ショッピングモール物語その2
自衛隊のトラックが何十台も止まっている蒜山高原パーキングに車を乗り入れた。
「自衛隊のトラック凄いすね、蒜山高原のパーキングに入ると必ず止まっている。何処の部隊っすかね」
「米子駐屯だろう、あそこしかないから」
「無料で通行してるんすかねえ」
「無料に決まってる」
食事を済ました二人は、米子市を抜けて境港市にむかった。防波堤の横に松の木に囲まれたバラック小屋みたいな家が一軒建っていた。そこでに日本野鳥会の石嶺谷が光る鳥の研究をしていた。
「ごめんください」
「はい」
ひげもじゃの石嶺谷が現れた。
「あっ、どうも倉敷から来ました大城田といいます。と、部下の暇田山です」
「始めまして、どんな御用で」
「海鳥の事でお話を、いいですか」
「海鳥の事でしたら歓迎します。どうぞ」
石嶺谷は二人を家の中に案内した。大城田と暇田山はバラックとは思えない内装に驚いた。そして豪華な応接セットに腰掛けた。
「綺麗な部屋ですねえ」
「家賃払ってますから、内装だけはちゃんとして貰ってます」
「それで、どんな事、聞きたいのですか?」
「新聞で読んだのですが、海鳥がホタルの様に光る記事を読みましてお伺いしたのですが」
「あれは私か新聞社に投稿して話題になった記事です。あの後テレビ局も取材に来てました」
「僕は、テレビの方観ました」
「鳥がなぜ発光するのか。その事を教えて貰えませんか」
「その前に何処の方か、教えて貰えますか」
「そうでした。報道とは全く関係ないのですが、倉敷のショッピングモールの宣伝を担当している物です」
「先月オーブンしたあの倉敷モールですか」
「はいそうです」
「で、これを何に使うんですか?」
「店の宣伝に使いたいと思ってます」
「どんな宣伝に使うのです」
「それはまだ言えません。すんません」
「競争相手に知られたくないから秘密にしたいと言う事ですか」
「はい」
「私も時間掛けて研究した成果ですから、報酬がないと提供できませんよ」
「ご心配なく、報酬は任せて下さい」
大城田は金額を提示した。石嶺谷はそれで了承してホタルイカの研究の経緯を語り始めた。
「ホタルイカの大きさは親指位で、春頃繁殖で浅瀬に群れで現れます。漁の定置網で引き上げる時発光体が光るシーンをテレビで見た事があると思います」
「はい、YouTubeで見ました」
「ここに有る水槽にホタルイカを養殖してます。見ますか」
「はい、見せて下さい」
釣り堀の池みたいな所に金魚みたいな生き物が泳いでいた。
「これですかホタルイカは」
「金魚みたいでしょう」
「初めて見ました」
「ホタルイカは食べると美味いのですが、寄生虫がいるので、熱処理するかして料理すると珍味ですよ」
「そうっす、美味いっすよ。ずっと前たけど富山で食べた事あります」
「拙者も食べて見たいもんだ」
「ホタルイカの美味しい店、知ってますから今晩でも行きましょうか」
「ほんとですか」
珍味に目が無い大城田だった。更に石嶺谷はホタルイカの発光触手から発光成分を抽出して他の動物に移植して発光させる。その研究成果で生み出したのがのこれだった。瓶に入った発光液だ、それと小切手と交換で大城田は受け取った。
「美味いなあ、ホタルイカ」
最後に珍味のホタルイカ料理で交流を深め大城田は石嶺谷とまた会う約束をして境港を後にした。倉敷北モールに戻る頃には日も沈み周りは暗かった。大城田は公園広場の植樹した木に懐中電灯を照らした。何千羽の椋鳥がジュルジュルルと鳴いていた。
「嘘だろう、椋鳥が戻ってるっす」
「静かに、刺激与えてらうるさくなるだろう」
「はい、すいませんす」
芝生には椋鳥の糞が点々と散らばっていた。
「明日は早出だな」
「糞の後始末ですか」
「そうだ、頼むよ早出営業前に綺麗にするから」
「はい、了解っす」
翌朝、椋鳥が飛び去った後二人は公園の芝生に付着した椋鳥の糞をポンプで吸い上げ倉敷川の水で綺麗にした。
