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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
33/90

シンの覚醒、狂王の目覚め

 シン、グレイ、ジークリートは異形の赤児の群れにより離ればなれとなろ孤立し奮闘していた。

 切っても切っても再生と増殖を繰り返す。貪食の存在に3人の腕は限界を迎えかかっていた。なによりも血を多く流しすぎたせいもあり、

身体に力が入らず、このままいっその事抵抗を止めてしまえば楽になれるのではないかとさえ脳裏をよぎる。

「ちっ、暗黒の使い魔どもめ……この光神剣:破帝の力見せてやるぜッ!!」

「勝手な真似はするなッ!!」

 大群に単騎特攻を駆けるシンはジークリートの声も届かずに冷静さを欠いた行動に出た。

 戦場で冷静さを失った者がたどる末路は死。

 大剣をがむしゃらに振り回し赤児を切り伏せていくが、切られた部位から新たな赤子が生まれるため数は増える一方だった。

「ちっくしょ…う、こんなところで死ねないのによ、俺はこの戦争をとっとと終わらせて行かなきゃいけないんだ」

 剣を握る手から力が抜け、腕も思うように上がらなくなってきていた。

 当然斬撃の速度は減退し、包囲網を形成され距離を縮めてきている。

「シン、今助けに行く。どうにかして持ちこたえろッ!」

 両の足に腕に脇腹に赤児をぶら下げながらも、必死に剣を振り助けに向かうジークリートが奮闘をしていた。

「聖なる乙女の騎士……ジークリート、こんな俺の為にわざわざ死にに来なくたって」

「馬鹿がッ、お前は俺たちの仲間だ。見殺しには出来ない。お前が死を望んでも俺達はお前を死なせない、お前に問うお前の名前はなんだッ!!」

 普段は黙しているジークリートの激昂。仲間という単語にシンは表情を隠そうとしたが上手く隠せず、口元が緩んでしまう。

 そして名を名乗ろう。いつものように。自然とみなぎる力を感じていた。

「聖なる乙女の騎士よ、そして元凶の王よ俺の名を聞け! 俺の名はシン・リードハルト咎を嘆く者なりッ!」

 シンの握る大剣に微弱ながらも変化が見受けられた。

 淡い光を纏い鼓動しているかのような感触が手のひらを伝い全身に感じられる。

 鳴動……大剣に秘められし力の奔流。

 自身の正義を貫かんとする意思、瞬間的ではあるが消えかかった灯火に再度焔が宿る。

 必然か神の悪戯か、シンに秘められた能力の開花。

「なんだ……これ?」

 先ほどまで激痛を宿していた身体だが今は噛まれている事すら忘れそうな程度にしか感じられない。

 そして、纏わりつく赤児を殴り飛ばす。

 先程まで拳でのダメージは薄かったが今の殴打により赤子の身体は粉砕し赤い霧が宙を漂う。

「?」

 現状に思考が追いつかないシンだが、コレを好機とみて近くを這っている赤児を殴りつけるが、効果は無かった。最初の時の様に弾かれてしまう。

「どういう事だ、さっきのは粉々にできたのに……」

 諦めずに周囲に這っている赤児を殴りつけていくがどれも効果は無かった。

 這っている赤児の1人がシンに飛びついてきたため咄嗟に拳を突き出す。すると、その拳は赤児を貫き身体を粉々にさせ先ほどと同じような威力を発揮させた。

「中々に面白い能力を使うね、だが理解してない以上は使い方もわからないだろ?」

 ネクロは術式を解き、何かを模索しているような仕草をとる。

「聖なる乙女の騎士よ、今がチャンスなんじゃないか?」

「いや、何かの策かもしれない。ここは此方も怪我の回復に専念しておこう」

 ジークリートの治癒の術式により傷が癒え溜まった疲れも和らいでいく。

 ネクロは何か思い至ったのか思考を辞め、シンに話しかける。

「君の名は……シンと言ったかな? たぶん君の能力がどのようなものか分かったかもしれない。君の能力は相手が攻撃を仕掛けてきている時に効果を発揮するんじゃないかな、逆に無抵抗な相手には一切力を示せないみたいだね。簡単に言えばジャンケンでいう後出しだ」

