不幸の手紙
あなたは、都市伝説を信じたことは、ありますか?
都市伝説は、その地域や気候によって不可思議なことを伝説として他者に発表しているものが多く、いくつかの話が架空のものが大多数を占めています。
しかし、その中にも稀に、実在する都市伝説もあるようで……。
―二〇一〇年 十月三十日 午後八時―
私の名前は、小田 和美。東京都庁で受付兼総務の仕事をしている。いつもは、帰りが六時頃なのに今日は少し残業があったためこんな時間まで経ってしまった。
私が帰ろうとしたとき、同僚の蛯原 岬が、
「ねぇ、和美。私宛てに手紙が来ているんだけど」
「えっ、誰から?」
「それが差出人不明なのよ。それでね、勝手に開けるのはちょっと……」
「ふーん。それどこに置いてあるの? 私が開けるから」
私は岬に言われた場所に行き、手紙を読んだ。
『……三十人の不幸をお返しいたします。これは、不幸の手紙といいって、群馬県から順々に私の所に来た死に神です。もし、あなたのところで止めますと、必ず不幸が訪れます。現に、中田という人が止めたため、三ヶ月くらい前にこの世を去りました。十三日以内に、文章を変えず必ず三十人に出してください』
「なんて書いてあったの? 見せて!」
私は、厭きれながら見せた。
「岬さぁ、もしかしてこんなの貰うようになったの?」
「……なんか私も、馬鹿にされたものだね。どうしようか?」
「処分すれば? そうしないと相手の思う壺だよ」
「…そうだよね!」
岬は、そのままシュレッターに持っていき手紙を処分した……。
手紙を処分した翌日から十二日間は、岬にはこれといった影響は感じられず、仕事も順調だった。
というより、
「飲みにいかない!?」
と誘われることも何回かあった。
だが、その翌日十三日目。この日、岬は仕事を休んだ。というより無断欠勤をした。いつもなら、私にメールか電話をくれるのに……。
このとき私は、そんなに心配していなかった。どうせ遅れてくるだろうと勝手に考えていた。
だけど、現実は違った。数日待っても岬から連絡がないのだ。もちろん、こちらから連絡しても電話にでることは無かった。
不安になった私は、部長に相談をした。
「最近、岬から連絡ありましたか?」
「いや、来ていないな。なんかあったんじゃないか? 和美さん今日早くあがって良いから、あいつの様子見てきてくれないか?」
「はい。わかりました」
午後七時に仕事終わり私は、岬の家に向かった。岬とは、プライベートでも仲がよくたまに家に遊びに行くほど。
歩くこと三十分、ようやく玄関の前に着いた。さっそくインターホンを押した。
ピンポーン……ピンポーン………
反応がなかった。もう一度インターホンを押しても結果は同じだった。不思議に思った私は、恐る恐る扉に近づき、ゆっくり開けた。すると、目の前に岬の遺体、ロープで首を締め付けられた遺体がぶら下がっていた……。
私は思わず、腰を抜かした。身体のどこを触っても暖かさを感じなかった。感じたのは、氷のような冷たさだった。
私は我を忘れ、横に身体を揺らした。すると、胸ポケットから青色の封筒が落ちてきた。不思議に感じた私は、何の躊躇もなく封を開けた。
その内容は、
『……蛯原 岬の不幸をお返しいたします。これは、不幸の手紙といいって、群馬県から順々に私の所に来た死に神です。もし、あなたのところで止めますと、必ず不幸が訪れます。現に、この人が止めたため、四日くらい前にこの世を去りました。二〇一〇年 十一月十六日の八時までに、文章を変えず必ず三十人に出してください』
私は、慌てて携帯を開き日時を確認した。そこに表示されていたのは、
《二〇一〇年 十一月十六日 PM七時 五十五分》
残り五分しかなかった。私は、手紙を持って家から飛び出し、近くにあったコンビニを目指した。
走ること三分、道路越しにコンビニが見えた。左右を見渡し車が来ないことを確認し、横断を始めた。
