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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
8/90

結ばれし3国同盟

 フィール連合国との会合までの時間をステラと共に過ごし、気晴らしに2人で城下に買い物に出ていた。


 街を行き交う人々の笑顔に同じ様に笑顔で返し、目当ての店に向かって歩いていた。

 何処にでもありそうな書店に辿り着き、店内は紙の匂いで満たされ読書家達に安らぎを与えてくれる。

 店主の老人がはたきを持って本に覆い被さる埃を払っていて、2人の女性客に気付くと笑顔で迎えてくれた。


「クリスティア様、あまり時間もありませんので急がなくてはなりません」

「うん」


 色褪せた本、少々破れが目立つ本と新品を取り扱う店ではなく、色んな人に読まれ、また次の人の手に渡る橋渡しの役目を担うのがこの古本屋であった。


 値段も状態によって安くなっており、普段お目にかかれない珍しい本が置いてあったりすることもある。


 こうしてたまにステラと新たな発見を求めて、この古本屋に足を運ぶことがある。


 そうこうして店内を回っていると1人の男性客が本を食い入るように読んでいた。


「……?」


 男性客というのは別に珍しくもないのだが、彼の出で立ちはどこかの正装のような衣装に身を包み、そして何より気になったのが、腰に差している一本の剣。

白い鞘に白い柄。そして柄から鍔にかけて植物が巻き付いた装飾の珍しい剣だったので思わず視線を注いいでいると、その男性は本を棚に戻し、懐から懐中時計を取り出す。


「もうこんな時間ですか」


 懐中時計を懐にしまいこんで、振り返ると視線が合った。


「あれれ?」

「うん?」


 気の抜けた青年の声にクリスティアは首を傾げてしまう。


 青年の方も目を瞬かせている。なにやら気になる事があるようで、クリスティアは取り敢えず声をかけてみることにした。


「あの、その剣装飾がとても珍しいですね」

「えっ!? あぁ、これですか。これは裁きの天星エムリ・クィルツァといって神剣の一種だそうです」

「神剣?」


 確かに御伽噺などではそういった力ある剣などが出てくるものだが、実際にそういったモノを目にしたことがないので正直本物かどうか疑わしかった。


「ははは、その目は疑っておいでですね。次期聖女クリスティア・ロート・アルケティア様」

「はい」


 もう服装で自身の正体はバレることはわかっているので、もう驚きはしない。


「そうでした。まだ名乗っておりませんでしたね。僕はフィール連合国外交担当を勤めさせていただいている、ロイ・ホルンと申します」


 ロイは深々と頭を下げる。


 明るい茶髪を持つ青年の礼儀正しい対応にクリスティアは一瞬遅れを取る。


「あっ……ご丁寧にありがとうございます。私はロイさんの申し上げたとおり、クリスティア・ロート・アルケティアと申します。此度は遠い所からのご足労、我が父ヘブリドに代わり感謝致します」


 互の自己紹介が終わった所で、ステラがタイミングを見計らったように現れる。


「フィール連合国外交担当ロイ・ホルン殿お初にお目にかかります。私は中央教会四十字騎士団隊長を務めてさせていただいているステラ・アイリスといいます」


 書店を出て、3人はヴァレンリーア城に向かう。


「ロイ殿、その剣先ほど聖剣だというのをお聞きしましたが、それはまさか因果創神器ではありませんか?」

「ステラさんの言う通り、これは因果創神器の1つです。本来私のような身分の者が持てるものではないのですが、我が王よりこれまでの働きの報酬として授かったものなんです」


 とても手入れの行き届いた剣に目を奪われるステラ。


「この剣の輝きからとても大切に扱っておいでなのですね。ですが、柄の部分に葉と蔦が巻き付いた装飾は少々扱いづらいのではないですか?」


 確かにこれでは握りにくく、うまく扱うのは至難だろう。素人のクリスティアにもそう思えた。


「実はそんな事ないんですよ。握ると自然と手に吸い付く感じがして、扱い辛さは特に感じさせませんね」


 2人の話しに耳を傾けているのだが、武人ではないクリスティアにとって中々理解しづらいもので、その後も2人は意気投合したかのように話しは盛り上がっていった。


 城の会議室にロイを招き入れると、既に国の重鎮達が揃っていて、その中に父ヘブリド、母マリーナの姿もあるが、今回の会合を進めるのはあくまでクリスティアなので2人は情勢を共有するために、そして娘の力量を見定める為に存在していた。


 中央のテーブルには東大陸の地図が広げられており、各国の支配領域、だいたいの保有軍事力が書かれた紙が1人1人の手に渡される。


「では皆さん、手元の資料をに目を落としてください」


 資料の一番上には今回の問題となるヴァナトリアの最近の動きなどが書かれていた。


「我々フィールもヴァナトリアには再三の警告をしてきましたが、その蛮行を抑止する事が叶わず、つい先日また小国が1つ大陸から姿を消しました。このままでは東大陸はヴァナトリア帝国によって滅ぼされてしまいます」


 先ほどの気の抜けた声を出していたり、ステラやクリスティアと会話をしていた時のような表情ではなく、一国の代表としての顔つきであった。これは、クリスティアも参考にさせてもらおうとロイの行動1つ1つを見逃さないよう注視し耳を傾ける。


 重鎮達も苦い表情を浮かべ低く唸る。もちろんヘブリドやマリーナも例外ではなかった。


 中央教会にとっても決して無関係では無いのだ。東大陸の中央部に位置するということは、ヴァナトリアが大陸侵攻をする際に、早い段階でぶつかるということになる。


 この国は中立を決め込んでいるので、正式な同盟国は無い。だが、東の海を超えた島国である真日帝国とは友好関係にあった。真日帝国の皇帝である上月雅は神の生まれ変わりと民に崇められ、彼女も自身の権威に甘えることなく民の心の声を漏らさず聞いては早期の対応に国を発展させた。初めて会った時から2人は気が合い今でもよく文通などを交わしている。


