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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
88/90

消えていく仲間たち、邪神の愉悦

 未だに邪神の中では人間であるクリスティアの気配をわずかに感じる事が出来る。だが、それも時間の問題だった。


 刻一刻とその気配は薄らぎ、邪神に溶け始めていく。その時間制限は皆に余計な焦りを生じさせてしまう。


「早くしないとクリスティアちゃんが居なくなっちゃう! 古より宇宙を支配せし太古の邪龍よ、地上を焦土に化す祝福を与えよ━━━━ジャルエール ベイリッド(邪竜の祝福)」


 エリーザは焦りに駆られ、その身を漆黒の鱗に覆われた邪竜へと変え、単騎で邪神に立ち向かっていく。


「馬鹿エリーザ! 仕方ねぇな。万象を薙ぎ払う千万の雷よ、その罪人すら浄化する煌きを発せよ━━━━バルトゥイン ライズィル(雷による断罪)」


 シラーはエリーザに続き、地を掛け、クリスティアの側面に立ち、腕を突き出し魔法陣を展開させ、膨大な量の雷撃を放つ。


 クリスティアは一瞥だけくれるだけで、左手をシラーに、右手をエリーザに向ける。


「無意味……」


 一言つぶやくだけで、その手からが純白の矢が放たれる。


「なにっ!?」

「ッ!!」


 その白い矢は雷を消滅させ、そのまま勢いを衰えさせることなく、白い残影を引きながらシラーに向かい、もう一方は漆黒の厚い鱗を難なく抉り、その身を引き裂く。


 邪竜は鮮血を純白の世界にまき散らしながら地に墜落し、変身が解け腹部からとめどなく血が溢れて出ていた。


「エリィィィイザァァァァァア!!」


 その愛しき者の無残な姿にアズデイルは発狂する。


「道を誤りし愚者には光の届かぬ冷酷の回廊を、我は回廊の番人にして王である———ルーフ エルデン!(永遠の楽園)」 


 残ったもう片方の矢はシラーの胸を射抜く寸前にシオンの術式が展開し、シラーを飲み込み、矢はそのまま深々と地面に突き刺さる。


「チッ、あまり勝手な行動してんじゃねぇよ」


 皆の場所にて異空間を開き、飲み込まれたシラーが姿を現す。


「悪い、助かったぜ。それよりエリーザが……」


 クリスティアと皆の中間地点で伏せるエリーザにアズデイルは転びそうになりながらも駆け寄り、傷口を凍らせては止血させる。


 邪神の瞳がエリーザとアズデイルを捉える。


「秩序と楽園の意思により完全なる消滅を」


 クリスティアの手には先ほどの矢と同じように純白の槍が握られ、それを2人めがけ投擲する。


「駆けろ銀狼!」


「クソがッ、間に合わねぇ!」


 銀色の狼は光の速度で宙を駆け、シオンもまたシラーを助けた時と同じように異空間を展開しようとするが、その両方は直線的に飛来する槍に間に合わない。


「……?」


 死を覚悟したアズデイルはエリーザの身を強く抱き、恐怖に瞳をつむるが、槍が己の身体を貫く感覚がないことに目を開くとそこには巨大な身体が立ち塞がっていた。


「ヘルっ!?」

「俺、仲間……大切だから、守……る」


 ヘルの身体には槍が貫通していた。


「ああ……なんてことを!」

「いい、んだ……俺は」

「魂の円環も許さぬ虚無に消えなさい」


 ヘルの言葉を遮るように冷たく抑揚のない声が言い放つと、ヘルの身体は白い炎に包まれ、瞬きをする暇もなくその巨躯は消滅した……。


「秩序の邪神。あの力はいったいなんなんだ!」


 シンは目の前で起きた現実にお固唾を飲み込む。


 序列第4位の魔王がこうもあっさりと倒され、彼の死に悲しみという気持ちを無理やりにでも抑える。

そして、いまだに本気を出していない邪神は薄く笑っていた。


「ヘル……エリーザ、私も直ぐに……温もりなき氷結の世界、命の祝福を認めぬ無常の理━━━━ライフ ホリゾント(霜の地平線)」


 彼を中心に絶対零度の凍てつく世界が広がっていく。それは腕の中で生命が尽きかけている少女も包み、邪神の全体を冷気が撫で凍てつかせる。


「いくら、邪神といえど一瞬でその命を凍てつかせる冷気は堪えるでしょう? クリスティアさん……もうしわけありません」


 彼は最期に小さく謝罪の言葉を述べ、ゆっくりと皆に振り返る。


「エリーザやヘルの墓を……ごふっ」

「生ぬるい冷気、所詮はこの程度。おとなしく貴方も虚無に還るといい」


 アズデイルの左胸からはヘルを貫いた槍が生え赤く血が滴り、捻りながら引き抜く。


「がはっ……ごほっ、ごほっ」


 口から血を吐き出し、その場に崩れ落ちる。


