邪神に対峙する無限回廊の王
背後を振り返ったシオンの目の前には、一切の感情をも宿さぬ瞳をしたクリスティアが立っていた。
「クリスティアか?」
「……」
問いかけには答えず、その冷たい瞳でシオンをじっと見つめる。
「テメェが邪神かっ!」
「ふふ」
クリスティアと同じ容姿を持つ少女は不気味に笑う。
「もう少しで、世界の不浄を払い在るべき姿へ返る」
「不浄だと?」
「生命なんて必要ない。ただ秩序の下に世界は栄えればいいの」
成り立たぬ会話に、シオンは大きく舌打ちしては、魔力を放出し威嚇する。
「あの女と同じ顔して、意味わからねぇ事言ってんじゃねぇぞ!」
圧倒的嫌悪感がシオンの全身と魂を侵し、それから逃れる様に殺意を振りまく。
「道を誤りし愚者には光の届かぬ冷酷の回廊を、我は回廊の番人にして王である———ルーフ エルデン!(永遠の楽園)」
シオンの術式は純白世界に放たれる。
至る箇所に空間の歪みが生まれ、いつでも、何処からでも、その身を無限に終わることのない異空間へと引きずり込む準備が整い、空間の歪みは邪神の首・両肩・胴・両足へと発生し、切断しようとその歪みの範囲を狭める。
「この世界は俺達のモノだ。部外者が勝手にどうこうしようなんてしてんじゃねぇぞッ!」
「弱い力には生きる価値もない」
邪神は腕を緩やかに振ると、その身を切り落とそうと狭まる歪みは消失する。
「馬鹿なッ! なら、この世界ごと無限回廊に落としてやろうかぁ」
シオンが無限回廊の術式の規模を広めようと干渉するが、そこで異変に気付く。
「なんで……出ねぇんだ?」
何度も術式を展開しようと試みるも、何の変化も現れない。
「不浄は近いうちに滅び去る」
その言葉を最期にシオンの意識は微睡に揺られ暗転する。
「ここは……」
目を覚ましたシオンは見慣れた瓦礫の散らばる床に伏せていた。
「あれは現実……なのか?」
身体が重く、起き上がろうとすれば立ち眩みが全身を襲う。
気力を振り絞り、なんとか柱を背に座り込み深い溜息を吐き、天井を見上げる。
夢なのか現実なのか分からないが先程の出来事を思い返していた。
「なんで術式が使えなかったんだ?」
思い出したかのように、シオンは怠さを我慢し詠唱を謳い本当に術式が使えないか試した。
魔力はシオンの身体を流れ、目の前には空間が揺らがす歪みが生まれた。
「使えるな」
邪神を相手に圧倒的敗北。
抗えぬ力の前に敗れたのはこれで2度目だった。
「パラノイアとかいう胸糞悪ぃ奴に続いて、邪神にも俺が負かされるなんてな」
瓦礫に腰を落ち着かせ、項垂れては乾いた笑いしか込み上げてこなかった。
自分たちがどんな存在に立ち向かおうとしていたのかを思い知らされる。
「ホントに勝てんのかよ」
普段の彼を知る者が見れば、異常なほどの弱腰だった。
「らしくないじゃないか、シオン」
突如頭上からの声に顔を上げると、黄金色の双眸を侵しそうに細めるクルトが見下ろしていた。
「気配消して現れてんじゃねぇよ! 驚くじゃねぇか」
「ああ、悪い悪い。なんかお前にしては珍しく消沈していたから、どうしたのかなと様子を見ていたんだよ」
「……なぁ」
「うん?」
「邪神ってなんで、あんなに強ぇんだ?」
「シオン……?」
先ほどまでの楽しそうな色は何処へ、今のクルトの瞳からはその言葉の意味を探る意思が窺えた。
「気持ち悪ぃ真っ白な世界で、あの女と瓜二つの奴が世界を浄化するとかなんとか言ってやがったから黙らせようとしたら、逆に返り討ちだぜ。ははっ、冗談じゃねぇ! 手を抜かれてあの実力とかふざけてんだろ。ありゃ格が違うとかそんな生易しいモンじゃねぇ! 規格外だ」
「邪神はどんな力を使っていたんだ?」
戦ったのであれば、邪神の手がかりが掴めるかもしれないという期待を持つが、すぐにそれを打ち崩すようにシオンは首を振るう。
「力は分からねぇ。だが、俺の術式が発動しなくなった」
「発動しなくなった?」
「ああ、理由は知らねぇけど。途中から術式が使えなくなったんだ。そして、奴は俺を殺すことなく意識を奪って、気づいたらこの瓦礫まみれの場所に帰ってきたってわけだ」
「それだけ聞ければ十分だ。それより、何か見つけたか?」
邪神については一度置いておいて、今は僅かの情報でも喉から手が出る程欲しかった。
「あ~、なんか柱に変な絵が光ってたな」
「絵が光ってる?」
言うより見た方が早いと、シオンはふらつく身体をクルトに支えられながらその場所へ歩き出す。
こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ
次回は一度アルベールでの視点に戻ります。
次の投稿は8月25日の木曜日ですので、よろしくお願いします^^