「また汚されたら、かなわんからブルーシートをかけておこう」
糞対策に芝生一面にブルーシートを敷いた。倉敷北モールの営業前の朝礼の後大城田は社長に話しかけた。
「社長これ。僕が考えた公園広場の図面なんですが、見てもらえますか」
「公園広場の図面、何だそれ」
「公園広場の樹木を中心に客席を配置した図面です」
「こんな物こしらえてどうするんだ」
「クリスマスのイベントに使います」
「クリスマスのイベント、どんな」
「完成したら発表します」
「秘密なら許可しないぞ」
「実話、、、、、」
大城田は社長の耳元でひそひそ話した。
「なるほどそれは面白いやってくれ」
「有難う御座います」
大城田は企画書に社長のハンコウを貰った。その頃、倉敷西モールでも大城田の嫁がクリスマスイベントの担当を任されていた。倉敷北モールも倉敷西モール同じ大城田、誰もこの二人が夫婦とは思わなかった。
「椵木を展示販売する場所を何処にしようか」
「駐車場の一部にテント貼ってそこで椵木を販売するってどうですか」
「それいいわね、決定」
カナダから空輸で取り寄せた椵木と不思議な生き物をセット販売する計画だった。その不思議な生き物とは蛍の様に発光する昆虫だった。
「この昆虫はなんて種類?」
「ただの昆虫に有る薬を与えると発光すると言ってました」
「昆虫に薬をね、誰が提供したの」
「ある方が企画部に直接売りにきてました」
「ある方って誰です」
「信用に関わるからと名前は伏せて欲しいと言ってました」
「よく有る裏取引って話しね」
「はい、そんな感じでした」
「よし分かりました。それては皆さん椵木と光る昆虫の販売を今日から始めます。気を引き締めて声を大きく売り込んで下さいね」
「はい、大城田さん」
倉敷北モールの宣伝のチラシを観た客が椵木に殺到してあっと行く間に売り切れてしまった。
「大城田さん売り切れました」
在庫のチェックをしていた店員が話しかけて来た。
「えっ、なにが」
「クリスマスツリーですよ。即日完売しました」
「ほんとそれは良かった。それで椵木の仕入れはどうなってるの」
「カナダから空輸で明日搬入されます」
「発光する昆虫の数はあるの?」
「それは大丈夫です。問題はもみの木の在庫数です」
「自然破壊に繋がらなければいいけど」
大城田夫人は売り上げより伐採されるもみの木の事が気になった。クリスマスツリーを購入した一般家庭の様子をちょっと拝見。
「お母さん電気を繋いで無いのになんで電気点くの」
「蛍みたいな昆虫が点滅してるの」
「嘘だ、昆虫図鑑で調べたけど、この昆虫の事載ってなかった」
「ごめんね、お母さんも分からないの」
ってな感じで発光する昆虫が話題になり全国から注文が殺到した。売り上げを大きく伸ばしてた事で倉敷西モール社長山田山は大城田夫人に会長賞を授与した。
「君のおかげで今年オープンした倉敷北モールに越されずに済みそうだ。大城田君有難う来年は昇格間違いない会長賞だからな」
「有難うございます社長」
大城田夫人は達成感に浸った。ピンコロリン、ピンコロリン、大城田夫の方の携帯が鳴った。
「はい、もしもし」
「あたし」
「お前か、どうした」
「会長賞貰っちゃった」
「会長賞を、すごいじゃないか」
「クリスマスツリーで」
「クリスマスツリーって今話題のあれ、お前が仕掛けたのか」
「そうよ」
「誰から仕入れた」
「誰からって?」
「光る昆虫だよ」
「誰でもいいでしょう」
「いえよ!」
「なにその言い方、教えねえよばか」
受話機の向こうでガンガンと音がしてツーと、切れた。大城田夫人はちょっとした事で大城田に八つ当たりする。生理的合わないのかもしれない、その怒りが携帯電話にぶつけられた音だった。携帯電話は自爆したかの様にバラバラになっていた。
「もう携帯はやめた」
「iPhoneに替える」
結局スマートフォンに替えたかったのかもしれない。
