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救世主奇誕メサイア・デザイア  作者: きょうげん愉快
第五章「聖邪の相克」
23/35

5-6

「……っ! うわあぁぁぁぁあああっ!!」

『うっ!?』


 悲鳴にも似た奇声が上がる。無論、神体のダメージが騎士に連動するなどという機能がある訳ではない。怒りが、ルエイユの感情を爆発させたのだ。それに呼応してカルマの出力は一時的に激増を見せる。すかさず追撃を仕掛けようとしていたハルコだったが、無意識に吐き出した呻きに、その判断を否定してプラディナを下げさせた。その行動は恐らく間違ってはいなかった。直後に放たれた膨大な破壊の力は、ブースターに取り付いた”眷属”を含む周囲にいた一切を跡形もなく消し去ってしまったのだから。まとわりつきつつあった”眷族”達も全て死に絶え、両者は一時の膠着状態に立ち戻る。


『あの数の”眷属”を一瞬で……よくもこれだけの力を引き出したものだわ。でも、それもここまでのようね』


 通信を送ってきたハルコの表情には若干の安堵が見える。たかが左腕一本、しかし腕と共にメーザー砲もロストしてしまった。残り一門、ハルコに与えるプレッシャーとしてはあまりに小さい。対するプラディナは未だ無傷を保っている。機体の性能にそれほどの差はあるまい。デザイアの自覚で著しい成長を遂げたルエイユだったが、経験の差がここになって如実に現れた。


「……」


 ルエイユが答える事はない。着々と削がれていくカルマの能力、外部からの妨害、示し合わせたように襲う逆境に敗北の色が濃くなっていく。だが、黙っているのは絶望からではなかった。逆境だからこそ、僅かな勝機を意地でも掴まなければならない。先の経験から周囲を警戒しながら、ルエイユは勝利への筋書きを模索していた。


「考えろ、何か手はないか。きっかけはなかったか……」


 ハルコに関して今まであった事を全て思い出す。遠隔操作でカルマを操られた事、今までの攻撃がまるで予測されたかのように防がれている事、今の攻撃の瞬間に通信から漏れた呻き声。そこでルエイユはふとした事に気付いた。このような事が、以前にもなかったか。答えはすぐに浮かんだ。カルマの操作権限を奪取した時だ。では、その時と共通していた事とは。


「……悪意」


 そこまで考えれば、気付くのに時間は掛からない。あの時も、そして今も、ルエイユは普段より一等強い感情を発露していた。つまり、ハルコの能力は相手の思考を読む事なのかと一瞬考える。だが、それならばカルマの操作はどう説明するのか。彼女は確かに自身の能力を用いて、カルマを操作していたのだ。その為にカルマには非常に粗末ながら受信機が取り付けられていた。つまり、彼女は受信機に向けて指示を出していたはずなのだ。


「……そうか! 思念を送受信できるんだ!」


見出した仮定によって全てが説明されていく。だから簡素な受信機だけでカルマを操作することができた。思考の数から離れた敵の数も察知できた。今までの戦いも、未来を見たルエイユの思考を読んだのだと考えれば合点がいく。思念を電波として送受信する事ができる能力、言わば思念波干渉とでも呼ぶべきか。今、ルエイユは遂にハルコの手の内に辿り着いた。

 しかし、だから勝てると言う訳ではない。純粋な実力に差があるのはルエイユも自覚しているし、未だ彼女は対光学反射コーティングと言う鉄壁の守りを有しているのだ。対してルエイユは突破口となる武器を一つ失っている。見えた手の内に対して何をするべきかもわからない。ルエイユは歯軋りした。中途半端に残った左腕が憎い。現状で肩の連装砲だけが残って何になるのか。


「こんなもの、何の役にも……待てよ?」


 叩き壊したい衝動に駆られるルエイユだったが、握る拳を緩めながら考える。実際にそんなことをしたらどうなるのか。いや、考えるだけではない。破壊するイメージを瞼に送り込む。それだけでその結果が脳内にビジョンとなって浮かんで来た。結末を悟ったルエイユは、口元を小さく歪める。


「これなら行ける……メーザー照射!」


 言いながら右腕を横薙ぎに振るう。掌から伸びるラインを嫌がり、近くまで来ていたが距離を取り直すプラディナが見えた。思考の隙を突こうとしたのだろう。 だが、ルエイユが注意を怠っていた訳ではない事には気付かなかった。どうやら完全に思考が読み取れる訳ではないらしい。彼にとっては好都合だった。


「連絡砲、出力あげ!」


 黒い歯車が機械を動かす姿が脳裏に浮かぶ。火花を散らして激しく回転する歯車に呼応して、カルマの熱量も上昇していった。そのエネルギーのありったけを左肩へと注ぎ込んで行く。


『遅いっ!』


 しかしエネルギーの注入が終わるのを、ハルコが待つはずもない。他の箇所へのエネルギー回りが悪くなっている隙を、容赦なく突いてくる。全身のブースターを用いた超機動に、防御も回避も間に合わない。しかし、思考まではその範疇ではなかった。


「邪魔だぁっ!!」


 ルエイユの叫びが通信を通してハルコまで届く。否、声だけではなかった。声によって膨張した荒々しい感情が、思念となってハルコの心に直接襲い掛かる。


『くっ!? 今さらこんなものっ!』


 悪意に満ちた思念がハルコの動きを鈍らせる……かに見えた。しかしそれも一瞬の事、減速など殆どなくプラディナは体勢を整える。考えてみれば当然だ、思念波の受信は彼女が一方的に行っている。それが自分にとって不都合ならば、遮断してしまえば良いのだから。あとほんの一突き、それだけでこの戦いは終わる。 今さら能力は必要ない。だが、それこそがルエイユの狙いだった。


「うああぁぁああっ!!」


 減速の僅かなタイムラグ。その刹那の時でカルマは左肩を突き出した。発射は間に合わない、連装砲の本体に、レイピアが穴を穿つ。次の瞬間、エネルギーに満ちた連装砲が赤光を放つ。まるでオーバーヒートでもしたかのように。


『っ!?』

「爆ぜろぉっ!!」


 爆発が、二騎を包み込んだ。溜め込んだ力が誘爆を引き起こし、まるで爆弾のような衝撃を周囲に撒き散らす。その威力にカルマも耐えきれず、神体左側を中心にあらゆる装甲が軋みひび割れを起こした。

 重装甲のカルマですらその有り様なのだ、プラディナはそれどころでは済まない。自慢の対光学反射コーティングも爆発の前には意味もなく、衝撃に耐え切れなかったのか機能を停止してしまう。装甲も所々剥がれ落ち、ブースターも半分以上が機能停止していた。光源を失い、くすんだ神体が無重力の中に漂う。


「アンカー!」


 戦闘続行不能は誰の目にも明らか、それでもルエイユは容赦なくアンカーランスをプラディナの腹に穿つ。既に死に体となったそれは、無抵抗のままカルマの元へ引き寄せられていった。やがて、プラディナの胸部にカルマの掌が重なる。そして、


『ルエイ、ユ……』

「これが救世主を否定した貴女の結末だ、ハルコ・オリハラァッ!!」


 赤黒い光が、プラディナの胸を突き抜けた。攻撃の直前、ハルコが通信を送ってくる。口元から一筋の血を溢しながら、彼女は笑っていた……。


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