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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
20/90

聞き届けるべき願い、開催された反ヴァナトリア同盟国による会議

多くの人が行き交う街を銀色の長髪を揺らし翡翠色の双眸を持つ青年は歩いていた。


 ここフィール連合国首都とされるこの場所にいるであろう人物を探し、視線を右へ左へと交互に巡らせている。


「クリスティア……」

 

 人間で出来た初めての友人。あどけない笑顔を向け、時々聖女としての言葉と女の子としての言葉が混じりあった口調になる少女の姿を。


 彼女が逃げ込むとすれば同盟国のフィール連合国が妥当だろうと思い急ぎ駆けつけてきたのだが、商いが盛んなお陰で人混みの中を忙しく探す羽目となっていた。


 身体に纏わりつかせている魔力の膜は他者との擬似的なあ触れ合いを目的として張っているのだが、正直今の状況では邪魔で仕方がなかった。いっそう膜を剥がして探そうかとも思ったのだが、そうすると人や物をすり抜けてしまい人々にパニックを引き起こしてしまうので却下し、軽い溜息を吐きつつも歩み続ける。


 歩き続けようやく大広場に出ることができ、人口密度が低くなる。


「少々、休憩でもしておこうか」


 体力的な疲れはないのだが、精神的に疲れていた。空いているベンチに腰を下ろし雲が流れる青い大空を見上げる。


 地上の喧騒など知らぬような静けさに、悠々と雲は形を変えて流されていく。


 あの大空はどこまで続いているのだろうかと、考えつつ視線を地上に戻せば人、人、人。


 そして、その人の中に知った顔を見つけてしまった。


 向こうもアルベールに気づいたらしく、1人の少女が大きく手を振り駆け足で近づいてくる。


「アルベールじゃん。こんな所で何してるの?」


 栗色の長髪を持つ少女は嬉しそうにアルベールの顔を覗き込んでくる。


「我は知人を探しに来ただけだが、貴公等はまた物見遊山か?」

「ざ~んね~ん。私達は色々と事情があってね。それよりアルベールの人探しって誰?」

「エリーザ、私たちを置いていかないでくださいよ。そしてお久しぶりですねアルベール」

「お前こんな所でなにボーッとしてんだ?」


 エリーザの背後には同じ魔王のシラーとアズデイルの姿。


「なんか人探ししてるみたいだよ」

「人探し……もしかして、最近滅んだ中央教会の次期聖女になるはずであった少女じゃないですか?」

「うむ、流石はアズデイルだな」

「いえいえ、簡単ですよ。まず貴方に知り合いは私たち魔王くらいしかいません。そして、ロベリアの魔族刈りの件は中央教会との接触により解決。この時点で知り合いは中央教会の人間に絞られます。そして、その少女は現在国から逃げている。もちろんその逃亡先は同盟国のこのフィール連合国であり、その盟主が統治するこの首都。そして、アルベール貴方がこの場で探す人物となれば……ね」


 アズデイルは簡単な理由と共にアルベールが探す人物がクリスティアだと言い当てる。


「我の事はいいのだが、貴公等また遊んでいてはシオンやクルトに叱られるのではないか?」

「……」


 三人は押し黙り、これは何か訳ありの様子だったので、問いただしてみる。


「何かあったのか?」

「えっと……実はね」


 エリーザは言いにくそうに口を開き、事の顛末を語り始めた。


 彼女が話している間アルベールは静かに言葉に耳を傾け時々相槌を打つ。


「……っていうわけなんだ」

「そうか……我のいない間にそんな事があったとはな。だが、貴公等にも人間の友人が出来ていたとは正直驚いている」


 この三人はアルベールのように人間派でもなければシオンのように人間殲滅派でもない。中間に位置していたのだが、まさか関わりを持つとは思わなかったらしく、アルベールはクスリと表情を綻ばせる。