その時だった。突如遠くのほうから、猛スピードでトラックが走ってきた。私がトラックのほうを向いたときには、身体がスーパーボールのように飛ばされ道路に赤黒い血が飛び散りながら、頭・腕・お腹などを激しく打ちつけられた。その距離およそ十m。私の意識が朦朧するなか目の前に、青い光を放った人間の姿がうっすら見えたまま、意識が途絶えた……。
二〇一〇年 十一月十六日 午後八時四分
小田和美 大量出血にて死亡。
● ● ●
あの事件から3ヶ月ほど経った二月二十日。
都立のとある高校に通っている俺は、毎日サッカーや野球とかで遊んでいたが、ここ最近何にも面白くなかった。というより刺激が足りないか欲がない気がしていた。どうすれば、また刺激のある日々にもどるのだろうか、を授業中に考えていると、
「おい! 森野健太、いるのか?」
「は、はい」
「いるならしっかり返事しろよ!」
「……すいませんでした」
俺は、ボーっとしていて怒られた。すると、隣の席に座っていた田中奈緒が、
「どうしたの? 最近元気ないよ?」
どういう訳か心配してくれた。
「あ、あぁ。なんか最近楽しいことがなくてなぁ」
「……ふーん。じゃあさぁ、明日の昼休みに隣のクラスで“都市伝説発表会”があるんだけど、参加してみない?」
「……別に参加しても良いよ。何か発表すればいいのだろう?」
「そうだね! 面白いのを期待しているよ」
そんなに期待されても……。俺は困惑した。
授業が終わって家に帰り、パソコンを立ち上げた。
でも、そう簡単に面白いものが見つかるものではなかった。ネタは、たくさんあっても刺激的な内容が少なかった。
探すこと十五分。ホームページの下のほうにとても刺激的な内容があった。そのタイトルは、
「……“不幸の手紙”?」
なんか一時期いたずらとして流行っていたが、こんなのが都市伝説に載るなんて……。俺は、どこか半信半疑の状態で載っている内容を読んだ。すると、
「す、すごい! こんなゾクゾクする内容があるなんて!! 」
俺は一人で興奮をした。
これなら、明日自信を持って発表できる……。
そして迎えた翌日のお昼休み。俺は、昨日言われたとおりに隣のクラスに行った。
「あっ、健太が来た!」
入ったと同時に奈緒に言われ、教室を見渡すと発表するのは5~6人ほどいた。あとは、聴きにきた人達で溢れかえっていた。
他の人の発表が終わり、ついに私の順番が回ってきた。ゆっくり歩きながら黒板の前に立った。
「えー、俺が調べてきた都市伝説は“不幸の手紙”事件です!」
その矢先だった。
「えっ!? それ私と同じ……だね。 よかった同じ人がいて」
予想外だった。何百もある都市伝説の中から、同じものを選んでくるなんて。
でも、なんかうれしかった。すると、後ろのほうに居た数学教師の鬼塚剛史が、
「ほーっ。話を聴く前から、なかなか、興味深いなぁ。この際一緒に発表すれば?」
まさかの展開だった。
「いいですね! やろうよ、健太君!!」
まっ、いっか。
「じゃあ、俺から行きます。まず、事の始まりは去年の十月三十日に東京都庁に届けられた一通の手紙からです。その手紙を受け取ったのは、受付兼総務の蛯原岬さんという方で、書いてある内容を一読すると、すぐさまシュレッターに入れて処分したのですが、手紙が届いて十三日目以降になると、会社を無断欠勤していまいました。心配になった同僚の小田和美さんは、彼女の様子を見にいくと、玄関で首を吊って死んでいました。その後、彼女の元に届いた手紙は“不幸の手紙”だと言われています」
「えっ!? それだけ?」
奈緒に指摘を受けた。
「俺が調べた時は、それだけだったよ。ていうかしょうがないだろう! 昨日誘われたんだから」
俺は、半ギレ状態で言った。
「そ、そうだよね。じゃあ、私が代わりに発表するよ。えーっと、岬さんが死んだところからだよね?」
「そうだよ」
「……実は、あの後、岬さんからの胸ポケットから青色の封筒が落ちてきました。不思議に感じた和美さんは、何の躊躇もなく封を開けて、書いてある内容を読むと、急いで岬さんの家を飛び出したのですが、その途中でトラックに撥ねられて亡くなってしまいました」
