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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
13/90

新たなる仲間、たどり着く連合の国

 中央教会から逃げ延びどれくらい歩いただろうか。生き残った民をハミルト公爵と共に誘導していたが、少し前で休息をとった大きな街で民やハミルト達と別れを告げ、現在は3人しかいない4十字騎士団と聖女の4人で行動していた。


 以前中央教会に大使として来たロイの所属するフィール連合国に向かって歩いている。


 中央教会はもう無いが一応同盟を結んだ国だ。


 後7時間もすればロベリア領を抜け、フィール領に入ることができるだろう。


「あ~、滅茶苦茶腹減った」


 先程から後ろで空腹を連呼する聖騎士グレイに少し呆れて来た所であった。


「もう、グレイ君さっき私の分のおやつも食べたじゃないですか」

「いやだってよぉ~腹減っちまったんだもん」


 といいつつ自分のカバンをあさり非常食用のパンをムシャムシャと食べ始める。


 そんな彼に2人の騎士は注意することなく黙々と歩き、クリスティアは美味しそうにパンを頬張るグレイに軽いため息をつく。とても幸せそうに食べるグレイをみているとお腹が空いてくるので、後ろを歩くグレイから距離を取る。


「そういや、ロイってフィールの大使なんだよな。頼めば旨い物とか食わしてくれんじゃねーか?」


 以前会った時も他国訪問だからかもしれないが、上品な典麗衣装を着こなし、話し方も穏やかで品を感じられた青年。


「クリスティア様。フィールの娘は綺麗な方が多いとお聞きしますが一体どのような生活を送っているのか同じ女性として気になるところですね」


 ステラが空腹を紛らわそうと喋りかけてくる。


「うん、きっと食べ物とかお化粧品が豊富なんだと思う。だって無数の国が合わさって出来てるんだから一国一国の良い所を共有しているんだよね」


 そう考えるとフィールに行くのが楽しみになってくる。本来あまり国を出ないクリスティアにとって、これが初めての他国訪問になるのだ。本来こんな形でなければどれだけ良かったかと内心で嘆息する。


「噂で聞いたことがある……そのロイという男はなかなかに剣の腕がたつと聞いている。ぜひ、手合わせ願いたいものだ。」


 ジークリートは彼に対しての楽しみを持っているようだ。


 深い森を進んで行くと道端に人らしきものが倒れていた。


「だ、誰か倒れてますが、助けたほうが言いのかな」

「それは……聖女様が決めればいい」


 結局倒れていた青年を助け起こした。


「くく、済まなかった。どうやら俺は腹が減って気づいたら倒れていたようだ」


 男は20代前半くらいの青年で、背には少々ボロイ大剣を背負っていて、その身なりから冒険者かなにかかと推測できた。


 空腹で倒れていた青年に、非常用で取っておいたパンを分け与えるとリスのように口に詰め込み、必死で咀嚼しては飲み込む。


 その一瞬といっていい彼の技に一同は呆気にとられていた。


「ふっ……そういえば名を名乗っていなかったな。俺は咎を背負う者シン・リードハルトだ。弱気を助け悪を滅相する光神剣・破帝の使い手だ」


 自身の自己紹介に満足したのか1人ウンウンと頷いている。


「えっと、私は中央教会聖……いえ、クリスティア・ロート・アルケティアです」


 軽く4十字騎士も自己紹介が終わる。


「中央教会……国の事は号外で多少なりと事情は知っている。もしよければ、この咎を背負う者シン・リードハルトを仲間に加えてくれないだろうか。この剣が俺に囁くんだお前はこの者たちと共にしろってな」


 咎を嘆く者って所重要なのか、先ほどからソコを強調していた。


「光神剣・破帝……とかいったかその剣。俺には何も力を感じないが本当に業物なのか?」


 シンはその言葉を待っていたと言わんばかりに目を輝かせ語り始めた。


「光神剣・破帝とは、この咎を背負う者シン・リードハルトが長きに渡って探し求めた神剣だ。この剣の持つ能力はだな……能力……そう、相手が邪性の魂を持つものであった場合に相手の肉体を切らずに邪性のみを切り捨てるという剣だ」

