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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
42/90

シオンの揺らぎ

 季節は巡っていった。

 東大陸全土を巻き込んだ戦いから1年が過ぎ、戦災による復興も進みかつての姿を取り戻しつつあった。

 この中央教会は復興と新たなる方針の下で国家は再び立ち上がる。城下には人間と魔族が共存する姿が見えクリスティアは満足げに頷いていた。最初の頃はやはりお互い距離を置いていたが、四十字騎士団や魔王達の説得から始まり、親睦を深めるために多々イベントを開き互いの種族という壁を削りようやく寄り添えるようになった。

 そして今、机に置かれた手紙にはネクロは死罪を免れ、民に誠意を見せ再び王座に着き、ヴァナトリアは立場上中央教会の属国という扱いになり一応は全て丸く収まった。

「うん、全ては上手くいっていますね」

 今は亡き両親に代わり一国を統べる王となったクリスティアは聖女として自信が付いてきたようで、多忙な日々の合間に民と交流を深め合ったり民の声を己の耳で聞き問題点等を纏め会議を開き魔王を含めた大臣たちと案を出し合い、国はさらなる繁栄に一歩ずつ進んでいた。

「えっと~今日の予定は……っと」

 引き出しにしまってある手帳を開き、一日のスケジュールを確認しつつも困ったような表情を浮かべる聖女。

「今日もハードスケジュールですね。まぁ、民のためですから仕方ありませんね」

 基本的にスケジュール調整はステラに任せているのだが、時々あまりの過酷さに本気で泣き出した事も今となっては酔い思い出として苦笑する。

 扉を2度ノックし返事を待たずに扉は開かれシオンが姿を現す。

「シオン君おはよう」

「あぁ……」

 気怠そうに返事をして手元に持った資料を机に置き、用は済んだというように回れ右をし部屋を出ようとしたところでクリスティアが彼の腕を掴み阻む。

「なんだよ」

「ちょっと待ってシオン君、この後って暇?」

「暇じゃねェよ」

「暇だよねッ!」

「チッ……暇だったら何だよ」

 魔王の1日の仕事内容もステラが纏めクリスティアに提出されていた。これは、彼らのだいたいの居場所を把握するもので緊急時の際にすぐさま呼び出せるようにする為のものだった。

「今日は各国の代表がフィール連合国に集まって近況報告とか? の話し合いをするんだけど、シオン君には私の護衛をしてもらおうかなって思って」

「護衛なら俺なんかじゃなくて、アルベールとか付けりゃいいだろうが」

「う~ん、本当はシオン君と少々大事なお話しがしたいので出来れば引き受けて欲しいのですが」

 少々大事な話しという部分にシオンは怪訝な表情を浮かべ溜息を溢す。

「少々大事って何だよ。あまり大事じゃないのかよ」

「えっと、ちょっと大事?」

「……わかったよ。んで、何時に何処にいればいいんだ?」

 仕方ないと諦めたシオン。こうして目の前にいる少女はシオンとの約束を果たし人魔共存の国家を1年という短い期間で造り上げてしまった為に強く反論する事が出来ない。いや、反論等は出来るのだが無為に断ればクルトと何故かヘルに睨まれ命の危機を感じていたシオンは渋々承知してしまっていた。

「1時間後に表門に来てください。あまり遅刻はしないでくださいね」

「了解だ」

 短く返し、今度こそ部屋を出ていく。


 シオンは揺れていた。

 本来彼は人間に対する憎しみを抱き人生の殆どを過ごしてきていた。それが、シラーとの戦いに敗れてから全てが変わってしまった。クリスティアという人間と賭けも敗北。おかげで彼は人間が暮らす国に身を置き、その人間達の中で働き共に時間を過ごし更なる変化が生まれた。

