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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
23/90

動き出した銀の魔王達、朝日と共に進軍する両国の軍

 大陸を左右する大規模な戦争まであと残すところ一日となった。


 国の重鎮たちは早朝から集まり、入念に手順等の確認をし、兵達も武器の手入れや物資の確認作業で慌ただしく動いていた。


 その中であっても特にやることのない魔王達は城のテラスから城下を眺めていた。


「とうとう明日、戦争が始まりますね」

「うん、皆に聞きたいんだけど、正直怖い?」


 エリーザが朝日を眺め、居並ぶ仲間に問う。


「私はそうですね、正直言ってしまえば怖いです。死というものは魔族や人間関係なく怖いものです」

「ハッ……怖気づいたか、アズデイル?」

「そういう貴方はどうなのですか?」

「俺は怖くはない……な。知らねぇけど負ける気がしない」


 何処からその自信は溢れ出すのかと問いただしたくなるが、アズデイルは無理にでも押さえ込み、先程から黙して朝日をまぶしそうに眺める銀髪の魔王へと視線を送る。


 アズデイルの視線を感じたのか、一瞥し何かを考えるように青白い大空を見上げる。


「そうだな……我も怖いのかもしれないな。ただ、シラーの言うように何故だかは知らぬが、負ける気がしないのだ」


 風に撫でられ宙を流れる銀色の髪と、優しく微笑むその表情に刹那の瞬間ではあるが皆見惚れ、言葉を発する機会を逃す。


「うむ……どうした?」


 小首を傾げ、呆けたような表情をしていたエリーザ達の顔をのぞき込むように顔を近づける。


「わぁっ!? ちょちょちょアルベール顔近いよ」

「すまない、だが貴公等が呆けた顔をして固まっているのでな」

「いえ、此方こそすいません。ただ芸術的な絵が見れたもので」

「?」


 その意味をアルベールは理解することなく、シラーが話題を変える。


「あの女……確かクリスティアだっけか。お前はあの女をどう思っているんだ?」

「友達だが……何か?」

「いや、なんでもねぇ。ただ、少し気になってな」


 胸の何処かで引っかかるあの少女の存在はシラーにとってよく分からない苛立ちを覚えた。


「そういえば、同盟にロベリア王国が付いてるならシルアちゃんに会えるんじゃないの?」

「えぇ、そうですね。後で探してみますか」

「シラーも行くでしょ?」

「めんどくせぇ……わかったわかった、探すから睨むな」


 本当にめんどくさそうに答えるシラーをエリーザはやはり睨みつけ無理矢理従わせる。


 この三人のやり取りは壁を感じさせず、本当に言いたいことを言い合い、共に笑い怒り悲しむ。これが、本当の家族のような有様だった。


「さて、そろそろ我は戻るとしよう。今晩この国を出て遠回りをし、ヴァナトリア帝国に向かう予定だ。それまでゆっくり休むが良い」


 左肩に纏ったマントをなびかせながら扉をすり抜け消える。


「なんか、扉をすり抜けて消えると幽霊みたいでちょっと怖いんだけど」

「そうですね。突然壁から顔を覗かせてきた時は心臓が止まるかと思いましたよ……」

「いいじゃねぇか、便利そうでよ」


 三人は彼が消えた扉に視線を集め、ボソリと呟き朝日の暖かさを背に感じていた。




 テラスを後にしたアルベールは階段を下り、行き交う人々を避けながらも階段を更に下っていく。


 城下では既に朝早くからパンを焼く匂いを漂わせ、花の手入れや玄関先の掃除をする人達が視界に映る。


 これが、大規模な戦争を前日に控えた人間たちの行動なのかと不思議に思いつつ、早朝の散歩を楽しんでいた。


 時々すれ違うジョギングをする高齢の人間達と挨拶を交わしたりと、小さくな交流を交え歩を進めていると意外な人物と出くわした。


「貴公は……」

「うん? 確か貴方はアルベール殿で……よろしかったでしょうか」


 白髪とは違う美しい絹糸のような純白の髪、吸い込まれそうなほどの深い黒眼。紅白の民族衣装に身を包んだ女性。


「うむ。まともに自己紹介をしていなかったな。我はアルベール・ハイラント・ルードリッヒだ」

「そうでしたね。私は真日帝国皇帝の上月雅といいます。此度の戦、足を引張ぬよう尽力致します故、何卒よろしくお願いします」

 瞳を伏せ、深々と頭を下げる皇帝というのもどうかと思ったが、アルベールは顔を上げるよう諭す。


「我もなるべく早期に決着をつけられるよう努力はする。それはそうと皇帝という身分でありながらこのような時間に一人で何をしていたのだ?」

「ふふふ、その言葉そっくりお返しいたすします。そうですね、私の国はこのような石造りの家は無いものでして、興味本位で散歩がてらに・そういうアルベール殿は何故?」

「ふむ、我は早朝の散歩が好きなだけで特に意味はないな」


 互いに王として接するのではなく、対等に友人と語らうように言葉を交わし、折角なので共にあまり知らぬこの国を探索することになった。


 アルベールは海の向こうにある島国の事を、雅も同様に海の向こうに広がる広大な大陸の事を興味深々で質問し合っては答えを繰り返し、会話は途切れることなく盛り上がり、日は完全に全体像を見せる。


「アルベール殿、もう少し会話に興じたかったのですが、これ以上私が姿を見せぬと兵達に余計な心配をさせてしまいますので今日の所はこれにて失礼させていただきます。また機会があれば大陸のお話しと貴方の事をお聞かせください」

