対峙し合う魔術国家の魔術師達、激情に吠える少女
ルベアが展開した転移の術式により、エリーザ、シラー、アズデイルは何処とも知れない遺跡のような場所に飛ばされ周囲を見渡していた。
「ねぇ、ここ何処なの?」
広けた空間に巨大な柱が何本も天上に向かって伸びている。その天上の終わりも奥暗く見ることができない。
周囲には何やら解読不能な文字や絵が書かれた石版が複数地面に転がっていた。
「遺跡……ですかね。ですが、聖域のような太古のものではなく、文明が発達していなかったくらいのモノでしょうか」
「そんな事はどうでもいいけどよ、早くあの人間の所に行ったほうがいいんじゃねーか?」
広大な遺跡を前に呆然としていたエリーザはハッとなり、出口を探す。
「そうだ、シルアちゃんの所に戻らなきゃ!」
だが四方に広がるこの空間の何処に出口があるのか見当もつかず右往左往するエリーザに、アズデイルが顎に指を当てなにか考える素振りを見せる。
「シラー、少々よろしいでしょうか?」
「どうしたアズデイル」
「この場所、何か感じませんか?」
言われ周囲を観察し、シラーもようやく気づいたようで怪訝な表情を浮かべる。
「なんだこれ?」
不穏な気配が複数。それも大きな物ではなく小さいものだ。それは徐々にだが数を増やし、此方の様子を伺っているような視線を感じた。
「エリーザこっちへ戻ってこい!」
「なによ~」
呼ばれたエリーザは残してきたシルアの事で急いている為に、周囲の気配に気づいていないようだ。
二人の下に戻ってきたエリーザにアズデイルが小声で耳打ちする。
「エリーザ、一度気持ちを落ち着かせて周囲に意識を向けてみてください」
「どうしてよ」
不満を隠すことなく渋々言われたように意識を周囲に配らせ、エリーザもその存在に気づいたようで先程までと目付きが変わる。
「へぇ~、つまりあれって私達の足止め要員ってことかな?」
「どうなんでしょうね。ただ、今現在襲ってくる気配はないのですが、ただ見られているというのも気分が良いものではありませんね」
「じゃあ、殺るか?」
シラーはいつでも術式を展開できるように内包する魔力を纏わせる。
「いえ、ここで下手に動いては面倒な事に巻き込まれるかもしれません」
「というより、もう巻き込まれちゃってるけどね」
「まぁ、そう言う事だ。いくぜ! 万象を薙ぎ払う千万の雷よ、その罪人すら浄化する煌きを発せよ━━━━バルトゥイン ライズィル(雷による断罪)」
「シラー、まだ敵だと決まったわけでは……」
アズデイルの静止も聞かず、暗がりに向かい千万の雷を打ち込んでいく。
複数の気配は速やかに動き、暗闇を行き来し観察から殺意へと変わるのを感じ、アズデイルとエリーザも魔力を放出させる。
「シラー。お願いですから、もう少し考えて行動してくださいと、いつも言っているじゃないですか!!」
説教し始めるアズデイルだが、そんな事おかまいなしというようにシラー不敵な笑みを浮かべ、視線は暗がりに蠢く者たちに向けられている。
「アズデイル。この馬鹿に言っても無駄よ。昨日今日に始まった事じゃないしね」
「はぁ……そうですね。じゃあ、てっとり早く終わらせ、恩人を助けに行きますか。命の祝福を認めぬ無常の理━━━━ライフ ホリゾント(霜の地平線)」
地面を絶対零度の殺意が駆け抜け、大気を急速に冷やし、アズデイルの世界が展開する。
「邪魔するなら全て燃やし尽くしてあげる。古より宇宙を支配せし太古の邪龍よ、地上を焦土に化す祝福を与えよ━━━━ジャルエール ベイリッド(邪竜の祝福)」
その身は瘴気に呑まれ、次の瞬間には黒々としたウロコに覆われ、鋭利なる爪牙は妖しく輝き、宙から大地を見下ろす。
放たれた漆黒の炎は暗闇を照らす。
「なんだ……」
シラーは言葉を漏らす。
黒き炎にその姿を現したのは、先程のような完成された化け物ではなく、まさに廃品という言葉が似合いの存在。
人や動物をこれでもかというように合成させた肉の固まりが数十数百と姿を見せる。その醜悪な見た目に目を逸らしたくもなるが、あくまで殺意を向けてくる相手から視線をそらす真似はしない。
「はぁ……私は醜いものって好きじゃないんですよ」
アズデイルは氷の地表から数十の氷槍を突き上げさせ、次々と肉塊を串刺していく。
「アァ……ラェ」
串刺しにされてもなお息絶えることなく、自身の肉を引きちぎっては地面に落ち、ちぎった肉を自身の身体にねじ込み付着させる。
「気持ちわりぃな」
再び雷を発生させ肉塊共に放ち黒く焦がすが、自己修復能力が高いのか直ぐに損傷した身体が回復する。
