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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
25/90

五大強国ヴァナトリアにて、対峙し合う雷と夢幻回廊の魔王

 ヴァナトリアの街は荒廃し、人々の活気を感じさせずに閑散としていた。


 外を歩くものは誰もおらず、家々から複数の視線を感じるだけで、アルベール達はそれらを無視し国の中心にある巨大な城に向かう。


「ねぇ、本当にここ国なの? なんか廃墟みたいなんだけど」

「黒龍の女神の言うとおりだぜ、人が住んでるどころか兵士一人見当たらない。国の警備は大丈夫なのか?」


 エリーザとシンは周囲を見渡しては、その不気味さに冷や汗を浮かべる。


「早いところ、そのネクロとかいう国王を討って帰ろうぜ」


 グレイの言葉にシラーが賛同する。


「全くだ、シオンの糞がいるんなら早いところ倒して引きずってでも帰るぞ」


 そのシラーの言葉にエリーザは嬉しそうな表情をし、その姿を見ていたアズデイルは逆に悔しそうな表情をしていた。


 ようやく城の前まで辿りついたが余りにも大きすぎるその城を一同は見上げていた。


「この城間近で見るとすごく大きくない?」

「うむ、フィールや中央教会の城よりはるかに巨大だな」


 見た目は美しさや煌びやかさより、防御に特化したような無骨な造りで、目の前に塞がる城門すら分厚く、一般の人間では突破する事は、ほぼ不可能だろう。


「どうやって入る?」

「そりゃ、魔王という強大な力を持ったお方達がいるんだ。なんとかしてくれんだろ」


 ジークリートとグレイの視線は魔王達に注がれ、自分たち人間ではお手上げだという眼をしていた。


「あ~私も無理かな。城ごと壊してもいいならやるけど、この中にクルト達がいるなら多分迎撃されるだろうし、そしたら私多分死んじゃうもん」

「もちろん、私も無理ですよ。私の力は万物を凍らせる力であって破壊は専門外です。それはシラーも同じですよね、雷がこのような重厚な鉄を破壊できるとは思えませんしね」

「悔しいが、アズデイルの言う通りだ。アルベールお前の銀聖の力に頼るしかないようだぜ」


 人間と魔王から期待の眼差しを受け、アルベールは頷き一歩前へ出る。


 詠唱は省略し、鉄の固まりに銀色の魔方陣を展開させる。


 魔方陣が描かれた場所は瞬く間に銀の砂へと姿を変え、大きな空洞を作り出した。


「さすがアルベール! すっごく頼りになるね」


 アルベールは、ふむ、と小さく頷き先頭を歩む。鉄の固まりを抜ければ手入れの行き届いた城内が迎え、これまた迷路のように階段が複雑に組まれていた。


「あぁ!? なんだこれ、えっと……あっちに登るには、どの階段使えばいいんだ?」


 グレイが階段を指でなぞっていくが、その複雑な造りに途中でこんがらがってしまう。


「わっかんね~、そもそもどこから行けば玉座に着くんだよ!」

「迷っていても仕方ないだろう。あれなんてどうだ?」


 ジークリートは一つの階段を指差す。


「まぁ、彼の言うとおりでしょうね。初めて来た場所で道なんて分かりませんし、意外と勘で選んだ答えが正解だってこともありますし」

「どれでもいいだろ、さっさと行くぞ」


 ジークリートの選んだ階段を登っていくと一つの扉が現れ、押し開くと長い回廊が一本続いていた。所々左右に階段があったりしたが、とりあえずは正面を突き進んでいく。


「うっわぁ……行き止まりだ」

「フッ……黒竜の女神よ、そうそう一回で答えにたどり着いては面白くないだろ」

「というよりさっきから気になってたんだけど、黒龍の女神ってなに?」

「うん? 話によれば漆黒の竜に姿を変えるって聞いたんだが、違うのか?」

「いや、間違ってないけど……」

「なら、黒竜の女神で間違っていないじゃないか」


 シンとのやり取りでエリーザは少々疲れを見せる。


「エリーザ諦めろ。我もすでに諦めている」

「うっ、うん。そうだね」