「お前の家のクリスマスツリーは中国製の偽物だろう。僕ん家のは本物だぜよ、電気コードも電池も無いのに電飾が点くぜよ、羨ましだろう」
「いいなあ、本物のが欲しいなあ」
と、巷では偽のクリスマスツリーが出回っていた。売れている証拠だった。倉敷西モールに先を越された倉敷北モールもクリスマスに向けてイベント開催の計画が進んでいた。
「大城田君例のあのイベントはどうなってる。経過報告してくれいか」
「はい、今広場の客席が完成してイベント開催の宣伝用テレビCMを今晩から流します」
「そうか順調なんだな。頑張れよ期待してるからな」
「はい、頑張ります」
社長の坂本良太郎は大城田の肩を叩いた。そこへ、テレビ局の女子アナが倉敷北モールの取材にやって来た。
「すみません。テレビの取材なんですが」
大城田が取材を頼んだのだった。
「あっ、テレビ局アナウンサーの、えっと名前が出ないっす」
「中村といいます」
「あっ、始めまして」
ぺこぺことする暇田山だった。
「僕ファンなんすっす」
「有難うございます」
「嘘つけ名前の言えなかったじゃないか」
大城田が暇田山に肘打ちで突っ込みをかました。
「痛いっす」
「クリスマスツリーの取材なんですが」
「はい、お待ちしておりました」
「ここにカメラを設置していいですか」
「どうぞ、好きな所から撮影してください」
カメラの三脚を固定して重い業務用カメラをセットした。17時にテレビのローカルニュースが始まった。メガネを掛けたニュースキャスターが倉敷駅の大画面に映し出された。
「今日は倉敷北モールからクリスマスツリーの取材があります。この後6時頃世界初のクリスマスツリーを披露するそうです。どうぞお楽しみに」
倉敷北モールのカメラクルーは取材機器のチェックをしいた。中継を担当するアナウンサーはメイクをなおしていた。
「ここで、撮影してればいいのですか」
カメラマンが聞いた。
「はい、あの木を撮影してれば驚くことが起きます」
「驚く事ですか」
「暗くなったら、スプリームサプライズです。ただ実況中継してて下さい」
「はい、分かりました」
と、その時あの固まりが飛来した。
「中村さん」
「はい」
「あれなんだけど」
「椋鳥の群れですよね」
「そう見たいですね」
「光ってませんか」
中村アナは椋鳥の群れを目で追った。
「光った感じがするけど、動きが速いからよく分からないわ」
「これはスクープですよ、局に緊急連絡いれますか」
「本当だ、光ってる、中継の割り込み要請した方がいいみたい」
放送ディレクターはテレビ中継を倉敷北モールに、切り替えを支持した。
「ニュースの途中ではありますが、倉敷北モールから中継が入りました」
テレビの場面が倉敷北モールに切り替わった。
「中村さん、とれますか?」
「はい」
「何か映ってますけど、これは何でしょうか」
「椋鳥の群れです」
「椋鳥ですか、煙りみたいにみえますが」
カメラをズームした。
「見えました。椋鳥が飛んでいる所ですね」
「光ってるのが見えますか」
「椋鳥が、ですか?」
映像を見入っていたニュースキャスター言った。
「そうです。椋鳥が蛍みたいに光ってる様な気がしますが」
太陽が玉島のピオーネ畑の山間に完全に沈むと椋鳥が発している光が鮮やかに夜空を飾った。倉敷駅を降りた仕事帰りのサラリーマンや学生達が騒ぎ始めた。
「なにあれUFOじゃろうか」
「わあ、わあ、なにあれ」
「写真撮ろう、写真撮ろう」
倉敷駅北口円形の歩道橋に群集の固まりができてきた。
アンデルセン広場はパニックになった。世界で最も視聴率が高いテレビ番組と言えばニュース番組だろう。どの国も世界中から送られてくるニュースをチェックして受ける映像をピックアップして国内で放送される。その椋鳥の映像が世界中のテレビに流れた。椋鳥の群は発光しながらゆらゆらとオーロラの様に飛んでいた。
