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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
43/90

表舞台に迫る純白の神

 クリスティアに言われた時間通りに待ち合わせていた場所に訪れたシオンだが、未だにクリスティアの姿はなく、シオンは舌打ちと溜息を吐き行き交う人々をただ意味もなく眺めていた。人間と魔族が仲良さげに語り合いながら歩く姿が多く見受けられた。

「人魔共存か……」

「うん、人魔共存。ちゃんと約束は果たしたよ」

 突如背後から声がし振り返れば、聖女としての出で立ちをしたクリスティアが立っていた。

「遅せぇぞ、自分で時間指定したんだったら5分前行動するだろ」

「ごめんね、ちょっと旅路のお菓子を作ってたら遅くなっちゃった」

 そう言い取り出し見せてきたのは可愛らしい包装に包まれた何か。中身はよく見えないが大きさからしてクッキーかなにかだろうと予想してみる。

「これはシオン君に分ね」

 シオンの腕を掴み包装された菓子を手渡し、背後に待機させている馬車に乗り込む。

「確かに悪くねぇわな」

 苦笑を浮かべ同じように馬車に搭乗する。それを確認した御者は馬をゆっくりと走らせ、その後ろに10名の騎兵も続く。

「そんで、少々大事な話しってやつはなんなんだ?」

 対面に座るクリスティアに問いかけるが、クリスティアは早速包装を解き、中のお菓子を1つ口に含め満面の笑みを浮かべる。

「うん、シオン君はこの国で過ごして、色んな人と触れ合ってどう感じているのかな?」

「どうって……まぁ、悪くはねぇな」

 確かに悪くはない。だが、それは人魔共存という面での話しであって、シオン自身はかつての凄惨な光景が脳裏を過ぎれば人間に対して憎しみが芽生える。それでも、以前と比べればだいぶマシにはなった。それはこの国の人間の暖かさを知ったから。だからシオンの抱く負の感情も時が過ぎれば風化して消えてしまうのではないかと思う。

「じゃあシオン君自身はどうかな、人間はやっぱりまだ憎い?」

「時々憎くて仕方がない時がある。妹は何も悪いことはしちゃいねぇのに殺された。同胞も静かに暮らしていただけなのに殺されていった。今でもその光景を夢で見る」

「うん……」

「だけど、俺はこの国の人間は別に嫌いじゃねぇ」

「うん!」

 確実に自分は変わり始めている。クルト達や目の前のクリスティアが変わっていくように自分もまた変わっている事を実感していた。

「答えてくれてありがとうシオン君。まだ頼りない私だけど、これからもどうかこの国諸共どうかお支えてください」

 深く頭を垂れる姿は国を任され民を導く聖女の姿だった。いきなり改まられてシオンは照れくさそうにそっぽを向く。ちょうど視線の先には馬車に向かって手を振る人間や魔族の子供達。この子達の未来を守るのがこの国にいる自分たちの役目なんだと再認識させられた。

「頼りがいがないから支えんだろ」

「はい、ありがとうございます」

「チッ……テメェはテメェのやり方で民を導いてやればいいんだよ。俺達はその行く道を舗装するだけだ」

「きゃー、シオン君カッコイイ~。今の台詞みんなに教えてあげてもいい?」

「んなっ!? テッ……テメェ、言ったらマジでぶっ殺す」

「ふふ、冗談です」

「チッ」

 大きく舌打ちをし頬杖をつきながら再び外に視線を投げる。馬車は中央教会首都を抜け街道をゆっくりと進んで行く。見渡せばの一面の草原がのどかな雰囲気を漂わせ、背後にぴったりと付き従う騎士も緊張感が無いように仲間内で会話をして盛り上がっていた。

「護衛があれでいいのかよ」

「いいんです。変に緊張してていざという時に身体がおもうように動かないと困りますし。それに、今此処には強いシオン君がいますから」

「俺頼りかよ。まぁ、別に構わねぇけどな」

 フィールまでは馬車でも約3日間の旅となる。荷台には食料袋と水が積まれていた。

「シオン君お菓子食べてみてください。見た目はあまり良くないかもしれないですけど美味しいですよ」

 そういえば先程手渡された物をコートのポケットから取り出し、リボンを解けば包装は開き中にはやはりクッキーが数枚入っていた。

「これ……イビツすぎじゃねぇか?」

 どれも統一感の無い形だが、初戦は形で大切なのは味の方なので取り敢えず1つを口に放り込んでみる。

「パサパサじゃねぇか、それになんだこれ……少し辛いぞ」

「あっ、気づきましたか? 隠し味をいれてみたんです」

 口に含めば瞬間的に水分が吸収され、甘味が広がったかと思えば辛味が生まれる。このような食べ物を食べたことがないシオンは冷や汗を流しつつも

何とか飲み込む。そして出来れば二度と口に入れたくはないと思った。

「どうですか?」

「いや……クソ不味い」

「やっぱり」

「やっぱりだぁ!?」

 確信犯かと問い詰めたいのだが、口の中が次第にヒリヒリとし冷や汗とは違う。辛味による発汗が始まる。

「うん、最初は普通に作ってたんだけど途中でグレイ君が香辛料を溢しちゃって……」

「馬鹿か!? そんなモン他人に食わせんじゃねぇよ!」

 クリスティアに手渡された水を一気に煽るが、またしばらくするとヒリヒリと舌先を刺激し始め表情を歪め、コップを突き出し新たな水を注いでもらい今度は口に含みゆっくりと飲み干す。

