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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
7/90

常世を滅ぼした神、連合国との会合

 朝日が白い部屋を優しく包み込む。だが、その部屋の中で1人浮かない顔をした少女が溜息をつく。


「災厄を振りまく神の名前かぁ……」


 昨日書物庫で出会った怪しげな本との会話が頭から離れず、彼女を憂鬱な気分にさせていた。




「どうして? それは最高位にして災厄を振りまく神の名を知らぬはずがないからじゃよ」

「え……」


 自身の付けられた名が災厄を振りまく神の名だなんて信じられなかった。そもそも、同じ名だから何だというのか。自身は人間であり神ではない。たまたま名が同じだけだったというだけだ。


「ほほ、君は生まれるまえからクリスティアという名を持つ運命だったのだよ」

「すいません、えっと……言っている意味が理解出来ないです」


 生まれる以前から確約された名だという書物の言葉に、思考がついていけなくなった。


「クリスティア、キミは常世の時代と呼ばれる時代があったのを知っているかな?」

「はい、確か人類が生まれるよりはるか昔に神々が生きた時代の事ですよね?」


 書物は雰囲気的には大きく首肯したのだろう。空白のページが一枚めくれる。だが、やはり真っ白で何も描かれてはいなかった。


「神々の時代は今の文明レベルとは大きくかけ離れていてな、神の意思で新しい世界や神が生まれ死んでいく。時には人間のように争うこともあってな……」


 懐かしげに話す書物の言葉を静かに聞き、時折相槌をうつ。そして、長々と常世の時代について話し終わり、懐かしむような口調から一変する。


「だがの、そんな繁栄した時代も終わりを告げる時が来たのだ……」

「それが……クリスティア?」

「うむ、誰もあの娘の存在を望んではいないはずなのに、そいつは神々の意に反して現れてしまった。もちろん、神々は応戦した。自分達の時代を守るために……」


 先程とは変わり、力なく語る老いた口調から察れば、とても苦戦を強いられていたことだけが伺える。


「だがの、応戦といっても足止め程度にもならなかった。ワシ等は宇宙均衡を崩してでもあの神を殺すつもりで戦ったが、他の神々はクリスティアの力の前に次々と死に輪廻の理からすら弾き出され、魂は次代に巡る事なく消滅していった」


 本が小刻みに震えていたので、クリスティアは地面から拾い上げ、優しく胸に抱く。


「ほほほ、お嬢さんは優しいんだな。だが、最期まで話させてもらうぞ」


 それに首肯する。


 書物は当時の恐怖を思い起こしながらも言葉を紡いでいく。それが、自身に与えられた役目だと言わんばかりに。


「そして神々は残りワシと神々を統べる王のみとなり、王の命でワシは魂の一部を書物という形に変え、無限に枝分かれする世界に紛れこませる瞬間に我らが王も消滅させられたのだ。ワシは苦しかった……仲間や敬愛する王を殺され自身だけ逃げることが……」

「……」

「お嬢さんの名、声、容姿その全てがあの我らの時代に終幕をもたらした神にそっくりなんだよ。これは、はたして単なる偶然じゃろうか」


 最後まで書物の話しを聞いていたクリスティアには、正直彼の話しの3割も理解は出来なかった。だが、1つだけ言えることある。


「容姿、名前、声が似ていても似ているだけです。私は私ですし、世界を壊そうなんて思っていません」

「ふむ、そうじゃな。君は良き両親や仲間を持っている。この先苦難が待ち構えているやもしれぬ、諦めずに自身の信じた道を進むのだよ」


 本当の神様の言葉に元気よく返事を知すると、書物は軽快に笑う。


「そういえば、その私にそっくりの神様は今は何をしているんですか?」

「ふむ、申し訳ないが途中で逃げたワシには分からない。だが、きっとお前さんの言うように他人の空似だろうな、さてワシも眠りにつくとするか……」


 その胸に抱かれた書物は淡い光を放ち、徐々にその姿は透過していき、少女の腕からその姿を消す。


 静寂に包まれた書物庫は、今クリスティア1人のみとなり、今この場で起きたことがまるで夢だったかのように思えてくる。


 その後、本を読む気にはなれず部屋に戻り、書物が語った自身と瓜二つだという神の事が頭から離れなかった。そして、布団に潜り瞳を閉じるが、中々寝付くことができず気づけば外は青白く明るくなり始め、今では完全に朝日が大地を照らしている。


