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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
19/90

魔王との再会、侵攻すべきは強大なる帝国

 翌日、ステラとクリスティアが朝食の準備をしていると、空腹に目を覚ましたグレイが厨房に顔を覗かせる。


「うわぁ〜腹減ったぜ、飯はまだか?」

「ふっ、よく寝たぜ、聖なる乙女よ飯はまだか?」


 続いてシンが髪を掻き上げながら同じような台詞を吐き顔を覗かせ、食い意地の張った2人は早速テーブルにつき、今か今かと朝食を待っていた。


 朝は簡単にパンとスープ、そしてこの国でしか食べられないフルーツ。


 シンプルなモノだが素材が良く、どれも今までに食べたことのない味で新鮮な食事に自然と口元が綻び、あっという間にスープやパンは綺麗に平らげられていた。


「そういえばジークリート、貴方確か今日はロイ殿と手合わせでしたね」

「あぁ……奴がどれほどの腕かは知らないが、剣を交える以上本気で相手をしなくては失礼に値するのからな」


  昨日は手加減をして欲しいと言っていたような記憶があったが、珍しくジークリートが楽しそうににしているので、水を刺さない為にも黙っておく。


 そして約束時間になり扉が叩かれる。


「ジークリート殿お約束通りお手合せに来ました。本当に手加減してくださいよ。僕はまだ死にたくないですから……」


 最後のほうは声が小さくなっていてよく聞き取れなかったが、ジークリートの表情からは手加減をするつもりはないのだろう。


「大丈夫だ、任せろ」 


 手入れのされた大剣を背に担ぎ、ロイと共に外へ向かう。


「ククク……聖なる乙女を守護せし四十字騎士団序列二位の力、是非とも見せてもらうか」


 壁に背を預けていたシンが不敵に笑い彼らの後に続く。


 場所は城内にあるフィールの騎士達が日々鍛錬を積んでいる訓練場で行われた。


 制限時間は無く、どちらかが負けを認めた場合のみ試合終了となる。


 ジークリートは背に携える大剣を振り抜き肩に担ぐ構えをとる。


「どうしたロイ、お前の武器はどこにある?」


 手ぶらで目の前に対峙するロイは右腕を水平に持ち上げ呟く。


「次元召喚━━━━裁きの天星・エムリ・クイルツァ」


 空間が歪み中から1本の剣が現れロイの手中に収まる。


 その剣はあまりに神々しく、見るもの全てを浄化するのではという程の輝きを放ち、因果創神器の中でも上位に位置するだけのモノではあるようだ。


 形状はレイピアに近いだろうか。柄から鍔までオダマキという華の細工が巻き付かれたような装飾の施された美しい剣。


「その装飾品はオダマキか……確か花言葉は必ず勝利だったか。大層な剣だな」

「はい、昨日貴方の剣から発せられる力に思いました。普通の剣では相手にならないと。ですので、僕もこの剣を使わせてもらいます」


 ロイは刺突剣を構えるが、構えからして全くのど素人である事はクリスティアでも一目瞭然だった。


 もしかすると、これは相手を油断させる為の策略なのかもしれないが、それに対峙するジークリートはいつものように大剣を肩に担いだままロイに特攻をかける。


 その動きに迷いはなく、あまりの剣気に普通の相手であったなら何もすること叶わず、気付けば地に伏せているとい状態である。


「グッ! なんて力ですか。お互い剣の力は封じておきましょう。この国を滅ぼされるわけにはいかないので」


 弾き飛ばされたロイが空中で体勢を持ち直し、着地と同時に切っ先をジークリートに向け追撃を妨げる。


「お前……今の一擊をわざと受けたな。お前はその切っ先を俺の喉元に向け刺せば、俺を殺れたはずだが」


 ジークリートの表情に僅かばかりの怒りと屈辱の念が浮かんでいた。


「いえ、それは流石に買いかぶりすぎですよ。僕は正直剣の腕はど素人です。ただこの剣に振り回されてるだけなので……それに、これは手合わせです。殺し合いではありません」


