カバンより産まれし破壊を振りまく存在
銀狼の気配を辿りアルベールはクリスティアの手を引き、人通りが段々と減っていく裏通りを駆け抜ける。
そして、一軒の倉庫に辿りつき、なんとか中の様子を見ようと裏手に回り込み、小さな窓から内部を覗き込む。
「アルベール君、中は何が見えるの?」
背後から小声でクリスティアも同様に中を覗き込む。
「儀式……のように見えるな」
倉庫内の3人組は中央には魔法陣を描き、それを囲むように立っていた。
「あのカバンは、一体何に使うのだ?」
先ほど大事そうに抱え込んでいたカバンが魔法陣の中央に置かれている。これから始まる儀式に必要なものだというのは分かるが、それが何の役割を果たすのかまでは分からない。
「どうしよう、突入して止めさせる?」
「もう少し様子を見てみるべきだ」
「うん……でも、なんか嫌な予感がする」
「む?」
クリスティアに視線を移せば、顔色は青白く、体は震えていた。
その尋常じゃないクリスティアの様子にアルベールは悩んだ末に、銀狼を呼び戻させ、何かあった際にはクリスティアを守るよう命じさせる。
「安心せよ。直ぐに戻る」
アルベールは一言クリスティアに言い置き、倉庫の正面に向かって走り出す。その姿を見送るクリスティアの瞳は虚ろであった。
倉庫の大扉に触れ、内包する魔力に少し呼びかければ、手から銀色に発光する魔法陣が描かれ扉を銀の粒子に変換し、成人男性が通れるくらいの穴を作る。
「そこまでだ!」
倉庫内にアルベールの凛とした声が響き、3人の男達は体を大きくビクつかせ、アルベールを見やる。
「なっ、なんだお前は!?」
「鍵は掛かってたはずだ、どうやって……」
アルベールの背後の扉に大きな穴が開いているのに気づき、言葉が詰まる。
「貴公等のその怪しき儀式について聞かせてもらうぞ」
「フン! どうやって侵入したかは知らんが、女1人で乗り込んでくるとは馬鹿なやつだぜ」
「……女?」
アルベールは自身の身体に視線を落とせば、衣服は女性物のままであることに気づき、何故脱ぎ捨てなかったのかと後悔したが、仕方ないと諦め、彼らの中央に描かれた魔法陣に意識を向ける。
「そんな事はどうでも良いのだ。なんの儀式かは知らぬが、そのカバンからは危険な気配がする。即座に中断するのだ」
アルベールがカバンを指摘するや男たちはそれを遮るように立ちふさがる。
「お前には関係ねぇ! 怪我したく無かったら、とっとと失せろ」
「まぁ、今更首突っ込んでももう遅いけどな」
「遅い……とは、どういう事だ?」
訝しむアルベールに男達は笑う。
「今頃、ヴァナトリアも混乱しているんだろうぜ! なにせ、わざわざ姫様自ら部隊率いて行ったが、重症で泣く泣く帰ったって話しだしな」
ヴァナトリアが混乱。そして、お姫様といえば、ナコト・ヨグ・ヴァナトリアの事だろう。彼女は魔王に匹敵する異端の人間であり、その魔力量と知識量は人智を超越していた。その彼女が部隊を率いて重症とは今現在ヴァナトリアで一体何が起こっているというのだろうか、と胸中に謎が重くのしかかる。
「ほぅら、お目覚めの時間だぜ。この中央協会もぶっ潰してやるよ!」
彼らの背後の魔法陣……正確にはその中央に置かれたカバンから脈動が発せられていた。それは生命の誕生を祝福するかのように脈動は大きくっていく。
「貴公等、それは一体なんなのだ!」
「へへへ、見てれば分かるよ。産まれるぞ破壊を振りまく者が……」
カバンが盛大に開かれ中からは黒煙があふれ出し地を這う。
「何が現れようと言うのだ……」
肌に感じるその強大にして暴性に富んだその力。
魔法陣すらも黒煙に呑まれた時に地から生えるようにして、姿を現す。
「さぁ、破壊をもたらせぇ!」
倉庫全体に響く咆哮は邪竜に転生したエリーザのモノに類似していた。
その全長は倉庫を突き破り、前へ歩を進めれば破壊した天井の残骸が降り注ぐ。
「うっ、うわぁぁぁぁぁ!!」
男たちは瓦礫に押しつぶされ、小さな命の灯は吹き消される。
「ドラゴン……このまま進ませるわけにはいかぬな」
アルベールは体内の魔力に意識を向け、銀の術式を使用すべく詠唱を唱える。
こんにちは上月です(*'ω'*)
次回はカバンから産まれたドラゴンとアルベールの戦いとなります。
次の投稿は8月2日の火曜日となりますので、よろしくお願いします




