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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
10/90

咎を嘆く者との出会い、聖教の国の崩壊

 3ヶ国同盟が東大陸に知れ渡り、各国は色々な動きを見せる。

 同盟加盟する国、様子をみる国、無関心な国。

 

 主に動きを見せるのは、いつ攻め滅ぼされてもおかしくはない小国ばかり。


 そんな最中であっても、普段通りの生活を送る銀髪の魔王は、東大陸の南方に位置する貿易国家ムーンウィットの街並みを眺めつつ物見遊山をしていた。


 大陸中の名産物から海の向こうにある真日帝国の和という文化から生み出された品々に、客達は目を輝かせては手に取り、気に入った物を買い漁っていた。


「ふむ、クリスティア達にはどのような土産が良いか……」


 大通りの左右に展開する出店に視線を移し移し見て回るのだが、どれを買っていいものかと迷い悩んでいた。


「おっ! そこの銀色の髪したお兄ちゃん。そうお兄ちゃんだよ。ちょいっとウチの店覗いて行かないか?」


 いかにもな商売人の出で立ちをした気の良さそうな男が手招きをしているので、折角なので少し見物でもしようかと店に足を伸ばす。


 店内には武具が並び、ガラクタから一級品まで幅広く取り扱っていた。


 自分の他に客の姿が見当たらず、少々寂しげな雰囲気の店だったが商売人の男はカウンターで何やら楽しげに小銭を数えている。


「ふむ、我に武具は必要ないのだがな」


 苦笑を浮かべつつ、並べられた商品を1つ1つ眺めていく。


 そうこうしていると、ドアに取り付けられたベルがなり1人の男性客が来店する。視線を左右交互に向けながら何かを探しているかのような素振りを見せ、品物を入念に見定めていく。


「お客さん、何か探し物ですかい?」


 店員は男性に声を掛ける。


「フッ……女神の寵愛を授かりし武具をな」


 男性客は髪を掻き上げながら答えるも、店員はキョトンとした表情になり固まる。


「女神の寵愛……ですか?」

「あぁ、俺は既に神を殺す剣を授かっているのでな。であれば後は女神の寵愛を授かりし武具が必要となるわけだ」


 男性の着飾った喋り方に店員は変な客がきちゃったよと額に汗を浮かべ後頭部を指で掻く。


「申し訳ないけど、そういった特殊な物は置いていないんだよ」

「そうか、なら仕方ない、また俺は流浪の旅に……?」


 男性はアルベールの存在に気付き、首を傾げる。


「……?」


 アルベールも知らぬ男性に首を傾げられ、反射的に自身も首を傾げる。

 男性はアルベールの方へ向かい歩を伸ばす。


「なにか?」


 アルベールは近づく青年に訝しげな視線を向ける。


「いや……何処かであったような気がしたんだが、気のせいだったようだ」

「そうか」


 青年は背を向け顔を少しだけアルベールに向ける。


「邪魔をしたな、銀の貴公子よ」 


 何故か変なあだ名を付けられてしまったので、咄嗟に呼び止める。


「ふむ、貴公少し待て」

「どうした?」

「どうした? ではない、銀の貴公子とは一体何なのだ?」


 そう、問を投げると、意味深な笑みを浮かべる。


「フッ……銀の貴公子。その美しい髪を持つその身に相応しい呼び名だと思うぜ」

「我にはアルベール・ハイラント・ルードリッヒという名がある。出来ればそのようなあだ名ではなく普通に呼んで欲しいのだが」

「諦めろ銀の貴公子。俺はこの呼び名が気に入ったんだ。その宿命を受け入れることだ」


 その力強い言葉から訂正する気が無いらしく、アルベールも諦めた所で青年は何かを思い出したかのように頷く。


「そういえば、まだ名乗っていなかったな……俺は咎を嘆く者シン・リードハルトだ。神を殺す旅をしている」


 遠くを見やるようなその視線のまま名乗る。


「神を殺す……か、貴公はこの世に神が存在すると思っているのか?」

「ふっ……銀の貴公子よ。神は常に何処かに存在し、俺たちを手の平で弄び続けているんだぜ。だから俺たち人間はお前の人形じゃ無いってことを証明してやらなくちゃいけない」


 シンの言っている事がアルベールには少々理解しづらく、下手に質問をしたりすると余計にややこしくなりそうなので無難に頷いておく。


「俺はこの光神剣・破帝と共に神の意思に反してやるぜ」

「……まぁ、頑張るがよい」


 長々と続くシンの話しにうんざりし始め、ほどよく適当な辺りで逃げの台詞を吐き、振り返り店を出ようとしたが振り返った所に店員が何かを買ってってくれと言う眼差しで見つめてくるので、仕方なく視界に入った腕輪を手に取り会計を済ませる。