「エリーザ……愛してい」


 止めの一撃がアズデイルの胸に突き立てられ、それ以上動くことも言葉を発することもなく絶命する。


「クリスティア、もうやめるのだ! 貴女は……お前はそんな事したくないはずだ!」


 アルベールが悲し気に叫ぶ。


「……」


 返答はない。


 それでも、邪神の中にいるクリスティアは応えてくれた。それをこの場にいる全員が知覚する。

もう止めて、お願いと泣き叫ぶクリスティアの強い意思が流れ込んでくるのが分かった。


「この器は私に抗おうとしているのですね、無駄な悪あがきにすらなりません」


 邪神は己の胸に手を当て、必死に抵抗の意思を見せるクリスティアを感じ取る。


「無駄なんかじゃないぜ秩序の邪神。聖なる乙女が頑張ってるなら、俺達も諦める気はないぜっ!」


 シンは己の力に意思を集中させる。


 相手の攻撃を遥かに上回る一撃を繰り出す為に。


「そうだな……この人間の言う通りだ。シンとか言ったな、わりぃな今までお前の名前覚えてなかったわ」


 シオンもシンの言葉に同調し再度術式を展開する。


「あらあら、お姉さんもたま~には頑張っちゃおうかなぁ」


 女神の大鎌を構え、背筋の凍るような殺気を邪神に叩き込む。


「小さな阻害因子。世界の枠組みの内側に生まれたお前たちに私を倒すことなど不可能」

「ハッ、秩序だか何だか知らねーけどあまり舐めんじゃねぇ!」


 全身を雷が迸り、いつでも膨大な雷撃を放てるシラーは吠える。


「そういう事だ邪神クリスティア。おとなしくクリスティアを解放して消え去る事をお勧めするよ」


 クルトも開かれた黄金色の双眸は邪神を見据える。この瞳ははたして未来を視ているのだろうか。この戦いにおいて敗北するかもしれないという不安さはみじんも感じられない。その心強い仲間たちにアルベールはふっと笑う。


「よいか邪神。我は……我らは一丸となり貴公を討滅する。その前に我が愛しき女性を返してもらおうか」

「秩序は貴方たちもこの世界すらも認めてはいない。守るというのなら私を倒せばいい。まぁ、無駄でしょうけど。私もそろそろ飽いてきました。少しだけ本気を出させてもらいます」

「チッ、今まで本気じゃなかったってのかよ」


 シオンは知っていた。邪神と一度戦い、術式を封じられたことを。


 あれでもきっと本気ではなかった。あの時の邪神はぼんやりとしていて、まるで微睡んでいるような状態だった。


「来るぞ、気を付けろ!」


 クルトが危機を感じ、皆に注意を呼びかける。


「私は認めない、暴挙が蔓延した世界と意思を。徹底なる管理と秩序を持ち不浄なる世界へと築き上げましょう。その為に私は望まれ産み落とされた━━━━ホリエンジェ ロア カリオン(秩序の意思によるゼロの世界)」


 純白の世界は変容する。


「地面に何かが映し出されてるぜ」


 まるで厚い雲が晴れるかのように、地面に何かが映し出される。


 それは……。


「我らの住む世界……だと」


 上空から見た東大陸だった。


「私の術式は秩序の下に執行されます」


 世界の上空に巨大な複雑に幾重にも重ねられた魔法陣が連動し、共鳴して発動する。


 その光景に残った者達は驚愕に言葉を失う。


「今、この時をもって貴方たちの世界は消滅しました」


 いったい、何が起きたのだというのか。


 魔法陣が完成したところで一瞬だけ目を塞ぎたくなるような眩い閃光の後にお世界は廃墟と化していた。


 東大陸だけではない。この世界そのものが消滅してしまった。


「嘘だ……ふざけんじゃねぇぞ! こんなのはたんなる幻術だ。俺は認めねぇ、世界全てが崩壊したなんて俺は……認めねぇぞ!!」


 シオンは怒気を孕み早口に叫ぶ。


 それは皆も同じだったが、言葉にはしなかった。


「信じたくなければ信じなければいい。ただ、貴方たちの物語もまもなく終焉を迎えるのだから」


 邪神は初めて感情を見せた。


 愉悦……。


こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ

本来ならあと1話なのですが、後1話で終わる気がしません!

すいませんが後2話~3話くらいになるかもしれません……

終わる終わる詐欺ですねwww

でも大丈夫です。本当にもうすぐで終わりますから。そして次なる世界へ。

今回は少し長めのお話しとなりましたが、次回も少し長くなるとおもいますので、次の投稿日は9月2日の夜となります。


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