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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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森に蠢く脅威の影

 中央協会ヴァレンリーア城の執務室にてクリスティア……もとい因果創神器の力で彼女の姿となり留守を預かっていたクルトが机の上に山積みにされた資料を片手にため息を吐いていた。


「あ~退屈だな。何か面白いことでも起きてくれないかなぁ」


 椅子にだらしなく腰掛けては、その椅子を前後に揺らし天井をぼんやりと眺めていると、ノックもせずに扉が開き、視線をそちらに向ければシオンが呆れたような視線を向けながら手に手紙のような物を持って机の上に積まれた資料の間からクルトを見下ろす。


「何やってんだテメェは。うだうだしてねェで、なモンちゃっちゃと片づけちまえよ」

「俺は飽きたんだよ。そうだ、シオン俺は遊びに行ってくるから代わりにやっといてくれないか?」

「俺には関係ねぇ。自分から引き受けたんだからちゃんと責任もってやれよ」


 先ほどから手に持っていた便箋を山積みにされたほかの資料に重ねるのではなく、直接クルトに手渡す。


「重要案件か?」

「俺は読んでねぇから知らねぇよ。聞く前に読んでみりゃいいだろうが」

「クリスティア宛てだな。俺が読んじゃまずいだろ」

「今はお前がクリスティアだろ」

「それもそうだね」


 仕方ないとクルトは手渡された便箋を破り手紙に視線を落とし、気が進まぬように読み進めていっき、段々とその表情を険しいものにさせていった。

 食い入るように最後まで読み終えたクルトは視線をシオンに向ける。


「至急に大臣達を招集させてくれるか?」

「あぁ? なんで、そんなことしなきゃいけねぇんだよ」

「いいから招集してくれ」


 クルト、もといクリスティアのその真剣な面持ちに何かあったのだなと察し、舌打ちをしながら部屋を出る。




数十分後に広大な会議室にクリスティアの姿をしたクルト、そしてほかの魔王や4十字騎士団、そしてこの国の大臣達が招集された。


「クリスティア様、いったい何事ですか?」


 4十字騎士団の隊長を務めるステラが何故ここまでの人間を集めたのかと周囲の者たちが抱く疑問を代表して問えば、一同の視線はクルトへと向けられる。


「先ほど手紙が届けられました。その内容に私は我が目を疑いました……」


 一拍の間を置く。

 

 別に勿体ぶらせているわけではないが、周囲の者達も固唾を呑みクリスティアの次の言葉を待つ。

 

 「手紙の主はヴァナトリア帝国のネクロ皇帝からです。手紙にはこう綴られていました」


カラサドの森に何やら人々を襲う化け物が住み着き始めたという事で、その正体を暴くべく調査隊を派遣したが、消息を絶った。これはただ事ではないと判断しヴァナトリア帝国の精鋭を集い、討伐部隊を編成し送り出したが、3日が経過した現在でも誰1人帰ってきたものはいない。

 誰1人帰らぬ状況に我が娘ナコトに部隊を率いさせ調査に向かったのだが、帰ってきたのは重症に身を引きずるようにしてナコトが1人帰宅したのだが、何があったのかを聞き出しても、人が関わってはいけない化け物がいたと怯えながら繰り返すだけで要領を得ず、打開策を打つことが出来ずにいます。どうか、何卒ご助力を得られないかと手紙を出させてもらいました。


「確かカラサドの森といえば、ヴァナトリア帝国領にある辺境部にある広大な森だとお聞きします」


 大臣の1人が地図を机に広げてはその場所を指さし、皆が覗き込む。


「なんにもない場所に森が広がっているだけなんですね? そもそも、なぜこのような人のすまない場所であるにも関わらず、化け物が住み着いた…なんてうわさが立ったのでしょうか。まず、私はうわさを最初に流した人物が怪しいとおもいますね」

 アズデイルにシラーが続く。


「ようはこの森に行ってその化け物を退治すればいいんだろ」 


「待ってください。相手はシオン君をも凌駕する力を持ったナコトちゃんを重症にまで追い詰めた相手なんですよ。ここは慎重になるべきではありませんか?」


 完全に役に入っているクルトをシオンが割って入る。


「おい、じゃあなにかぁ? その森に棲むとかいう化け物は魔王である俺たちより強ぇってのか?」

「はい、私はそう思います」


 シオンに正面きって挑発するかのようなクリスティアの姿に他の魔王や4十字騎士団を含む全員が少々驚いていた。


「部隊編成は、そうですね」

「聖なる乙女よ。その討伐の任俺に行かせてくれないか?」


 先ほどから背を壁に預け、静かにその話しに耳を傾けていたシンが一番に名乗り出る。後輩に出遅れをとった残りの4十字騎士団も続く。


「その化け物の実力が本物なら、なかなか楽しめそうだ」

「私は、ジークリートのように強者と戦うことが目的ではなく、本当にそのような存在がいるのであれば、いつ人里に現れるかも分かったものではありません。それを見過ごすことは私には出来ません」