 店を出たのだが、何故か隣には先ほどの男シンが並んで歩いていた。


「シンと言ったか? 何故に我と並んでいるのだ」

「ふっ……銀の貴公子よ。俺達は既に永遠の繋がりを結び合ったではないか」

「永遠の繋がりとは? というより大衆の面前で勘違いを受けそうな発言は控えたほうが良いと思うぞ」


 シンの発する背筋が寒くなるほどの台詞の数々に、自然と距離を開けてしまう。


「互いに名を名乗っただろ?」


 さも当然、何故疑問に持つのだというような表情をし首を傾げる。

 アルベールは更に一歩距離を開ける。


「銀の貴公子よ、アレは少々見過ごせない事態だと思わないか?」


 シンの指差す先には複数人のガラの悪い大人に子供が囲まれていた。

 耳に飛び込んでくる数々の恫喝。怯え泣きだす子供にアルベールが助けに入ろうと思う前に、先程まで隣を歩いていたシンが既に子供との間に割って入る。


「なんだテメェ!?」

「ふっ……俺か? 俺は咎を嘆く者シン・リードハルトだッ!! 貴様らの咎を俺が背負ってやるよ」


 背に携えた大剣を引き抜き構える。


「おうおう、怖ぇもん抜いちゃって。オジさんたちビビっちゃったからよぉ~、数で勝負するわ」


 1人が号令を掛けると路地から更に数十人と手に獲物を持った男達が下卑た笑みを浮かべながら姿を現す。


 流石に数十人相手に1人で子供を守りながらではキツイだろうと、アルベールもシンの隣に急ぎ駆けつける。


「あん? 助っ人かよ。こっちは随分とお綺麗な方だねェ~」

「済まぬが、いくら人間でも貴公等の様な者たち相手に容赦をする気はないぞ」


 翡翠色の双眸は細められ、自分達を囲む者達の動きを観察する。


 守らねばならないのは背後で泣きじゃくる子供の身。シンの持つ大剣は随分使い込まれているようで、扱いにはなれているのだと判断し心配はせず、背後にだけ気をつけていれば大丈夫だろうと思っていた……。


「喰らうがいい、これが神を殺す一撃だッ!!」


 大きく振り上げた大剣をその重量任せに振り下ろす。

 持ち上げてから振り下ろすその動作だけで、相手はシンの攻撃を完全に読み切り人垣は左右に分かれてシンの攻撃を難なく交わす。


「馬鹿なッ!?」


 自身の一撃がよけられるとは本気で思っていなかったらしく、力任せに大剣を薙ぐ。


「おっと、あぶねぇ。つかよ、使い慣れねぇ武器なんか使ってんじゃねぇよ!!」


 男たちが獲物を振り回しながらシンに迫る。


「シン、聞くがその神殺しの剣はどこで 手に入れたのだ?」


 アルベールは自身の力で純銀製の剣を形成し次々と繰り出される連撃を受け流していく。


「雑貨屋だ! その日は特売日でな、手持ちギリギリの価格で売り出されていたから買ったんだ」

「……」


 もう言葉は出なかった。


 その剣からは何の力も感じないが、シンが大層に語るのでもしかすると因果創神器の一種かとも思ったが予想は大きく外れた。


 剣の腹や柄を腹部に叩き込み相手の無力化に成功する。


 子供とシンを連れ急ぎその場を離れ、人通りの多い道に出たところでアルベールは大きく息を吐く。


「ふむ、ここまで来ればもう大丈夫であろう。少年よあまりああいった場所には近づかぬほうが良い」

「うん、ありがとう」

「ふっ……気にすることはない、小さき勇者の種よ」


 また変なあだ名を子供に付け、いかにもシンが功労者であるというような顔で子供の頭を撫でる。


「まぁ、別に構わぬが……」


 子供とも分かれ、何故かその後もシンと行動を共にし、クリスティア達へのお土産も買った頃には日は茜色に染まり傾いていた。


「銀の貴公子よ。寂しいがいったんここでお別れだ。俺はまた旅に出る」


 唐突に言い放ち手を差し出すシンに、アルベールも今日一日を振り返りながらも握手を交わす。


 最初はめんどくさいと思ってはいたが、ちゃんと話してみれば根は真っ直ぐで純粋な青年だという事が分かった。


「ふむ、また何処かで会えることを楽しみにしている」


 シンは夕日に向かい歩き出す。


 その背が見えなくなるまで見送り、休息をしようと近場にあった飲食店に入り一息つく。テーブルに運ばれてきた料理に口を付けるが味は感じず、食べている真似事をして周囲に溶け込んでいた。


 料理も食べ終わり、席を立とうとした時に、入口が勢いよく開け放たれる。


 ほかの客は何事かと不審に思っていると、息を乱した男が水を求め人が座っている席の水を勝手に手に取り一口に飲み干す。


「たっ……大変なんだ!! 皆聞いてくれッ、ゴホッ……エホ」 


 勢いよく水を飲み干したせいでむせ返りつつも、皆の視線を浴びる中、声を大に叫び上げる。


「中央教会が……崩落したんだッ!!」


 その一言で場は静まり返り、一瞬の間を開け周囲からはざわめきが生まれる。


 アルベール自身その言葉を理解するまでにしばしの時間を有した。


「馬鹿な……」


 一同がそう思った。


 五大強国の1つであり先日まで居た中央教会が崩落した。


 男は続ける。


「ハァハァ……崩落の原因は司祭の謀反らしい。それで、聖王と聖女は首を切られたみたいだ。だが、奇跡的に次期聖女は一部の兵と四十字騎士団を率いて生き残って民と共に亡命したらしい」


 クリスティアの無事に安堵の息が漏れるが、それを素直に喜べなかった。


 聖王、聖女の両名や国に住まう人々の多くの生命が失われたのだ。今現在それを一番に悲しんでいるのはクリスティア自身であろう。


 アルベールはその悲惨な現実に拳を固く握り締め、静かに店を出る。

今回のお話しは少し駆け足になってしまった気がします。

もしかしたら、シンとアルベールとの掛け合いをもう少し深くする為に書き足すかもしれません。


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