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救世主奇誕メサイア・デザイア  作者: きょうげん愉快
最終章「救世主の欲望」
29/35

7-1

『彼の唱えるドゥキナによる救世は不完全な物でした。いや、理論は完成していたのに彼にはそれを実行する力がなかったのです』

「民衆の煽動か……よくやるな、あいつも」


 ディス・アークのブリッジ内中央モニターの中で淡々と語り続けるルエイユを見ながら、アッドマンは深々と頷いた。丁度ヘッドフォンを外したところだったリールが彼の呟きに続く。


「かなり簡略化していますが、事の経緯はおおよそ分かる内容になっています。正しく包み隠さずといった所ですね」

「おお、もう全編聴いたのか。流石4倍速だな」


 アッドマンの賛辞に、リールは4つの画面を停止させながら「どうも」とだけ答えた。

 ルエイユ・ゴードが放ったジギアス討伐の報は、全回線通信に始まり各メディアで瞬く間に世界へと伝わった。それは10分程度の短いものだったが、殺害に至った経緯に始まり教団設立の真実、異星人の驚異、そしてデザイアンサーキュレーターの存在を伝えた物だったと言う。突然の放送に驚いた一同ではあったが、その装置が計画の要である以上ルエイユの行動も間違ってはいまい。すぐに放送できたのも、ジギアスが同じ事を考えていたのならば設備を用意していて然るべきだ。しかし、


「賭けですね」


 それでもリールには肯定的に捉えるべきとは考えられなかった。彼女は感情こそ強くは持ち合わせないが、人がどれだけ感情で動くかはよく"識って"いる。必要だったから、そうせざるを得ないからと言う当然の理由も、彼らの倫理は時に平然と否定してしまう。


「どんな理由であれ、人類の希望たるジギアスを殺したのはルエイユさんです。彼を慕い、付いてきたエスキナ教徒達が納得するとは思えません」



「かもしれねぇな」


 アッドマンは腕を組みながら頷く。だが、口許から何か嘲笑的な笑みを見たリールは、彼を凝視し続けた。

 リールの予測はいつも正確だ。常人には詰めきれない膨大なる知識と言うライブラリをソースに最も正解に近い可能性を即座に弾き出す。だが、それでもここぞと言う時だけはアッドマンに勝てない。リールは今回も彼と意見が割れたのではないかと勘ぐっていた。そして、皮肉にもこの予想は見事に的中する。


「……いや、オメェさんの考え方は正しい。宗教団体ってのはそう言う連中さ。教祖とか、神とかってヤツに救いを求める。ソイツにしか自分は救われないって思っちまうからな。だが……」


 リールが考えていたのはそこまで、アッドマンはまたしても彼女の上を行っている。あるいはその差こそが彼女の未だ知り得ない知識にあるのかもしれない。リールはそれを得るためにも、アッドマンの言葉を待つ。


「……エスキナ教団は、本当に宗教団体だったのかって話だよ。人が神にすがるのは大抵死んだ後の事やらってぇ言わば心の不安を抱えた時だ。だが連中は違う、アイツらは目に見える問題を解決するために集まった、ある意味じゃポジティブな連中なんだよ」


 リールの表情が僅かに強ばる。彼女はエスキナ教団を単純に宗教団体として見ていた。完全に宗教団体の固定観念が固まった上での予想だったのだ。ただ一つの認識の違い、それが彼女とアッドマンの見解に決定的な差違を生んだ。どちらが正しいか、それは直ぐにでも分かるだろう。彼らは既に、その答えに至る道を着々と進めているのだから。


『こちら格納庫、回収(サルベージ)したブラックボックスから未知数のエネルギー発生! 警戒してください、何が起こるか分かりんせん!』


 その時だった。通信機からそんなアスティルの声が聞こえてきたのは。彼は今、ミルニアのラグディアンを修理しているはずだったが。彼の報告は全くのイレギュラーだったが、二人が慌てる事はなかった。ただ一つ、分かたれた未来への予想が統一されただけで。


「……面白くなって来やがったなぁ、MS.リール」


 それは異星人の尖兵との、戦争が始まる事に他ならない。それでもアッドマンは笑っていた。彼にとっては、戦争すらもカルマの……自らの得た宝の価値を高める要素に過ぎないのだ。彼の様子を見たリールは思わずため息をつく。だが不思議なもので、決して悪い心持ちではなかった。もしかしたら、彼に感化されたのかも知れない。それでも悪い気はしなかった。それで自分の糧となるのなら。


『僕をどう思おうが皆さんの自由です。ですが、世界を救える人間は僕以外には存在しない、それは忘れないでください』


 ルエイユの演説は今再び終わりを告げようとしている。その淡々とした様子に小さく笑みを浮かべながら、リールもまた淡々と応えた……。


「ええ、とても」


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