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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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両魔王の結束

 2度の敗北にさすがのクルトももう笑うしかなかった。それがたとえ未来創造という力が使えないというハンデを負っていても、確かに全力を出し切り敗北した。そして、目の前に立つ銀の魔王はクルトの予想を遥かに上回っていた。

 多分だが未来を創造したとしてもきっとこの男はその決められた運命さえ捻じ曲げてしまうのではと少しばかりの期待をしてしまう。

そう、決められた運命。クリスティアとこの世界の覆しようもない確約された結末さえも。

「はは……お前はここまで強かったか?」

「どうだろうな、我にはただ守らねばならない者がいる。その一心で戦い貴女から勝利を得ただけだ」 

 その純粋な輝きを宿す翡翠色の双眸には、もういいだろう無理をするなと訴えかけているようだった。

「今回も我の勝ちだ。故にクルト、貴女の力を貸してもらうぞ、クリスティアと世界を守るためにな」

「守るため……か。二度も牙を剥いた相手によくそのような事が言えるな。俺だったらその場で殺しているぞ。この場所で死んだロンベルトの時ようにな」

 自嘲するように喉を鳴らしながら笑う絶対の預言者の姿に銀の影法師はやれやれと苦笑する。

「よいかクルト、今は1人でも多く力あるものが必要なのだ。特に貴女のように頭の良い人材は特にな、だからその力と知恵をこの世界とクリスティアの為に使ってわもらえぬか?」

 既に諦めきっていたクルトの心に変化が生まれる。

 後から割り込もうとするたかだか邪神風情に魔王が遅れを取るわけにはいかないか、と胸中が熱いモノで満たされる爽快感に先程までの鬱屈した気分が晴れた気がした。

「俺で良ければこの力も知恵も貸してやるよ。そうだな、あの娘は俺達や人類にとっての希望の象徴だ。失わせてなるものか」

「うむ、その意気だクルト」

「じゃあ、早速だがアルベール。この馬鹿みたいに広大な聖域の探索を手伝ってくれるな?」

「うむ、任せよ」

 互いに己の意志を確認しあい、唯一の可能性が眠るであろうこの聖域を探し回る。


 朝ベッドの上で目を覚ましたクリスティアは普段着に身を包み、朝食までの時間を散歩しようと中庭へと足を運ぶ。

「おや、クリスティア、おはようございます」

 中庭のベンチに腰を掛けていた雅がクリスティアの姿に気がつき軽く会釈をする。

「あっ、おはよう雅ちゃん。隣り座ってもいい?」

「えぇ、もちろんです」

 雅が少し横にズレてその開いた場所にクリスティアも腰を落ち着かせる。

 朝日を浴びて美しく咲く花々に囲まれて、楽しそうに談笑する麗しき少女2人の姿はとても絵になり、それをたまたま通りかかった通路の窓から眺めるシオンはその芸術とも呼べる光景に目を奪われていた。

「おや、シオン君?」

 名を呼ばれ振り返ると、かつては禍々しい殺意に身を包み、去年の大戦時に手を結んでいたヴァナトリア帝国皇帝ネクロ・ヨグ・ヴァナトリアの姿が合った。

 だが、今ではあの時のような禍々しさは一切感じられず、たんなる人として今を生きている。そんな彼にシオンは舌打ち1つ溢す。

「なにか用か?」

「いえ、たまたま散歩をしていたら何か熱心に外を眺める貴方の姿が目に入ったので声を掛けただけだよ。それにしてもとても美しいねあの2人は」

 柔和な笑みはかつて聖王ヘブリドに並ぶと称され民を愛し民に愛された善王そのものだった。

 ネクロも視線を窓の外に向け朝日を浴びる雅とクリスティアの姿に微笑みを浮かべ少々羨ましそうな表情をする。

「あの中に入りたいんなら行ってくりゃいいじゃねぇか」

「おいおい冗談だろう。俺があの美しい場所に入るのは芸術に泥を塗るような行為だよ」

「まぁ、確かにな」

「そこは少しでもいいから否定して欲しかったね」

「めんどくせぇよ」

 苦笑するネクロにシオンもふっと笑みを溢し、その後2人は互いに背を向けその場を立ち去る。

 朝食までの時間をどのようにして過ごそうかとシオンは歩きながら考えていた。城内に暇を潰せるような場所は無く、かといって城下に赴くのも面倒だと頭を掻きながらひとまずは自室に戻るという選択をする。