 憎しみという感情に陰りが発生し始めていることに気づいたのは最近のことだ。だが、それと同時に今までの自分が惨めに感じてしまい憂鬱な気分にさせられていた。

 他の魔王も今では人間に溶け込み人魔共存し楽しそうに日々を過ごしている。

「腹立たしいんだよッ!」

 拳を壁に叩き込み痛みによって冷静さを何とか取り戻す。

「俺は……今後どうすればいいんだ」

 独り言を呟きつつも、時間まで自室で過ごそうと眉間に皺を寄せつつも歩き出す。

 窓から差し込む温かい日差しと賑やかな城下街。争いのない平穏な風景に口元は緩んでいた事に気付くと急ぎしかめっ面を装う。それでもと彼の胸中にはモヤモヤとしたわだかまりだけが渦巻いていた。

「よお、シオン」

 背後から名を呼ばれ振り向けば、右目を髪で隠しシオンに負けじと劣らない鋭い左目と視線が交わる。

「なんか用かよ、シラー」

 あくまで不機嫌さを隠さない声音でシラーを睨みつけるも、肩を竦ませるだけで大した効果はない。そんな事は百も承知の上だが、何故か無意識に今ままでの癖なのか他人を突き放した態度を取ってしまう。

「ハッ、なんだか機嫌悪そうだな。せっかくお前にいい話を持ってきてやったってのによ」

「いい話し……だと?」

 釣れたとシラーは不敵な笑みを浮かべる。

「話しはすぐ終わるらしいから、気になるなら付いて来いよ」

 らしいという事はシラーが話すのではなく他の誰か。シオンは舌打ちをしつつもクリスティアとの約束の時間までを過ごす手段を見つけたので仕方なく同行し、部屋に通されて付いて来た事を酷く公開した。

 室内にはクルト、エリーザ、アズデイルの3人がソファーに腰を落ち着かせトランプをしていたのだ。このメンバーから舞い込む話しというのはたいていがどうでもいい内容だったりするので、一番まともなクルトに訴えるかのような視線を向けるが、その視線に気づいていてあえて無視しトランプに集中する。

「俺の勝ちだね」

 クルトが一番にあがりを決め、エリーザとアズデイルから不満の声が上がる。

「クルト絶対未来創造とか未来視とか使ったでしょ、使ってなきゃ絶対おかしいもん」

「そうですよ。私たち相手に能力を使うのはどうかと思いますが?」

「うん? 俺は能力なんて使ってないぞ。ただ、お前たちは少々顔に出やすいから気をつけた方がいいな」

 そんな日常的やり取り。普段から仲の良いシラーやエリーザ、アズデイルの3人であれば普段からトランプ等はしていただろうが、今はクルトが交じり、そしてシラーに腕を引かれ席に着かされ強制的にカードを持たされているシオン。これが、エリーザの望んだ家族のような在り方というものなのだろうか。

「トランプは構わねぇけどよ。話しって何だよ」

「そんな事言ったか?」

「はぁ? テメェ、俺にいい話があるとか抜かしてただろ」

 とぼけるシラーにシオンは眉を潜める。

「そういえば言ったかもな。まぁ、話しがあるのはクルトだ。そっちにでも聞いてくれ」

 シオンのカードを一枚引き抜くシラー。

「ふふん。じゃあこれにするわね。うっわ~」

 シラーから一枚引き苦虫を噛み潰したような嫌な顔を浮かべる。

「では、これをいただきましょうか……!?」

 アズデイルもエリーザから一枚引き、エリーザと同じようなわかりやすい表情を形作る。

 これは確かにクルトも能力を使う必要が無いなと察して、クルトに視線を向けるが、クルトはアズデイルからババを引き抜き、アズデイルはふっと笑いクルトも妖しげな色香を纏った笑みを浮かべ、手札をシャッフルしシオンの目の前に突きつける。

