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救世主奇誕メサイア・デザイア  作者: きょうげん愉快
第五章「聖邪の相克」
20/35

5-3

「少し直すだけで見違えたな」


 飛行に軽いロールを加えながらルエイユは頷いた。カルマリーヴァの機動が明らかに柔らかくなっている。前回彼が乗っていた時は、ロールはおろか直進すらままならない状態だったと言うのに。更に彼が驚いたのは重力制御だ。出力の上昇に伴って速度は上がっているはずなのに、今までの腹を押さえ込まれるような圧迫感がない。ユエイユも騎士となってしばらく経つが、調整一つでこれ程の変化を感じたのは初めてだった。どうやら工芸民族というアスティルの談はハッタリではなかったらしい。大きく変化しているにも関わらず違和感はなく、むしろ手に馴染む程だった。


「これなら馴らしも必要ない、やれる」


 レーダーを一瞥してからルエイユは目を閉じる。レーダーを見たのは周囲の神体を確認した訳ではない、現在の宇域を認識しておいたのだ。位置は意外にもエスキナに近く、カルマ強奪からそれほど移動をしていない事が分かった。それが更なる襲撃を目論んでの事か、ルエイユが攻め込むであろう事を予期しての事かは今や知るべくもないが。

 レーダーに映っているのはそこまで、しかしルエイユにはその先が見えていた。これから起こるであろう先の時間の光景を視る力、未来予知。プロトグリードとしてのデザイアを自覚した彼にはより先が、より正確に見る事ができる。変動のない確実に未来ならなおさらである。彼の眼は捉えていた、今ではなく、これから迫り来る敵の姿を。


「騎士団の到着まで3分か、早いな……」


 瞳に映ったのは騎士団がエスキナから次々と出撃する様。ルエイユの知る緊急招集時よりも2分ほど早い。ディス・アークがさして離れず潜伏していた事を加味すれば、当然と言えば当然かもしれない。だが、映る機影の量にもルエイユは注目した。先日の戦いで修理中の神体も数多いはずであるにも関わらず、普段の騎士団ですら考えられない程の大編隊。近隣支部からの増援だけでは利くまい。それに、神体の中には正式配備は火星にしかないはずのラグディアンも多く見られる。有事に備えて用意していたジギアスの個人戦力といったところか。間もなく騎士団は不審なエネルギー源、すなわちカルマリーヴァへと殺到するだろう。だが、今の彼にとっては数など大した問題ではない。俯瞰的に映し出された、溢れかえる神体の群れの中からただ一騎だけを探し続ける。


「プラディナ……プラディナはどこに――はっ!?」


 突如、ルエイユの脳内に不吉なビジョンが流れ込んだ。真紅の閃光がカルマの神体を駆け抜け、真っ二つにしていく。咄嗟にルエイユが身を上方へとずらすと、見えた通りの何かがカルマのいた位置を横切った。


「レーザーの狙撃? いや、違う……」


 飛来したのはなぎ払う一撃だった。遠距離の狙撃ではそのような芸当はできないだろう。ならば斬撃だ。使い手が見えない程の遠距離からでも届くような、とてつもない長物のレーザー系白兵戦兵器。そんなものが存在すれば可能だ。だが、そんな冗談のような武器が実際に存在しうるだろうか。それでは、エネルギー効率があまりに悪すぎる。レーザーとレーザーソードを同時に持った方がまだ効率的な程だ。相当なエネルギーの余裕でもない限りは。


「……まさか!?」


 馬鹿げた武装を実現するエネルギー、それはルエイユにも心当たりがある。目の前に、いや今乗っている自騎こそはまさしくそうではないか。アスティルが言っていたエネルギー機関、確かDドライヴと言っていたか。これがあれば効率など実質考える必要はない。製作者はジギアスなのだ、搭載騎が別に存在しても全く不思議はないだろう。起動できる人間がいさえすれば。ルエイユは全てを理解した。群衆の中には確認できなかったプラディナの姿、それは当然の事だったのだ。プラディナは、最初からその場所にはいなかったのだから。