「詳しく邪性とはどの事をさすんだ?」


 さらに深く探るジークリートにシンはたじろぎを見せる。だが、ジークリートは純粋にその剣を知ろうとしちるのであって、特に他意はない。


「……それは、え〜と、性欲とか金銭欲とか食欲とか? ええい、悪い事を考えてる心のことだ!!」


 あ〜設定なんだろうな……とクリスティアとステラは感じた。とうとう最後は考えがまとまらなくて簡単に惡で括ってしまった。


「そのご大層な剣はどこで手に入れたんだ?」


 ジークリートも察したらしく、意地の悪い笑みを見せ更につついていく。


「俺とこの剣が出会ったのは小さな街のとある雑貨屋だ。店内を巡っていると掘り出し物コーナーからピュピーンと何かの気配を感じ、そこに行ってみるとコイツと邂逅を果たしたんだ。これは運命の出会いなのだと確信しコイツを会計に持っていくと、そこの店主は見る目がないのか、この剣を30000ゲリアで売ってくれたんだが、まぁ、一見模造刀みたいな作りだが悪に対して絶大な力を発揮するんだ。まぁ、俺も未だ邪性の者にあってないから、こいつの真の力は知らないんだけどな」


 単に安そうな模造刀を30000ゲリアという高価格で買わされた可哀想な人にしか、クリスティアの眼には映らなかった。


「それは単に安っぽ……」

「かっけぇ!! やべぇよ凄ぇよ。そんな運命の剣に出会えるなんて、一生分の運を使い切ったんじゃねーのか?」


 話しを聞いていたグレイは完全に信じきってしまっていた。


「おぉ!! わかってくれるか聖なる乙女の騎士よ」


 この2人のノリは完全に同調し、余計に騒がしくなった。


 今にも涙を流し抱き合いそうな2人を尻目に、ステラとジークリートと今後の方針について話し合う。


 結局後ろの2人が五月蝿く、良き案が浮かばず溜息1つ吐き、着いてから決めようという事になった。


 こうしてシンを仲間に加えフィールに目指すこととなった。


「聖なる乙女よ、フィール連合国には後どれくらいで着くんだ?」

「そうだよぉ~もう疲れたんだけど」


 この二人セリフを何度聞いただろうか。


 最初は1時間間隔で聞いていたセリフも、だんだんと30分、15分とそしてとうとう5分おきにこのセリフを聞いている。


 ただでさえ五月蝿いグレイに加えシンも加わり精神的疲労はいつもの倍に増す。ステラとジークリートも眉間に皺が寄ってきていた。


「シン君、まだまだ着かないよ。それと聖なる乙女っていうのはやめて頂けないでしょうか? 少し恥ずかしいので……」

「何を言う聖なる乙女よ、この騎士達も聖女様と呼び慕っているではないか」

「シン君は言動が難しいというか無駄に格好いいのですが?」

「そうなのか? 俺は普通だと思って使っているんだが」


 腕組みをし神剣に考え始めるシン。内心これで少しは静かになると思っていたが、数分もしないうちに考えを放棄して喋りだしていた。


「なぁなぁ、シン俺の剣も見てくれよ。これは俺にしか扱うことの出来ない神剣・絶天想って言うんだぜ」


 グレイの剣の名前は確かユフィールって片思いの女の子の名前じゃなかったかと、記憶を呼び起こす。

どうでもいい事に対し疑問を抱きつつも、あえて黙っていることにした。


「おいグレイお前の剣の名前って確か片思いだったユフィ……」

「うっ、うるせぇぇぇぇぇぇ!! この剣の名前は絶天想なんだよ。ジークリートの記憶していた情報は偽であり何者かの干渉により創られた記憶なんだッ」


 今日のジークリートは普段と違って黙っていなくちゃいけない事を次々と口にしていく。


「おぉ!! グレイも神剣使いだったのか。流石は聖なる乙女を守護せし聖なる騎士だ。ということは、ステラ殿とジークリート殿も神剣使いなのか?」


 ステラとジークリートはどう出るのかと耳を澄ましてみる。


「そうね、私のは魔剣・永久っていう永遠という時を切り裂き、未来や過去を切り裂く剣……かな」


 なんか凄い事言い出した。しかも神剣じゃなく魔剣。


「俺のは神剣・神堕とし。神相手に絶大な力を発揮する剣だ」


 実際にジークリートの持つ剣は真実神剣であった。代々リーバス家が神に仇なす神を殺す剣を携え、中央教会の外敵を打ち払ってきた。


 神剣といってもそれは、因果創神器の一種で、そうとう上位に位置する剣である。