「威力を増してのカウンターか」

 シンは自身の奥底から溢れる力の波動をひしひしと感じていた。

「まさか、突然変異だとでも言うのだろうか。一般の人間にここまで強力な能力が宿るものなのか?」

 1人ブツブツと呟きながらシンの能力について考えている。

 傷も癒えたシン達からすれば絶好の好機なのだが、あからさまな無抵抗な姿勢を見せられ、罠である以前に騎士としての誇りが優先してしまい、逆に手を出せないでいた。

 この時ほど自身の騎士としてのプライドが歯痒かったことは無いというくらい悔しい思いをさせられつつも、いつでも切り掛かれるように得物だけはしっかりと構えておく。

「ふふふ、ふふふふふふ。実に素晴らしい能力だ。俺はその能力が欲しいッ! 」

 ネクロの殺意に反応して赤児のような柔らかみがありそうな、だが巨腕がネクロの後方の瘴気を纏う魔法陣から伸び腕を振るう。

 シンとジークリートは何とか身を低くし回避をしたが、反応に遅れたグレイはその豪腕により吹き飛ばされ、壁に背を強打し、肺を損傷したのか血を吐き地面に崩れ落ちる。

「シン動くなッ!!」

 グレイに駆け寄ろうとシンは姿勢を低くしたまま駆け出そうとするが、ジークリートに腕を引かれる。

 その直ぐ後に巨腕の第2擊がシンが駆けようとしていた場所を薙ぐ。

「あぶなかったぜ……助かった聖なる乙女の騎士ジークリート」

「いちいち呼び名が長くないか?」

「格好良いは正義だ!!」

「……そうか」

 迫り来る災厄に2人は剣を握り締め駆けていく。

 この場所に逃げ場はなくただ勝利という結果以外に逃れる術はない。

「君たちが如何様な策を用いたところでコイツには勝てぬだろうよォ」

 赤児の拳はシンを捉え振り下ろされる、それに対して回避するでもなくただシンは右手を掲げる。

 そして衝突。振り下ろされた腕を右手のみで支え押し返す。

「俺の力の前ではたんなる赤子とのじゃれ合いだぜ、今が好機だ聖なる乙女の騎士」

 言われるよりもはやく地面を蹴りネクロに向かって行くジークリート、だがネクロは焦る素振りを見せることなく落ち着きを払っていた。

「ネクロ・ヴァナトリア、数々の暴政を悔いながら死ね」

 だが一向にその大剣はネクロの頭部に振り下ろされることはなかった。

「ぐッ……何故だ!?」

 振りおろそうとするが身体が抵抗し振り上げた形で膠着状態となっていた。

 まるで、何かにとり憑かれたように…

「聖なる乙女の騎士ジークリートどうした?」

 シンが赤児の腕を弾き訝しげな表情でジークリートとネクロを見据える。

「ふふふ、どうしたのだジークリート早く俺を断罪するんじゃないのか?」

「そちらから来ないなら此方から行かせてもらうぞ」

 ネクロは高速で複雑な術式を展開させ魔法陣から先程のような標準の大きさの赤児ではなく、もっと巨大な人間を丸呑みできそうなほどの赤児が産声をあげ、ジークリートを殴りつける。

 その巨椀の一撃はジークリートを軽く吹き飛ばし、地面を転がりながらも剣を使い減速させやっとの思いで停止させる。

 いくら大陸に名を馳せるジークリートといえども身体に蓄積されたダメージは深刻だった。

ふらふらと剣を支えに立ち上がるが、呼吸は乱れ冷や汗を流し口からは血が止めどなく溢れ出している。

 どこか臓器をやられたのだろうとシンはすぐに思い至り、赤子の股下を全速力で駆け抜け今にも倒れそうなジークリートの元に駆け寄る。

「おいッ!大丈夫か無理はするな、後は俺が戦うからジークリートお前は休んでろよ」

 朦朧とする意識の中辛うじてシンを視界に捉える。

「…………」

 ふと力が抜け完全に意識が深い微睡みの底に沈む。

 ジークリートの身体を花畑に横たえさせ自身の大剣を再び握りネクロに向かい合う。

「ふっ……ここからはこの咎を嘆く者シン・リードハルトが相手になってやるぜッ!」

「ほぅ、ならば俺も全力という返礼をしようかね」

 ネクロの周囲の空間は歪みだしそこに手を沈め引き抜く。

 そう次元召喚、魔王が有する武器や運べぬものをしまっておく事のできる空間。そして引き抜かれたのは1本のナイフだった。

 そのナイフの纏う神聖さに直視することが叶わず、目を背けたくなるほどで、このまま見ていると眼が焼かれ失明するのではというほどの代物だった。

「これが俺の因果創神器:クリオスキュリアの短剣(黄昏の短剣)」

 短剣を逆手持ちにし姿勢を屈めながら大股で駆ける。

「なにッ!!」

 大股で直線上に向かってきているだけなのに視界で捉えにくいのだ。まるで揺らめく陽炎のように存在が不確かな者のように距離感がつかめない。

 気づいた頃にはシンの間合いまで詰めてきていたが、今からでは剣を振るっても間に合わないのは理解してはいたが、隙を一瞬でも作れればと大剣を振るうが、腕をネクロに掴まれそのまま地面に叩きつけられる。

