ヴァナトリア帝国領に潜む化け物について
ヴァナトリア帝国城下は昔とはうって変わり明るくなった。
皇帝ネクロの誠意に民や兵が応え、臣民一体となり復興や産業発展に力を入れていた。
「へぇ~あの皇帝、だいぶよくやってんじゃん!」
「コラ! グレイ、相手は一国を統べる王なんですから口には気を付けなさい」
「へいへい、んでヘルとリリアンお前たちはどうするんだ。俺とステラはナコトの見舞いとネクロ皇帝に詳しい話しを聞きに行くけど」
グレイとステラは背後に歩く巨大な甲冑と眠たげに微笑んでいる女性に振り返る。
「う~ん、私はそうねぇ、この街もやることなさそうだし一緒に行くわぁ」
「俺……は、待ってる……」
ヘルはそう言うと、1人人ごみに紛れどこかに消えてしまった。
「街中をあんなでかい鎧が歩いてたら浮くよな」
「まぁ、浮いてはいますけど、自ら人に危害を加えるような性格ではないですし大丈夫でしょう」
「あらら~ステラちゃん。それは私に対する当てつけと取っていいのかしらぁ?」
「いえ、別に私はリリアンにたいして言ったわけでは……」
相変わらずにこやかな表情を崩さないリリアンだが、それが逆に怖く言葉が詰まりあたふたとしてしまっていた。
その様子をからかうかのように笑うリリアンと、彼女だけは敵に回さない方が良いなと肝に銘じたグレイの3人は冗談を交えながらも皇帝ネクロの待つ城へと向かう。
城の門番に要請に応じて馳せ参じたことを伝えると、血相を変えて城の中にはしいて行き、少しすると息を切らせて戻ってきた。
「お、おま……お待たせいたしましたっ! では、此方になります」
門番に案内されるがままに迷路のような城内を通される。
「以前、来たときは本当迷子になるかと思ったよな」
グレイが周囲を見渡しながら呟く。
「なかなかに面白い造りをしているわよねぇ、お姉さんも初めて見たときは感心しちゃったわ」
先程から人間であるグレイ達にリリアンはよく言葉を交わしてはいるが、彼女の奥深い心が見えない。それが妙な距離感とでも言うのか、底知れない何かを感じていた。
この迷宮のような造りをしているかというと、かつてまだヴァナトリアが小国だった頃、敵に攻め込まれた時に時間を稼げるようにと造られたものだった。
その複雑な城内を使用人や兵士はなんの迷いも見せずに歩いていく。
「俺は絶対この城の道を覚えられる自信がないね」
「そうね、グレイではまず無理でしょう」
「そうよねぇ、いかにも頭悪そうだしね」
自分から振っといてアレだが、グレイの心は女性陣によって打ち砕かれそうになっていて、こんなこと言わなければ良かったと内心で後悔していた。
「こちらが皇帝陛下の執務室となります」
門番の男は小さく咳払いをして、扉をノックすると中からネクロが返事をする。
「中央協会より要請を受けてくれた方々をお連れしました」
そう言うと扉を開き、どうぞとお辞儀をする。
「お久しぶりですネクロ皇帝。今回の件について詳しくお話しをお伺いしたいのですが」
「ああ、久しぶりだな。4十字騎士団のステラ君とグレイ君。そして、第5魔王リリアン・ストリオス君。そうだな……詳しい話し、とは言ってもあの森から帰ってきたのは娘のナコトだけだからな。あの娘の証言は既に手紙に書いた通りなのだが、例の森に潜む怪物の噂が立ち始めたのは先月くらいだ。どのようなルートを辿ってあんな辺境の地の噂がこの首都の流れ込んだのかは分からぬが、総勢150を超える部下を失ってしまったのは俺の失態だ」
己の指示に従い散っていった部下に悲しげな表所を浮かべていた。
ステラとグレイもその少なくない人数に驚きと焦りが生まれた。
ヴァナトリア帝国の兵士は弱くはない。むしろ1人1人が今までの体制もあり、日々訓練に身を捧げていた屈強の強者だった。それは、以前の戦争でその実力を十分に目の当たりにした。そして、単騎で敵軍の中心部に攻め入ってきた異常な力を有するナコトもまた東大陸でみれば最強の部類に入る実力を持っている。そんな彼等を子供の腕を捻るかのような圧倒的な力を持つ森に潜む化け物とはどれほどのものなのだろうかと、不安が重くのしかかる。
「ふふふ、その化け物を狩り取るその瞬間が楽しみだわぁ」
リリアンはリリアンでこの状況を楽しんでいるようで、そんな彼女が敵ではなく味方でいてくれた事に心強さを感じた。
「リリアン、気をつけろよ。いくら魔王であるお前でも……!?」
「魔王であるお前でも、何かしら?」
リリアンはいつどのタイミングで出したのかその手には彼女の愛用する因果創神器である女神の大鎌が握られていて、その三日月のような鋭利な刃はネクロの首筋に触れていた。
「ちょっと、リリアン辞めてください、相手は一国の」
「皇帝でしょ~、それが何か問題でもあるのかなぁ?」
リリアンの冷たい視線を受けるネクロは緊張で生唾を飲み込み、額からは嫌な汗が浮かびただ固まる事しか出来ないでいた。
以前の暴君として君臨していた頃だったら、この状況を回避できただろうか。今のネクロはかつての強大な力を持たない普通の人間。このまま刃が引かれれば瞬く間に絶命するだろう。そして、唯一魔王に対抗できる力を持つナコトも今は意識不明の重症で、彼女がその気になれば、きっとこの国は長い時間をかけることなく崩壊するだろう。
「ふふ、冗談よ。そんな怖がらないでいいのよ~」
女神の大鎌を次元の隙間にしまい、いつものように掴み所のない笑顔を向ける。
「そ、そうか。いや、こちらも失言だったな。謝罪しよう」
ネクロは机の引き出しからヴァナトリア領について細かく書かれた地図を広げる。
こんばんは、上月です(*'ω'*)ノ
次回から例の化け物が潜んでいるという森に立ち入る話しとなります。
次の投稿日は8月13日の土曜となりますので、まてよろしければ読んでください