すると、鬼塚先生が、
「2人とも、死んでしまったのになんでそんなに鮮明なことがいえるのだ?」
「私も詳しいことは、まだ分かりません。……ただ、トラックの運転手が和美さんを偶然撥ねてしまった時に、目の前に青い光を放った人間の姿を見たそうなんですね……」
==
その日の夜。
俺は、奈緒に電話をした。
「……悪いなぁ、お昼助かったよ」
「そんなことないよ。健太君が参加してくれたおかげで、私も発表しやすくなったんだよ?」
「なんか、ありがたいね」
その時だった。電話越しから、
ピンポーン……ピンポーン………
「あっ、誰か来たみたいだね。出てくるから健太君、ちょっと待ってくれる?」
「ああ、いいよ」
「はーい。どなたですか?」
奈緒が玄関の扉を開けると、目の前に立っていたのは、髪が長く全身黒い服をまとった人だった。
「……こ、……これ、受け……取って……くださ…い」
随分呼吸が荒れているなぁ、と思っていたら
奈緒の手に手紙みたいなのを渡すと、すぐさま、その場を走り去った。
奈緒は、ほぼ無理やり貰った手紙を読んだ。
「け、健太君」
「どうした? なんかあったのか?」
声を聴く限り、なにかに怯えていた。
「わ、私のところに届いたの」
「何が?」
「不幸の手紙が……」
翌日、俺は学校に到着するとすぐさま、奈緒のところに行った。
「なぁ、昨日届いた例のやつ、見せてくれるか?」
「うん」
手が震えながら、俺に見せてくれた。その内容を読んだ。
『……三十人の不幸をお返しいたします。これは、不幸の手紙といいって、群馬県から順々に私の所に来た死に神です。もし、あなたのところで止めますと、必ず不幸が訪れます。現に、中田という人が止めたため、六ヶ月くらい前にこの世を去りました。二月二十八日午前零時までに、文章を変えず必ず三十人に出してください』
「なぁ、これってどこかで聞いたことがある気がする……」
「私たちが発表した都市伝説と同じだよ!」
「誰かに相談したほうがいいって!」
「誰に?」
悩みに悩んだ挙句俺は、
「お昼休みに、鬼塚先生に相談してみたら? あの人この話を聴いていることだし」
「そう……だね」
それから数時間経ったお昼休み。俺と奈緒は、鬼塚先生のいる職員室に向かった。
中に入ると、先生に田山弘毅がノートを片手に質問をしていた。
「あれは、時間がかかりそうだなぁ」
と小さい声でつぶやくと、
「……なんだ、健太達いたのか?」
「あっ、はい。ちょっと相談が」
「どうした? そんな深刻な顔して」
俺は、先生の耳もとで、奈緒のところに届いた手紙のことを話した。
「本当か?……」
「どうしたのですか?」
いきなり弘毅が、首をつっこんできた。
「どうする? こいつにも話すか?」
「そうですね……」
鬼塚先生は、他の先生に聞えないように弘毅に話した。
「そんなことが実際にあるのですね」
「ああ、それで奈緒、その手紙どうする気だ?」
「…………」
奈緒が黙ると、弘毅が
「……そういえば、隣町の高校に極悪非道といってもおかしくない不良軍団がいるのですが」
「そんな奴らが受け取ってくれるのか?」
「たぶん大丈夫です。そこに仲のいい奴がいるので」
「……じゃあ、俺がこんなことを言っていいか分からないが、この手紙のくだり弘毅、頼んだぞ」
「は、はい」
奈緒は、少々不安になりながらも弘毅に手紙を渡した。
それから五日後の二月二十八日の夜。時刻は、十一時四十五分を迎えた。
俺は、どういうわけか落ち着かなかった。赤の他人のことなんて心配したことがないのに、この日に限ってソワソワしていた。
すると、
ブーブーブー、ブーブーブー、
俺の携帯が鳴り出した。
相手は、鬼塚先生だ。
「はい、もしもし」
「おーっ、健太か? まだ起きているか?」
「えっ? あ、はい」