「そこかぁぁああっ!!」


 ルエイユの絶叫と共に、カルマが胸に見開かれた第三の瞳から光を放つ。仄暗く紅い雨が虚空を襲った。だが、その中でもルエイユは見逃さなかった。レーダー内に一箇所、光の流れが途切れた、即ち何かがある場所があった事を。位置を指定し、カメラをその一点へと集中させる。やはり何かに接触したらしく粉塵が視界を遮っていたが、時間と共に少しずつ、内側から金色の肢体が浮かび上がった。


『ヒット&アウェイ、という訳には行きませんでしたか……』


 カルマのコックピットに声が響く。ついに姿を現した金色の聖騎士から飛ばされた通信。その声にルエイユは口元を小さく歪ませた。ほんの少し前までは目標として、今は標的として追いかけていたその女性が、今目の前にいる。


「やっと見つけた。マザー・ハルコ……いや、ハルコ・オリハラ!」


 言いながら画面、いやそこに映った彼女の神体を睨み付ける。煙が晴れ、やっとハッキリとしたその姿は今までのプラディナとは少し違っていた。最初に目に留まったのは左腕だ。そこに取り付けられていた守護者の象徴タワーシールドの姿はなく、代わりに小型のバックラーが装備されている。それは今の彼女に守護者としての役割はなく、純粋に眼前の敵を倒す為の装備である事に他ならない。

 また、全体のフォルムにも若干の違いが見られた。ベースは間違いなくプラディナのそれ、しかしスラリとした面影はなく、所々にデコボコとした突起が見え隠れする。その正体もルエイユにはすぐに分かった、ブースターだ。全身にブースターを搭載することで、神体の姿勢制御を維持しつつ機動性を高めたのだろう。ゴールドのボディーに引かれていた黒いラインの塗装がなくなっているのは、外付けのパーツを突貫でペイントしたからか。それ以外の部分も不自然に光沢を持ち、神々しさとはかけ離れた品のない輝きを感じさせた。


「……不恰好ですね。それが仮にも聖騎士と呼ばれた神体の姿ですか?」

『”邪神”を倒すのに、形振りを構ってはいられないわ』


 今までに聞いたことがないほど低く、重い声でハルコは答える。プラディナが右腕のレイピアを眼前に突き出した。見ればこちらも今までプラディナが使っていた物とは違う、装飾がされていない無骨な外見だ。刀身が伸びるレイピアなどルエイユも初めて見る、おそらくこれも改造された新兵器なのだろう。さながら決戦仕様といった所か、ハルコの言の通り外見よりも性能を重視しているように思えた。手加減はできない、そう悟りながらルエイユもまたカルマに右手を突き出させる。同時に全身から黒い霧が発生し、神体全体を包み始めた。ミストシールド……”邪神”の象徴とも言うべきそれを使う事は即ち、これからルエイユが本気で戦おうとしている事に他ならない。不用意に接近を許せば確実に不利になる事が分かっていた彼は、シールドを目くらましに使いながら攻撃をしようとしたのである。しかし、間もなく全身が霧で覆われるというところでルエイユの脳に飛来する弾丸が浮かぶ。かわす必要は感じなかったが、念の為に右腕でそれを受け止めた。


「スナイパーライフルの弾丸? ……もしかして」


 当たったのは通常の銃弾とは違う、狙撃用の仕様の物。弾速を維持しつつ的確に敵の急所に当たるように細長く作られたそれを用いる武器は限られる。そして、その武器を使う神体や人間もまた。ルエイユは通信回線を開いた。話す為ではない、傍受するためだ。元々教団所属であるカルマには当然の事ながら教団用の周波数が設定されている。当然、回線を開けば同周波である相手の会話も聞こえるという訳だ。


『っし、命中だ! やっぱりあのバリア、光学兵器以外の攻撃には弱いみたいだな!』

『油断するな! それでも相殺はされてる、大したダメージにはなってないはずだ』


 やはり、とルエイユは小さく呟く。スピーカーから聞こえてきたのは聞き覚えのある、そう時間は経っていないはずなのに懐かしさすら感じさせる声。間違いない、今の狙撃はラスティによるものだ。そして、その傍にはミルニアが控えている。間もなく、レーダーに急速接近する騎影が二つ映り込んだ。


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