「うむ、我も有意義な時間を過ごさせてもらった。次は戦争が終わった後にでも続きを話そう」


 ちょうど国の中央広場で別れ、雅は早足で城に向かっていった。


 アルベールは彼女の背を見送り、どうしたものかとベンチの腰を据え大空を見上げ息をつく。


 小鳥の囀りに耳を傾け、瞳を閉じる。


 他者と触れ合うことの出来ぬ、忌まわしいこの身体を持ったのはいつ頃からだっただろうか。そもそも自身が生まれた瞬間も分からない。気づけば存在していた。


 始まりは何処で、終わりは何処なのか。既に自身の存在を認知してから数百年が経過していた。


 歳のせいか長い日々を送れば過去は風化し記憶の残骸として忘却していく。


 自分が何者なのか、何を成すために産まれたのかは分からない。


 だが、ハッキリと自覚していることは人間を愛しているという事のみ。


 数年、数十年、数百年掛かろうともこの忌まわしい身体の謎を解き明かし、いつか他者と触れ合える日を待ち望む。


 伏せていた瞳を開け、ベンチから立ち上り城に向けて歩みだす。




「ねぇねぇシラー、本当にシオン達と和解なんてできるのかな」

「知らね。俺はただアイツの顔を殴り飛ばしたいだけだ」

「殴るのはいいけど……」

「分かってる。死ぬ気はねぇし殺す気もねぇよ」


 エリーザとシラーは客室で特にすることもなく暇を持て余していた。


 アズデイルは何か取りに行くものがあると言い出て行ってから二時間は経過したが、戻ってくる気配は見受けられない。


 エリーザはベッドの上を寝転がり、シラーはソファーに腰を落ち着かせ窓の外をぼんやりと眺めている。


「なぁ」

「な~に~」

「俺達魔族と人間の違いって何だ?」


 シラーらしからぬ問いにエリーザは上体を起こし、窓の外をぼんやりと眺める青年を見つめ、微笑む。


「知~らない。特に違いなんてないんじゃない?」

「俺も最近そう思えてきた。以前は正直シオン寄りの考えだったけど、ここ数日人間という存在と触れ合ってから俺たちとの違いについて考えるようになっちまった」


 室内は穏やかな空間が流れ、居心地がよく、ずっとつづいてくれればとエリーザは強く願う。


「シラーも物事を考えるんだね、あぁ~シオンも人間と触れ合えば考え方変わってくれるのかな」

「アイツは……ハハッ、無理だろうぜ」

「じゃあ、賭けでもする?」

「おもしれぇ、じゃあ俺はアイツが人間と仲良くできない方に」

「私は人間と仲良くできる方。ちなみに負けたら一ヶ月お昼代を出すって事で」

「乗った!」


 二人は夕暮れ時に笑い会い、ヴァナトリア侵攻までの時間まで暖かな時間を過ごした。




 夜も深く虫達も寝静まる時刻、城門前に複数人の影が街灯に揺れる。


「ふむ、揃ってようだな」


 アルベールはこれからヴァナトリアに向かう仲間たちの顔を見渡し人数を確認する。


 皆の表情からは余裕というものが感じられない。


 ヴァナトリアにクルト達がいればその相手を同じ魔王であるアルベール達が請負い、ネクロの相手は人間であるジークリート達が相手をする。


 今回集った精鋭はアルベール、エリーザ、アズデイル、シラー、シン、ジークリート、グレイの計七名。


 ステラはこの場に残りクリスティアの護衛件、騎士への指揮を任されていた。


「フッ……どうした魔族を統べる王達と聖女を守護せし聖なる騎士達よ。表情に余裕が見えないようだが?」

「へっ! これは武者震いってやつだ。俺は別に怖くなんてねぇよ、いやマジで。正直もうこの剣を振り回したくて仕方ないくらいだ」


 グレイは完全にビビっていた。


「グレイ……」


 ジークリートが何かを言いたげだが、言葉途中でグレイは止める。


「いや、マジ大丈夫だから。気にすんなって、相棒」