「何でもいいから報道番組を観てくれるか? こないだ、弘毅が渡したと思われる不良軍団が記者達を呼んで、生中継を要求してきた!」
「本当ですか?」
「嘘と思うなら観てみろ。 話はその後だ」
俺はすぐさま、テレビをつけた。そこに映っていたのは、濃い青色の制服を着た男女五人が屋上にいて、胸のところに名札みたいなものがぶら下がっていた……。
さらに目を凝らしてみると下に警察官・救急車・報道陣が沢山いた。
河野徹:「……みなさん、こんなご時世に馬鹿みたいな手紙が届き、大変頭にきています!」
堀北一樹:「手紙を読むと、残り十五分後に必ず不幸になると書いてありました!」
篠田玲:「そこで私は、本当に不幸訪れるのか試したいと思います」
変なことは止めといたほうが……、心の中で思って観ていると、
椿原亜矢:「今から、この場で手紙を破ります!」
夜の学校の屋上に、紙を破く音が響いた。
高橋雄介:「カウントダウン開始だ」
雄介が、カウントダウンを開始してから運命の十五分 午前零時を迎えた。
徹は、あたりを見渡したがこれといった異変はなかったと思い込んだ瞬間、
玲:「あぁ、……う、うぅ、うううう……」
玲の身体に異変が起きて、あまりの痛さか、右手で心臓付近を押さえて頭から倒れた。
亜矢:「どうしたの? 玲!」
亜矢が玲の身体を動かすと、目、口そして心臓付近から大量の赤黒い液体が流れ出し、
玲:「…あぁぁ、……」
そのまま、静かに呼吸を止めた……。
怖くなった四人は、
徹:「お、おい。嘘だろ?」
一樹:「と、とにかくみんなで、た、助けを呼ぼう!」
雄介:「ああ、」
思いがけない出来事に皆の足が動かなくなったなり、
亜矢:「早く行こうよ! …………きゃっ!!」
突然亜矢は、転んだ。異変に気づいた一樹が、後ろを振り向いた。
一樹:「な、なんだよ。あれ?」
一樹の目に映ったのは、呼吸が止まったはずの玲が亜矢の足を掴み、立っていた。
亜矢:「れ、玲?」
玲は、何も言わず亜矢の首を両手で締め付けた。それからまもなくして、亜矢の首は、バキッと音がしてアスファルトの上をコロコロと転がっていった。
徹:「何が起きているんだ?」
雄介:「わからない……。でも、ここで死にたくないから、降りるよ」
雄介が屋上から降りると、下に待機していた警察官が
「誰か落ちてくるぞ! ネットを張れ!!」
急いでネットを張ったため雄介は、怪我をせずに降りて来られた。
その直後のことだった。ある警察官達が異変に気づいた。
「おい。なんか臭わないか?」
「何の臭いだ? これは、もしかして……」
「……ガソリンだー!!」
この発言をきっかけに臭いがガソリンから、焦げ臭いが漂ってきた。
「逃げろー!」
その瞬間雄介の身体が、車が炎上するかのように燃えた……。
その様子を屋上から見ていた二人は
一樹:「これって、不幸の手紙を破いたから起きたことなのか?」
徹:「おそらく……」
一樹:「なぁ、ここから出ようぜ!」
徹:「あぁ」
二人が急いで、校舎の中に繋がる扉に向かった。が、中から鍵がかけられていて入ることが出来なかった。
すると、後ろから
ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ
ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ
ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ
何かが近づいてくる音がした。恐る恐る後ろを振り向くと、
もはや顔の原型をとどめていないといってもおかしくない玲が、血まみれの状態で立っていた。
玲:「ゲーム……オーバー……だ……ね。私……た……ち……」
2人:「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その直後、テレビの画面はノイズ一色になった……。
翌日の新聞一面は、”高校生 謎の突然死”と書いてあり、この事件を境にしてからか、街は静まりかえってしまった。
