戦場への集いし意志
中央教会より馬を走らせ、フィール連合国に急ぎ戻ったクリスティア達は至急に同盟の代表を集め緊急の会議を開いた。
「クリスティア殿、それは間違いないのですな?」
苦虫を噛み潰したような苦い表情のまま再度クリスティアに確認をするが、クリスティア自信静かに頷く。
周囲の代表達の間に動揺と不安が伝播しざわめく。そんな中でも取り乱すことのなく静かに打開策を自身の中で思慮するのは、魔術国家ロベリア、邪教崇拝国家クロノーウェルの大使と真日帝国の皇帝上月雅の3名。
「向こうに魔王がいるように此方にも魔王が付いています。戦力的には同等なのでは?」
ロベリアの大使が発言するが、それをアルベールが静かに首を振る。
「残念だが、此方の序は三位、七位、八位、十位。対する向こう側は二位、四位、五位、六位だ。我一人で二位以下なら打倒することは容易ではあるが、問題は序列二位だ」
シラー達もそれには言葉を発せず、沈黙を決め込み視線をそらす。
「ではお聞きするが、アルベール殿。その二位とはどのような術式を使うのだ?」
使用する術式がわかれば打開策が浮かぶやもと、アルベールに問うが返ってきた言葉に誰もが息をのむ。
「序列二位クルト・ティアーズが使う術式は未来創造。自身が思い描いた未来を秒単位で正確に創り上げるのだ。以前その力で反逆を企てた序列第九位の魔王が無残に殺されたのをここにいる我等が目撃している」
「そうか……」
とうとうアムナリア王は両の腕で頭を抱え込んでしまった。
「アムナリア王。こうなってしまったらもう覚悟を決めるしかありませんね」
クロノーウェルの大使が腹を決めたように力強く、自身に言い聞かせるかのようにアムナリアに語りかける。
同盟を結ぶ他の大使たちも頷き合い、今一度机に敷かれた東大陸の地図と大体の戦力を予想して作った駒がいくつか置かれていた。
「多分だが、ヴァナトリア帝国皇帝ネクロ・ヨグ・ヴァナトリアは戦場には出てこないだろう」
アムナリアの言葉に誰もが耳を疑い、視線は発言者であるアムナリアに向けられる。
「それはどういう事ですか?」
クリスティアは小首を傾げる。
「うむ、戦場には娘のナコトが出てくるだろう。大方奴は高みの見物でもしているつもりだろう」
ナコト・ヴァナトリア。アズデイルの話しでは、彼らより強い魔王のシオンという男を意識不明にまで追い詰めたという少女。はたして人間に魔王をそこまで追い詰めることができるのだろうかと疑問を覚えるが、今はそれよりもその強大な力を持った相手にどのように対抗するかを考えなくてはならない。
「取り敢えずシオン達は私達にお任せ下さい。後の人間は同じ人間の貴方たちにお任せします」
「そうそう、魔王は魔王。人間は人間の相手をしていればいいじゃん」
アズデイルとエリーザは以前の仕返しをと考えていたのだが、アルベールはその翡翠色の瞳を机に敷かれた地図に向けていた。
「アルベール、どうした?」
「シラーよ、クルト達は戦場に出向くと思うか?」
「さぁな、シオンは喜んで人間を殺しに出てきそうではあるけどな」
「シオンは……な。だが、クルトが単独行動を認めるとは思えない。であれば我が考えるに魔王も戦場には出ず何処かで身を潜め、好機の瞬間に出てくるのではないか?」
「身を潜めるって何処にだ?」
地図を見渡し、気になる一箇所を指差す。
アムナリアを含めた大使達も身を乗り出し指先に記された国の名を読み上げる。
「ヴァナトリア帝国」
「そう、予想ではあるがクルトとネクロという男はつながっている。自らすすんで 人間たちの戦争に赴くとは思えない。きっと何かしらの交渉があったのだろう」
アルベールの発言にアズデイルも頷く。
「そうですね。ではこうするのはどうでしょうか。魔王である私たちがヴァナトリア帝国に乗り込み、ネクロの首を取るというのは?」
「ねぇねぇ、いくらアルベールが居るって言っても、向こうにクルトがいたんじゃ私達危ないんじゃない?」