大城田と暇田山が椋鳥の群れに何をしたか。ここで、ここまでの経緯を大城田と暇田山の行動を数日前に遡ってみよう。
暇田山に気づかれない様にゆっくり仲吉が近づいて来た。
「わあ!!」
「わあ、ビックリしたっす」
「暇だから、来た」
「仲吉さん、いい所に来た。仕事が有るんだけどお願いできますか」
大城田が言った。
「おっう、タイミングいい,仕事が貰えるんだ。でぇ、何をすればいいのかな」
「倉敷北モールに戻って塒にしている椋鳥の群れが、昼間何処で餌を漁ってるか調べて欲しいんだけどいいかな」
「椋鳥の餌場を調べるんか」
「はい、いいかな」
「暇だから飛ぶしかないしょ。じゃあ先づ、俺は帰って寝るか」
「椋鳥の時間帯に合わせて早寝早起きですか」
「そう、当たり。じゃあ明日」
「我々にはまだ早いけど、おやすみなさい」
「おやすみ」
次の日、大城田に電話が。ピンコロリン、ピンコロリンと為った。
「はい、もしもし」
「今から椋鳥の追跡する所だけど、あんたも来るかい」
河川敷でモーターパラグライダーで飛び立つ準備をしていた仲吉からだった。
「僕はいいです。一人で勝手にやって下さい」
と応えて、そのまま電話を切った。時刻は午前5時半をさしていた。
「こんな時間に電話しやがって」
と、愚痴をいって自分に眠れと暗示した。朝焼けが東の空を染める頃、椋鳥の群が倉敷北モール公園広場から一斉に飛び出した。黒いかたまりが仲吉の居る河川敷に向かって飛んでいた。
「来た、ここに向かってる」
仲吉は双眼鏡で椋鳥の固まりを確認するとエンジンを吹かして離陸の準備をした。その椋鳥の群れが河川敷真上を通過すると同時に仲吉もキャノピーを立ち上げ離陸した。椋鳥の群れは水島の方向に飛んでいた。その先には連島蓮根畑が広がっている。
ピンコロリン、ピンコロリン
「はい、もしもし」
「椋鳥の餌場が分かった」
「どこ」
「連島の蓮根畑分かるかな」
「知ってます。MAXバリューの所だな」
「そう、電線に群がって高圧線をたるましてる」
「連島だな、分かったありがとよ」
とぶっきら棒に礼を言って電話をきってそして、寝床に潜った。
その朝、寝不足の大城田と寝過ぎの暇田山が出勤して来た。
「おはようございます」
「おはよう」
「今日の朝一は連島蓮根畑にいくぞ」
「連島に、何しにすっか」
「椋鳥の餌場が分かった」
「分かったんすか、そこ行くんすね」
「行くんすよ、早く車に乗れ」
「はいっす」
倉敷北モールから南へ20キロの所に連島蓮根畑の田園風景が広がっている、その上空に電気を送る高圧線に椋鳥が連なりジュルル、ジュルル、と鳴いていた。
「居たぞ、ここだな。暇田山はここで降りて、椋鳥の監視してて」
「ここで、椋鳥の監視すっか」
「そう、椋鳥の数のチェックしたり、パン屑で餌付けして」
「分かりましたっす」
「俺は別の仕事があるから、後は頼んだよ」
暇田山は蓮根畑に一人取り残されて椋鳥の監視を始めた。
「1時間置きに椋鳥の数のチェックと餌付ね、今日一日中ここかな。メシはどうするんすかねえ」
暇田山は呟いた。餌付けする時始めは警戒して椋鳥達は集まって来ない、暫くすると慣れたのかエサに集まった。ジュルジュル、ジュルジュル、ジュルジュルものすごい騒音が暇田山の耳を攻撃した。暫くして椋鳥に変化が表れた。
「はい」
「暇田山っすけど」
「なんだ、どうした」
「椋鳥にパンクズやってたら、カラスが邪魔して椋鳥は居なくなったっす」
「カラスが邪魔していなくなった」
「そうっす。椋鳥は臆病な鳥って聞いてたけど、一瞬居なくなったっす。これでは餌付けできませんす」
「そうか、何か対策取らんとな」
と、云う事で烏退治を依頼した。
「烏退治は出来ないけど、烏のアジトを攻撃すれば簡単だよ」
「烏のアジトを攻撃ってどう云う事?」
「烏は山奥に群で巣を作ってる場所がある。そこを空から攻撃するんだ」
「そうすると、どうなるんです」