もちろん、俺が通う学校の教室も……。
この状況で唯一騒いでいるのが、テレビだけだった。
さらに、この事件をきっかけにある人物にも異変が起きていた。それは田中奈緒と田山弘毅だった。
奈緒は、手紙を誰にも渡さなかったらあのように死んでいたのかもしれないと怯えていた。
弘毅にいたっては、手紙を持っていってもらってから行方不明になってしまっていた。一部では、
「不良にやられたのでは?」
と噂が広まっていた。
そんな噂を心配した俺は、放課後、学校帰りに弘毅の家に行った。
弘毅の家に着きインターホンを鳴らした。
ピンポーン……ピンポーン……ピンポーン……
ピンポーン……ピンポーン……ピンポーン……
何度鳴らしても出てくる気配はなかった。
すると、近所に住んでいた人に
「どうしたの?」
と声をかけられた。私は、
「あっ、すみません。ここに住んでいる方の知り合いで、用があって来たんですが、誰も出なくて……」
「あらそうなの? 最近妹を男手一つで育てていたから息抜きでどっか旅行に行っているんじゃない?」
「えっ!? 妹いたんですか?」
「あれ? ……ご存じなかった?」
「えぇ、……はい」
「……由岐ちゃんって言う子なんだけで噂によるとね、二人が幼い時に父親の浮気が原因で離婚をして母親に引き取られたのよ。だけどその母親が数年後交通事故で亡くなってねぇ」
俺は、言葉が出なかった。そんな過去があったなんて……
そんなある日の昼休みのこと、俺と奈緒は、鬼塚先生に呼ばれて職員室に行くと、この日の朝刊の三面記事を見せられた。
”二月二十八日から三月一日にかけて起きた事件に新展開!? …………高校生達が謎の突然死をした場所で青い光らしきものが発見され、そこからなんと、生命反応が感じられた。専門家が言うには、亡霊かもしれないと言っている。”
「なんですか、これ??」
俺は、新聞に書かれた記事の内容に驚きを隠せなかった……。
奈緒は、この記事を読んでも驚きすらしなかった。やはり、あの事件がかなり影響しているようだ……。
その時だった。誰かが廊下を走ってくる音が聞こえ、鬼塚先生が
「廊下を走るんじゃなーい!!」
すると、走ってきた生徒が
「あ、すみません。って、先生それどころじゃないんですよ! 不審者が校内に入っていたんですよ」
「なんだと!? そいつは今どこにいる?」
「それが……、すぐそこに……いるんですよ」
ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ……ペタ
素足で廊下を歩いてくる音が一歩ずつ聞こえてきた。
この音が聞こえてきた奈緒は、
「また、誰か殺されるのかなぁ?」
と言いながら周りを見渡す行為を繰り返していた。まさに挙動不審状態に陥っていた。
その時だった。何者かが職員室の扉を思いっきり開けた。
そこに立っていたのは、行方不明と噂されていた弘毅の姿があった。
右手には青い封筒が握られていた。
弘毅が辺りを見渡していると、奈緒と目が合い、ゆっくりと歩み寄った。
その姿を見ると、左足を引きずって歩いていた。
手を伸ばし、持っていた青い封筒を奈緒に渡すと、
「なんで……? なんで、私なの? そんなに私に死んでほしいわけ??」
完全ネガティブな心境になってしまった。
いったいどうすれば? と俺が考えていた矢先、奈緒が職員室の窓を開け
「私ここから、降りるよ」
奈緒の意思はとても硬く、誰がなんと言おうと聞かず
「……さようなら」
この言葉を最期に三階の職員室から飛び降りてしまった……。
俺はすぐさま後ろを向き、
「なぜ、奈緒に手紙を渡した!?」
弘毅を問いただそうとしたら、突然弘毅の身体が青い光に包まれた。
この様子を見た鬼塚先生は
「これは、もしかしてこれが新聞に載っていた青い光なのか?」
そう思った瞬間のことだった。突如弘毅の方から強く眩しい光を放ち、その場から姿を消した……。
いったいなんだったんだ??
