第二話 村人、依頼を受ける
どうも、こんにちわ。
第二話目になります、それではどうそ。
第二話 村人、依頼を受ける
バッツが教会中に入ると、扉の開いた音に気づいたのか受付台の前に座っている女性が受付台から顔を上げ、何か作業をしていたのか片目を瞑ったまま単眼鏡越しに視線が合った、バッツが立ち止まると彼女はそのまま頭の先からつま先まで視線を動かし興味を失うと受付台に顔を戻した。
女性はバッツよりも四、五歳ぐらい年上でおそらく二十は越えていないだろう整った顔つきをしている、長い黒髪をサイドから緩く編み込んで後ろで三つ網にしている、腕の裾を肘まで捲くったクリーム色の上着には協会の印の三つの円環の付いたブローチが留められており、肌は浅黒く片目を瞑ったまま単眼鏡の奥で青い瞳を細め手元の依頼書を確認している。
「何か御用ですか」
バッツは体を這う鋭い視線に昔森で出会った片足を罠に引っ掛けた狼の眼光を思い出し身震いしながら受付に近づき、手元の依頼書から目を離そうとしない女性にどう声を掛け様かと思案していると、依頼書を向いたままの体勢で彼女の方から声を掛けてきた。
「あ、あの、登録お願いします」
「始めての方ですね、推薦証はお持ちですか?」
「あ、いえ持ってないです」
「では協会の仮登録を行ないます、名前と年齢をお願いします」
彼女は手元から顔を上げ此方を向くと掛けていた単眼鏡を外し、依頼書を受付台に仕舞い込み代わりに木簡を取り出し広げると獣の牙で作られたペン立てから手に取った羽ぺンをインクに付けながらバッツに尋ねた。
「バッツ、十四歳です」
「家名は有りますか、無い場合いは出身地名を教えてください」
「エルテリカ村です」
「エルテリカですね、ではバッツ=エルテリカ、十四歳と初登録で宜しいですね」
「バッツ=エルテリカ、エルテリカ・・・はい!」
バッツは新しい自分の名を確かめるように呟き、大きく返事をした。
「では、此方が仮の登録証です」
そう言うと彼女は木簡の留め紐を緩め一枚取り外し、仮と大きく書かれた木札を一枚バッツに渡した、裏返すと三つの円が重なった円環の下にバッツ=エルテリカ、十四歳と書かれている。
「それでは登録任務として依頼を一つ達成して頂きます、初任務は登録者の実力を測るため例外的に全ての依頼を受ける事が可能です、任務には協会の者が同行し貴方を評価しその評価によってランクが決まります、あちらの依頼掲示板から依頼を選らんで持って来て下さい、同行可能な職員を紹介します、依頼終了後に同行者と一緒に完了報告に来て下さい、初任務ですので失敗しても違約金を払う必要のない常時依頼の欄の中から選ぶことをお勧めします」
掲示板の方を向いてみると採取依頼、討伐依頼、常時依頼、護衛依頼、配達依頼、臨時依頼、雑務依頼と幅広く分かれている。
他の依頼板には数人の人が固まって話してい居るが、何故か採取の依頼板には一人しか居ない、何か有るのだろうかと思っていると
「何か質問はありますか?」
と丁度よく声が掛かった聞いてみた。
「採取依頼は人気が無いんですか?」
「採取依頼を受けても森に入れば獣と出会う事に成りますから大体の方は害獣討伐の依頼のついでに倒した害獣の縄張りで採取をし、帰ってから採取依頼の掲示板を見に来ますのでこの時間は余り人は居ません、採取依頼が出て無い物でも報酬は多少下がりますが一応は全ての薬草に対しての常時依頼が薬学会から出てますので損にはなりません、今いる人はたぶん鮮度重視の高額依頼を確認しているはずです」
バッツは、なるほど鮮度重視なんて依頼も有るんだ覚えておこう、と思いながらもう一つ気になったので聞いてみた。
「なら、あっちの誰もいない依頼の種類の書かれてない掲示板は何ですか?」
「あれは唯の壁です」
「え、でも何枚か依頼が貼られてますよ」
「あれは壁です、依頼するお金が足りない為に協会で受ける事が出来ない依頼を会長に無理を言って業務中は関らない事を条件に貼っているなんて事はありません、父親が死んでしまい子を育てる為無理をして病気に成った母親の病気を治すための薬草の採取依頼金を稼ぐ為に年端も行かない子供が必死になってお金を貯めているなんて事も全く無いのです、あそこは誰が何と言おうと業務中の私にとっては唯の壁なのです、あぁ何という事、業務時間なのに子供達の依頼を話してしまった、あそこは壁、依頼なんて無い唯の壁なのよ、・・・お姉ちゃんこの依頼お願いしますって頼まれたんだからね・・・しっかりしなさい私・・・請け負う人が現れるまでそこから剥がす訳にはいかないのよ・・・あそこは壁、唯の壁・・・何にもない唯の壁・・・・」
バッツは急に熱く語り出したかと思うと下を向いてブツブツと呟くき始めた彼女から一歩離れ距離を置いたが、しかし、よく考えて見ると困っている子供を助ける依頼なんて実に英雄らしくて良いではないか、いや良いどころでは無い、凄くいい、何だか自分の為に有るような依頼に思えてきた、弱きを助け悪を挫く、其の背に感謝の言葉を浴びながら振り返らずに次の助けを呼ぶ声を求め去って行く、なんてかっこ良いのだろう、この依頼こそ俺の英雄譚の幕開けに相応しいではないかと、バッツの妄想が始まり口元からウフフっと不気味な笑いが漏れる。