 困ったように剣先を再び、ジークリートに向け、半身を引き姿勢を低く刺突の構えをとる。


「いや……俺の負けだ。もういい」


 剣を乱暴に振った勢いで背中の鞘に収め、なにも言わず訓練場を出て行ってしまった。


「……どうやら怒らせてしまったようですね。後で謝りに行ったほうがいいでしょうか」


 不安な表情を浮かべオロオロするロイに。


「あ〜気にすんなよ。あいつは普段から負けを知らないからな。たまにはこういうのを味わっとかなきゃ、いざという時に早死にしちまう。そんなことより腹減ったんだけどロイ一緒になんか食いに行こうぜ!」


 グレイはロイの肩に腕をまわし、二人街に繰り出そうとするが、シンに呼び止められる。


「待ってもらおうか聖なる乙女を守護せし聖騎士グレイ、そして聖剣に選ばれし優しき者よ。飯に行くのなら俺も一緒に行ってもいいか?」


 相変わらず他人を長い称号のような呼び名で呼び、三人仲良さげに肩に腕を回し合いながら今度こそ街に向かっていった。


「ステラ私たちも何か食べに行きませんか?」


 ずっと傍に控えていた美しき騎士に上目遣いで問いかける。


「えっ……あぁ、そうですね。私たちも街で何か食べましょう」


 惚けていたのか何処か上の空であったステラに疑問を抱きながら、深く考えず女二人で街に繰り出して行った。


 フィール連合国首都は連合国という事もあり、多様な名産品が数多く並び賑わいを見せていた。


「クリスティア様、ロ……ロイ殿に付き合っている女性とかは……いるので……しょうか?」


 最後の方は声が小さいのと民の賑わいの声で聞き取れなかったが、だいたい言いたいことがわかった。

そして乙女というのはこの手の話には敏感で、ステラがロイに対しどのような思いを抱いているか理解した。


「ステラはロイさんの事が好きになっ……」

「わわ……べっ、別にそういうことではなく、ただ気になって……というのも違いますッ!! ど……どうなんだろうなって思っただけです」


 普段見せない可愛らしい一面にクリスティアはふふっと笑みが溢れた。


「どうかな~まだ数日しか一緒に過ごしてないですし、自分で聞いてみたらどうかな?」

「自分で!? うっ……ですが」


 真実を知るのが怖い。どうせ砕けてしまうのなら片思いでいた方がなどと考え頭を抱え込んでしまい、今にも泣き出してしまいそうな表情をし、指で自分の髪の毛をクルクル弄びだした。


 これはステラの昔からの癖で悩んでるときなどに無意識で行ってしまう行動なのだが、その仕草も男性からすれば何かをそそるらしく、一同の視線を集める事も多々見受けられた。


 だいたいクルクルしてたら悩んでるんだなと分かり、自分やヘブリド、マリーナ、そして同じ四十字騎士団の仲間達がよく相談に乗っていたのを思い出した。


「噂をすればなんとやらです。あそこにいるのはロイさん達ではありませんか?」


 目の前のパスタ屋に並んでいるロイ達の姿があった。


 店は長蛇の列となり、繁盛している人気店だというのが見て取れる。


 だが、並んでいるのは男性客ばっかりで皆どこか浮ついた感じでソワソワし不思議そうに女性二人は遠目に眺める。


「いったいこのお店はどんなパスタ屋なのかな」

「わかりませんが、興味があるので行ってみませんか?」


 という事で近くの古着屋で変装用に色々と買い揃え、列に紛れることにした。


 グレイ達が入店してから10分遅れでクリスティア達も店に入ることができ、内装は白を基準とした壁紙に花や風景等の絵画が展示させられ席の1つ1つには花がの束が花瓶に活けられていて、男性客の目当てがウエイトレスだという事が分かった。