そう思いつつも、奈緒のところに行った。だが、どういう訳か流れでた血は残っているのに遺体が残っていなかった。
奈緒の遺体を探していると、鬼塚先生が
「どうした! なにがあった?」
「遺体が行方不明になりました」
「なんだと!! ……じゃあ俺こっち探してくるから、お前そっち探してくれ」
「わかりました」
鬼塚先生の指示で探すこと三十分、遺体は見つからなかった。一度鬼塚先生と合流しようと考え、三十分前に会った場所の反対方向に向かった。探しているうちに体育倉庫が見えてきて俺は、恐る恐る扉を開けた。
すると、目の前に鬼塚先生が、首を絞められ口から血を流している状態で発見された。俺は、全身から力が抜け膝から崩れた……。先生の足元には、探していた奈緒の遺体があった……。
その日の夜。
俺は、パソコンを開いてあることを調べていた。それは、”不幸の手紙の止める方法”だ。
そんな簡単に見つかるとは思っていない。だが、すこしでも有力な情報が欲しく探しあさっていた。
探し始めること四十分。気になる情報を見つけた。それは、
「”始まりがあれば、終わりがある伝説”?」
気になった私は、内容を読んだ。
《始まりがあれば、終わりがある。物事には始まりがあって終わりが存在する。言い換えれば、呪いが起これば、その終末があるということになります。その終末の迎え方がいくつか存在するが、その一部を紹介する。
①山梨県甲府市に鬼神湖というのがある。そこに叶えたいことを書いた紙を湖の前に一枚置く。
②滋賀県にある琵琶湖で船に乗り真ん中で〇七〇‐…………に電話をしてその時の指示を聴く。
これはあくまでも伝説なので信じるか否かは、読んだあなたが決めてください。》
これを読んだ俺は、一か八か賭けてここに書いてある情報を信じて山梨県に向かった。
甲府市に着くと、辺りはざわついていた。近くを通りがかった人に訊くと、
「この先の山でバラバラ殺人事件が起きたんだ。もし見に行くのだったらこの道を真っ直ぐ行けば見えるから」
言われるがままに行くと周りには、警察官がたくさんいた。
すると、1人の警察官が、
「被害者の身元がわかりました。被害者の名前は、田山弘毅 十八歳男性です。……」
えっ? 弘毅!?
私は我を忘れ、警察官の制止を振り切り山の中に入っていった。
自分で自分が抑えられない状態になり、落ちていた石を追ってくる警察官達に投げつけながら頂上を目指していると、目の前に“鬼神湖”と木に書かれた看板を見つけた。
そこからゆっくり歩みよると湖が見えてきた。
俺は、ネットに書かれたどおりに湖の前に「不幸の手紙が終わりますように」と書いた紙を置き祈り込め手を合わせた。
すると後ろから、
ガサガサガサ……ガサガサガサ……ガサガサガサ……
ガサガサガサ……ガサガサガサ……ガサガサガサ……
何かが近づいてくる気配を感じた。後ろを向くと、髪の長い女の子が立っていた。
「誰だ?」
思わず出た第一声。
「……たやま ……ゆき」
「弘毅の妹なのか? なんで君がここに? 俺になんか用か?」
この問いかけに、
「……あなた、……私のことを忘れたの?」
と言ってきた。
「っていうより、初対面だろ?」
この言葉に、
「……あなたって本当に最低ね! 私のことを葬っておいて忘れるだなんて……」
葬った? 何を訳の分からないことを言っているのだ? と思っていると
「これを見ても、分からないの?」
そう言いながら、俺の前に見せてきたのは、あの事件の始まりとも言える“青い封筒”だった。
“たやま ゆき”と“青い封筒”。この二つが俺の頭の中を駆け巡った……。
そうあれは、今から数カ月前のこと。
サッカーや野球を楽しむ前俺は、二月二十八日から三月一日にかけて亡くなった隣町の高校の不良たちと毎日のように遊んでいた。まさに、刺激的な生活を求めて道を間違え取り返しのつかない人になってしまった。
そんなある日、普通の生活に戻りたいと思い、当時のリーダー河野徹に相談をした時のことだった。
「あのさ、ここを離脱したいんだけど」
「離脱? なんか事情があるのか?」
「えぇ、はい」
「……そうか。じゃあ最後に一仕事してもらうけどいいか?」
「えっ? う、うん」
想定外のことだった。普通離脱するときは、メンバー全員から殴られるのが一般的だと思っていた。
「……それで一仕事って?」
「簡単なことだ。☓☓小学校に通っている田山由岐っていう女の子の下駄箱に、これを置いてくればいい」
渡されたのは青い封筒で、他の子が授業をやっている隙に置いてきたのだが、その先は今も分かっていない……。
少女曰く、下駄箱に封筒を置かれてから毎日のようにいじめに遭うようになった。
学校を休んでもいじめは止まらず、自殺を選ぶしかなかった。
あの世に逝ったあとも、苦しみから解放されることはなく、いじめた奴らに復讐したいと思っているうちに、亡霊としていや、怨念の塊としてこの世に戻ってきたらしい。
「じゃあ、あの青い光は君なのか?」
「そうだよ」
「なぜ、都庁の人を殺した?」
「あなたには関係ない。しいて言うなら、私に与えられた力を試してみたかったの」
「すぐに止めるんだ! こんなことをしても意味がない!!」
「あなたには、関係ない!!」
少女が言うと指を
パチン、と鳴らしたその直後、
突然私の底が抜けた。
「うわっ!?」
どうやら、落とし穴に落ちたらしい……。
助けてもらおうと手を伸ばしたら、土が降ってきた。もしかしてと思った俺は、ゆっくり上を向くと……、
「あなたを生き埋めにしてあ・げ・る❤」
そう言いながら、どんどん土が降ってきて、
「助けてくれ! あの時は悪かった!!」
気づいた時には、太陽の光が見えなくなってしまった。
少しずつ意識が朦朧する中少女は、
「この中に何か入れようかなぁ!??」
それを聞くと、急いで上の土を掘り脱出を試みた。
何とか、地上に出られる穴を作ることが出来た。
が、その矢先のことだった。
少女はそこから、透明な液体を入れ全身を覆った。
においを嗅ぐと、それは、ガソリンだった!!
