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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
59/90

リリアンの悪戯とクルトの怒り

 そこは白と白が歪に混ざり合い他色の介入を徹底的に排除するかのような吐き気を催すような純白世界。

 邪神の残骸である存在の力に飲み込まれたクルトとアルベールはその異様な世界に最初は戸惑いはあったが、慣れれば不快感がその肌を射す以外は変哲もない場所だと今は周囲に意識を向けつつ現状を脳内で整理していた。

「なるほど、これがクリスティアの言っていたおぞましい程の純白世界か……」

 余裕の笑みを浮かべながらも感嘆の声を漏らすクルトにアルベールは視線を足元に落とす。

「クリスティアは毎回この世界に1人誘われては、聞きたくもない声を無理やり聞かされていたのだな……」

 とても心細かったであろうにと表情を固くする。

「あの娘は以外にも心が強いんだね。常人であればこの不快感と底知れぬ恐怖で精神を病むぞ」

「クリスティアだからな」

 その意味の分からぬアルベールの回答にクルトは苦笑しつつ肯定する。

「さて、それはそうと此処をどうやって抜け出そうか」

「ふむ、我らをこの世界に引きずり込んだ張本人を姿見せぬか。であれば、術式を用いて強引に脱出でも試みてみるか?」

「いや、術式による強引な手段は辞めておいたほうがいい。まだこの世界がどのような場所なのかすらも把握しきれていないんだ。無闇に動けば自己を滅ぼす事になる」

「では、どうすると言うのだ?」

「クリスティアがこの世界を訪れた時はいつも突然に目が覚めたと言っていたんだけど、俺達は眠っているわけではないしな。さてはて困ったね」

「困ったと言っている割には随分と落ち着いているではないか」

「うん? それはお前も同じだろアルベール」

 何が可笑しかったのか互いに口角を持ち上げ噛み殺すように小さく笑う。

 確かに敵は強大な力を有する邪神だろう。だが、ここに存在する2人はこの世界で最強の立場に座する魔王。その力は邪神には遠く及ばないかもしれない。

 だが、彼等には多くの仲間がいる。1人1人が小さく儚い存在でもそれらが1つとなり立ち向かえばどうだろうか。

「クルトよ、戦力を個で考えるのではなく軍で考えればどうだ?」

「塵も積もれば山となる。確か真日帝国にはこのような言葉があった気がするんだけど。つまりは皆が一丸となって立ち向かえば勝機が見えるかもしれないと言いたいんだな?」

 コクリと銀髪を揺らし頷く。

「そうだ。今やバラバラであった大陸は1つに纏まり平和な世を築き上げようと手に手を取り合っている。ならばこそ大いなる的にも皆で立ち向かえば打ち勝てるのではないか?」

「勝機は薄そうだけどね」

「無いよりかはマシであろう」

「確かにね」

 本当に僅かな希望。それは団結。

 繋がりこそが新たなる奇跡を生み出すとアルベールは信じていた。それをいつも示してくれていたのが脆弱な人間だった。彼が人という種を愛するもっとも大きな理由がそれである。

「その前にまずはこの世界からの脱出が先なんだけどね」

 そろそろこの不快な白が交じり合う世界にも飽いてきた所で、クルトは溜息まじりに肩を竦める。

「やはり、術式で……」

「それは最後の手段だ。どうやらこの世界に紛れ込んだのは俺達だけじゃ無いみたいだな」

「この気配……リリアンか?」

 クルトの言葉に意識を集中させると、歪んだ白に混じって薄くだがリリアンの気配を感じ取ることができた。

「あらら~バレちゃったのね残念」

 白い空間を割って姿を現したのは妙な色香を纏うタレ目とは裏腹に残虐性に満ちた冷たい笑みを見せる女性が現れる。

「どうしてこの場所にお前がイルカは興味はない。だけど、リリアンお前が持つ女神の大鎌は空間そのものを切り裂くんだったよな? もしかしたらその力でこの歪んだ空間から脱出できるんじゃないか?」

 ゆらゆらと鎌首を揺らしながら何か考えるように思案するリリアンだが、妖艶に口元を綻ばせて笑う。

「ここから出たら真っ先に私はクリスティアちゃんを殺しに行っちゃうかもしれないわ~」

 クルトとアルベールを前にして冗談では済まされない発言を言ってのけるリリアンは女神の大鎌を肩に担ぎ、いつでもいいわよと言うように挑発する。

「だってアレって邪神なんでしょ? そんなの放っておいたら世界が大変な事になっちゃうじゃない? 私は怖くてしょうがないなぁ~」

 リリアンは悪戯にこの2人の反応を楽しみたいという一心でわざと挑発するように言い放つ。

「どうしてもこの世界から出たいんでしょ? 出たら私はクリスティアちゃんを殺しにいくし、出ないならずっとこのままよ」

「なら、話しは簡単だよリリアン。お前を殺してその鎌を奪い元の世界に帰る。だた、それだけだよ」

 クルトは黄金色の双眸をつまらなげにリリアンへ向ける。一切の感情なんて宿さぬ冷たく冷酷な瞳。

「クルト、早まるな。アレはいつもの挑発だ」

「俺達には時間がないんだよ。こんな下らない戯言に付き合ってられt¥るほど暇じゃないんだ。リリアン最後に問うけど今の発言は本気なんだね?」

「さぁ、どうかしらね~。本気かもしれないし本気じゃないかもしれない。ほら私って結構気分屋だからけ結局はその時の気分な……」

 リリアンの言葉が言い終わる前にクルトは行動し、一瞬にして距離を詰め華奢な手がリリアンの細い首を掴み、力の限りを込める。

「いい加減にしろよリリアン・ストリオスッ! 俺もいつまでも笑ってばかりいると思わないことだね」

 低くドスのきいた声でリリアンを睨みつける。

「あ……ははぁ……せっかち、ねぇ」

 リリアンはこの期を待っていたとばかりに瞳をギラギラと輝かせ手に持っていた大鎌を手中で回転させ切っ先をクルツに叩きつけようと風を切り迫る。


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