使い、より高度な術式を展開した。


 上空に描かれた銀の魔方陣。それは複雑な模様で幾重にも重ねられたように構成されていた。


「これが、貴方の持てる最強の力ですか……確かにこれは世界の内側に収まる力ではない。ですが、楽園の秩序の前ではやはり見劣りする」


 邪神はその銀色に輝く巨大な魔法陣を見上げ、素直な感想を述べる。


 銀の魔法陣から銀色の光が地表に向かい降り注ぐ。これこそが世界を侵す銀聖の術式。

純白の世界は冷たい銀色に染まり広がっていく。


 もちろん、地面に映し出された世界も同様に勢いよく銀に染まり世界そのものが死に始めていた。


「私の浄化した世界を殺させはしません。この世界は新たなる秩序に返り咲くのですから」


 どのような攻撃も通じなかった邪神の足元は今や銀に変換され始めている。


「浄化による世界均衡を求める楽園よ、今その災厄の扉は開かれた━━━━リエ フォールデン ヴァイ(不浄を滅する楽園の意向)」


 大気が振動する。


 世界は鳴動する。


 不浄を嫌う純白の炎は猛り、膨大な質量となり変容していく。


「これは……」


 銀聖に抗う浄化の炎。


「まさか、秩序の力をここまで出させるとは正直驚きました。ですが、もう……うっ」


 急に胸を抑え苦痛の表情を浮かべる邪神にアルベールは何事かと身構える。


「アルベー……ル君」

「クリスティア!?」


 捻り出すような苦し気な声で邪神は……クリスティアはアルベールの名を呼ぶ。


「早くッ……私が、抑えられるのも……長くないからッ!」

「クリスティア……我は」

「迷わないで……大丈夫……だから」


 クリスティアは笑っていた。それがアルベールには辛く顔を背けたくなるが、それをする事はなく愛すべき少女へと真っすぐに視線を合わせて頷く。


「……いま助ける」

「……うん!」


 アルベールはふっと笑い、自身の存在そのものを魔力に変換して術式を更なる純度に飛躍させる。


「ああ……」


 アルベールの身体は銀の粒子へと崩れ出し、その全てが上空に展開されている魔法陣に注がれていく。


 悔いなどなかった。愛する少女の為に彼は命を燃やし尽くし、至高の輝きを見せていた。


 だが……。


「認めない認めない認めない認めない認めないッ! 茶番は終わりです。秩序に従え阻害因ッ!!」」


 邪神は無理やりにクリスティアを押さえつけ、火力を増した浄化の炎をもってアルベールを燃やし尽くそうとその身を飲み込む。


「クリスティア……1人にはしない。我が隣にいる」


 彼の影法師という異名を成立させていた呪いであり、霊体という究極の防御すらも浄化の炎は燃やす。


 その中でさえアルベールは右手をクリスティアに向け銀で形成した刺突剣をシオンの残した異空間に向けて放った。


「この穴も邪魔です!」


 刺突剣が飲まれた直後にシオンの異空間を邪神は消滅させる。


「これで、よいのだな」


 アルベールは満足したかのように笑い、浄化の炎によって完全に消滅していった。


「目障りな色ですね」


 使用者が消滅した今、銀の術式も安定性を失い徐々に威力を弱め霧散した。


「ふふふ、さぁ、世界を侵す物語が始まります」


 邪神は無限のように別れる世界を1つ1つと浄化しに光の中へと消える。


こんばんは上月です(*'ω'*)ノ

これで、『守るべき存在、失われる世界』は完結となります。

ですが、これはあくまで始まりの物語。続編は9月9日の金曜日の夜に投稿しますので、そちらもよろしくお願いします(*'▽')

続編のタイトルは『受け継がれる意志、守るべき日常』です!

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