 このまま布団に潜っていても気分が晴れることはないので衣服を着替え、朝食までの時間を少し城内でも散歩をしようと部屋をでる。


 部屋を出れば巡回中の騎士や掃除をするメイドとすれ違う。皆と挨拶を交わしつつ中庭に出ると、手入れのされた花や木がクリスティアを迎える。


「いい香り」


 優しく流れる風に乗って花の香りを運んでくる。鼻腔を抜けた香りに気分は幾ばくか落ち着かせることができた。


 至るところにベンチが設置されており、その1つに腰を落ち着かせては雲が浮かぶ広大な青空を見上げる。


「私は私、クリスティア・ロート・アルケティア……何者でもない」


 同じ名前。


「お父さんとお母さんはどうして私にクリスティアって名前を付けたんだろう」


 不意に思いつくと今度はその事が気になり始める。もう少しここに居たかったが、急ぎ両親の下に向かう。


 2人はまだ寝室にいる時間帯なので寝室へと続く階段を登り、他の階層とは違う造りの廊下を進んだ所にある、扉をノックし開ける。


「おや、クリスティアおはよう。今日は早起きなんだね」


 クリスティアの存在に気づいた父ヘブリドはにこやかに言葉をかける。


 室内を見渡しても父の姿しか見当たらない。


「お母さんならさっき礼拝堂に行ったけど、何か用だったか?」

「う~ん、お母さんが居ないならお父さんでいいや。私の名前ってどうやって決めたの?」


 その質問にヘブリドはキョトンとした表情になる。


「名前……かぁ。う~んどうして付けたんだったかな」

「ふふ、貴方が夢で神様に子供の名前はクリスティアにしなさいって、言われたと仰っていたじゃありませんか」


 その声に振り返ると母マリーナの姿があった。


「お母さん、おはようございます」

「おはようクリスティア」

「あれ、礼拝堂に行ったんじゃないのか?」

「礼拝堂の鍵を忘れてしまって」


 そう言いマリーナは机の引き出しにしまってある鍵を取りまた部屋を出ていく。


「そうそう名前だったな。クリスティアが生まれてその晩に私は夢を見たんだよ。そう、ちょうど今のお前にとても似た少女の夢だ。そこで子供の名前はクリスティアにしろって言われてな」

