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救世主奇誕メサイア・デザイア  作者: きょうげん愉快
第二章「聖騎士の選定」
6/35

2-1

「こちらがラグディアンの騎士候補を集めたリストです」


 騎士団長が差し出した冊子を、マザー・ハルコは「ありがとう」とだけ言って、ゆったりとした手つきで受け取った。ページを一枚一枚丁寧にめくりながら、穏やかな、しかし威厳ある瞳で読み上げていく。やがて最後のページまで読み終わり、左上で止められたプリントをめくる前の状態に戻したハルコは、しかし無言のまま閉じた資料を眺めていた。


「……仰せの通り、精鋭を集めて参りました。お眼鏡に適う者はおりましたか?」


 沈黙に耐え切れず再び団長が声を掛ける。しかし、次に紡がれた言葉はその質問に素直に答える物ではなかった。


「この中に、先程の戦闘で”邪神”と対峙していた騎士は居ますか?」

「先の戦闘で、ですか?」


 団長は少し考え込んだ。先程の戦闘は連戦だった為、修理中の神体が多く編成を通常時から大幅に変更されていたと言う。その時に前線メンバーに選ばれた中で、最も”邪神”の近くに居たのが誰かすぐには出てこないのだろう。しばらくしてからハッとした表情を再びハルコに向けた。


「……ルエイユ・ゴードでありますか。いえ、彼は後方支援ですのでその候補には入っておりません」


 ラグディアンは非常に高性能な神体だが、その分プラッテに比べて極端に数が少ない。現状ではマーズの前線部隊にしか配備されておらず、今回の教会騎士団への配備ですら奇跡に近かった。そんな貴重な神体を支援に回すなど宝の持ち腐れとしか言い様がない。団長はそう思いラグディアンの騎士候補は前線部隊からのみ選抜していた。


「後方支援ですか、一人だけ選抜されては不自然になりますね……でしたら試験は全員を対象としましょう。念の為、騎士団の名簿を後で送って下さい」

「ルエイユ一人を受験させる為にですか!?」


 ハルコの指示の意図を汲み取り、団長は驚愕の声を上げる。彼にはハルコがルエイユにそこまで肩入れする理由が分からなかった。彼の実力は決して低くはないが、それでも前線に耐えうる物ではないと考えていたのだ。

 ルエイユ本人が想像する以上に、彼は良い意味にも悪い意味にも有名だった。白兵戦が主であると言われるVAでの戦闘において、その技術が乏しい事はやはり良い印象にはならない。それを踏まえるとルエイユは致命的に無能な騎士である。しかし、それとは対照的に射撃の技術と対G訓練の優秀さは特筆すべきものがある。後方支援の基本、高機動射撃戦において彼の右に出るものは居なかった。だが……


「お言葉ですがマザー、白兵戦の出来ないルエイユにラグディアンの騎士が務まるとは思えません」


 いくら射撃が上手くとも、それだけで戦える程”邪神”は甘くない。剣のない騎士を戦力として認める訳にはいかないだろう。そう団長は結論付けた。


「……そうでしょうか。確かに彼は近接武器の扱いには極端に欠けています、それは先の戦闘でも分かりました。でも、逆に言えば実質武器をひとつ持っていない状態で”邪神”とあそこまで戦えた、とは考えられないかしら?」

「それは…… !」


 団長は考える。仮に自分が同じ状態で、剣を持たずに戦っていたら、あのような戦いが出来ただろうか? 弾道を正確に予測しての回避、高速ながら安定した軌道での接近、そして瞬時にゼロ距離射撃を狙う判断力。そこで彼は「剣を失った状態」という条件下なら、その全てが理想的な行動である事に気付いた。


「……しかし! 事実、ルエイユは戦闘不能になり、神体を大破させています!」

「それが、彼の操縦にプラッテが耐えられなかったからだとしたら?」

「!?」


 それは団長が思っても言葉にする事が出来ず、心にしまい込んでいたはずの仮説。ルエイユ騎の損傷は確かに酷かった。しかし、駆動部には奇跡的に被弾しておらず、制御不能になった直接的な原因は内部からの破損、との情報があった。それがもし、彼が”邪神”に「負けた」のではなく、ゼロ距離射撃で「自滅した」からなのだとしたら……


「全ては試験を行えば分かる事。前述の通り、試験は騎士団全員を対象とします……以上、下がりなさい」

「……はっ」


 団長はそれだけ答え、ハルコに背を向ける。未だハルコの発言には納得出来ないが、だからと言ってここに留まる訳にもいかない。彼女の言うとおり、試験の結果で判断すれば良いだろう。なんとかそう納得して、彼は部屋を後にした。


 団長が部屋を出た後、ハルコは小さく呟いていた……。


「あの時の彼の力は多分共鳴によるもの……恐らく、彼は……」


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