「ウグッ!?」

「俺の本領は術式じゃないんだよ。極限の域にまで上り詰めた体術とこの因果創神器こそが本来の戦い方なんでね。アレ(赤児)は単なる余興程度にすぎんのだ」

 地面に仰向けとなり胸部を足で踏まれ身動きが出来ずネクロの空洞となった右目が間近に感じられた。

「切り刻め黄昏の短剣」

 剣先をシンに向けるだけで切りかかろうとはしない。

「があッ……ごぼっ……」

 シンの口から鮮血が迸り衣服や地面を紅く濡らす。

「どうだ面白いだろ。この剣は剣先を向けた対象者の内部だけを切り刻む代物でね、内部だけを切られるってのは怖いだろ? どのくらい深い場所まで切られているかもわからない、体中内出血で傷口がない分どこを切られたか正確な場所の特定にすら時間が掛かり、手術も手遅れとなりそのまま死亡なんてこともありうるんだ、画期的なアイテムだろ?」

 流石にシラーはこの光景に危険を感じ、助けに入ろうとするが、弱々しくもシンは手を突き出しそれを拒む。

「シン……」

「へっ、くだらねえぇぜ……そんな陳腐なナイフで俺の咎を切り崩すことはできやしないぜ」 

 自分でも去勢だということくらい分かっていた。悔しいが実戦なんて初めてで剣だってどう使えばいいのか分からないし実力もある方ではない。

「ほぅ、せっかく魔王が手助けしてくれようとしていたのを拒むか」

 ネクロの髪の隙間から覗く空洞の眼窩。

 全てを飲み込んでもまだ足りないというような欲深かさを肌に感じる。

「そうか……ならその咎という物が切り崩せるまで切り刻んでやろう。今度は本当の刃がお前の胸に沈むがな」

 ネクロは無表情で静かにナイフを振り上げシンの心臓目掛けて振り下ろす。

 シンの体感速度はゆっくりとなり、徐々にナイフが近づくのを見つめながら今までの記憶が脳裏を駆け抜ける。

 これが走馬灯という奴かと感心していた。

 なんて呑気な事を考えつつもやり残した事が1つ思い出した。

 眼前に迫る鋭利に輝く刃。

 不意に手が動き、それは迫り来るナイフに向かって伸び刃を握り締めていた。

 自身の顔に血が滴り落ちる。

 そしてネクロの腹部にバネを効かせた蹴りを放ち、後退しながら揺らめきシンを悪魔のような表情で睨みつける。

「俺は……死ねない。まだ、やることがあるからな! どうやら神は俺を生かさせたいらしいな、勝手に身体が動いちまったぜ」

「残念だが、お前は今この場で死ぬ運命だ、この俺の手によってね」

 その効果での一撃ではなく、ナイフというy物質をシンに向け放つ。

 投擲されたナイフは一直線にシンの心臓めがけて軌道を走るが、その速度を視認することは不可能だが、先ほど地面に叩きつけられた時に主人の下を離れた大剣がシンの眼前に現れ刃を弾く。

「なにッ!?」

 そして大剣に弾かれたナイフは軌道を変えその刃先はネクロの胸元に飛来する。

「ふざけるなッ!! 我が縦となれ忌み児よ」

 主人の命に従い群れをなし壁となるが、鋭利なる刃を抑えるには壁は薄すぎた。

 赤児の壁を浄化させネクロの胸に深々と刺さりそこで速度は殺される。

 ゆっくりと地面に倒れるネクロをシンは咄嗟に支え仰向けで寝かせナイフを抜き傷口に対して治癒の術式を施す。

「シン・リードハルト……」

「勘違いしてもらっちゃ困るぜ、お前には法の裁きを受けてもらう」

 溢れ出る血をなんとか止血しようと、治癒の術式に専念するが、そもそもシンは術式はあまり得意な方ではないので、上手く傷口を塞ぐことができない。

「チッ……退け人間」

 傷口に手を充てがい不安定な術式を施すシンを引き剥がし、意外な事にシオンが変わりに治癒の術式を施す。

 その腕前は見事なもので、見る見る内に傷は塞がっていき、それだけではなくネクロの内部に存在する"何か"をも浄化させていった。

 治癒が終わり、毒を抜かれたかのようなネクロは朦朧とする頭を振る。

「俺は……」

 周囲に視線を巡らせては己の今までの行為を脳裏がよぎり頭を抱え打ち震えていた。

グレイがほとんど空気だった気がします。

次回はナコトと雅を前半で、後半は敗北したネクロとクルトの続きを予定しています。

次の投稿は4月8日から9日と少し間があいてしまいますが、次回もよろしくお願いします。

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