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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
31/90

異形の術式を使う狂気の王、常世の術式を使う未来創造の魔王

 クルトとアルベールが結界の中で死闘を繰り広げている中で、3人の騎士と1人の王は対峙していた。

 互いに自分たちから動こうとせず、ただじっと相手の出方を伺っている。

「なぁ、シン、ジークリート。俺達勝てんのか?」

 珍しく弱音を吐くグレイにシンは鼻で笑う。

「ふっ……どうした聖なる乙女を守護せし騎士グレイよ。こんな貧弱な王を前に怖気づいたのか?」

「怖気つく……か、確かに今の俺は目の前のこの異常な殺気を孕む男を恐れているのかもな。見ての通り手が震えちまってるよ」

 グレイは引きつった笑みを浮かべながら震える手に改めて力を込め剣を握りなおす。

「安心しろグレイ。俺もこの男を前に心がざわついている。シンお前は本当に恐怖を感じていないのか?」

 普段あまり喋らず恐怖を感じることのないジークリートまでもが足を一歩引いていた。それをシンは意識は目の前のネクロに向けたまま一瞬だけ眼を二人に向ける。

「怖くないわけがない。だがな、俺は咎を嘆く者シン・リードハルトだ。やつの咎も俺が背負わなきゃいけないってのに恐れ慄いてらないだろッ!」

 恐怖を無理やり己の課した使命感で押さえつけ、単独で地を駆ける。

「おいッ!」

「チッ、急きやがって。グレイ俺に続け」

 遅れてグレイとジークリートも駆け出しシンを追う。

 先に駆け出したシンは既に自身の大剣の間合いにネクロを捉え、踏み込んだ足部に力を込める。

「咎人の鎮魂歌ッ!」

 技名なのだろうか、声を大にして叫びながら真一文字に一閃するが、振り切った剣は虚しくも空を切るだけでネクロに一撃を与えることは出来ず、一歩下がり攻撃範囲から抜け出したネクロは隙を生じたシンに跳ぶように一歩踏み込み拳をその腹部に叩き込む。

「オガァッ」

 シンの腹部を拳がめり込み捻り、内臓系に深刻なダメージを与え、その人間離れした一撃から次いで前蹴りがシンの顎を真下から打ち上げ吹き飛び、追従するように駆けていたグレイとジークリートを巻き込んで後方に転がる。

「どうしたのかね諸君、まだ戦いごっこは始まったばかりなんだがな、この程度の挨拶にも耐えれぬようでは俺を討滅することなんて叶わないぞ」

 愉快そうに喉を鳴らす狂気を惜しげもなく振りまく王に3人は瞳に闘志の色を宿し立ち上がる。

「ふっ……挨拶にすらなってねぇぜ!!」

 シンは口から血を垂らしながらも意地をと根性を燃やし、踏み出した足はカモシカのように小刻みに震え、先程拳を受けた腹部を押さえながらも一歩また一歩と歩を進める。

「おいシン、吹っ飛ばされといてなに一人でカッコつけてんだよ」

 一人立ち向かっていこうとするシンの肩にグレイが手を乗せる。

「聖なる乙女を守護せし騎士グレイ?」

「つか、呼び名長げぇよ。全くあの化け物に一人で勝てると思ってんのかよ」

「そうだ。俺達は手に手を取り合い、目の前の強敵を倒さねばこの馬鹿げた戦を終わらせることができない」

 シンとグレイが頷く姿を黒い王衣に身を包んだネクロは眺めていた。自身の内に蠢く破壊衝動を今か今かと抑えつつ。

「話し合いは終わったか? なら続きを始めようじゃないか」

 大手を仰ぎ身構えることをせずに余裕を見せつける。

「余裕ぶっこいてないで掛かってこいよ!!」

「愉快な騎士達だな。いいだろうなら死の間際に飢えた異形の神々を見せてやる」

 ネクロの周囲には魔力というには禍々しい力の奔流を王の間を瞬時に満たし尽くす。

「飢えに蝕まれし痩せさらばえた赤児よ、汝は誰にも必要とされず親の愛すら知らぬ哀れな生命。我は奇形である汝をこの手に抱き命の意味を授けよう。━━━━ヴァルフェルンド・ジーク・ロギアース(飢餓に飢えし赤児は親すら胃に収める)」