「なんだよエリーザ。ビビってんのか?」
「違うわよ。ただ、勝てるかも分からないのに行く必要あるのかなって……」
エリーザの願いを聞いたアルベールは彼女の心境をなんとなくではあるが理解はしていた。他の魔王を家族と言い、昔のように仲良く過ごしたいという彼女の願い。仲間内で争いは出来るだけしたくはないのだろう。
「エリーザよ、我らは仲間を殺しに行くわけではない。これを期にクルト達との和解を結びに行くのだ」
「和解?」
「そうだ。我等が勝利を収めれば、クルト達も何も言っては来ないだろう。後はうまいこと会話の場を設ければいい」
諭すように優しく話すアルベールにエリーザの頬は赤く染まり嬉しそうに頷く。
「そうだよね、あの脳筋シオンに私たちの強さを知らしめてやって、もう見下させたりなんてさせないんだ」
「そうですよ、その勢いです。私も以前のような失態を犯すつもりはありません」
「ハッ! 上等だ。だが、シオンの相手は俺がする」
魔王達も上手く纏まり、意を決する。
人間たちのほうも話しは纏まりつつあり、後は兵の配置や配給の手順等の話しを進めていて、アルベール達はアムナリアに断りを入れ、部屋を退室する。
「待ってアルベール君」
背後からクリスティアに呼び止められ、振り返ると彼女の背後に四十字騎士団が控えていた。
「おいおい、俺らダチだろ? そのヴァナトリア本陣へ行くのに同行させてもらうぜ」
グレイは親指を立てる。それにジークリートとステラ、シンも頷く。
「銀の貴公子よ久しいな、また会ったのも何かの縁だ。この咎を背負う者シン・リードハルトもついて行かせてもらうぜ!」
そういえば以前、どこかの街で会った青年と同一人物であることを思い出す。
それでも敵の国に少数で乗り込むというのは、命の保証はできない。それも、魔王という存在がいるかもしれない場所なのだ。
クルトがいる以上、彼等を守りながら戦えるほど余裕はなかった。
「フッ、銀の貴公子……いや銀の魔王よ。俺たちの心配をしているなら余計なお世話だぜ。なんたって俺達は好きでついていくんだ。強制されているわけじゃない。自分の生命くらい自分で守れなければ咎など背負えるはずもないからな」
「クッ……人間が抜かすなよ」
シラーの馬鹿にした笑いにジークリートは一歩前へ出る。
ジークリトの鋼のような瞳とシラーの挑発するような瞳が交差し、今にも一触即発しそうな雰囲気にクリスティアは間に入る。
「喧嘩はダメだよ。もう! 私達はこれから一緒に戦う仲間なんだから仲良くしなきゃ……ね?」
双方の顔を見比べ、なんとか張り詰めた空気は霧散する。
「まぁ……死なねぇように頑張るんだな」
「お荷物にならないよう頑張らせてもらおう」
シラーはアルベールたちの脇を抜け、一人廊下の奥に消える。
残された魔王達は苦笑いを浮かべる。
「あ~クリスティアちゃんと、大きいお兄さんゴメンね。別にシラーに悪気はないと思うんだけど、昔からああいう性格だから許してあげて」
「えっ……あっハイ。私は気にしてませんがジークリートはどうですか?」
「俺も気にはしていない。むしろ、喝を入れられた気分だ」
「そっか、ありがとう。そうだ、折角だしこれから何か一緒にご飯食べに行かない?」
「エリーザ、それはちょっと……」
アズデイルが何か言いたげなのをすごい剣幕で睨み黙らせ、クリスティア側に交じり友達のように振舞う。
「あっ……あぁ、もうわかりました。私も行きます!!」
半ば自棄になり無理やりエリーザの隣に割り込む。
最初は嫌がっていたアズデイルだが、次第に彼らの人柄に打ち解け、今ではすでに友のように会話をしていた。
城下は夕焼けに照らされ橙色に染まり、街灯も魔力により光を灯す。
これから飲食店が混む時間帯なので、てきとうに空いていそうな店をみつけ入店する。
すいません今回は少々短いです。
2日関もあったのに、あまり書く時間が取れなくてこの有様です……。
次は11日までには投稿できるように頑張ります。