「へっへ、俺はジークリートと同じだ。強い奴と戦えるなら男として、これ以上に面白いことは無いってもんだぜ!」


 中央協会最強の若き精鋭騎士も理由は違えど、人に危害が加わる前になんとかしたいという根底の部分では1つだった。


「あらあら、ふふふ、勇敢ねぇ~。でも、あの無口な娘ちゃんで重症なのよぉ? 貴方たちが行ったら……帰ってこれないんじゃないかしらぁ?」


 挑発するようにリリアンは可笑しそうにクスクスと笑う。

 その言葉は大陸に名高い4十字騎士団という誇りを汚され、グレイやジークリートからは不快感が漂っている。この空間の中で一番に逃げ出したいのは呼ばれた一般人である大臣達だろう。


「お前らも魔王だか何だか知らねぇけどさ。ちょっと強いからって、ふんぞり返りすぎじゃね? そもそも……フゴッ!?」

「やめなさい! 確かにナコトさんで重症なら私たちは最悪死ぬかもしれない。これは事実です。事実を突き付けられて吠えるのは子供のすることで、4十字騎士団のすることではありません」

「だが、馬鹿にされて何も言い返さないのは強者に屈した敗者のすることだ」


 ステラの言葉にジークリートが静かに反論する。


「全く……聖なる乙女を守る選ばれし騎士がみっともないぜ! 実力を馬鹿にされたなら実力で見返してやればいい事だろ」


 シンの言葉に3人の騎士は沈黙する。


「そういう事だ聖なる乙女よ。部隊編成は任せたぜ」

「ふぅ~ん。シン君って言ったっけぇ? 気分を悪くしたなら謝るわね」

「謝るなら、俺にじゃなくグレイ達にでもしてくれ、狩人の妖精よ」

「ふふふ、狩人の妖精ねぇ……うん、お姉さん気に入っちゃったわ。礼を言わせてもらうわね」


シンはそれに小さく頷き、それから皆の視線はクリスティアへと注がれる。


「ふぅ……では部隊はステラ、グレイ、リリアン、ヘルの4名にしようと思うんだけど、どうかな?」


「テメェがそうしたいなら、それでいいんじゃねぇか?」

「うんうん、私たちはクリスティアちゃんの意見に従うよ。ねぇ~シラー、アズデイル?」

「エリーザがただ、行きたくねーだけだろ」

「私はエリーザがそれでいいなら」


 シオンやエリーザといった魔王の行かない組からは同意を得れたが、同じく行かない組のジークリートとシンは少々不服そうではあった。

「俺は……友が行けと、言うなら……い、く」

「ふふ、お姉さんもたまには仕事らしい事してみようかなぁ」


 ヘルとリリアンは珍しくやる気だった。この2人がこのまま士気を保ってくれれば、何があっても大丈夫だろうとクルトは推測し、視線をグレイとステラに向ければ同じように意気込んでいた。


「では、4人にはさっそくヴァナトリアに向かってもらいますが、構いませんか?」


 2人の魔王と2人の人間は互いに頷きあいシオンを除いた行かないメンバーと共に部屋を後にする。

 

「では大臣達には至急ヴァナトリアの皇帝には承りましたとの文をお願いします」


 大臣達は深々と頭を下げ、さっそく仕事に取り掛かるべく部屋を急ぎ出る。

 そして、会議室に残されたのはクルトとシオンだけとなる。


「あの編成に意味はあんのか? 正直、俺とリリアン、ヘルにおまけでアズデイルでも付けときゃ事足りただろ」

「まぁ、それくらいの戦力を投入すれば十分すぎるとは俺も思うよ。でもね、こうやって普段関わり合いの無い者たちを組むのも面白いんじゃないかな? それに、全員魔王で部隊を編成してしまっては、クリスティアは人間を信用していないと思われかねないからね」


 さて、クルトは席を立ち大きく伸びをして、シオンに少し付き合えと酒を飲むような仕草をしてシオンは呆れつつも了承して2人も部屋を出る。


こんばんは上月です(*'▽')

 クリスティア達が怪しい3人組を追っている中、中央協会ではクルトの指示のもと選ばれし精鋭がヴァナトリアに向かっています。

さて、次回はアルベール達の話しとなります……視点がコロコロ変わってしまい申し訳ないです(;´д`)

次の投稿日は7月28日の木曜日ですので、よろしくおねがいします

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