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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
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友への贈り物

 中央教会応接の間にて二人の男の姿が見受けられた。


 一人はこの国の最高権力を持つ聖王ヘブリド。それに対するは困ったような表情を作る中年の男。


 その男の服装は一般信徒や中央教会純聖騎士のものとは違い、黒を基調とした修道服に純白のマントを纏っていた。


「何故です!! 何故他宗教の信仰を許されるのですか、私を含め多くの信徒が不安を抱えているのですよ」

「バルデン司教、いいか今時自身の信仰こそが絶対とし他者に強要すべきではないのだよ。北大陸のヴァーミリア教会国の件知らぬはずはないだろう?」


 バルデンと呼ばれた男は表情を固く、拳を握りしめる。


「えぇ……存じております。自身の神こそ至高と考え、他宗教を廃絶させ布教を広めた国だとか」

「そうだ、その身勝手な行動が呼んだ結末は他宗教連合の反乱による国の崩落だ」


 あくまで冷静に話すが、それは自分たちの国も無関係ではない。一つやり方を間違えれば多くの信徒を失い国は簡単に灰燼と帰すだろう。もちろん宗教国家に限った話ではないのだが、信仰は時として人々を盲目的苛烈に陥らせる一種の麻薬と言ってもいいだろう。


 だからこそ、慎重にならねばならぬと常々、最悪の事態と打開策を考えている。


「ですが、このまま他宗教の存在を許し続けていれば、我々の信仰は呑まれ国家転覆という最悪の事態を引き起こしかねません。ですから早めに……」

「くどいぞッ!!」

「……ッ!?」


 滅多に怒声を張らぬヘブリドに態度にバルデンは驚き戸惑い言葉を紡ぐことができずにいる。


「すまない。バルデン司教のこの国と神を愛する気持ちは十分に伝わっている。だがな、俺は宗教戦争なんて馬鹿馬鹿しいものを引き起こしたくはないんだ……」


 溜まった疲れを吐き出すように大きく溜息を吐く。


「そうですか。わかりました……」


 バルデン司教は深く頭を下げ部屋を後にする。


 残されたヘブリドはもう一度大きく溜息を吐き、天井をぼんやりと眺める。


「今は仲間内で争っている場合ではないんだ。クロノーウェル教団国、ヴァナトリア帝国の脅威から平和を守らねばならないのだからな」


 五大強国とされるクロノーウェル教団国は神に背反し邪教の道を歩む中央教会とは対となる国で、異質な術式を用いては他国を潰し五大強国と呼ばれる程に成長を遂げ、生け捕りにした平民から貴族王族まで邪教の贄とし何やら実験を繰り返していると言われている。


 そして、問題は五大強国最強と言われるヴァナトリア帝国。かつては温和な皇帝で民に理解があり他国との信頼関係も強い国であったが、数年前に皇帝は憑き物に憑かれたかのように豹変した。


 連携の取れた兵や魔術師。諜報活動から暗殺に長けた特殊部隊。そしてヴァナトリア帝国が誇る個で数千の軍勢に匹敵すると言われるヴァナとリア帝国皇帝ネクロ・ヨグ・ヴァナトリア。その娘であるナコト・ヨグ・ヴァナトリア。


 どの術式の系統にも見られない異界の法を使い近隣小国を攻め落とし、その国の王族を逆さに串刺し見世物として晒す行き過ぎた行いを好み、何度か同じ五大強国であるフィール連合国と警告をしたが聞く耳を持たず、次第に領土は東大陸一となった。