「パラグライダーがアジトを荒らしに来たとカーカー烏語で仲間を呼ぶ」
「それで」
「助けを求めている仲間の鳴き声を聞いた烏は連島蓮根畑から山へ帰る。と云う事」
「なるほど、じゃあそれをやって貰えますか」
「ガッテン承知の助」
仲吉はカラスが群れで巣を作っている船穂の山奥に向かって飛び立った。高梁川を超えた所に船穂ワイナリーがある。そこは手付かずの森林がまだ残っていた。その周辺にカラスの巣があった。仲吉がその上を飛行すると烏は警戒してカーカー鳴きながら巣の周りを旋回していた。仲吉が言ったとおり、椋鳥の餌を横取りしていたカラスを呼びに来たカラスがこう言った。
「おめえら、アジト戻るんだ」
「どうした、かー吉」
「アジトの上にデカイ奴が飛んで来て、今えらい事になってるんだ」
「デカイ奴って、トンビか」
「あれよりもっとデカイ奴だ」
「トンビよりデカイ奴と言えばあれしか無いな」
「あー、人間界ではパラグライダーって言ってるぜよ」
「そいつらは何もしないだろ。ただバカみたいに飛んでるだけだ。いつも」
「今回はちがうんだ、我がアジトに石投げて来やがったんだ。上から」
「それは本当か、香しちゃあいられねえ、アジトけーるか」
と云う事で烏は蓮根畑がら消えた。
「これで暫くは現れないと思うよ」
と、仲吉はカラスの巣の上空を旋回しながら大城田に電話を掛けていた。
「ありがとう、たすかった」
携帯を片手に大城田は連島に向かっていた。連島では退屈そうに暇田山が草むらで寝転がっていた。
「おい、休憩は終わりだ、起きろ」
暇田山はむくっと起き上がった。
「やっと来たっすか、待ってましたっす」
「弁当持って来たぞ」
「やったっす。鰻重弁すよね」
「ああ、天霧のな」
「うわああ、旨そうだ」
それから何日か餌付を続けて、そしてイベント前夜あの発光する薬を混ぜた餌を椋鳥に与えた。
「効き始めが今から12時間後だ」
何万羽に膨れあがった椋鳥の群れが大城田の周りを「餌くれよ、餌くれよ」と、言っているかの様になついていた。
「もう駄目っす。疲れたっす」
暇田山が音を上げた。と、ここまで遡ってみた。ここから現在にもどる。倉敷北モールの上空を出発点に超高速飛行で東に移動して場面変わってここは千葉のディズニーワールドだ。クリスマスイベントの電飾パードレの車で客を喜ばせていた。隙間なくLEDが埋め込まれ点灯する車に乗った着ぐるみ達が観客に手を振ってる、その時だった。都市電力会社のコントロールセンターで警報が鳴り出した。
「急にどうした。なんの警報だ」
「火力発電のタービンが異常警報です」
「何が起こったんだ。発電タービンの現場に電話して確認しろ」
「はい了解、もしもし何が起きたか報告してください」
「はい、はい、なんだってタービンが爆発して電気を供給できないと」
関東地方の電気供給優先順以下から電気は消されて行った。車のヘッドライトだけが幹線道路を照らしていた。原発反対派の圧力で原発除去され電力不足が日本を襲い始めた。ブラックアウトでデズニーワールドのアトラクション全て使えなかった。入場者はただ発電機の暗い外灯の明かりだけを頼りに、さみしく静かに時間を潰すだけだった。
「電気が無いとこんなに退屈な場所なんだ」
「帰りたいよう」
何処の家族も帰りたいコールだった。
空が好きだから、空に移動して上空からディズニーワールドを眺めると停電前と停電後の違いが、、電気に頼り過ぎなんだここは。で、倉敷北モールの上空に戻ろう。中国地方も関東地方と同じ様な事故が発生した。東京と同じメーカーの発電タービンが使われていたのだ。がしかし、ここは逆だった。停電を歓迎したのだ。オーロラを見た事が有るだろうか。実際にオーロラを肉眼で観たというのは小数派で、殆どの人がテレビや写真でしか観た事がないだろう。飛び回るムクドリの群れが、光を発しながら飛んでいたら、それは正にオーロラと誰もが勘違いするに違いない。その光景が今、倉敷駅の夜空をカーテンの様に揺らいでいた。KBC瀬戸内TVの仲村アナはその光景を視聴者に伝えようと必死だった。時々鼻を膨らます仲村アナだったが、興奮を抑えて放送を続ける事ができた。「皆さんご覧ください。野鳥の椋鳥が蛍の様に点滅しています。まるで龍が尾を引いて空を飛んで様です」