「意外と綺麗なお店ですね」


 ステラが呟きチラチラとロイに視線を送るが、重いため息を吐いては運ばれてきた水を一気に喉に流し込む。


「ロイ君達と相席しますか?」

「あっ……ええと、それは」


 ステラがオロオロしてる間にもクリスティアはロイ達の席に向かって歩き出していた。そして、ステラのもとに戻ってきたのは何故かロイだけだった。


「ステラさんが大切なお話しがあるとクリスティア様に聞いたのですが?」


 先程までクリスティアが座っていた正面の席にロイが腰を下ろす。


「うぇ!? その、あの」


 そこで言葉が詰まる。


 身体が鉛のように重く、呼吸は乱れ、心臓が内から爆ぜるといわんばかりに拍動している。


「今お付き合いしてる人とかはいますか?」


 少し早口になってしまったが何とか言えたのだが、聞き取れているか不安に上目使いロイを見上げる。


「えっ……いえ、お付き合いしている人はいません。ただ、その気になっている方はいるんですけどね」


 瞬間ステラは自身の心臓が一段と大きく跳ねたのを感じた。


 周囲の時間が停まってしまったのではないかと錯覚さえ覚える。


「はは……そうなんですか。ロイ殿が想いを寄せる方です、きっと素晴らしい方なのでしょうね」


 口が乾き小刻みに震えが止まらない。


「実は……その、ステラさんはお付き合いしてる方はいますか? もしいないのであれば僕とお付き合いしていただけないでしょうか」

「えっ……」

「あっ……ぼっぼ、僕とお付き合いしていただけないでしょうか。初めてお会いした時から一目惚れでした!」


 向こうの席ではグレイ達がニヤつきながらステラ達を伺っていた。


 後でシメると内心で決意しながらも、ロイの言葉が嬉しく自然と笑みが溢れる。


「はい! 私でよければ、その……お願いします」


 ステラの恋は見事簡単に実ったが大変なのはここからである。実らせた恋をどのように咲かせるかは二人次第なのだ。


 店を出てステラはロイと買い物をして帰るとのことだったのでグレイ、シン、クリスティアの三人で帰宅することにした。


「はっはっは、まさかステラがロイに恋するなんてな」


 グレイは俺も恋がしたい、とぼやきつつ仲間の幸せを祝福していた。


 クリスティアもアルベールとそのような関係になれたら……と少し乙女の妄想を広げてみるも、そんなことより自分にはやらねばならぬ使命を思いだし、ちょっと暗い気持ちになっていく。


「そういや東国のあいつからは手紙の返信返ってきたか?」


 中央教会と同盟国である真日帝国の皇帝にして友人である雅に中央教会の崩壊の事と自分は無事であるということを綴った文を4日前に送ったのだ。


「ううん、まだ朝の時点では返信は返ってきてなかったよ。それと相手は皇帝なんだからあいつなんて言っちゃ駄目だよグレイ君」


 彼女も多忙の身。なかなかに返信を書いている時間が取れないのだろう。


「えぇ〜だってそういうの気にしなさそうじゃん! それに上手く行けば後ろ盾になってくれんじゃねーの?」

「それも駄目。もし私達に一国が加勢したら、もしかしたら他の国に攻め入られる理由を与えてしまうかもしれないでしょ」

「……」


 先程から黙っているシンに気づいた。


 本来なら真っ先に口を動かす彼が今は何かを考えているような真剣な表情をしていた。


「シン君どうしたの? 悩み事があったら聞くよ」

「あぁ、いや、何でもない心配をかけてしまったようだな、流石は聖なる乙女だ」

「そう? でも何かあったら何でも相談してね」

 

 夕日が沈みかけるこの時間は何処か寂しくもあり美しくもある。たとえ、今日という日が終わっても明日という日がやってくる。


 明日には何が起こるかなんて誰も分からない。きっと素晴らしい日になると願いながら明日を待つ。


 夜空に星が輝き始める頃に帰宅し、温かい夕飯が三人を迎える。


 メイド四名が身の回りの世話こなしてくれているおかげでクリスティア達は快適な暮らしをさせてもらっているが、流石に自分たちは何もしないというのは居心地が悪く、できるだけ掃除や買い物はクリスティア達が引き受けることにしていた。


「聖女様、先程お手紙が届いておりましたので机の上に置いておきました」


 メイドの1人が軽く頭を下げ報告する。


 クリスティアはメイドに礼を告げ急いで部屋に向かう。


 机の上には新日帝国で一般的な和紙の包みに手紙が入っていた。

 

 大陸の情勢についての情報が入るのが遅い島国ですが、親しき国の崩壊という事実に我が国の民も明日は我が身と不安を募らせておりました。


 ご両親の死は誠に残念でありますが、何はともあれクリスティアが無事で私は安心いたしました。


 国を上げ、仇討ちにとその反逆者であるベリアントを討ちたいのですが、我が国も大陸の侵略に目を見張らなければなりませぬ故に、なにも出来ぬ我が身が悔しくてなりません。ですが、近いうちに私もフィールに向かう予定になっているので一目でも元気なお姿を拝見できればと思います。


