名前、ナギ
目が覚めたらベッドの上だった。天井は広くて、木造。見たことも無いデザインの窓。そこから漏れる木漏れ日は自分に優しかった。
誰かに背中を押された感覚がまだ残ってて、夢から覚めたんだと思うと嫌に淋しくなった。ふと夢の内容を思い出して、左手首を見てみる。と、ミサンガがあった。
あれ、ほんとだったのかな。
「起きたのか」
声がした方へ振り返ると、いつかの不良が扉に足をかけて此方を見ていた。手には二人分のパンと飲み物があって、顔つきは昨日より怖くなかった。
「あの、ここ何処ですか?」
昨日まで確か自分の部屋にいたはず。それに何があっても自分が部屋を出ることなんてありえない。
まだ半信半疑だけど、もしかしたら自分は異世界に転職したのかもしれない。
「あの神殿から一番近い街の宿屋」
あと、敬語やめて。とも言いながら。不良は近づいてきてパンを投げた。パンを嚙みしめて、今まで食べてきたものと違う味がした。ああ。ここは本当に異世界なんだ。ゲームがリアルになったような、変な感じ。
すると、今度は不良が驚いたように席を立った。
「アンタ、その左手につけてるやつ何?」
さっきまでクールだなって思ってたのに。こんな人でも取り乱すんだ。
「ただの御守りだよ。兄から貰った。」
そっか、なわけ無いよな。と言いながら椅子に座る不良。あまり気には留めなかったけれど、そのときの彼は少し淋しそうだった。
「俺はキルバヌ。アンタは?」
「ああ。えっと。」
名前、言いたくなかった。多分新しい場所で、昔の自分を卒業したかったから。だけどこれといっていい名前が思い浮かばない。だから宿屋の名前を借りた。
「ナギ」
これからよろしくな、新しい自分。そういえばいつの間にか普通に話せるようになってる。なんていうか、この人、兄と似てるんだよな。そんなことを考えていると、不良はまた尋ねてきた。
「なんで神殿に倒れてた?」
それはこっちが聞きたい。
不良と睨めっこの自分。これじゃあいつまでたっても埒が明かないと、外を案内してくれることになった。オレ自身も、この街を見ておきたかったし。