倉敷駅北口アンデルセン広場は人で埋め尽くされていた。マックの従業員も群集に混じって椋鳥を観ていた。
「停電だ」
「何にも見えない」
「でも、でもほらあれ、椋鳥のカーテンがオーロラの様にハッキリと観える」
「ぼっけえ綺麗だなあ」
デズニーワールドとは大違いの倉敷北モールだった。
「電気はいらんぞう」
「電気が点くと綺麗な絵が撮れんじゃろう」
「中国電力に電気はいらんと電話しろ」
「電気よさようなら」
観客はブラックアウトを歓迎した。
「ありがとうございます。さてお立会い、天空を飛び回るムクドリがあの木に集まる時がやってまいりました。ほらほら一羽二羽三羽と、電気でも無いのに光を灯す。不思議な光景、世界でここだけです。先ほどワールドニュースで倉敷北モールの今の映像が全世界に放送されたと局の方から連絡がありました」
ジュルルジュルルジュルルジュルルジュルルジュルルと、チャックベリーのロックンロールに乗ってCCRのロックに乗ってとムクドリ達はノリノリだった。小ちゃいケツをフリフリ可愛い椋鳥ダンスだ。観客も椋鳥ダンスを踊った。20mの木や周りの電線にムクドリが泊まり出した。
「凄い、外灯より明るくなった」
まさに究極のクリスマスツリーが今完成した。
「去年デズニーワールドで見たクリスマスツリーよりもっと幻想的で綺麗だわ」
糞が飛ぶので何故か観客は透明のビニイル傘を全員さしていた。ぽつぽつと雨粒の様にビニイル傘は白く汚れて行った。少し離れた倉敷西モールでは倉敷北モールで起きている事に客が反応した。
「何じゃろうか」
「あそこだけ電気が光々としてるけん、倉敷北モールに行こう」
倉敷西モールの買い物客が倉敷北モールに移動を始めた。
「車は渋滞で動かんから歩いて行こう」
「車はいらん」
「車は乗るな、20分で着く」
倉敷西モールの駐車場は満車なのに店内は閑古鳥が泣いていた。
「カッコー、カッコー」
店員も店をほったらかして倉敷北モールの方向に向かった。次の日巷では倉敷北モールの話題で持ちきりだった。ワールドニュースでも繰り返し倉敷北モールの出来事が流されていた。ニューヨークの旅行社では日本行きチケット購入客が殺到した。
「売り切れました。他の旅行社を当って下さい」
ニューヨーク総ての旅行会社で日本行きチケットが売り切れた。同じ事がヨーロッパで中国で日本行きチケットが売れに売れた。最終目的地は倉敷北モールだ。
「市長えらい事に」
「どうしました」
「世界中から観光客が倉敷に向かってると」
「それはいい事じゃないの」
「この町に人がどっと押し寄せて来るんですよ。パニックになりますよ」
「あなたは観光課でしょう。パニックにならない様にするのが貴方の仕事でしょう」
「はい、市長」
満席の海外便が岡山空港に続々到着した。岡山空港発、倉敷行きリムジンバスを増便して行列の乗客を運んだ。倉敷行き電車は全て満席で、倉敷駅ホームは人で溢れていた。そしてクリスマスイブに合わせて世界中から椋鳥を見るためだけに倉敷に集まった。讃美歌261もろびとこぞりてと共に夜のしじまに人々は祈った。きよしこの夜、イブである。電気は全て消された。満点の星空に人々は祈りを捧げた。そしてお腹を灯した椋鳥の群れが飛んで来られた。オリンピック閉会式の後の様な倉敷駅はゴミの山だった。そして、大活躍の椋鳥達は仲吉が丁重に追い払い静かな公園にもどした。倉敷北モールのクリスマス商戦の売り上げは率で世界一だった。倉敷を訪れた記念になんでもかんても売れた。倉敷駅周辺の雑草まで買って行く客もいた。