「それで、シオン達と決別してこれからどうするのだ?」

「決めてない……というより分からない」


 エリーザが呟く。


「そうですね、今更戻れませんしね」

「ハッ、俺は別に戻って再戦でもいいけどな」


 特に決めていない三人にアルベールは一つ提案を出す。


「賭けをしないか? 二日後の夕暮れまでに我がクリスティアを見つける事が出来なければ、貴公等の願いを一つ叶えよう。だが、見つける事が出来れば我の願いを聞いてもらう。暇なのであれば乗ってみないか?」


 普段あまり見せることのない、挑戦的な笑みに三人は顔を見合わせ頷く。


「もちろん!!」


 エリーザ、シラー、アズデイルは一度アルベールの下に従う。一日目では目撃することも情報も手に入らず日が暮れ、探索を打ち切り宿に戻る。


「ねぇねぇ、せっかくアルベールもいるんだからトランプしようよ」


 ベッドの上で何処から見つけ出したのか、古いトランプを見せつけてくる。


「興味ないからお前らだけでやってろよ」


 シラーは本当に興味が無いらしく背を向け布団に潜り、小さな寝息が聞こえてくるまで時間はかからなかった。


「せっかくの誘いで済まぬが、我も今回は遠慮しておこう」


 アルベールは窓際に設置された椅子に座り夜空を眺めつつ何かを考えている素振りを見せる。


「なら私と二人で朝までばば抜きでもしますか?それともスピードでも構いませんよ」


 一人テンションの高いアズデイルに興が削がれたのか、ボロボロのトランプをアズデイルに投げ渡し、エリーザも布団に潜り込んでしまった。


「おや、つれませんね。仕方ありません。私も寝るとしましょう」


 硬いベッドに薄い掛け布団に包まれ、意識は微睡みに飲み込まれる。


 翌日も朝早くからクリスティア探しは始まった。


「アルベールのその人間の少女に対する思いは尋常じゃないと思うのですが……友人の為とはいえ、普通ここまで探し回りますか? もう、昼過ぎですよ。実に5時間も歩きっぱなしじゃないですか」