 アルベールも珍しく軽い溜息を吐き、同じ思いを抱く少女の肩に手を乗せる。


 それから長い道のりを行ったり来たりと彷徨い、行き着く先は行き止まりばかりで、肉体的と精神的に疲れを見せ始めていた。


「なぁ、もう一時間以上歩いてんだけど、まだたどり着かないのか?」

「フッ……そろそろ俺の足も限界が近いか」

「だらしねぇな。これくらいで根を上げてるようじゃ、所詮はお荷物ってところか」

「バカにすんなよ! まだまだ、余裕だし! なぁ、シン?」

「その通りだ。人間が生み出す奇跡を舐めてもらっちゃ困るぜ、閃光を纏う王よ」


 シンにあだ名を付けられたシラーはまんざらでもない様子で笑っていた。


「ハッ、じゃあ見せてみろよ。その人間の奇跡とかいうのをな」


 何処か楽しんでいる風にも見えるシラーにエリーザとアルベールは感心していた。


 まさか、同類なのではとも思ってしまう。シラーも人間に対してなんだかんだ言いつつも結構仲良くしている事に、アルベールは少し安堵した。


 シオンもこれくらいとはいかなくても多少なりとも心を開いてくれればと願う。


 回廊を曲がるとそれは壁ではなく、大きな重厚な扉があり皆足を止める。


「いるな……」


 アルベールはポツリと呟き、シラー、エリーザ、アズデイルもその向こうにいる何者かの気配を感じ取り、生唾を飲み込む。


「じゃあ、まずは俺からいかせてもらうからな」


 シラーは勝手に扉の柄を掴み左右に押し開く。


 ステンドグラスが張り巡らされた室内には無駄なものが一切なく、日の光はステンドグラスを透過し床に鮮やかな絵を浮かび上がらせる。


「よぉ、格下共と裏切り者、余計な挨拶はいらねぇ、俺の相手すんのは誰だ?」


 室内の丁度中央部、壁面にはめられたステンドグラスに差し込む朝日を受けるシオン。獰猛な瞳を細めさせ、目の前に立つ来客一人一人へ向ける。


 この時を待っていたと言わんばかりに、大きく一歩前へ踏み出すシラー。


「ハッ、以前の腕の借り返しに来たぜシオン」


 対峙し合う黒衣に身を纏う刃のような瞳を持つ者どうし、不敵な笑みを浮かべあう。


「クッ……クク、おいおい一番の格下の分際でよく俺の前に二度も立ち塞がれたものだなぁ、褒めてやるよ」

「馬鹿言え、誰が本当の格下か教えてやるぜ!」


 身構えるシラーと構えを取らず脱力し立ち尽くすシオン。


「あ~……他の邪魔な傍観者はいらねぇから、とっとと先に行けよ」


 シオンの意外な言葉にエリーザとアズデイルは瞳を丸くする。


「どういうこと? 私たちに先に行けって」

「察しろよ低脳女、クルトの指示だ。本来だったら俺がテメェ等全員をぶっ殺してやりたかったが、残念だわ」

「シオン、今のエリーザに対する侮蔑の言葉訂正してもらっていいですか?」


 アズデイルの瞳から光が消え、ただ幽鬼のような眼をシオンに向ける。彼の近くにいたシン、グレイ、ジークリートは背筋が凍るような寒気を感じて身を震わすが、その冷気に等しい殺気を受けるシオンは見下したような笑みを浮かべるだけで、何も感じていないようであった。


「あぁ? そうだな、この格下が俺に勝てれば謝罪してやるし、言うことなんでも聞いてやるよ。ただ俺が勝った場合はコイツの首を手土産にテメェ等に挨拶しに行ってやるから楽しみにしておけよ」

「シラー、今の言葉聞きましたね。エリーザの為に敗北は許しません。もし、負けてその首手土産にされた暁には、その頭部踏みくだいて差し上げますから、そのつもりで」


 相手の心によく擦り込ませるようにゆっくりと言葉発しては、シラーを頷かせる。


「チッ、俺の心配はしねぇのかよ」

「あれれ、シラーは私達に心配して欲しいの?」

「いや……要らねぇな。この戦い俺が勝つんだ。心配される必要性がない」

「そう、じゃあ頑張って。勝ったらシオンの首根っこ掴んででも引きずってきてね」


 エリーザの言葉に手を上げ返答し、早く行けとジェスチャーをする。アルベール達は向き合う二人の魔王を尻目にシオンの背後で開かれた扉をくぐり抜けると、扉はタイミングよく閉じる。