「聖なる乙女の騎士ジークリート殿、神剣なのに神を堕とすというのはどういう事なんだ? どっちかというと魔剣ではないのか?」

「……ッ!?」


 ジークリートは初めてその真実を指摘され返す言葉がなく、ただ苦悩していた。その後1時間考え続けたが、彼はこの真実についての答えを導き出す事が出来なかった。




 フィール首都に着いたのは翌日の日が暮れてからだった。


「やっと着きましたね」


 皆の表情にはさすがに疲労の色が浮かんでいたが、それを言葉にする者はいなかった。

てっきりグレイとシンは色々言うかと思っていたが、愚痴の一つも漏らさないのはちょっと以外であった。


 ロイに会うのは明日にし、今は宿を見つけて休息を取ることだった。


 意外と宿は直ぐに見つけることができた。


 観光に来る人たちが多いのか、この国は結構宿屋が多かったのが幸いし、内装は綺麗で、ベットもふかふかと貴族になったような感覚を味わう事が出来る部屋で、部屋割りはステラとクリスティア。シンとグレイとジークリートというペアの2部屋をとった。


 するとクリスティア達の部屋の扉が勢いよく開け放たれる。


「たっ……大変だ!! 俺たちの部屋ベッドが2つしかないんだが、一体どうなってるんだ!?」


 シンが血相をかいて来たが、ステラに軽くつまみ出されてしまった。


「クリスティア様も長旅で疲れているでしょうから、そろそろ眠りますか?」

「そうですね。明日はロイさんに会って国王に謁見しなくてはなりませんからね」


 明日は頑張ってくださいね。と言いロウソクの火を消し布団に潜り込む。


 目を閉じれば燃え盛る建物と血だまりを作る死体の山。


 そして、目の前で両親の首が切り落とされる瞬間。


 それは1人の敬虔な使徒の反逆から起きた惨劇。


 自身を失いかけた刹那の瞬間、完全に狂気に取り憑かれ人を超越してしまう所だった。そんな自身の暴走を止めてくれたのは大切な仲間たち。胸中は温かいもので満たされるのを感じると同時に胸が締め付けられるような感覚に蝕まれ、身体が痙攣したように震え微かに嗚咽が漏れる。


 もう一度お父様とお母様にお会いしたい。ただその気持ちだけで満たされるが、もう会う事も会話を交わす事も出来ない。


 胸の内をぐるぐると色んな思いが巡る。その時ベッドが少し軋む音がして、温かく優しい手が私の頭を撫でる。


 もう片方の手でクリスティアの身体を温かく包み込んでくる。


「クリスティア様。なにも1人で背負う事はありません。私達は貴女のお側にずっといますから。甘えたい時があれば思いっきり甘えてください。辛いことがあれば相談してください。辛いことも楽しいことも共に共有しましょう」


 ステラの優しく温かい言葉と体温でクリスティアの内に渦巻く物は霞み、完全に溶けて霧散した。


「うん、ありがとう」


 その言葉を最後にクリスティアは安らぎの夢に抱かれた。


 次の日、男性組がなかなか起きてこないので様子を見に行ってみると驚愕の光景を目にし、二人の女性は部屋の前で唖然と立ち尽くしていた。


「これは……」

「わわっ……これって、そういうことなのでしょうか?」


 ステラはジト目でその光景に溜息1つ吐いて呆れていた。


 クリスティアは頬を染め両手で視界を覆うも興味があるのか少し開けた指の隙間からチラチラとみていた。


 2つあるはずのベッドの片方には誰もいなかった。もう1つのベッドには上半身裸体の3人の男が川の字になり寝ていた。そのベッドは1人が寝れるサイズなので成人男性3名が寝るということは、川の字というよりは完全に密着状態であった。


「………」


 ステラは無言でベッドの方に歩み、静かに男たちを見下す。

そして浮かべる不敵な笑み。


 ふふふと不気味な声を漏らしながら手を振り上げる、その手に持っているものは愛刀だった。


 彼女にはこの光景が美味しく見えなかったようだ。


「死ね……腐れ男子共」


 短く、まるで死にゆく者への他向けの言葉のようであった。


 振り下ろされる殺意が込もる凶器。


 寸前の所でジークリートは目を覚まし隣に寝る男2人をベッドから蹴り落とし、自身も身を捻り回避する。ジークリートの的確な判断の御陰で刺突剣はベッドに深々と刺さる。そこには先程までグレイが寝ていた場所であった。