「さぁ、シオン選ぶんだ」

「チッ、いいから話しがあんだったら話せよ。俺はこの後あの人間の護衛につかなきゃなんねぇんだからよ……クソッ、婆かよ!!」

「……」

「……」

「えっ……シオン?」

「ふふ、シオン。お前も分かりやすいな。顔に出すだけじゃなく声にまで出してくれるとは」

 全員の視線を一気に集めている事に気付き、髪を強く掻きながらも手札をシャッフルしシラーに突きつける。

「早く選べよシラー。テメェには1度敗北してんだ。これ以上は負けられねぇんだよ」

「ハッ、俺にババ抜きで勝てると思ってんのかシオン」

 シラーはシオンの瞳をじっと見つめながらも慎重に指を一枚一枚に這わせ焦らしながらシオンの反応を伺っていた。

 あまり気長な方ではないシオンからすればその焦らしにイラつきを覚え、徐々に心を乱されシラーの術中にはまっていく。

 そうして、結局トランプはクルト、シラー、アズデイル、エリーザ、シオンという順位で終わりシオンは手札に残った1枚のババを睨みつけ無造作に机の上に放り投げる。

「つかよ、俺は遊ぶ為に来たんじゃねぇんだよ。用があるならさっさと済ませろ、さっき言ったように俺も暇じゃねぇんだ」

 シオンはクルトに視線を向け、クルトは普段は閉じている瞳を開き、黄金色の瞳はシオンの瞳と交わり頷く。

「そうだな、お前はこの1年人間と共存しどう感じた?」

「別に……なんも感じねぇよ」

「嘘だな。今のお前は揺れている。特にクリスティアの前では特にだ。何か思うところがあるんじゃないか?」

 揺れている。

 それはシオンの内心の事を指していた。人間に対する憎しみが薄れ始めているのを自覚はしていたが、まさかクルトに見抜かれているとは思いもせず

固唾を飲み込んでしまう。それをクルトは見逃さなかった。

 これはシオンがクルトの言葉を認めたという反応として捉えたとその黄金色の瞳は愉快そうに笑う。

「チッ……クルト、テメェこそどうなんだ?」

「俺か? 俺は普通に夜の酒場で人間と酒を飲み交わし、会話に花を咲かせているよ」

「私も同じく~、なんだかんだいって人間も魔族と変わらないしね」

「えぇ、違いといえば彼らより少々強いってだけでしょうしね」

「俺はガキの頃は人間に育てられたから、当然って感じだ」

 今この場にいる者達は人間社会に完全に溶け込み、自分の居場所を見出していた。

「俺は確かにクルトの言うように揺れてるかもしれねぇな。だが、アイツ等が俺の妹やダチを殺したのも事実だ」

「だからシオンお前は揺れているんだろう? かつてお前が見た人間のイメージがお前の中での人間像だが、実際に触れ合うことで彼らも我ら魔族と同じだという事を理解し始めているんだ。いや……もう理解しているのかもな。そしてクリスティアは真摯にお前に向き合っている。シオン、お前にとって初めて自分自身にぶつかってきてくれた人間だろ?」

「あぁ、あの女は無謀とも思える俺との約束を果たしやがった」

「それって人魔共存の事?」

 何処から取り出したのかお菓子をほおばりながら何気なくも会話に混じり込む。

「そうだ」

 シオンは短く応える。

「人魔共存、確かにそれは容易なことじゃない。だが、クリスティアはこの1年本気だった。休む暇もなく人間と魔族の双方を何度も説得し今の現状を作り上げたんだ。俺は正直言ってあの娘が気に入ったよ」

「うん、私もクリスティアちゃん好きだよ。なんか面白いし、この間お菓子作ってくれたんだけど、とっても美味しかった」

「えぇ、私はエリーザが認めた者であれば私も認めざるを得ません。まぁ、確かにこの1年ほんとよく頑張ってくださいましたね。もちろん私個人的にも認めていますよ」

「俺はもとから別に嫌いじゃない」

 皆完全にクリスティアという少女に気を許し彼女の下で1つに纏まろうとしていた。

「俺は……」

 シオンは今一度自身に問いかける。

このGW投稿できずに申し訳ありません。

 GWなら時間もいっぱいあるだろうと思っていたら、結構忙しく全く書けない状態でした。

 今日からまたちゃんと書いていきますので、どうかよろしくお願い致します。

質問や、この文章なんか変じゃね?って所があれば教えていただければ幸いです。

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