 自室のベッドに腰を深く掛けぼんやりと天井を見上げていると、この前のあのパラノイアと名乗る男との戦いが思い起こされる。

 シオンにとって気分の良いものではない過去に舌打ちをして大きく頭を振り、敗北という汚点を打ち払おうとするが意味をなさず、一度思い出してしまうと中々頭から離れてくれない。その間、ひたすら我慢しそのまま大の字に寝転がる。

「邪神だかなんだか知らねぇが、あの女が世界を滅ぼす真似できっこねぇだろうがよ」

 パラノイアの予言がシオンを苛立たせ、ただでさえ鋭い眼光が更に増して一層険しくなる。

 そんな事を考えているうちに時は経ち朝食の時間帯となったので、のそりと上体を起こし食堂へ向かう。

 食堂雨には既にクリスティア、ネクロ、雅、アムナリアの姿があり、アムナリアの背後には柔和な優男が控えている。

 シオンも空いている席に着き全員そろった所で食事が運ばれてくる。

「シオン君遅いですよ、もう皆さんお腹を空かせて待っていたんですからね」

 冗談めかしく言うクリスティアに気怠げな返事を返すと何故かネクロや雅そしてアムナリアと背後に控える男性に笑われてしまい、シオンは意味が分からねぇと吐き捨てながら運ばれた料理を口に運ぶ。味は悪くはないのだが、幼い頃から食べ慣れた味に似ていたので特に感動はなかった。

「うわぁ、このお肉とっても美味しいですね」

 子供のように肉を頬張る聖女の姿は決して民に見せられたものではないとシオンは内心で溜息を吐く。

「クリスティア、少し落ち着きなさい」

 煌びやかな料理の数々に瞳を輝かせるクリスティアを雅が嗜める。

「つかよ、クリスティア。お前は自分の国でも美味いもん食ってんだろ? 何処にそこまで感動する要因があンだよ」

「そう? 中央教会じゃこのお肉や果物は手に入らないし。盛り付け方がとても綺麗だから、つい興奮しちゃって」

「はっはっは、聖女殿に気に入ってもらえたなら俺達の国も捨てたもんじゃないな、なぁロイ」

「はい、そうですね陛下」

 どうやらアムナリアの背後にいる青年はロイという名だと分かるがシオンにとってはどうでもよかった。

「おい、クリスティア。ちゃんと今日のスケジュールは組んであるんだろうな?」

「うん、大丈夫だよ。午前中には城下でお土産を買って、午後には馬車で帰るからシオン君遅れちゃダメだよ」

「買い物に付き合ってれば送れる事もねぇだろ」

「でしたら、俺もその買い物に付き合ってもいいかな?」

「はい、もちろんですネクロ皇帝」

 こうして午前中はシオン、クリスティア、ネクロの三人で行動することとなり、雅は朝食を食べたあと直ぐにこの国を発つようだ。

「クリスティア、口調がだんだん統一されてきましたね」

「うん、こうしたプライベートではこういう風で民の前では聖女としての口調でって自分に言い聞かせてからだいぶまともに話せるようになってきたんだ」

 談笑をしつつ朝食を済ませ、先に国を発つ雅を見送り、クリスティア達も城下へと赴く。


こんばんは上月です。

最近は暑かったり涼しかったりで上着を着たり脱いだりと忙しいですね。

次回はクリスティアやアルベール達が留守の間の中央教会での話しとなりますのでよろしくお願いします。

投稿日は6月18日の土曜日です

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