「……」


 言葉を失った。


 ここまでくれば単なる偶然ではない。偶然で片付けられるはずがなかった。


「うん? どうした」


 父の声は聞こえていたが、上手く反応することができなかった。


「え……あ、うん。何でもないよ」


 クリスティアは寝室を出て、自室に向かう所でステラに出会った。


「クリスティア様おはようございます。何やら顔色が優れぬようですが何処か具合が悪いのですか? もし悪いのでしたら医務室まで……」

「ステラ、少しだけ付き合ってほしいんだけど時間ある?」


 彼女の言葉に割って入り、真っ青な表情のクリスティアを見て、ステラは心配そうな表情を浮かべる。


「はい、時間はありますので何処でもお付き添いいたしますよ」


 優しく微笑み浮かべるステラの胸に顔を埋める。それを受け入れクリスティアの頭を何度も撫でる。

 今まで何度も将来の不安や、落ち込んだ時にはいつも親身になって相談を受けてくれるステラという存在は、クリスティアにとってとても大きかった。


「では、私のお部屋で悩みをお聞きいたしましょう」




 ステラは趣味で園芸をしていて、窓際には小鉢に植えられた今はまだ小さい水滴のついた葉が芽吹いていた。


「うわぁ可愛いね。これも大きくなったら綺麗な花を咲かすんだよね?」

「はい、これはマリスネという花で、花自体は小さいんですけど、深い青色の花びらがとても綺麗でとても人気なんですよ」


 2人で小さな葉を眺めている様はまるで姉妹のようにも見えなくはないだろう。


「さて、クリスティア様。今回はどのような悩みですか?」

「うん、実はね……」 


 ソファーに腰を下ろし、淹れたての紅茶に口を付け、自身の抱える不安とともに全てを吐き出す。

 時々質問を受け、基本的には黙って話しを聞いてくれていた。話し終わるとステラは席を立ち2人分のカップに新しい紅茶を注いでくれる。


「……」

「……ステラはどう思う?」

「大変申し上げにくいのですが……」

「うん」

「私には判断がつきません。同じ顔、同じ声、そして同じ名。単なる偶然で片付けるには少々無理がありすぎます。神を信仰する国に仕える身で言いにくいのですが、私は神というのは人間が何かに縋りたいという思いからこそ生み出された架空の存在だと思っております。ですが、もしそれが真実であったから何だというのでしょうか? その時代はとうの昔に滅びているのですよね。それに、その神が生きていたら既に何かしらの行動を起こしていても良いはずです。ですが、私達は普通に生きております。クリスティア様も普通に日常を生きておられます。なら、特に心配する必要はないと思いますが」


 ステラの回答は確かだった。もしその神が生きているのなら何か仕掛けてきてもおかしくはない。それでもクリスティアが生まれてから17年間、特に何も起こらなかった。つまり、その神はクリスティアに名を授けただけで特に害を加える気はないのだ。


「そうだよね、私達は今まで普通に生きてきたもんね」

「えぇ、それにもしその神という存在が来ても私達四十字騎士団が付いております。それに……第3魔王という強大な力を持つ友人がおります。何も恐れる事などありはしません」


 彼女には心強い友人たちがいる。


 何を恐れる必要があるのだろうかと、思い直すと朝食を食べていないお腹は空腹の音を鳴らす。


「あ……」

「ふふ、朝食まだなのですね、ではこのステラ腕を振るい美味しい料理をお作りしましょう」


 キッチンに向かい壺の中から素材を取り出し、手馴れた動きで素材を切り油の敷かれた鍋で焼いていき、その間特にすることもないので、ステラに断りをいれ棚に収められた本に手を伸ばす。収められている本のジャンルは恋愛と戦記もので満たされていて、たまにはと戦記系の本を手に取りページをめくっていく。


 最初はどのようなものかと興味本位で手にとったのだが、視線は文章に釘付けになりページをめくる手にも自然と力が入ってしまい、時間と空腹を忘れ本を読んでいるとステラの手に運ばれてきた料理に視線を上げれば、既にいくつかのオカズがテーブルに運ばれていた。


「凄い集中力ですね、私が呼びかけても返事がなかったですよ」

「えっ!? 嘘ですよね」

「ふふ、真実です。さぁ、冷めないうちに食べましょう」


 野菜のスープを口に運びしたで味を感じながら、飢えた胃に流し込む。体内から体が温まるのを感じながら、パンや野菜を口に運んでは胃に蓄えていく。


 お腹が膨れると身体の奥深い場所から元気が湧き出し、幸せそうな笑顔が浮かび、ステラは安堵する。


「クリスティア様、本日はフィール連合国から使者がいらっしゃいます。どうやらヴァナトリア帝国の件かと思います」

「あっ、そうだった。何時からだっけ?」

「確か15時くらいからだったかと」


 他国の使者と対応をするのは最近ではクリスティアの役割となり、これは聖女という役職を正式に授与されたら国と民をクリスティアが導かねばならぬということで、早期からこのように他国との会合等はクリスティアに一任されていた。


 そして今日、応対する国フィール連合国は同じ五大強国の1つで、ヴァナトリア帝国の脅威に抗う為に小国同士が手を結び、広大な力を得て1つの国と化した国家だ。


「じゃあ、早めに準備をしなきゃね」


2人はその後も昼前くらいまで雑談をして楽しく過ごした。


次回はまたクリスティア視点になります。

主人公のアルベールが少し空気な気が……(汗) 


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