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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
24/90

嵐の前の静けさ、開戦序曲

 クリスティアはアルベール達の旅立ちを各国の代表が集り会議が行われている部屋の窓から見送り、これから始まる多くの生命が失われ、悲しみを生み出す戦争に鬱々とさせられ、無意識のうちに溜息をついていた。


 延々と似たような会話が繰り返される会議。一向に進まないこの状況にもうんざりとさせられたので、アムナリア王に断りを入れ、外の空気を吸いにテラスへ向かう。


「あの場所に私っていなくてもいいんじゃないかな」


 軍事的な会話に全くついていけず、何のアドバイスも浮かび上がらないまま、難しい話しが耳を抜けていく事に疎外感と場違い感を感じ、息が詰まる思いをしていたのだが、ようやく抜け出すことができ、テラスで一人、静まり返った城下を眺める。


 深夜の冷たい風が肌を吹き抜け、身震いをする。


「うぅ、寒い。でも、アルベール君たちはこの中を馬で走ってるから、寒さもこの比じゃないよね」


 身体を摩りつつ、そろそろ中に戻ろうかと踵を返した所で異変に気づく。


 一部の空間が陽炎のように歪んでいた。


「うん? なんだろう」


 恐る恐るその歪みに近づいていく。


 何故そのような怪しげな物に近づこうと思ったかは分からないが、身体は自然と吸い寄せられるように歪みに歩を進める。


 目の前まで迫り手を少し伸ばす。


「止めておいたほうがいいよ」


 突如背後から声がし瞬間的に手を引っ込め、背後を振り返る。


 先程まで自分以外異存在しなかった場所に、瞳を伏せて、ニコニコと微笑む綺麗な人が手すりに腰を下ろしていた。


「だっ……誰!?」


 クリスティアの脳裏には子供達に読み聞かせては、怖がらせる童話に出てくる幽霊という単語が浮かび上がり、一度浮かび上がった言葉は中々消すことができず、脳が完全に目の前の存在を幽霊として捉えてしまい、恐怖から一歩後ずさる。


 その怯えた様子を察してか、目の前の人物は少し困った表情をする。


「おいおい、俺は別に幽霊や妖の類じゃないから安心していいよ」


 意思疎通が出来ることが分かり、幾ばくかの緊張は解けたが、このテラスは結構高い場所に位置していて、ちょうどクリスティアの背後にある扉からしか出入りすることはできない。


 クリスティアは少なくても自分以外はこのテラスに他者は存在していなかったと認識している。


「どうやってこの場所に来たのですか?」

「どうやって? そうだね、君に話しても分からないと思うんだけど聞きたい?」


 馬鹿にされたような気がしたが、それよりも気になるのはこの空間についてだった。


「あの……じゃあ、この歪みみたいなのって何ですか?」

「ソレは……」


 言い始める前に、クリスティアの腕を背後から骨がきしみを上げるような強い力で掴み、引っぱられる。


「きゃッ!?」


 その唐突な力に逆らう暇なく、身体はバランスを崩し口を手で塞がれ、声を発することができない。


「おい、クルト。早くこの女殺っちまおうぜ」


 背後から聞こえる、殺意を孕ませる声に、正面の人物はゆっくりと首を横に振る。


「早まるなシオン。その女はアルベールの友人なんだから丁寧に扱ってやれよ」

「チッ、めんどくせぇ」


 シオンと呼ばれた男はクリスティアの拘束を解き、乱雑に突き飛ばす。


 今度は前のめりにまり転びそうになった所で、クルトが優しく受け止める。


「おっと、危ないな。シオン、駄目だろ女性にはやさしくしなくちゃ」


 包み込むように抱きしめられ、クリスティアはクルトに対して誤解をしていたことに気がつく。


「まぁ、君に用があるわけじゃないんだ。今この場にアルベールがいるかなって思ってね。でもこの国からアイツの魔力は感じないところを見ると、ヴァナトリアにでも向かったかな?」