全部入れ終わり右手にライターを持つと、すぐさま火を点けた。
「バーイバーイ」
と言うと俺の真上に落としてきた。
この少女の言葉を最期に私は、徐々に皮膚が溶けだし骨も少しずつ見えるようになっていった……。
あの日から数十日後、とある中学校のホームルーム。
平本理沙:「ねぇねぇ、不幸の手紙って言う都市伝説知ってる?」
中林麻里:「なんか聞いたことある気がする。なんかつい最近高校生が謎の突然死した事件だっけ?」
「そうそうそれ! 実は、その事件に新たなことが起きたの!」
「……なにそれ? 知らないんだけど」
「大丈夫だって! これは噂なんだけどね、たやまゆきって女の子を見聞きすると、24時間以内にメールが来て……」
「どうなるの?」
「それは、わからない」
「なんかそれって、やばくない!?」
「大丈夫だよ、だってよく考えてみなって。人口六十四億分の一だよ? そんなに当たらないと思うよ」
そんな話をしていると、担任の大塚先生が教室に入ってきた。
「おい、今日はこのクラスに来る転校生を紹介する。入って来い!」
入ってきたのは、
髪が長く大人の女性って言ってもおかしくない子だ。
「では、みんなに名前を」
「はい! 私の名前は、……田山由岐です」
たやま ゆき??
「ねぇねぇ、理沙。この子ってもしかしてさっきの……?」
「そ、そんなわけないでしょ! あっ麻里、さっき言い忘れたんだけど、彼女好きな色があるんだ。それが、赤と黒の混ざった色らしいよ」
「……変わった子だね」
すると、男子クラスメイトの1人が、
「好きな色は?」
と質問をし、帰ってきた答えは、
「赤と黒の混ざった色です!」
理沙と麻里は、顔面蒼白になった……。
なにせ噂で聞いたことが、目の前に起きたのだから。
そんな二人をよそに、田山由岐の自己紹介は過ぎていき、
「じゃあ、席はそこだ」
指名された場所は、理沙と麻里の間だった。
田山由岐はそこに移動し、
「宜しくお願いします!!」
と言いながら右手で二人に握手を求めてきた。
何の疑いもないまま、握手をすると、
ブーブーブーブーブーブー、
ブーブーブーブーブーブー、
突然携帯が鳴った。
田山由岐に見えないように理沙と麻里は携帯を開くと、一通のメールが入っていた。
その内容は、
“!!”
これはどういう意味だか全く分からなかった。
誰に見せても、聞いても明確な答えは返ってこなかった。
翌日人は、学校に来てクラスメイトに
「おはよう」
と言うことは二度となかった……。
いったい二人の身に何が起こったのでしょうか?
ある都市伝説によると、
《……田山由岐という女の子を見聞きすると、彼女に握手等を求められる。そうすると三十分以内に携帯にメールが入り、受信してから二十四時間後には、この世に戻ってくることはない》
らしいです……。
どうか皆さんもお気をつけて……
(※この物語はフィクションです)