依頼板を見ていた三人組みが受付の様子に気づき暖かい目をしながら話し合っている。
「懐かしいな、おらにも昔あんな時期があったんだな」
「なに言ってんだお前は今でも女を前にするとああなるだろ」
「はっ、それならあんたは小奇麗にまとまりすぎなんだよ、少しはあのボーズを見習いな」
「そ、そうなんだな、それに女の話は関係ないんだな」
「あぁ鼻で笑ったな、あとお前ほんとに女の前に出るとああなる時が有るぞ」
「え!・・・んにゃ確かにあの時は記憶が・・・・もしかしてあれもそうだたんだな・・・・」
「おいお前ら、今気付いたんだがひょっとして遠回しに俺が女らしく無いって言ってるのか?」
「そんな事ないですよ義姉さん、ほら早く受ける任務を決めちまいましょう、この依頼なんて如何ですか?」
「そ、そうなんだな、義姉さんがそこいらの男より男らしいってのは皆しってるんだな」
「おい、ばか、言うなこのやろう」
「そうか、お前ら、よ~く分った今日は新調した武器の馴らしで簡単な依頼をこなそうと思って居たが仕方ない、俺直々の特別訓練に変更だ、半時後に重装備で北外門前に集合!ついでに手隙の奴らも引っ張ってきな!遅れたらどうなるか分ってるよな?」
「了解でさぁ姉御!」「合点承知なんだな!」
彼らが協会から飛び出してから数秒、
「お願いします、お母さんを助けて下さい」
と頭を下げる子供に優しく頷き、母親の病気を直す為、街の悪徳薬師から山奥の運河の始まりの地に少量だけ生息すると云われている伝説の浄化苔の情報を聞き出し、山を塒にしている騎士崩れの賊を打ち破り、運河の源泉が湧く小さな泉で浄化苔を手に入れ、街に戻り浄化苔を煎じて飲ませると床に伏していた母親の頬に朱が射し見る見るうちに体調が好くなって行く、母と子は抱き合い涙咽ながら感謝の言葉を述べる、バッツは其の様子を見ながら何も言わずそっと其の場を去って行った、そして妄想が終わる。
受付台の上に額をくっ付け両手で耳を塞ぐように頭を抱え、ブツブツと呟きながら自責の念に縛られていた彼女も元に戻ったようで、バッツは何事も無かったかの様に質問を続ける。
「初任務はどんな依頼でも受ける事が出来るんだよね」
「あ、はい、実力の有る新人の方を早く高ランクにする為に初任務は全ての依頼の中から選ぶことが出来ます」
彼女から返事を聴くとバッツは掲示板の方へ向かい、暫らくすると依頼書を一枚剥がし受付に戻ってきた。
「この依頼を受けるよ」
「之は」
彼女は依頼書を確認すると顔を上げ、一枚分の空きが出来た壁を見つけると、バッツの方に向き直り話し始めた。
「この依頼は協会管理外ですので失敗しても協会に対しての違約金は発生しませんが仲介も有りませんし成功しても功績に関らず最低ランクからになりますが、本当に宜しいのですか?」
バッツが差し出した依頼書には拙い文字で『排水講に落した宝物を見つけて下さい。報酬、銅貨十枚 依頼人、北東区のテサン十歳』と書かれている。
「あぁ、大丈夫、それで観視人って誰?」
「では、同行者を連れてくるので少し待っていて下さい」
依頼書が貼り出されて数ヶ月、初めは確認する人も居たが今では誰も見向きもしない、そんな条件の悪い依頼を自身満々に受けようとするバッツに、私としては嬉しいけどこの子は早死にしそうだなと思いながら、彼女は席を立ち奥の扉の中に入って行く。
暫らくして、交代の時間だろうか両隣の受付の女性が別の男女と交代する様子を眺めていると、扉から彼女が一人で出てきた。
「観視人の人は?」
「・・・私です、会長から『初任務は全ての依頼を受ける事が出来るのは教会の決まりじゃが管理外の依頼に同行者を着ける金を出す訳にはいかんし困ったのう、此処は一つ依頼を貼り出した君が責任を持って行ってくれんか、おぉ逝ってくれるか、では気をつけてのう』と有無を言わさず言われました」
「そんじゃあ、よろしくお願いします、えっと北東区ってどっちだろう?」
「何も言わないのですね」
協会を出ようとするバッツに彼女が後ろから声を掛ける
「え、何が?」
「依頼には不足の自体が付き物です、一応は其れなりに動けますが、私の様な眉目秀麗で可憐な女性はいざとゆう時に足手まといだと想われるのが世の常ですので」
「あぁ、そっか、でもほら、俺これが初任務だからそうゆうことはよく分らないんだ、できれば教えてくれると有りがたいかな」
「ええ、良いでしょう初心者に協会の常識を教えるのも良い同行者の条件の一つです」
「観視が主じゃ無いの?」
「あくまで初心者が大怪我をしない為の観視です、普通の共同任務と想ってもらって構いません」
「なら、この任務の間は仲間って事だよね」
「短い間ですがそうなります」
それなら、とバッツは姿勢を正し彼女の方に向き直る。
「バッツ=エルテリカです改めて宜しく、えっと、お姉さんの名前は?」
「そういえば未だ言ってなかったわね、ルシカ=ロングバレルよルシカでいいわ、宜しくねバッツ君」
二人はしっかりと握手を交わし協会を出ると、ルシカを先頭に依頼人の元に歩き始めた。