揺らぐ絶対予言の魔王
突如現れたドラゴンは今では周囲の家々と共に銀の彫像と化していた。この光景を目にした人々は、街での目撃情報もあり銀聖の影法師の異名を持つ第3魔王アルベールの業だと歓喜していた。
その頃、アルベールは街の中心部に流れる水路の近くにあるベンチで腰を下ろし休んでいるクリスティアとその直ぐ傍でお姫様を守る騎士のように凛々しく待機している銀狼の姿を見つけ、ゆっくりと歩み寄る。
「ここに居たのだな。具合のほうは大丈夫なのか、クリスティアよ」
「え……あ、うん」
いまだに快調とは言えぬようで、顔をあげアルベールと視線を交わらせると疲れたような色がその瞳に滲んでいた。
アルベールは不調の彼女をすぐにでも休ませてあげたかったが、今すぐにでも聞かねばならぬ事があるので致し方なく、問いかける。
「不調で辛いのは承知ですまぬが、1つだけ答えてもらえないか?」
「……うん、大丈夫だよ」
「我がドラゴンに対し術式を使った際に、それを阻むように我とドラゴンの間に躍り出たのを覚えてはいるか?」
「わからない……アルベール君が倉庫の正面に向かって……そこら辺から、記憶が……っ!」
頭を強く手で押さえるクリスティアをアルベールは尋常じゃないと判断し、銀狼に礼を述べて消滅させる。
アルベールは急ぎクリスティアを抱いては背に銀の両翼を生やし、大空高く飛翔する。
「早くクルトに診せねば」
今の彼女を医者に診せても大した成果を見出す事は出来ないだろうと判断し、常世の事情にも多少通ずるクルトの方が良いだろうと思い、自身の胸元で辛そうに吐息を漏らすクリスティアを心配しつつも、中央協会へと向かう。
アルベールが中央協会に着いたのは夕方前くらいだった。
ヴァレンリーア城のテラスに舞い降り、扉を突き破るかのように勢いよく開け放ち、クリスティの執務室へと足は屋に歩を進める。
「入るぞ!」
アルベールは執務室の扉も肩でぶつかり開け、その部屋の中央奥に置かれた立派な机の上に積まれた資料に目を通しているクリスティアが驚いたかのように顔を上げ目をぱちくりとさせていた。
「びっくりしたじゃないか。部屋に入るときはノックくらいしたらどうなんだい。お前らしくも……どうしたんだ?」
アルベールに抱えられ苦し気味で浅い呼吸を繰り返す本物のクリスティアを目にした瞬間に態度を一変させる。
「話しは後だ! 急ぎクリスティアを診てほしい」
「わかった。じゃあまずは、そのソファに寝かせてくれるかな」
言われるままにクリスティアをソファに横たわらせ、クルトは本来の姿に戻り、クリスティアの首筋や額に手を置いたりして症状を測る。
「熱は無いようだね、ちょっと待っててくれ」
そう言うとクルトは次元の歪みを発生させ手を突っ込み引き抜くと、小さな数珠のようなモノが握られていて、それをクリスティアの腕に嵌める。
「それは、何なのだ?」
「ある程度の不調を和らげるものだよ。まぁ、見てれば分かるさ。それより、どうして彼女がこんな事になっているんだ? これは、普通の病気とは明らかに違うみたいだけど」
アルベールは全てを話した。
魔道に関わりを持たなさそうな一般の人間がドラゴンを呼び出した事。
そのドラゴンに対して術式を使用したらそれを阻むかのようにクリスティアが割り込んだ事。そして、その瞳は依然聖域で見た邪神と呼ばれる少女のモノと同じような虚を漂わせていた事。
「ドラゴン……この世界には存在しない人間たちが娯楽に生み出した空想の存在だ。それを一般の人間に呼び出せるはずがないんだけどね。俺でも無理だな」
「クルトは今回の件をどのように思う?」
「そうだね、邪神の世界を滅ぼす方法についてだけど……邪神の魂をクリスティアの身体に入れ、そこで魂と身体が交わることにより完全と化し、世界を滅ぼすんじゃないかな」
「やはりか……」
魂をクリスティアという器に入れるのであれば、世界を救う方法は器を壊すしかない。パラノイアが言っていたのは、こういう事だったのかと理解する。
「アルベール、これはもう1度考え直す必要があるかもしれないな」
クルトは神妙な顔つきで眠りについているクリスティアの頬を優しく撫で、黄金の双眸は悲しみに彩られていた。
こんばんは上月です(*'ω'*)ノ
次回もこの続きで、次の投稿日は8月7日の日曜日ですのでよろしくお願いします。