 ネクロの眼前に展開された瘴気を孕む魔法陣、そこからは何十何百何千何万に近い赤児が吐き出される。

 手の無い者。頭の半分が欠けた者。下半身が焼け爛れた者、2つの頭を持つ者、見た目は様々だが迫り来るシンを目の前に換気の喜びを歌っている。

「ちょッ!?」

赤児は一斉にシンに飛びつき己の飢えを満たそうとその身に歯を突き立てる。

「ぐっ…痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

「おやおや、未だ挨拶程度の甘噛みなのだけどね」

 シンは大剣を振り回し赤児を切り裂いていくが切断された面から新たな赤児が産まれ産声をあげながらシンの体に群がっていく。

「この咎を嘆く者シン・リードハルトに不可能は無いんだよッ!!」

 至るところから鮮血を噴出させながらも寄生虫のように身体を這う赤児を払っていくがキリがない。

「シンじっとしていろ、動くとお前諸共切り捨ててしまう」

 ジークリートは大剣を地面に突き刺すと亀裂がシンに向かって地面を走り、シンを抜けていくと同時に数多の赤児を吹き飛ばし細かく切断していくが全部を払いきれなかった分はシン自ら引き剥がし投げ捨てる。

「クク、神剣か……また厄介な代物だな。だが……恐れるには物足りぬようだ」

 ネクロの詠唱期間は継続されているため次々と無数の魔法陣を展開させ赤児を流出させる。

「くそっ、これじゃキリがねぇよ!!」

 体力も限界に近づいてきたグレイの剣を振るう力に衰えが見え始める。

「疲れただろう。だったらその闘士を収めその身を赤子共に任せれば直ぐに楽になれるぞ」

「誰が自ら死を選ぶかバーカ」

 肩で息をしながらも限界を超越し力尽きるまで戦う医師を見せるグレイ。

 シンやジークリートも身体から血を流し、食らいつく赤子を引き剥がしながらも何とか持ちこたえている状況で、長くは持たないだろうとネクロは眺める。


 その頃、結界内ではアルベールとクルトが術式を展開しあい、攻防を繰り広げていた。

「邪性を払う神聖なる銀よ、無垢なる存在を守る刃となれ━━━━ズィルヴァンシュ オーゲ レイン(神聖銀の矢)」

 上空に銀色の魔方陣が描かれ、まるで雨が振るかのように銀色の矢がクルトを射貫こうと降り注ぐ。

 その術式を読んでいたかのように、クルトは手の平を天に向ける。

「カウンテルト:アーク リーヴン(解現:黒染めの魔)」

 クルトの手のひらを中心に展開した重複型の魔方陣は黒く波紋を広げ邪を払う銀の矢を飲み込んでいく。

「カウンテルト:アーク ブリスト(黒染めの鏡)」

 銀を飲み干した黒い魔法陣は今度は正面に展開される。

 その波紋に合わせ黒く塗られた無数の矢先が現れ出し。それら全てを掃射する。

「黒銀の矢? 我を守護せし常世の銀よ今展開せよ━━━━ズィルバー ホーリン(守護せし銀の結界)」

 黒銀の矢がアルベールを射抜く寸前に展開した銀のオーラにより矢は阻まれ、その物質を銀の粒子に変換し無効化する。

 アルベールの身体は霊体であり、防御という行動をする必要性はないのだが、頭の片隅で警笛が鳴り響き、咄嗟に防御の術式を展開していた。

「その黒銀色の矢は一体?」

「あぁ、これかい? コイツはお前の銀の矢に常世の呪いを付加させたものなんだけど。まさか防御するとは思わなかったよ」

「何やらその力からは得体の知れない危険さを感じ取ったのでな」

 ニコニコと笑みという仮面を貼り付けたクルトと一瞬も気を抜くことが出来ずに常に緊張状態を強いられているアルベール。

 緊張は余計な焦りを生み、思考や反応にわずかばかりの誤差を与え、それが命取りとなる状況であっても、冷静さを装いつつも相手の隙をなんとか見抜こうと翡翠色の瞳にも力が込もる。