「それほどまでに、アイツを夢中にさせる人間って事なんだろ」

「足痛い~疲れた~」

「ふふ、もしよければ私がおぶってさしあげますよ」

「遠慮しとく」

「そうですか……」


 アズデイルの歩くペースが落ち、最後尾を一人寂しく付いていった。


「まだ見つからねーのか?」

「あぁ、だが確実に明日の夕刻までには見つかる」


 自信ありげなアルベールの姿を見て、シラーは確信した。この賭けは俺たちの負けなのだろうと。


 今日も見つからず、結局暮れまで歩き続ける羽目となり、宿に着くとエリーザは全身をベッドに投げ出す。


「疲れた~お腹すいた~足痛い~」


 頬をふくらませ、こんなになるまで歩かせたアルベールを恨めしそうに睨みつけるが、アルベールは微笑み返すだけでエリーザの無言の訴えはスルーされていた。


「ふっふっふ、エリーザ。わっ私が足をマッサージして差し上げましょうか? 遠慮は要りませんからね!」


 欲望が顔に現れ鬼気迫る勢いでベッドに乗り上げ、アズデイルはエリーザとの距離を徐々に詰めていく。


「キモイッ!」


 掴んだぺたんこの枕でアズデイルの顔を殴打するが、殴打されたアズデイルからすれば来るものがあったらしく、口元を一層に歪ませ擦り寄る。


「それくらいにしとけ、アズデイル」


 シラーはアズデイルの襟を鷲掴みし、エリーザから無理やり引き剥がす。


「ウゴェ!!」


 襟を引っ張られたことに、衣服が首を圧迫し変な声が上がる。


「ありがと、シラー」

「ゴホッ……エホッ……酷いじゃないですか!!」


 感謝と恨みの視線を浴びても特に感情を見せないシラーは溜息を吐く。


「まぁ、一応だ。アルベールに俺たちの願いでも言っておくか?」

「ふむ、そうだな」


 シラーの提案にアルベールは頷く。


「まずは俺からだ。俺の願いはシオンの野郎をサシでやりあって勝つことだ。だから、誰にも邪魔されない環境で戦わせろ」

「それくらいなら、我に頼まなくても。シオンは戦ってくれるのではないか?」

「いや……俺がやりたいのは殺し合いなんかじゃねぇ、真に強いのがどちらかを決めたいだけだ」

「私は何度やってもシオンが勝つと思うなぁ~」

「チッ、やってみなきゃわかんねーだろ。この間は乱戦だったから。次は負けねーよ」


 シラーの願いは十分に理解した。


「わかった。殺し合いじゃない戦いの舞台。我が責任をもって用意しよう」


 次にアズデイルが挙手をする。


「私はエリーザと永劫一緒に生きていければそれで構いません。ですが、これは自分で叶えるべき願い。貴方に願うべき願いはありません」

「そうか……だが、ではアズデイルの願いは保留にしておこう」


 最後にエリーザの番が巡ってくる。


「エリーザ、あまり無茶は言わないでくれると助かるのだがな」


 一番無茶難題を突きつけてきそうな少女に視線を向けるが、エリーザは俯き願いを告げようとしない。


 その様子に皆不審に思いつつも、彼女が口を開くのを待つ。


 意を決したようにエリーザは顔を上げ、アルベールを真っ直ぐ瞳で捉える。


「私の願いは、クルトやシオン……魔王の皆で仲良く過ごしていきたい。シオンはムカつくし、リリアンやクルトは私を子供みたいに扱うけど、私……本当は皆が大好きなんだ。だから……離ればなれなんかじゃなくて家族として過ごしていきたい。それが私の願い」


 エリーザの胸の内に隠された本心。


「家族か……そうだな、また昔のように皆で夢を語り合い、食事をしたいものだな」 


 魔王が10人揃った時の事を思い出す。一同揃って酒を酌み交わし、語らいあった当時の思い出。


 まだ、シオンやエリーザ達がまだ険悪な雰囲気ではなかった頃の記憶。


 良き願いだとアルベールは思う。出来ることならば叶えてあげたいとも思った。だが、今の状況でその願いを叶えるのは難しいのだ。


 現状アルベールは仲間に背を向け、彼らも殺される寸前の所で逃亡した状況で、今更家族などといっても受け入れられないのはわかりきっている。


「へへへ、難しいよねそんな願い……うん、忘れて。別の願いにするから」


 無理に笑顔を作るエリーザにしらーやアズデイルは視線を逸らし俯く。


 そんな彼等を見てアルベールは一言つぶやいた。


「わかった。その願い我が叶えよう」


 賭けは確実にアルベール自身が勝つことはわかりきっていたが、それでも仲間とは仲良くやっていきたい。


 叶うなら昔のような関係でありたいと願うのはきっとシラーやアズデイルも同じだろう。


 だからこそ、そうあってほしいと願う仲間がいるのなら何としても叶えなければならない。


「アルベール……賭けはお前が勝つからって、軽い気持ちで発言するもんじゃねーぜ」


 シラーの冷めた口調にエリーザとアズデイルは反射的に顔を上げアルベールとシラーを交互に見やる。


「アルベールが勝つってどういうこと?」


 瞳を丸くし、小首を傾げるエリーザにシラーは説明する。


「そんなの簡単だろ。今人間共はヴァナトリアとかいう帝国の脅威に晒されているだろ。そしてソレに対抗するために出来た3国同盟。悠長に帝国の侵攻を待っているわけがない。なら、近いうちにその対抗策を講じるための会議かなんかが開かれるはずだぜ。昨日からこの街は派手やかな装飾が飾られ始めていた。つまり、近いうちにあるんじゃねぇのか? その会議ってやつが」

「つまり、私達の賭けはというのは最初から勝つ見込みがないと?」


 男性二人の視線を集めたアルベールは翡翠色の双眸を一度伏せ数度深呼吸をする。


「確かに会議が開かれることは知っていた。それも明日の昼だ。そして、貴公等を賭けという茶番に参加させ、上手く使おうとしたのも事実。そこは素直に認めよう。だが、機構らが負けても願いを叶え用としたのもまた事実」