 何やら五大強国の一つヴァナトリアに不穏な動きがあるとフィールから連絡があり、その件で今回フィールに出向くことになっております。


 また何かあれば連絡をお待ちしております。 上月 雅 


「雅ちゃんがフィールに……」


 彼女の手紙を何度も読み返していると、心強い気持ちになる。


 唯一気掛かりなのはヴァナトリアの事だが、そのことについては明日ロイにでも聞いてみようと今日はもう休むことにした。


 雅に会える日を楽しみに、静寂な空間に自分の心臓の音だけが聞こえるようで、なかなか寝付けなかったが、結局気づいたときには……いや、気づく前に眠りについていた。


 それから二日は何事もなく過ごし、ヴァナトリアやベリアントによって新たに統一された中央教会は特に動きを見せないでいた。


 ロイに聞いた話によればヴァナトリアは軍事力を強化し、何か戦争でも始めるような準備にとりかかっているという情報を密偵から報せをうけたらしく、それでフィールは他国に内密にこの事を呼びかけ連合国の規模を拡大させ、いざという時ヴァナトリアに対抗できる戦力を集めておこうということになり、そのなかに同盟国である真日帝国も含まれているらしく、本来であればそこには中央教会も加わっていたはずなのだが、現在中央教会は同盟を破棄し独立していた。


 それからさらに二日が過ぎ、同盟国の会議当日。もちろん此度の会議には上月雅も出席予定である。先程彼女を乗せた漆塗りの黒い馬車が首都に着き、城の窓から雅の姿は確認していた。


 やはり、警備は強固なもので50人ほどの東洋人が彼女を連携のとれた動きでガードしていた。


「クリスティア様そろそろ会議が始まりますので」


 ロイは緊張した面持ちで告げクリスティアを会議の席に座らせる。


 たぶん部屋の中で1番大きな部屋を使用しているのだろう。中央部には大きく円卓を組んだ席が用意され席の1つ1つに名前と國が記された紙が置いてある。


 現在フィール十六連合の代表十六名と真日帝国皇帝上月雅、新たに加盟した同盟八カ国の代表八名の計二十五名とクリスティアが席についていた。


 なぜ軍事力を持たないクリスティアが会議に参加しているというと、ロイが昨日聖女とは自国民だけでなく他国からも信頼されている存在であり、そこにいてくれるだけで部下の士気はあがり、国同士一層強い団結力が産まれるとの事だった。


 お世話になっている分自分が出来ることをして恩を返したいと考え、出席を決意した。


 クリスティアのちょうど向かい側に雅が座っていて会釈すると微笑みを返してくる。


「うむ皆集まったところで、始めるとしよう。今回はヴァナトリアの大陸侵攻の噂により我々は今この場に集結している」


 話しを切り出したのはフィール連合国盟主アムナリア・フィール王であった。外交で立てば右に出るものはいないとさえ言わしめる巨漢だ。


「此度の件は十六カ国の小国の集まりでは対処出来ぬとふんで、恥ずかしながら八カ国に加盟の文を送るという事態にどうか笑ってくれて構わない」

「話しの最中に言葉を挟むことを許していただきたい」


 手を上げ発言したのは新日帝国皇帝上月雅だった。


 アムナリアはどうぞと発言を許可する。


「今回のヴァナトリアの件ですが、我が国は海を渡った場所にある小さな島国。大陸に派遣できる軍隊には限りがあります」


 周囲に物怖じすることなく言い放つ辺り昔と変わっていなかった。


 周囲からは非常時に軍事力を渋るのかと、非難の視線が当てられているが、気にした様子もなく王を見上げる。


「そうであるな。だが、どうかできる限りの人数を送っていただきたい。この場でヴァナトリアを止めなければ次は上質な絹や鉄が摂れる雅殿の国が標的にされるやもしれません」