 エリーザは閉じられた扉を開けようと力を込めるが、僅かばかりも動くことなく完全に二人だけの空間が作られてしまった。


「先を急ぐぞ。我らには立ち止まっている時間は無い」


 銀の魔王は肩に付けられた黒いマントを翻し、回廊の奥に進んで行く。


 エリーザは後ろ髪引かれる思いで、途中何度も振り返るが必ず勝つと約束を交わした仲間を信じ、振り返る事を辞め皆の後を追う。




「よぉ、シラー。その腕くっついたみてぇだな、今度は首でも切り落としてみるか?」

「吐かせよアホが。俺は負ける気はねぇって言ってるだろ」


 ぶつかり合い渦を巻く両者の魔力の波動は室内を満たし、ステンドグラスは軋み震える。


 余裕の色を絶やさないシオンにシラーは周囲を眼だけで見渡し、広さを確認する。


「万象を薙ぎ払う千万の雷よ、その罪人すら浄化する煌きを発せよ━━━━バルトゥイン ライズィル(雷による断罪)」


 魔力の奔流を身に感じ、術式を展開する。


 ありったけの魔力を込め、シラーの目の前に電流が迸る魔方陣が形成され、千万の雷を収束させた膨大な雷を放つ。


 目が眩むその発光と周囲の音を飲み込む轟音にシオンはコートの裾で瞳を僅かばかりに隠す。


「へぇ、やるじゃねぇか。だが……俺には通じねぇよ! 道を誤りし愚者には光の届かぬ冷酷の回廊を、我は回廊の番人にして王である━━━━ルーフ エルデン(永遠の楽園)」」


 シオンの全面の空間は歪み、暗い光の届かぬ空間が開かれる。


 前回同様に雷はその空間に飲まれ、少なくない魔力量を費やした一撃は無為に終わる。


「さぁ、どうした!! こんな馬鹿の一つ覚えじゃ俺になんて勝てねぇぞ……!?」


 完全に飲まれ視界が晴れると、正面にいたはずのシラーは姿を消していた。


 シオンは周囲を見渡すが、眩い発光のせいで、視界は若干霞み部屋全体をはっきりと視認することができない。


「チッ……あの野郎、これが狙いか」


 短く舌打ちをし、眼ではなくシラーの宿す魔力の流れで追うにしても、先程の互の魔力の渦が室内をみたしていたので、上手くシラーの魔力を見抜くことが叶わず、眼と耳に意識を集中させ、いついかなる場所からの攻撃に備え、身構える。


「ハッ、ようやく身構えたかよシオン!!」


 声のする方に目を向けると天井からシラーが雷を右手に纏わせ落雷のように急降下する。


 寸前の所で一歩下がりシラーの奇襲を交わすが、咄嗟の回避のおかげで次への行動が脳から身体に上手く信号を送ることができず、一瞬の怯みを生み出してしまう。


 その刹那の隙こそシラーが勝機と捉え狙った瞬間だった。


「引っかかったなシオン。お前の敗因はその慢心だぜ!!」


 再度全面に魔方陣を展開し、雷撃の二射目を至近距離で放ち、シオンは異空間を展開する暇もなく、白く発光する雷に全身を包まれる。


 雷はそのまま壁にぶつかり四散し、土煙が舞い上がる。


「やった……か?」


 僅かな隙に間に合わせるために今の攻撃はだいぶ魔力を抑えたのだが、それでも至近距離でモロに食らったのだ、倒しきれていなくても無事でいられるはずはない。


 土煙はやがて落ち着きを見せ、視界が晴れると今度はシラーの瞳が驚愕の色を宿す。


「……何処に行った!?」


 流石に骨まで消滅するほどの威力は無かったはずだった。だが、衣服の切れ端や肉片どころか、そもそも最初から底に存在していなかったかのように何の形跡もない。


 シラーは髪に隠れていない左目を左右に向け、背後を振り返るが何処にもシオンの姿は見当たらない。


「クソッ……」


 まだ生きている。そう直感するシラーだが姿を見せないシオンに少し焦りを感じていた。


 奇襲による暗殺はシオンの最も得意とする戦法だった。


 この状況では自身が不利なのは分かりきっていた。もちろんたた立ち尽くすという事はいつでもこの生命を刈り取ってくれといっているも同然なので、規則性もなく室内を駆け出す。


 だが、天上に張られたステンドグラスが音を立てて地面に降り、先程のシラーの攻撃のように一点集中では無く、室内全体へその硝子片は降り注ぐ。


「シオンかッ!?」


 腕を天井めがけ突き出し、纏った雷撃がガラスを飲み砕く。


 それでも、全てを無効化出来ず腕などの皮膚を切り裂き地面に突き刺さる。


 濡れた紅い血が腕を伝い指先から地面に落ちる。


「どうだ、シラー。これがテメェ等格下と格上の違いだ。お前は今、恐怖し焦りが身を蝕んでいるだろ?」


 何処から聞こえてくるのか分からない声に、一層の緊張が生まれ、身体の動きを鈍くさせる。


「シオン、こそこそ隠れてねぇで正々堂々戦ったらどうだ?」


次回はシオンとシラーの戦いの続きを書きます。

口調が似ているので、書き分けるのが大変です(汗)

次回は3月16日~17日に投稿する予定ですので、また次もよろしくお願いします。

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