「どういう事だオイ、次第に刺激が強くなってきやがる」

「う~ん、なんでだろう」

 とぼけている風には見えず、本気で悩んでいた。

「テメェも食ってみろ!」

 包まれたクッキーを粗雑に取り出して無理やりクリスティアの口にねじ込もうとするが、必死の抵抗に首を横に振るう。そこまでしでもてこの凶器指定される菓子を取り入れたくないと断固とした意思を示す。

「食いやがれッ!」

 最後は片手でクリスティウアの頬を固定しボロボロと崩れゆくクッキーを何とかねじ込むことに成功する。クリスティアも一度口に入ったものを吐き出す真似はせずにゆっくりと咀嚼し飲み込み効果はすぐに現れた。先程のシオン同様に汗を吹き出し、舌先の刺激に涙を浮かべながら水を必死に口に含む。

「酷いです……」

「何が酷いだ。テメェが先にやってきたんだろうが」

「そうでしたね。ふふ」

「何笑ってやがる」

 可笑しそうにそして嬉しそうに笑う少女にシオンは訝しむような視線を送る。その視線に気づくと小さく舌を出す。

「へへ、シオン君とこうやって楽しい時間が過ごせて嬉しいなって」

「……」

「シオン君は楽しくなかったですか?」

「はぁ? 知らねぇよ」

 今のやり取りを思い返し普段だったら絶対にしない行動だったと今更自覚する。辛さと人間に馬鹿にされた気がして少々ムキになっていたのもあるだろう。だが、それ以上に目の前にいる少女の雰囲気に飲まれてしまっていたのかもしれない。これが彼女が他人と直ぐに打ち解けられるカリスマ性というものなのだろう。

「でもシオン君自覚して無いと思うけど表情が柔らかいですよ」

「あ?」

 馬車の窓に映った自分の顔は憎しみに歪められたモノではなく、本来の素の表情。

「やっぱりシオン君も楽しかったんですね」

「黙ってろ、俺は寝る」

 まさかこんな表情をしていた自分に恥ずかしさが込み上げてきて、これ以上見られないように腕を組み俯き瞳を伏せる。

 馬車は夕日の街道をゆっくりと進んで行く。


 アルベールは城下の街でクルトと2人で酒場の席で酒を酌み交わしていた。

 実体もなければ触覚も味覚もない彼だが、酒場の雰囲気をその視覚で楽しんでいた。飲み干した酒は魔導幕によって消滅してしまうので地面に溢れる心配はない。そして、クルトはもう何杯飲んだのだろうか、

それでも顔色1つ変えない彼女もまた酒場の喧騒と雰囲気を密かに楽しんでいた。

「お前はこの先ずっとこの国で生涯を生きるのか?」

「我と貴女に寿命という概念はないだろう。だが、そうだな彼女が我を必要としてい間はこの国に尽くそうと思っている。そういうクルトはどうなのだ?」

「う~ん、そうだな。俺は時々抜けたり戻ってきたりかな。エリーザ達がよく物見遊山に興じていただろ? 土産話しを聞いてたら俺も旅がしたくなってな」

「ふむ、そうか」

 周囲では己の武勇を語るもの、恋に敗れ愚痴を吐き出すもの。酔い潰れてそのまま眠ってしまうもの。酒場には様々な客が己の輝かしい時間を過ごしていた。

「話しは変わるが、クリスティアは最近自身と同じ声をする者の存在に恐怖を感じているらしいぞ」

「同じ声?」

「あぁ、毎夜夢に現れ、そして世界を滅ぼせとしつこく語りかけてくるらしい」

 それをたんなる夢と言ってしまえばそれはそこまでの話しとなる。だが、毎夜とくればそれはたんなる夢で片付けられる話しではない。

「俺はそこである仮説を立ててみたんだが、お前は常世の時代が滅んだ理由を知っているか?」

 アルベールは首を振るう。

「ある非常識に生まれた1人の神によって滅ぼされたんだ。そして、その神の名は……クリスティア」


こんばんは、物語も終盤になってきました。

一応完結したら今までの話しに修正を加えようと思います。

この物語に続く第2部も下書きは順調に進んでいます(投稿するときにまた路線が外れそうで怖いです)

次回は土曜くらいになると思いますので、最後までよろしくおねがいします

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