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救世主奇誕メサイア・デザイア  作者: きょうげん愉快
最終章「救世主の欲望」
33/35

7-5

 暗い。元々明るいとは言い難いコックピットが、今のルエイユにはさらに薄暗く映った。全身には至るところに穴が空き、そこから吹き出る血が止まる様子はない。今の攻撃で即死しなかったのは幸か不幸か、いずれにせよ肉体は限界であるとルエイユは感じていた。


『無様だな』


 声が、聞こえる。もちろんここに居るのはルエイユただ一人、しかし聞こえる筈はない、とは考えなかった。既に視認できる物ではないが、メサイア・デザイアにはもう一人、乗組員がいるのだから。頭の中へと確かに送り込まれる声に、ルエイユは耳を傾ける。


『敗北は許されない、そう言った筈だが』

「僕が……負けたと……?」


 かすれた声でルエイユは応えた。喋る度に口から血がこぼれ落ちる。


『その瀕死の身体で何ができる。貴様、今に死ぬぞ?』

「それは……ルエイユ・ゴードの敗北……であって、救世主の……では、ない……!」


 それはメサイア・デザイアが完成した時からルエイユが考えていた事だった。救世主たる最強の神体の前に、彼自身のなんと脆弱な事か。単純な強さの問題だけではない、今のままでは例えメサイア・デザイアが永久駆動できたとしても、ルエイユという指示媒体は先に朽ちてしまうだろう。彼には分かっていた。自分がしがみついているモノが、既に足枷でしかないことが。


「あなたに出来て……僕に……ないはず……ない……!」

『……ふん、思ったより吹っ切れている。少しでも未練を見せようものなら、今度は私が喰らってやったというに……分かっているなら早く始めろ。これ以上、私に醜態を晒させるな』


 それだけ残し、声は聞こえなくなった。すぐ近くに感じていた気配も存在を感じられない。同時に視界がさらに暗くなったような感覚に陥る。ルエイユの口から、おびただしい量の血が吐き出された。床に撒かれた緋が、残り時間の短さを表している。決意を帯びた瞳で、ルエイユは立ち上がった。


「急がないと……ザァキュレーダァー、ぎごえてたろぉっ!!」


 天を仰ぎ、赤い滝を垂れ流しながらあらんかぎりの大声をあげる。頭上は先程の攻撃で機械部が露になり、無数の生きた歯車が蠢いている。そしてその中枢では薄く輝くデザイアンサーキュレーターが鎮座していた。


肉体(これ)救世主(ぼく)には必要ない……ぼぐをぎゅうせぇしゅに、じろォォォオオオオッ!!」


 闇が、かつてジギアスを喰らい、メサイア・デザイアを生み出した闇が、再び神体を侵食する。神体に喰らいついていたインベーダーをも巻き込み、跡形も残さずに消滅させた。それとは対照的に、中から姿を現したのは完全な再生を終えたメサイア・デザイア。唯一違いがあるとすれば、その中にルエイユはいないという事だけだろう。


『戦闘続行』


 パイロット不在のまま、メサイアが動く。その速度は、今までの高速すら遥かにしのぐものだった。通り道のインベーダーを紙一重でかわしながら一瞬で眼前のインベーダー群を通り抜ける。その間も、レーザーは絶えず肩の触手から放たれ続け、すれ違った敵を片端から溶断していった。


『リピート』


 呟きながら二度、三度と同じ動きを繰り返す。それだけで、先程までは攻撃を絶やす瞬間などなかったはずのインベーダー達が醜い肉塊に変わっていった。未だメサイアを埋め尽くす程の数が居るにも関わらず、その立ち居振舞いには余裕すら見える。死屍累々とした周囲は再び訪れるであろう驚異を示唆しているが、まるでそれを待っているかのように、メサイアは立ち尽くしていた。


『捕食融合……馬鹿の一つ覚えのように』


 死した同胞を喰らいにインベーダーが群がる。内数匹、恐らく直接口にできた者が脹れ上がっていった。数は、先程の比ではない。ルエイユを襲った回避不能の鋭利な刃が向かって来る。だが、メサイアはその場を逃れようとはしなかった。むしろ、獲物を狙いすますように爪を立てる。ぐらり、と一瞬メサイアの身体が傾いた。ただそれだけの動きが最も早く迫った一撃を紙一重でかわす。直後に軽く振られた爪は、すれ違いざまにインベーダーの脳に当たる部分を正確に穿っていた。ほぼ同時に向かっていた無数の爪、その一本目と二本目の僅かな暇に、メサイアは最初の一体を仕留めていたのである。


『その程度で"私"は止められぬ!』


 言葉通りにメサイアは更に次の攻撃を捌き始める。一体目の死骸を背に、正面から向かって来る攻撃をかわし、叩き落とし、余剰の動きで間合いの敵は確実に絶命させた。その動きは既に操作された兵器の物ではない、生き物そのものである。今やそれはルエイユ・ゴードという人間でもメサイア・デザイアという神体でもない。まさしく"救世種"という存在だった。まるでその為に生まれて来たかのように、ソレは人の世へ向けられた悪意を払いのけていく。


『……っ!?』


 どれほどのインベーダーを殺しただろうか。少なくとも前を見ている限りでは生きたまま残った物はいないという程度までを沈めた頃、メサイアはあるはずのない風の流れを感じた。周囲にあった死骸が、一方へと流れていく。それらが行き着いた先を見てメサイアは風の正体に気付いた。


『地球が死骸を吸引している……そうか、あれが主か』


 地球が、インベーダーを喰らっていく。生死問わず、周囲にいる物を片端から。彼は気付くのがあまりに遅すぎた。片端からその資源を食い荒らされた地球が、姿を残したまま存在している事自体が不自然だったのだ。とうの昔に地球などという星はとうの昔に失われている。彼が今まで見ていたのはただのインベーダーだったのだ。ただし、13万Km級の果てしなく巨大な。インベーダーの主は、周囲にいた全てのインベーダーを喰らうとその全容を現した。黒い球体から、首長竜のような頭、そして星をも掴む程の腕が伸びる。一騎討ちと呼ぶにはあまりに質量差があり過ぎた。


『空間歪曲システム始動、全砲門、歪曲フィールドに集中砲火』


 それでもメサイアが引く事はない。何かを抱えるように手を広げ、そこに全ての兵器のエネルギーを集中させる。その光りは昏く紅く、零れ落ちる血液さながらだった。やがて血は空間という受け皿を満たし、巨大な一個の球としてメサイアの眼前に君臨する。破壊の塊が完成するのと、インベーダーの腕がメサイアへと伸びるのは、ほぼ同時だった。


『発射!』


 二つの敵意が正面から激突する。緋の光が地球圏を埋め尽くした……。

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