「わかりました。ですが、我が国は大いなる神々により幾度の侵攻を防いでおります」


 そう何故か真日帝国に侵攻する船は大嵐や渦潮などによって全船沈んでいると聞く。


「そう、何度も神は助けてはくれぬよ。自分の手で守ってこその国だと私は思うが」

「それも一理ありますね」


 雅は考える素振りを見せこれ以上は発言しないという姿勢を見せる。


「ヴァナトリアは現在周囲の村や小国を襲い少しずつだが国力を広げてきている。このままでは拮抗していた戦力が傾くのも時間の問題だ」


 固唾を飲む音が至るところから聞こえ、緊張はピークに達していた。


「加盟していただける国にはできる限りの援助と貿易を優先して行いたいと思っている」


 手を上げるのは四カ国程度だった。


 残りの四カ国は未だに悩んでいるようであった。


 ここで同盟を組んでしまえば表立ってヴァナトリアに宣戦布告したことになる。その場合、戦争に負けたときに何をされるかわかったものではない。


 皆それを恐れて最後の一線を越えられないでいる。


「わっ……私は軍事力も国力も何もない一人の人間です。ですが私にもきっと皆様のお役に立てることがあると思うんです。私にできることは率先してやる所存ですので、皆様のお力を是非お貸しいただけないでしょうか」