「俺は別にお前の相棒では……」


 人間組のやり取りを耳にしていた魔王達は頷き合い、一歩踏み出す。戦争という命が無駄に失われる愚行を早期に終わらせるために。


 何としても、日が昇る前にはヴァナトリア領に侵入し、大回りをして敵の遠征軍との接触を避け速やかに首都に向かわねばならない。


 アムナリア王から貸し与えられた馬に各自跨り、地を力強く蹴り風を切る勢いで駆ける。


「人間が使役するのにはもったいねぇくらい良い馬だな」

「お尻が……お尻が痛い」


 駆ける馬に身体が跳ね尻を何度も鞍に叩きつけていたエリーザは涙目になりながらも片手で綱を握り、もう片方の腕で尻を擦る。


「おや、乗馬は貴族の嗜みですよエリーザ」


 見事なまでに馬を手繰りまるで遊楽するその様にエリーザ反抗する。


「馬なんて乗らなくても馬車に乗って買い物に行ってたんだもん!!」


 割と本気で訴えるエリーザにシラーは呆れ溜息を溢す。


「これだから貴族の温室育ちは……」


 シラーも手馴れたもので正に人馬一体という言葉が相応しいその息の合った馬との連携で、先頭を走り皆を先導する。


「あががががががが」


 シラーとは反対に最後尾で暴れる馬に何とかしがみつくグレイを左右からシンとジークリートが落馬をしても直ぐに助けられるように、距離をギリギリまで詰める。


「まさか、聖なる乙女を守護する騎士が馬にも乗れないとはな、正直驚きだぜ」

「馬にのれないのはグレイだけだ。俺やステラは人並みには乗れる」

「おごごっごががががああああ」


 体が激しく上下左右に振り回され、顔を真っ青にしながら意味をなさない言葉を漏らす。


「ふむ……」


 背後のグレイ達を一瞥し、大丈夫なのかと不安になりつつも月と月明かりに照らされた草原を駆ける。


「シラー、今どのくらいまで来たの?」

「さぁな、だがもうヴァナトリア領には入っているはずだ」


 敵陣に足を踏み入れていたという感覚はまったく無い。だが、敵陣である以上は周囲への警戒を強めねばならない。


 いつ、何処に敵が潜んでいるか分からない状況で、地の利が相手にある以上、先手を取らねば被害を被ることになる。


 アルベール達魔王は特に被害はないだろうが、特に馬に振り回されているグレイが攻撃を受ければ回避行動なんて取れるはずもなく、良い的として機能することになり、もちろん彼の近くにいるシンとジークリートも巻き添えをくらい何かしらの形で損害は受けてしまうだろう。


 友である彼等にそのような事態なんて起きて欲しくないので、翡翠色の双眸は周囲を見渡し怪しい箇所はないかと注意を向ける。


 ずっと駆けっぱなしでろくに休息も取っていなかったので、草原の先に現れた深い森の中で野宿をすることにした。


 手綱を木に括りつけ、敵に居場所を知られないためにあかりは付けず、交代で見張りをしながら仮眠を取る。


「ちょっとちょっと、いびき煩いんだけどッ!?」


 エリーザの隣で大の字に眠るグレイのいびきに耳を塞ぎ、怒りの声をあげるエリーザ。彼女がグレイを起こそうと何度も身体を揺するが、反応を見せず一層いびきは大きくなる。


「これは……我慢なりませんね。私は少し離れた場所で眠らせてもらいますので」


 アズデイルも眠い眼で眉間に皺を寄せ、グレイから距離を取り今度こそはと眠りにつく。


 見張り役であるアルベールとジークリートは黙したまま言葉を発せずただ、時間が過ぎるのを感覚で感じながら満天の星を見上げていた。

とうとう開戦される東大陸最大規模の戦争。

この戦争によって導かれる結末とは……。

次回は前半はクリスティア達視点、後半でアルベール視点でかいていきますのでよろしくお願いします。

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