 目を覚ました男性3名の顔は青ざめ、特にグレイはトラウマでも植え込まれたかのように震えだしていた。


「ははは、なんか昨日誰がベッドを使うかで揉めちゃってな、取っ組み合いになって途中で疲れてそのまま眠っちまったんだよ」

「お前らが、大人しく引かないからこうなったんだ」

「いやいやいやいや、ここは咎を背負う俺にベッドを譲ればこんな事にならなかったんだ」


 昨日の出来事を語るグレイに残り2人は責任の押し付け合いが始まった。


「ふぅ……もう誰のせいとかどうでもいいので、早く朝食を食べてください。クリスティア様を待たせる気ですか?」


 クリスティアとステラの皿にはもう綺麗に片付いているのに対し、男性陣は誰1人食べ物を口に運ばず、その代わりに責任を擦り付け合う言葉が口から放たれている。


「ははは……まぁ、会話を楽しみながらする食事もね」


 もはや苦笑いであったが、この日常的会話が出来る日を有り難く思っていた。


「おうおうおう、ジークリートとシンお前らのせいで俺の飯が冷めちまったじゃねーかッ!!」

「グレイ、お前が食べなかったのが悪いんだろ」

「そうだ、聖なる乙女の騎士が他人のせいにするな」


 そうして3人は責任を擦り付ける会話を再び開始し、食器が片付くのに1時間程かかった。


「なぁクリスティア、ロイとは何時くらいに会うんだ?」

「昨日少し会って話してきたんだけど、一応12時にパリエっていう喫茶店で待ち合わせをしているの。」

「聖女様…ロイ殿と手合わせ願いのだが」

「うん、一応お手柔らかにって言ってましたよ」


 珍しくジークリートの瞳に感情らしい色がやどり、一種の不安を覚えるも。まぁ彼なら大丈夫だろうと深く考えなかったが、この後この事を後悔することになるのだった。


 12時になり待ち合わせの喫茶店に入ると店内にはお客さんの姿は無く、奥の席にロイとその護衛と思われる騎士が2人がいるだけだった。


 まさか店を貸切にするとは思ってもいなかったので最初は戸惑っていたが、これから話す内容だけに彼の配慮に感謝していた。


「お久しぶりです、ロイ殿」

「えぇ、お久しぶりです、長旅ご苦労様でした。此度の件については援軍も送れず申し訳ありませんでした」


 ロイが席を立ち深々と頭を下げてきたので、クリスティアも反射的に頭を下げるという形になってしまった。


「いえ、こちらこそ急にお尋ねしてしまったのにお時間の方を割いていただいて感謝しております」

「そして、厚かましいお願いなのですが……どうか私たちを少しの間で良いのでこの国に置いてもらえないでしょうか?」

「それはもちろんです。号外で大まかな内容は知っておりますが、詳しい詳細が分からない状態ですので、そこの所についてお話し願いますか?」


 お互い目の前に置かれた紅茶を一口飲み、喉を潤してから順序建てて語りだす。


 話している間、ロイは真剣に耳を傾けてくれていて重要そうな部分をメモに書き写していた。


 ようやく事の顛末を話し終え一休みする為に紅茶を口に含む。


「話しは大体理解しました。取り敢えず今の話を盟主様方にお話しして、今後の方針を定めてきます。その間に聖女様方には身の安全を考え、私が住居を提供いたしますので、しばらくはそちらでお過ごしください」


 と言い、席を立ち2人の騎士を後ろに従え店を出ようとする。


「俺との手合わせは、いつしていただけるのだ?」


 黙ってクリスティアの後ろで控えていたジークリートがようやく声を発した。


「安心してください忘れていません。明日の午前10時にそちらにお伺いいたしますので、その時にお手合わせ願います。ですが、手加減の方お願いいたしますね」


 そう言って今度こそ店を出て行ってしまった。


「明日が楽しみだ」 


次回は負傷を負ったシラー達視点の物語となります。

彼等が出会う1人の女性により、彼らは決意を固める。

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