 クルトはヴァナトリアのある方角に閉じられた眼を向け楽しげに微笑む。


「貴方たちが、エリーザちゃんたちが言ってた魔王……」

「あぁ、そうだね。俺はクルト・ティアーズ。あっちはシオン・トレヴァリオン」

「シオン?」


 人間を特に毛嫌いしていて、一番凶暴な性格をしているとアズデイル達から聞いていた男をまじまじと見つめる。


「んだよ」

「いえ……別に。ただ、シオンさんっていう魔王が人間の幼い女の子に負けて意識不明になったって話しをアズデイルさんから聞いたので」

「……」


 シオンは言葉を失い、握られた拳は小刻みに震え表情は俯いているので確認できなかった。


「あの……野郎ォ!」


 低く唸るような声にクリスティアは冷や汗を浮かべる。


「ははは、真実だから仕方ないな。おい、シオン。そろそろ帰るぞ」


 クルトの言葉に怒りを飲み干し、地面を力強く踏みしめ、空間に展開した歪みの奥に消える。


「じゃあね」


 それだけ言い残し、クルトは足元に展開した魔方陣によってその姿は光に包まれ消える。


 今起きた事が現実なのか、夢だったのか分からないくらいに何も残らず、しばらく呆然と彼等の消えた場所を見つめていた。




 夜が明け、木々の隙間から朝日が差し込み、アルベール達は眠りから目を覚ます。


「あ~もう、全然眠れなかった!!」

「全くだ……30分寝れたか寝れなかったかくらいだぜ」

「正直、凍らせて永遠に眠らせてあげようかと思ったくらいですよ」


 眠い眼をこすり不満げな声を上げる魔王達。


「ふむ、そうか? 我はゆっくり眠れたが」

「俺はもう慣れている」

「ふっ……こういう時のために耳栓というものがあるんだ」


 アルベールとジークリートは特に不満はなく、シンは自前の耳栓を彼等に見せつけるように小道具袋にしまい込む。


「えっ……おいおい、何で寝てないんだよ!? あれか、緊張で眠れなかったとかそういう感じ? ダメだぜ魔王だからって睡眠時間を削っちゃ――」

「「「お前のせいだッ!!」」」

「……へ?」


 顔を洗いさっぱりとしたグレイの発言に、睡眠を妨害された三人は声を揃える。


「すでに両国の兵は洗浄に趣いている頃合だろうな」


 朝食の用意をするアルベールが呟くと、先程まで眠たげだったエリーザ達の表情も変わる。


「そうだね、私たちも戦わなきゃいけないんだよね」

「俺は、聖騎士として自身の確固たる正義の為に、この剣を振るうだけだ。戦いに私情は挟むな、命取りになるぞ」


 ジークリートに言われ、エリーザは小さく頷くが、やはり相手を殺さない自分は死なない、なんていう都合の良い結果なんてそうそう起こるものではない。


 それも、実力は相手の方が数段上なのだ。以前殺されかかった記憶が再び脳裏で再生される。


 死への恐怖と、仲間うちで行われる殺し合い。


 このまま皆で逃げ出して各国を物見遊山して楽しく過ごせたらと、逃げの思考が強く現れ自身でもいけないことだと分かってはいるが、逃げへの甘い思考は止まることがない。


「馬鹿だなお前は」

「ちょちょ、痛い痛い……痛いって言ってるでしょ!!」


 シラーに頭を力強く撫でられ、髪が乱れる。


「お前の考えてることくらい分かんだよ。逃げても問題は解決しねぇ。だがよ、逃げたら永遠にお前の魔王全員で楽しく過ごすっていう甘い願いは叶わなくなっちまうんだぜ。だったら、足掻いてその理想に一歩でも近づいた方がいいってもんだろ? 少なくても俺は妥協する気はない。願いはなんとしても叶える」


 それだけ言い、アルベールが並べた簡易な朝食を口にする。


「妥協はしない……か」

「そうですよ。私はエリーザ貴女が喜んでくれるなら尽力します。ですから、私にも貴女の願いへの成就手伝わせていただきますよ」

「うん、ありがとう。アズデイル、シラー」


 朝食を済ませ、馬を駆りヴァナトリア帝国へ向け出立する。



 