「全く、これでは埒があきませんよ。どうします?」
「ハッ、知るかよ。取り敢えず修復しきれないくらいにぶっ壊せばいいだろ」
膨大な量の雷を手の平に収束させ、弾ける寸前のところで、広範囲を占める雷を正面に向かい放つ。
目を開けていられないほどの雷の束が広範囲に轟音を上げながら肉塊を次々と飲み込んでいく。
雷は壁に衝突し、弾け霧散する。
雷が通った場所は黒く焦げ、肉塊の姿も見当たらない。
「ではでは、私も少し大技をお見せしましょう」
氷が軋み音を立て天上に向かい、塔のような物を形成し、徐々にその姿を変えて出来上がったものは、美しくも無慈悲な氷結の天使。
「冷気の慈愛を持って全てを包み、安らかな眠りをあたえなさい」
絶氷の天使は両の手を大きく広げ、肥えた肉塊を抱きしめる。
刹那の瞬間より短い時間で細胞は凍てつき崩れゆく。氷精の王と呼ばれるアズデイルの作り上げた芸術的な慈悲を持つ天使によって、敵は零に返る。
「アズデイルのその技久しぶりに見たけど、相変わらず凄いね。あの肉塊を瞬殺しちゃうなんてね」
「ふふ、エリーザ。本気で惚れてくれて構わないのですよ」
「絶対に嫌だ」
「残念です……」
彼等にとっての脅威ですらない相手に笑い合い、残りも殲滅せんと三人は敵に向かっていく。
「私だって負けてられないんだから。でもアレは触りたくないし噛み砕きたくもないからなぁ」
結局大地を焦土と化す漆黒の炎を一点に放ち、肉塊に宿る油により一層炎は強く燃え上がる。
「臭ぇぞ、エリーザ!」
「私は臭くないわよ!! なんならシラーごと燃やしてあげようか!?」
「やってみろよ、俺の雷の味を堪能させてやるぜ!」
「二人とも遊んでいる暇がないのは分かっているでしょう? 急いで敵を殲滅しますよ」
殲滅するのにそんな時間を必要としなかった。
「何体くらいいた?」
「ざっと150くらいでしょうか」
周囲からは焦げ付いた匂いや、氷の残骸などが散らばり、三人は一息ついてから目の前にある階段を登っていくのだが、登っても登っても区切りとなる階層はなく、延々と折り返し折り返しと伸びる階段をそれでも上がっていく。
「あぁ~ほんとにこの階段シルアちゃんの所に繋がってるの? 凄い疲れたんだけど」
「あの男がいた場所は地上の洞窟を入って水平に歩いていた事から1階と考えて、私達は多分地下深い場所に飛ばされてしまったようですね」
「もう、なんか楽して登る方法はないの?」
「喋る暇があんなら、足を動かせ。もしかしたらあの女死んだかもしれないな」
「ちょっと! 不吉なこと言わないでよ。シルアちゃんは生絶対にきてるんだから!!」
エリーザは一人速度を上げ階段を登っていき、残されたアズデイルとシラーも顔を見合わせ肩をすくめ後に続く。
それからもしばらく階段が続き、ようやく大きな扉の前にたどり着く。
「この奥にシルアちゃんがいるのかな?」
「気になんだったら、早く開ければいいだろ」
シラーがエリーザの背後から1歩踏み出し扉を押し開く。
三人が部屋に踏み入れればそこは、まさしくシルアとルベアを残した空間だった。
激戦が繰り広げられた後に視線を右奥に向ければ、鎖に繋がれていた神人と思しき残骸が散乱していた。そして、シルアとルベアはその少し奥の方で見つけることができたのだが。
「嘘……」
「……」
「チッ……」
その光景は出来れば見たくもなかった。
「やあ、魔王諸君。少々遅かったようだね。妹はこの通りさ」
ルベアに首を締め上げられ、全身を赤く血に染め、四肢を力なく垂すシルアの姿があった。
「まだ完璧には完成はしていないとはいっても、それなりの強さを誇る神人を倒したのは驚いたね。だが、私には遠く及ばない」
「シルアちゃん……」
信じられない物をみてしまった子供のように身体は硬直し、視線を友から外すことができない。
「まぁ、君達がもう少し早く到着していれば私の妹はこのようなことにはならなかったかもしれないね。だが、すでに起きてしまったことを無かったことにする事は出来ないんだよ。妹は……シルアは最期まで私の研究に身を委ねることを拒んでいてね、流石に聞き分けのなさに私はウンザリしてしまったよ」
シルアの血に濡れた唇にそっと自分の唇を触れさせ、シルアの身体を放り投げる。
地面を滑り柱にその身体をぶつけても身動き一つしないシルアに、エリーザは激情に呑まれ吠える。
「ルベアァァァァァァァァァァァァッ!!」
次回はエリーザ達とルベアの戦いになります。
流石にそろそろ、クリスティア達の方も書かないとと思っていますが、次の次辺りには書けるとおもいますので、またよろしくお願いします。