「そういえば、さっきお前は未来創造を望むと言ったな。確かに万能に見えるこの力だが、実力が拮抗する者、もしくは実力が相手のほうが上の場合はその未来確定に時間がかかるんだよね。

まぁ、お前の場合は拮抗状態が良いところだろうけどな」

 そんな自身の能力の弱点を露見させるクルトにアルベールは不審に首を傾げる。

 これはクルトの策略なのかと深みにはまっていく思考のアルベールを見て、クルトはその細く長い指をアルベールに向ける。

「宣言しようか。俺はお前に未来創造を使わずに勝ってみせる。これは圧倒的な実力差を見せつけるためのものだよ」

「なに?」

 既に頭が追いついていかなくなり、アルベールは一度思考を止める。

「言っただろ。俺の能力は実力が拮抗している者以上だと未来確定に時間がかかるんだよ。そんな面倒な事をしなくてもお前を倒すのには常世の力で十分だって事だよ」

 狂気に堕ちた王や目の前にいる絶対の予言を行う魔王は相手に対して本気になってはいない。

 この両者を倒すにはその余裕という最大の隙を着き必殺の一撃を叩き込むしか最早打つ手はないだろう。

「カウンテルト: オルディン バラディア(騎士の流した血涙は憎悪を孕む)」

 足元に小さく描かれた鮮血色の魔法陣から一本の剣が生え、それを手に取り引き抜く。

 引き抜いたのは錆が多々見受けられる刺突剣。

「次元召喚:フュング オブリリア(五行陰陽の珠)」

 クルトは先程銀狼を穿った球体を自身の周囲に漂わせ刺突剣の剣先をアルベールに向ける。

「お前も出し惜しみしてないで因果創神器をみせてもいいんじゃないか?」

「次元召喚:リード マルーア(渦中の矢)」 

 アルベールが空間の歪から取り出したのは一見槍のように長い一本の矢。

 重量もそうとうありそうだが、アルベールは軽々と片手で持ち上げ矢先をクルトの胸元に向ける。

 剣先と矢先が交差し、張り詰めた緊張の中、アルベールが先に行動を起こす。

「射れリード アルーマ」

 矢を投擲するわけでもなく、突き出すわけでもなく、ただ矢先をクルトの胸元に向けたまま呟く。

 渦中の矢は主人の命に起動する。

「ぐっ……」

 クルトは低く呻き胸元からあふれる赤い液体を手で押さえ込む。

「お前は普段で因果創神器を使わなきからどんな物かと思ったら……なるほどな、矢先が向いた線上を不可視な何かが射抜くわけか。だが、射抜く幅はそう大きくないらしいな」

「ふむ、我は普段戦闘行為をしないのでな。使う必要性がないのだ」

「ははは、じゃあ思う存分使えよ。まぁ次は当たってやらないけどな」

 意地の悪い笑顔を向け、傷を負った胸元を治癒させる。

「クルト、そろそろ終わりにしよう」

「うん?」

 銀髪の魔王は今までに感じさせたことのない魔力を練り上げる。

「ふふふ、いいよ。お前はこれ以上戦いを引き伸ばして今も戦っている人間たちを少しでも死なせたくないんだろ?」

 仕方ないかとクルトは溜息を吐き、閉じられた両目を開き黄金色の双眸が翡翠色の双眸と交差する。

次回でクルトとアルベールの戦いに決着が付きます。

次は4月3日までには投稿する予定だったのですが、4月4日に変更します。申し訳ありません

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