「一丸とならなければ、この国は……いや東大陸は恐慌と退廃に呑まれ荒野と化してしまう」


 アルベールとクリスティアは城下の街を歩んでいた。


 流石に次期聖女であるクリスティアの人気は絶大なもので、行き交う人々から声をかけられ、それに一人一人丁寧に対応していく。


 子供たちは詰め寄ってきて握手を求めてくるのでその度に歩が止まる。


「ごめんね、アルベール君。中々街を案内出来なくて、多分この通りを抜ければ人も落ち着くはずだから」

「ふむ、了解した。それにしても凄い人気なのだな」


 少し離れた場所からその様子を見ているが、人に揉まれながらも常に笑顔を崩すことないクリスティアに関心していた。


「う~ん、どうなんだろうね。でも、いつもはステラ達がいるからここまではもみくちゃにはならないんだけどね」


 人の波を抜けた頃には服は皺だらけになり、髪も所々跳ねていた。


「クリスティアよ、友達とは普段何をすれば良いのだ?」


 友達。アルベールにとって仲間はいるが友達というのは初めての存在で、どうのように接し何を話せば良いのかイマイチ分からなかった。


「えっと、多分普通にお話したり遊んだりするのが友達だと思います……その、言いにくいんだけどアルベール君って私たち以外に友達っている?」


 問われた質問に首を左右に振る。


「否だな。他の魔王は友というより仲間と言った方が正しいだろうし、普段他者と接触する機会など無かったので友という仲は貴殿達が初めてだ」

「私たち似た者同士だね。自分で初めて作った友達。これからも仲良くしてくださいね」

「うむ、当然だ。何かあれば必ず駆けつけると約束しよう」

「じゃあ私も困ったことがあったら言ってね、なんでも相談に乗るから」


 そんな感じの会話を繰り広げていると、一軒の店にたどり着く。


「このお店のアクセサリー凄い綺麗なんだよ、折角だから何かプレゼントしたいなって」


 手を引かれ店に入るとガラスや色石などを加工して作られた装飾品などが並べられていて、値段も手軽な物から高価な物までと幅広くあり、客も女性が多数を占めていた。


「おやクリスティア様、今日は何をお求めで?」

「お婆ちゃんこんにちは。今日はね私のお友達に何かプレゼントしたいなって思って寄らせてもらったんだけど、何かオススメとかありますか?」

「ほうほう、なるほどのぅ。もうそういうお年頃かえ」


 老人の視線はクリスティアの背後に立つアルベールへと向けられ、意味ありげな笑いを漏らす。


「そうじゃのう、二人お揃いなんてどうじゃろうか」


 そう言って手渡してきたのは、緑色の色石を葉の形に加工したペンダントだった。


「わぁ~、凄い綺麗だね。アルベール君どうかな」

「確かに綺麗だ。職人の細部まで手を抜かずに作られた作品に情熱的なものを感じ取ることができる」

「ほほほ、殿方は目利きが良いようじゃな。何を隠そうこの作品を一から手がけたのはこの私なのだよ」

「お婆ちゃんお手製なんだ。じゃあこのペンダント二つ下さい」


 本来は結構値が張るらしいのだが、特別にと割引にしてもらいクリスティアが会計を済ませ、片方のペンダントを手渡してくる。


 それを、受け取り早速二人で身につける。


「うんうん、アルベール君凄く似合ってるよ。瞳の色とまったく同じで綺麗だね」


 素直に褒められるとアルベールといえどつい嬉しくなってしまい、表情が柔らかくなる。


「クリスティア、貴殿も似合って……いる」

「照れてる?」

「少々……」


 その後は色んな区画を歩き休憩などをとっていると日は茜色に染まり街を照らしていた。


「今日は楽しかったよ、ありがとうアルベール君。……そういえば、明日この国を出るんだっけ?」

「うむ、昼前にはこの国を出る予定だ。ロベリア王国の件で1度戻らねばならぬのでな」

「そういえば、グレイ君が最後にお昼食べようって言ってたから良かったら一緒に食べよう」

「そうだな、楽しみにしているよ」


 アルベールはクリスティアを城まで送り届け、自身も宿泊する貴族向けの宿に帰宅する。


 明日にはこの国を出なければならない、次彼等と合うことが出来るのはいつになるかは分からないが、必ずまたこの国に今度は長期の滞在もいいかもしれないとアルベールは思った。


「全て片付いてからだな」


 布団に身を潜り込ませ薄暗い天井を眺めながら、今日という日を思い返していた。


 この国に来なければ、ロベリア王国の件は未だに一人悩み続けていただろう。それに、なにより友という者達が出来たのは大いなる進歩だと思っている。人間というその身は脆弱でありながら必死に毎日を生き、成長するその姿はとても愛おしく感じる。


 訪れてきた睡魔に瞳を閉じる。

 