 ヴァナトリア率いる恐怖で服従させた国々の兵は計150万。


 国や領地を守る兵や若い一般市民にも武器を持たせ、金で傭兵やならず者まで雇入れ、軍靴の音を揃え大地を行進する。


 ヴァナトリアを除く他国の兵の表情は疲弊しきり、今にも逃げ出しそうな雰囲気を醸し出していたが、彼等は歯向かうことができず戦う事を強いられていた。


 各国の王が人質となり、そして魔王という驚異を従えている。


 少しでも意に背けば、人質になった王達の命は無く、国に残した家族や愛する者は守るものがなく殺し尽くされてしまうという疑念が渦巻き、叛意を翻すことができない。


 東大陸でも有名な草原地帯に互の軍勢が睨み合い、陣を展開していく。


「……」


 敵の馬鹿げた数に腕を組み、高台にある本陣から戦場を眺めるアムナリア王の姿があった。


「どっ……どういう事ですか、何故敵が我々より保有する兵が多いのですか!?」


 その様子を見た大臣たちが、慌てふためき右往左往し混乱していた。


「黙らんかッ!」


 初老の男の一喝に一同は静まり返る。


「くくく……いいじゃないか。この戦場は混沌で満ち満ちている。我が神への供物としては至高だよ」


 怪しげに笑い天を仰ぎ見る男に紅白に民族衣装を身につけた少女は睨みつける。


「クロノーウェル教団国王ウォシュア・フォークトリス殿。そのような他者を不安がらせる発言はこの場では控えた方がよろしいのでは?」

「ふふふふ、良いじゃありませんか。真日帝国皇帝上月雅殿。久しぶりの戦で私の心は高ぶっているのですよ。ですよね魔術国家ロベリア王国魔術王ラハリア・シュトロンベルク殿?」


 ウォシュアは先程一喝した初老の男に視線を投げかけるが、言葉を交わす気は無いようでただ、机に敷かれた勢力図に視線を落としている。


「つれないですね。まぁ。いいでしょう。さて開戦まであとどれくらいでしょうかね」

 近くにいた黒いローブを纏った信徒に問う。

「残り一時間少々かと」

「そう、ありがとう」


 信徒は深く頭を下げ一歩下がる。


「アムナリアよ、この戦少々分が悪いどころではないようだが?」

「あぁ、だが見たところその半数以上は訓練もまともに受けていない民兵だろう」


 魔術王と連合王は静かに交わし、近くにいた兵に何かを告げると兵は急ぎ陣をでていった。


「上月皇帝よ、主はこの戦で先陣を切ると聞いているが?」

「はい、兵と共に戦う事こそが主従一体と私は考えます。なにより今この不利な現状で兵の士気は下がりつつあります。ですから、私自ら先陣を切り兵の不安を少しでも柔らげてあげたいと考えております」

「ははは、真日の王とは面白いものだ。ワシはその勇姿ここから拝ませてもらおうか。気が向けばワシ自ら援護してやろう」


 魔術王ラハリアは豪快に笑う。


「安心しろ雅殿。俺も久方ぶりに戦場に赴く」

「アムナリア王?」

「ほぅ、かつて獅子王と呼ばれた主の活躍が拝めるのか」

「俺は雅殿と同じ考えなのでな。ラハリア王、ウォシュア王よ後の事は任せた」

「えぇ、大船に乗ったつもりでいてください」

「ふん、神などという有象無象を本気で信じている若造だけには任せられん。安心しろアムナリアよ、ワシがきちんと兵を指揮しよう」

「ははは、今の私の国の指針を貶める発言は国際問題ですよ?」

「フン、この戦争が終わったら相手をしてやる」


 仲が悪いこの二人に任せて本当に大丈夫なのかと、本気で心配する雅だが、アムナリアは満足げに頷く。


「では、雅殿。私たちも支度の方をするか」

「えっ……あ、はい」


 時間もあまり残されていないので、この二人を信じアムナリアと共に陣を後にする。


前半後半をクリスティア、アルベール視点で書き上げようと思ったのですが、戦場の陣地での様子も少し書きたかったので、書かせていただきました。

次回は完全にアルベール達の視点でいきますので、また次もよろしくお願いします。

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