「より一層、ヴァナトリアに対抗するべく、我々フィールは中央教会との同盟を結びたいと我が王は仰せられています」


 同盟という言葉に周囲からはどよめきの声が上がる。


 今までが中立国家としていた為、表立っての戦争は避けられていたが、同盟を結ぶ事によって中立という壁は崩れ去ってしまうのだ。


「聖王陛下いかがなさいますか?」

「そうだな、クリスティアお前が決めなさい。いずれこの国はお前が導かねばならない。その練習もかねてだ」


 大臣はヘブリドに意見を求めるが、それに答えずクリスティアに一任してしまう。


「ですが、お父様。私なんかがこのような 重大な事を決められ……」

「決めねばならないのだ。別に他人に意見を聞くなとは言わない。意見を聞いたうえでお前が答えを出してやらなければならないのだ。国を背負うというのはそういう事だ」


 父の言葉に手が足が震えてしまう。


 自身の決断により多くの命が失われるかもしれない。そう考えるだけでその重圧に押しつぶされそうになる。


「ふふ、クリスティア。貴女がそのように不安がっていては配下のものにも伝播してしまいますのよ」


 母の言葉を受け皆に視線を向けると、どうしていいか分からずに、ただうんうんと唸っては頭を抱えていた。


 皆にこのような姿を見せていたら不安がらせてしまうのも当然で、なんとかクリスティアは自身を奮い立たせては、ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「リベア大臣、もしこの場で同盟を結ばなかった場合と、結んだ場合のメリットとデメリットを教えてください」


 フィールの使者がいる中で同盟を結んだ際のメリットとデメリットを聞くクリスティアにマリーナとヘブリドは可笑しそうに笑う。


 名指しで呼ばれた背の低い老人も今しがたクリスティアがしたように自身を落ち着かせるよう大きく深呼吸をし、乾ききった口内を手元の水で潤わせる。


「はっ……ハイ! ではまず結んだ場合から、まず大きなメリットとしてはヴァナトリア帝国への抑止力をかけることができます。それだけではなく、両国に足りない物資を供給することにより民の生活に潤いを与えることができます」


 リベアは一度呼吸を整える。


「次にデメリットですが、これまで中立国を貫いてきた中央教会は、同盟を結ぶことにより他国へ肩入れされたと思われる可能性が出てきます。その場合ですが、魔術国家ロンベルト、邪教崇拝国家クロノーウェルが敵に回る可能性があります。2カ国とも五大強国に名を連ねる国であるので軍事力も多く……その、いざという時にフィールの援軍がなければいくら中央協会といえども責め滅ぼされる可能性は高いかと……」 

 後半になるにつれ声がだんだんと小さくなっていったが、だいたいは予想通りの結末を迎えることになる。


「安心してください、フィールは同盟国を見捨てることは絶対にありません」


 ロイの掛け声にもやはり不安は残るらしく、その視線はクリスティアに向けられていた。

だが、クリスティアの中では既に答えは出ているらしく、その瞳に迷いはない。


「私たち中央教会はフィール連合国の同盟申し入れを受けることにします」

「クリスティア様、本当によろしいのですね? 後戻りはできなくなるのですよ」


 大臣の言葉に大きく頷く。


「わかっています。ですが、このまま同盟を結ばず後ろ盾が無い中央教会だけではヴァナトリアの脅威を払うことなどできはしません。私は父が他宗教の容認によって宗教戦争を無くしたいという思いと同じで、人間同士が手を結ぶことにより無駄な戦争を減らせるものと考えました。それが、私の選んだ答えです」


 ようやく配下の者たちも納得したらしく、クリスティアに片膝を着き頭を垂れる。


 皆がこの場を持ってクリスティアという存在を聖王の娘から我々を統率する王として考え方を改めた瞬間であった。


 その様子を眺めるヘブリドとマリーナも満足げに頷く。


「それと、もう1ついいでしょうか?」


 クリスティアの言葉に一同顔を上げる。


「フィールとの同盟と同時に私は真日帝国とも同盟を結びたいと思っているのですが……」


 皆は頼りなさげに小さな声で言う聖女にクスリと笑みが溢れる。


「クリスティア様が同盟を結びたい言われるのでしたら、私は至急真日帝国に面会の予定を取りつけてみせましょう」


 大臣の1人が胸に手を当て深々と頭を下げる。


「では至急お願いします」


 そして、ロイに向き直りクリスティアは深いお辞儀をする。


「ロイさん、同盟の件よろしくお願いいたしますとフィールの王にお伝えください」

「かしこまりました。我が国と同盟関係を結んでいただいたこと本当に感謝いたします」


 残りは周辺国の情勢などについて確認をし3時間に及ぶ会合は幕を閉じ、至急にでも会合の結果を王に報告するべく帰国しようとするロイには中央教会から馬車と護衛数名を付けフィールまで送り出した。

 

 この同盟は瞬く間に東大陸全土に渡る。

 それだけではない。この5大強国であるフィール連合国と中央協会の二か国が手を結ぶことにより近隣諸国もざわめきだす。


 それから間もなく中央教会、フィール連合国に加えて海の向こうに存在する神々の眠る国、真日帝国も同盟に加わり、理由なき戦争の廃止を提唱した。

 それに、力なき小国からも賛成の声を高らかに叫びあがる。

誤字脱字がちょくちょく見受けられたので近いうちに修正していこうと思います。

次回は魔王に視点を置いた話しとなっておりますので、よろしくお願いします

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