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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
29/90

氷精の王と煉獄の鎧騎士、氷はやがて溶け出す……

 アズデイルはヘルの発した言葉の意味を理解出来ず眼を白黒させていた。

「ヘル、貴方の言ったことがよく意味が……」

「エリー……ザ、は先程……リリアンに、殺……され、た」

「何故……何故、貴方にそのことが分かるのですかッ!?」

「お前には……わから、ないのか? エリー……ザの、生命反応が……消えた、瞬間……が」

 生命反応という言葉にアズデイルは思案してみるが、心が掻き乱された今の状態でまともな思考が出来るはずもなく、イラつきと焦燥だけが膨れ上がり満たしていく。

「エリーザは……彼女は死んではいません!! 生体反応? 何を意味のわからない言葉を」

 アズデイルは腕を振り宙に細かい霜を浮遊させ、軽く息を吹きかければ、霜は流れ魔法陣を形成させる。

「死んでなんかいません」

 無理やり自分に言い聞かせるように何度も呟く。

 形成された魔方陣からは多量の氷弾が一直線に氷粒子を残しヘルに向かい飛来する。

 その速度と色を持たぬ物質により視認することがほぼ不可能な数百の凶弾がヘルに迫り襲いかかる。

 だが、その身を数万度という高熱の鎧により氷弾は着弾する前には蒸発し無為に帰してしまう。

「無駄……だ」

「いえ、無駄ではありません。私の氷がだいたいどれくらいの距離で溶けてしまうのかを計算していたのですよ」

 またも霜を形成させ天上に向け息吹く。

 ヘルもその天上に登る霜を目で追っていくと、天井付近で巨大な魔方陣を形成し、室内は徐々に温度を下げていく。

「何を……する気だ?」

「極冷温の理というものですよ」

 アズデイルは胸に手を当て深くお辞儀をする。まるでこれから手品を行うマジシャンのように。

「ふふふ、ヘル貴方にこの一撃耐えられますか? 息吹け極冷温の慈悲」

 魔方陣からふわふわと雪が降り始める。

 だが、その雪はヘルの発する高温により現れた瞬間に消滅する。

 この雪にどのような意味があのだろうかとヘルは現れては消え現れては消える白い雪を見つめながら考える。

「本当の慈悲はこれからですよヘル」

 次第に雪の量が増えていき、気温が下がるにつれて、数万度を有するヘルの体温も下がり始める。

「?」

「驚きましたか? この雪はですね、周囲の熱を吸収して消滅する特性を宿しているんですよ。つまり今まで貴方の熱によって消滅していった雪達は知らずのうちに貴方の温度を少しずつ削っていたんですよ。そして、ご覧のとおり、今や貴方の鎧にも微かに雪が積もっているのがお分かりですか?」

「ぬぅ!?」

 言われて初めて自身の肩が白くなっているのに気づくが、ここで1つの違和感を覚えた。

「すごく……冷た、い……」

「言ったはずですよ、極冷温の理だと。その雪1粒で人間の生命活動を完全に停止させる事ができるほどの冷気を有しております。もちろんいくら高熱を宿す貴方といえども、長くは耐えられないのではないですか?」

 ヘルの温度が無力化されたことにより、アズデイルの術式は再び再起し部屋一面を氷が支配する。

 展開した氷世界と徐々に体温を奪う白い雪という状況でヘルは背にした大剣を引き抜き、今一度その身を焦がす熱を生み出し抵抗する。

「あれれ、ヘル殿。まさかその程度で終わりではないでしょう? 序列第4位がまさかこの程度で死ぬはずありませんよね」

 完全に優位に立ったアズデイルは態度を一変させる。

「……」

「寒さのあまり口も聞けなくなりましたか。まぁ、いいでしょう。早いところ降参してください。私はエリーザの為にも貴方の生命を奪いませんので」

「温い……な、お前の技も、考え……も、温すぎる」 

「なんですか? このような状況で物申しても負け犬の遠吠え程度にしか聞こえませんよ?」

 完全に勝利を確信し余裕の笑みを浮かべるアズデイルにヘルは内包せし静かなる熱を呼び起こす。

「俺、の溶解熱……受け、消えろ……」

 鎧の隙間という隙間から白い蒸気が勢いよく内部から放たれ、氷を今一度溶かし始める。

 先ほどとは違う。彼自身が熱を有し触れるものと近場の物を溶かしていたが、今回はその狭い効果範囲を無視し室内全体にその熱を放出し始める。

 極冷温の理すら熱を奪い切る事が出来ず、術式は自壊し、氷世界も気づけば溶かし尽くされ、部屋のレンガも熱により融解し始め、ていた。

「これほどとは……ッ!?」

 皮膚に……体全体に痛みを生じ袖を捲りあげると、その異様な光景にアズデイルは我が目を疑った。

「これは一体?」

 皮膚が赤く爛れ、身体を流れる血液が蒸発し皮膚から赤い蒸気となって漏れ出す。

「全て……溶かし、蒸発させ……無へ返す」

 身体を冷やす役目を担う発汗作用も汗が滲み出る前に体外に出る前にやはり蒸発させられてしまう。

 無汗状態で、口内は乾き、血は刻一刻と蒸気となり、霧散していく。

 先程までの優勢は一気に形成が逆転し、最早余裕を見せる事が叶わず、朦朧とする意識を何とか堪えるのが精一杯だった。

「私の術式が発動しない」

 自身の周りだけでも氷で身を癒そうと考えたが、視界に映るモノ全てが陽炎に揺れるほどの高温下では術式を編む集中力も欠き、発動できたとしても瞬時に溶かされてしまい、すでに打つ手はなかった。

 一歩、一歩とゆっくり近づく巨大な鎧騎士は蒸気を放出し手に赤く熱せられた大剣が握られ、切っ先はボヤけながらも天に向かい掲げられる。

「あぁ、まさかエリーザとの約束を破ってしまうとは……ふふ、情けないですね。ヘル最期に一つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」

「な……んだ?」

「ほん……ゲホッ、ゲハッ……本当に、エリーザは……ゴホッ、死んだのですか?」

 熱で気管をやられ、上手く呼吸をすることが叶わず咳き込んでしまう。

 立っていることも出来なくなり、膝を付きつつも視線は目の前の鎧騎士へ向ける。

「ああ、お前も後を追え」 

 アズデイルの胴より幅のある剣で、苦しそうに乱れた呼吸を続ける青年の腹に突き刺し切断する。

 肉を焼くような音と匂いが部屋を満たす。銅を切断されたアズデイルは感覚の全てを失い、かろうじて機能している脳はかつての思い出を走馬灯として見せ、死への恐怖を忘れさせ生命活動を停止させる。

「安心……しろ、近いうち……にアルベールやシラーも……そっち、に行く」

 煉獄の鎧騎士は大剣を背に収め、手土産としてアズデイルの上半身を抱え、瓦礫に隠されたもう1つの扉を殴り破壊する。

「近道だ」

 少々狭い道を甲冑の音だけを立て歩み進んでいく。

 すいません、今回は短いです。

 個人的にはもう少し長めにアズデイル達の戦いを書きたかったのですが、無駄に長くしてもグダっちゃうかな? と思い適度なところで終わりにしました。

 次回はアルベールをメインに書いていきます。投稿は3月30日くらいに投稿できればいいなぁと思いますので、どうかよろしくお願いします。

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