 男は一人書斎にいた。


「何故だ、何故分かってくれないのだ。このままでは中央教会は異教徒どもに呑まれ東大陸に覇を唱えることができないッ……」


 黒い修道服に純白のマントを纏った男バルデンは一人苦悩していた。


 手元にはボロボロになるほど読み続けた一冊の聖書。これこそが彼の信仰という道を授けてくれた天からの贈り物だった。


 幼少の頃は外であ遊ぶことより室内で本を読む事を好んでいて、日々父の書斎に忍び込んでは本を読みあさっていた。


 そのおかげで知識だけは豊富で、何か困ったことがあればその本から得た情報をつなぎ合わせ窮地を脱したこともあった。


 そんな彼の本来あるべき信仰の形への道を阻む存在、それが現聖王ヘブリドだった。


 何度彼に懇願しても彼はバルデンの意見に聞く耳を持たず、進行の自由などという馬鹿げた虚言を現実にしようとしている。


「それが大いなる崩壊への道だと何故気づかないのです……かくなる術は」


 見計らったように扉を誰かがノックする。


「バルデン殿、仰せつかった件準備が整いました。いつでも始められます」

「ふふふ、そうですか。ご苦労様です。同士には私が合図を出すまで地下深く息を潜めているよう伝えてください」

「貴族は如何いたしますか?」

「あのような信仰心もない欲まみれの俗物は断罪の対象です。生かすことは神が許しません」


 扉の向こう側の気配は消え、バルデンは今一度手元の本に視線を落とす。



 翌日アルベールは約束通りクリスティア、グレイ、ステラ、ジークリートと共にこの間の店に来ていた。


「今日は盛大に食って食って食いまくろうぜ! この日の為に朝食抜いてきたんだからな」

「まったく、グレイ貴方は食べることしか頭にないのですか?」

「おう!」


 グレイは親指を立て早速メニューに視線を泳がせる。


「邪魔だぞ、そこをどけ!!」


 すると、入口の方から何やら騒がしい声が聞こえ一同顔を向けると、どうやら客と客が言い争っていた。


 片方は普通の人だと分かるが、もう一人は手勢を数人連れた貴族のような出で立ちだった。


「おい! 聞こえなかったのか、そこの席はハミルト公爵の席であるぞ」


 鍛え抜かれた近衛騎士に無理やり席を退去させられ、客は何も出来ぬまま悔しそうに拳を固め震えるだけだった。


「あの輩は一体?」

「あれはハミルト・ディア・カロティア公爵。毎日を豪遊する国の害悪なんだが、かつて剣の腕は先代聖王にも認められる程の強者だったのだが、いまではもう錆び付いているだろうな」


 ジークリートが珍しく苦虫を潰したような表情で語り、そう言っている間にもハミルトは好き放題と手頃な女性に接待させている。


「はぁ……ちょっといってくるからアルベール君は待ってて」


 そういいクリスティアとステラ、グレイ、ジークリートは席を立ちハミルトのもとへ向かう。


「ごきげんよう、ハミルト卿」

「おやおや、このような所でお会い出来るとは思いもしませんでしたよクリスティア様」


 ニヤついたその表情に怯むことなく、クリスティアも笑みを向ける。


「これは一体何の騒ぎですか?」

「えぇ、ワシの席が無かったんで友好的にそこの客に譲っていただいたんですよ」


 ハミルトの視線の先には先ほどの客が俯いていた。言い返したくても相手は大貴族、下手に逆らうよりかは従っていたほうが良いに決まっている。


 いくらクリスティアが次期聖女といえどこの場を去ってしまえば、ハミルトは何か必ず報復そしに来るはずだ。平和そうに見えたこの国も人知れずこのようなことが起こっている。


「ハミルト卿の話しは本当ですか?」


 クリスティアは男に問う。ハミルトはどうせ何も言い返せないだろうと踏んで余裕の態度をとっている。だが、後で報復されても構わない、今一矢報いれるならと発言する。


「この貴族に俺は無理やり席を立たせられ、食べていた料理を地面にぶちまけられました」


 その客の勇気ある行動にクリスティアは大きく頷きハミルトに向き直る。


「ハミルト卿、彼はこう仰っていますが?」

「ふん、変な言いがかりはやめてほしいものですね」


 その言葉を聞き周囲の客たちもハミルトの嘘を指摘する。


「貴様らッ!! 誰に楯突いているか分かっているのか?」

「ハミルト卿、じゃあ私はあなたにこう言いますね。貴方は誰に嘘をついたか分かっているのですね?」


 その言葉にハミルトは黙り込み、乱暴に席を立ち手勢を従え店を出ていく。


 クリスティアの勇姿に完成が沸き、緊張の糸が切れたように手が足が震る。


 その後は皆席に戻りクリスティア立ちの分の料金は他の客が支払う形になった。やはり、グレイはいつもの大盛り料理にアルベールも付き合わされ同じものを頼み、クリスティア、ステラ、ジークリートもお気に入りの料理を頼み楽しい昼食の一時を過ごした。



 昼食を食べ終え正門まで見送りに来ていた。


「アルベール君、絶対にまた遊びに来てね」

「うむ、安心するがいい。我もまた皆と有意義な時間を共に過ごしたいと思っている。今抱えている問題が解決したら必ず会いにいく」


 三人と別れを済ませアルベールは再び銀翼を形成させ天高く飛翔する。


次回から物語は大きく動いていきます(多分……)






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