 クリスティアの言葉に代表たちは互いに顔を見合わせるだけで、誰も名乗りあげようとはしない。


 自国を思うが故に、反撃に転じることができない。


「貴公等……たとえここで加盟しなくても、ヴァナトリアに敗北すれば服従より辛い労働を強いられると我は思うのだがな」


 凛とした声はどこから聞こえたのか、この部屋にいるものではなく、明らかに扉の向こうから聞こえた声だった。


 だが、この声をクリスティアは聞いたことがあった。


 その声に心臓の鼓動は早まり呼吸が乱れるのを感じた。


 その扉は少しずつ開かれていく。


 扉は完全に開き、中に入ってきたのは三人の男と一人の少女だった。


 周囲の三人は知らないが、一人の男は知っていた。


 肩まで伸びた綺麗な銀髪、鋭い翡翠色の双眸、存在が希薄な印象を与えつつも絶大な存在を誇る青年。


「アルベール君!?」


 無意識に呼んでしまった。どれだけ会いたかったか。


 知らず知らず目元が潤み視界がぼやける。


 今にも彼に向かい走り出したい気持ちを押さえ、目の前に現れた銀の魔王に視線は釘付けとなる。


「久しいな、クリスティア」


「だっ……誰だね君たちはッ!? 今は大事な会議の途中だぞ。誰かこの物等をつまみ出せ!」


 王の言葉に衛兵は一人も姿を現すことは無かった。


「ハッ……警備の人間だったらちょっと眠ってもらってるぜ」


 片目を黒髪隠でした黒衣の男は親指を背後の扉に向ける


「ふふ~ん、私達が誰か知らないのは、ちょっと田舎者過ぎるんじゃないかな?」


 愛らしい栗色の髪をした少女が不敵に嗤う。


「本来私はあまり下等な人間に近づきたくもないのですが。おや……そこの男性は見たことがありますね。ご家族はお元気ですか?」


 貴族のような出で立ちの男は、円卓に座る1人の男に話しかける。


「なぜ貴様……いや、貴方様が!?」

「ふむ、話しが進みそうにないので、勝手ではあるが自己紹介させていただこう。我はアルベール・ハイラント・ルードリッヒ。第三魔王に座する銀聖の影法師」

「ふん、俺はシラー・トゥイークス第十魔王に座する千雷の狩人」

「私はエリーザ・ブリュイヒテール第八魔王に座する堕ちた邪竜」

「私はアズデイル・クリュトリス第七魔王に座する氷精の王」


 人通り名乗り終わった。


 静寂が場を満たし、魔王という言葉に周囲は顔を見合わせる。


「魔王だとッ!?」


 アムナリアは完全に動揺していた。


「その魔王が何の用だ、まさか我らを滅しに来たというのか!?」

「我はそこにいるクリスティアの友人だ。友が困っているのならば手を貸すのが友というものであろう」


 アルベールの言葉に、アムナリアは困惑していたが我に戻り咳払いを1つする。


「クリスティア殿、何故貴女が魔王と友人なのかは置いておきます。今は一人でも強い仲間が必要なのですが、彼は信用するに足る男なのですかな?」


 そんな分かりきった答えにクリスティアは自信有りというように頷く。


「はい! 彼がこちらについてくれれば、怖いものはありません」


 そこに躊躇いはなく堂々と自身に満ちた聖女の姿が夕日に照らされた部屋に美しく栄える。


 自分の王子様を絶対と信じきる幼き少女のような想いがクリスティアを満たしていた。


「そうか、聖女殿がそう言うのであれば。先程の非礼を詫びさせてくれ、俺はフィール連合国盟主アムナリア・フィールだ。よろしく頼む魔王達よ」

「ふむ、こちらこそ宜しく頼む」


 二人の王は硬い握手を交え今後の対策について話し始める。


「いくら、ヴァナトリアといえど徴兵をしようとも我らが連合国の数にはまだ及ばないはずです。ここは早い段階で数を持って一気に攻め落とすべきです」

「いや、数の暴力など意味を持ち得ない。あの国には化け物がいるだろ、それもとてつもなく強力な力をもった女が」


 代表1人の案にアルベールは思慮する。


「ほぅ、その女というのは一体どのような者なのだ?」

「確か現皇帝の娘で、名は……そうだ、ナコト。その優れた魔術師としての才は魔術国家ロベリアすら凌ぐ力を有しているとかなんとか」


 代表の一人が答える。


「そんなやつ目でもねぇだろ」

「そうよそうよ、私たちは魔王なのよ。たかが人間相手に倒されるはずないじゃない」


 シラーとエリーザは特に問題視するほどの相手ではないと踏んでいたが、アズデイルとアルベールはあまり良い顔をしていなかった。


「ふむ、アルベール殿とアズデイル殿どうなされたのですかな」


 あまり良い顔をしない二人に気づいたアムナリアは怪訝に問いかける。


「えぇ、それはもう不安ですよ。彼らには色々と噂がありますからね。魔王に近い人間とかなんとか。彼等は何かに憑かれたような感じでしたし……」

「それってどういう意味なんですか?」


 アズデイルの呟きの意味が分からずクリスティアは疑問に首を捻る。


「人間でありながら、魔王に匹敵する力を有しているという事ですよ人間のお嬢さん」


 アズデイルの答えにようやく納得する。


「憑かれているってのはどういう事だ? その口ぶりからすると面識があるみたいだな」


 シラーは背を壁に預け、視線をアズデイルに向ける。


「いえ、会ったには会ったのですが、その時戦ったのはシオンです。人間の少女一人と戦い苦しくも退ける事に成功しましたが、その際にシオンは重症を負って三日くらいは目を覚まさなかったんですよ」

「うそ……」

「ハッ! あのシオンがかよ。ははは、そいつは見てみたかったぜ」


 クリスティア自身そのシオンという人がどれほど強いのかは分からなかったが、シラーとエリーザの反応を見る限り相当の実力を持っていて重傷を負ったのだから、敵も油断ならない相手だという事が分かった。


「私たちより強いシオンをそこまで追い詰めるんだから私たちだったら殺されてたんじゃない? 笑い事じゃないわよシラー」


 シラーは肩を震わせながら喉を鳴らし笑うがエリーザは先ほどとうって変わり真面目な表情であった。


 しばらくしてエリーザは意地悪い笑みをアルベールに向けながら手をひらひらと振っている。


 私は死にたくないから怪物退治は任せるわ、と言っているように見える。


「貴殿等にも他の局面で活躍してもらうが良いな? ”先程の賭け”忘れてはいないだろうな」


 三人はコクコクと首を縦に振る。


 アルベールから一瞬狂気を孕んだ笑みが垣間見えたような気がしたが気のせいだろうと、深く考えないようにする。


「では、各国に出来るだけの戦力を集めるように指示を出せ、使えるなら傭兵でも構わない。侵攻は一週間後とするッ!!」


 アムナリアの宣言により連合会議は幕を閉じた。


 これから大陸最大規模の戦争が始まり、歴代の戦争で比べることがバカバカしい程の死傷者が出るであろう。


 ヴァナトリアに宣戦布告から3日後大陸全土が大きく動き連合側とヴァナトリア側に戦力が分かれた。


 連合軍以外の諸国はどちらに着き、戦局がどのように転び女神はどのような結末を見せるのか。


これからヴァナトリアとの戦争をメインに書いていきます。

 視点も本来の主人公であるアルベールに置き、主人公らしさをもっと全面に出せていければと思っています。

 次回は時間を少し戻して、アルベールやエリーザ達の再会を描いていきます。次回もよろしくお願いします。

誤字脱字も修正していきたいです。

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