「どうして……どうして、そんなめんどくさいやり方をしてまで私達を利用しようとしたの?」


 怪訝な視線を向けるエリーザの問い。


「素直に人間の為にその力貸してもくれと願い出たところで貴公等は良き返事をしないだろう。だから、少々めんどくさくはあるが、賭けという茶番を用意し負ければ従わせるというルールを設けたのだ」

「ふ~ん、それで私達が仕組まれた賭けに気づいてもまだ勝負すると思う?」

「それは貴公等次第だな」


 アルベールは薄く笑い、続けるか降りるかは彼らの判断に任せていた。


「一つだけよろしいでしょうか?」


 アズデイルが話しに割って入る。


「構わぬよ」

「では、先程私達の願いを叶えるのも事実だと仰っていましたが、本当に叶えられるのですか? シラーの願いならともかく、正直エリーザの願いを叶えるのはほぼ不可能かと思うのですが……」


 エリーザはまた少し泣きそうな表情をするが、なんとか笑顔を浮かべ耐えていた。その姿は見るに絶えずアルベールは強引ではあるが今は皆から信用を得るほかはないと考え言葉を紡ぐ。


「確かに容易なことではないだろう。だが、我は序列第三位に座する魔王。我が魂に替えてもエリーザの願いは叶える。保証を提示することは出来ぬがどうか信じて欲しい」


 アルベールは彼等に真摯に語りかけ、嘘偽りなき言葉として受け取ったのか、シラーは頷く。


「ハッ、おもしれぇ。いいぜ俺は信じてやるよ。だけど忘れるなよ今お前は魂に誓ったんだ。その重みは生半可なもんじゃねぇって事をよ」


 シラーに続きアズデイルもやれやれといったように肩を軽く竦める。


「しょうがないですね、私も貴方の言葉を信じましょう、貴女はどうしますかエリーザ?」


 話しを振られ、エリーザはきょとんとした表情をするが、直ぐに真剣な表所を浮かべる。


「アルベール、本当に信じていいんだね? 自分から願いを言っておいてアレだけど、すごく難題だよ」

「であろうな。だが、無茶というだけで絶対不可能というわけではない」

「そっか、わかった。私もアルベールを信じるよ!」


 一同の志は一つに纏まり、次の日に備え各自布団に潜り込む。


 翌日、天気は快晴だった。


 外が騒がしく、城に続く大通りには左右縄で仕切られ中央は大きく開けていた。


 この中央の道を同盟を結んだ各国の代表が通るのだろう。


 遠くから次々と同盟を結んだ小国の代表が精鋭の騎士に囲まれ姿を見せ、民に笑顔を向けながら手を振っていた。


 列の最後には海を越えた先にある極東の島国であり、3国同盟に大きく名を連ねる真日帝国皇帝である女性の姿が見られた。


 その神秘的な静けさと美しさを持ち合わせる彼女は凛と背筋を伸ばし、穢れ無き純白の髪は肩口で切り揃えられ、小刻みに揺れる。その女性は先程まで愛想を振りまいていた小国の代表とは違う雰囲気を纏い、見るものを魅了させていった。


 大陸とは服装も違って、薄い布を左右重ね腰紐で結び、長いスカートのようなものに足を通して歩いていく。


 それは彼女の護衛をする者達も同じで、触れれば切れてしまいそうな威厳の固まりのような者達だった。


 その行列を遠目に眺める四人の魔王は互いに頷きあい、行動を起こす。


「さて、ここがこの国の城ですか、見事なものですね。さて、さて、どうやって入りますか?」

「ハッ、そんなの決まってんだろ」

「もちろん」

「正面からであろ」


 彼等は荘厳な城門に向かい歩き出した。

次回もアルベール視点で会議後の話しを書いていきます。


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