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救世主奇誕メサイア・デザイア  作者: きょうげん愉快
第三章「偽神の邪神」
12/35

3-2

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「……これも規格が一致してる」


 最初は何かの間違いだと思った。ルエイユが”邪神”の中身を見たのは一瞬だけだったし、確かに雰囲気は近いが差異もまた大きい。奇妙な位置に長槍が取り付けられた腕、肥大した肩部、不自然に太く短い下半身……全てがいびつなソレは、本当に”邪神”であったとしてもVAとは別のモノであろうと、ルエイユはそう思おうとしていた。

 だが、肩を覆う棘の様な無数の砲身、胸部のカメラアイを彷彿とさせる紅い銃口、そして全身に空いたいかにも霧でも散布できそうな排気口など、全ての武装が”邪神”のそれと一致している。そして、規格。例え違うパーツでも、規格には製作者のクセの様な物がどことなく出る。目の前の神体は外見こそ特殊だが、パーツひとつひとつはラグディアンやプラッテに流用可能な程、規格が一致していた。

 そもそも、VA製造の技術は未だエスキナ教団にしかないのだ。本来ならば軍などに技術提供を求められて然るべきだが、教団は秘匿としてこれを退けた。VAの扱いはあくまで機動聖像である。その動力は神通力の類であるとされ、機械でこれを再現する事は不可能である、というのが表向きの理由だ。無論、騎士の間ではVAが機械であることは公然の秘密なのだが。しかし教団以外でVAを製造する事ができないという事実に揺るぎはない。となれば、どれだけ否定しても答えは自ずと見えてくる。


「やっぱり”邪神”も、教団が作ったVAだったんだ……!」


 ルエイユは無意識に歯を食いしばっていた。心の底から少しずつ怒りが込み上げてくる。つまり今まで必死に戦ってきたのは単なる八百長だという事か? それでどれだけの仲間が死んでいったというのだ、ふざけているにも程がある。どうして、一体何の為に……いや、どんな理由があったとしても納得など出来ないだろう。いっそこの場でコイツを破壊してしまおうか。そうすれば死んでいった仲間の無念も少しは晴れるのではないだろうか。そんな事を考えながら、自然に拳へと力を込めていた。しかし、


「っ!? ……通信器?」


 諌めるようなタイミングでポケットから振動が起こる。もう既に戦いを始めているであろう騎士団からの連絡。それを見てルエイユは思い直す。こんな事をしている場合じゃない、自分は早くここを脱出して皆と合流しなくではならないのだ。彼は必死で怒りを抑えようと深呼吸をし、ポケットから通信器を取り出した。


「……こちらルエイユ・ゴード司祭」

『ルエイユか!? お前今何処に居るんだよ!』


 ルエイユが器を耳に当てるのとほぼ同時に、怒鳴っているに近い大きな声が聞こえてくる。慌てているのか名乗りを忘れているが、この声は恐らくラスティの物だろうと気付いた。


「……ラスティさん。すみません、移動中に崩落に巻き込まれてしまって、現在脱出経路を探索中です」

『なんだって!?』


 受信器からはラスティの驚いた声が聞こえ、直後にどうやら受話器から顔を離したらしい、彼の声が遠くなった。理不尽な怒りをぶつけないようにという配慮だったのだろうが、声が大きかった為に遠巻きながら『なにやってるんだよ、もう』という声が聞こえて来ていた。


『……わかった、だが急いでくれ。召集の目的は宇宙海賊の討伐なんだが、今回のヤツらはVAを使ってきてるんだ』

「VA……盗品ですか?」


 再び受話器に近づいたラスティは、焦りの混じった声でそう口にする。その感情はルエイユにも確実に伝わった。動力が神通力というのは無論口実作りのでまかせだから、動かせないという事はない。だが、そもそも製造できない物をどうやって手に入れた? 当然の疑問と、妥当な予想を込めてルエイユはそう返した。


『ベースはそうみたいだ。だが、どれも射撃戦重視に改造が施されてる』

「それは、厄介ですね……」


 ラスティの答えにようやくの納得をする。確かに改造するだけなら造るよりは遥かに簡単だ。そして効果も高い。騎士の基本は白兵戦、というのはあくまで”邪神”対策であって、普通なら射撃の方が有利に決まっている。それでも普段は”邪神”としか戦わない騎士団は、VA戦においてもどうしても白兵戦からそうそう離れる事ができない。模擬戦の時も白兵戦を主眼に行うからだ。とどのつまり、射撃に慣れていない。


『ああ、団長とミルニアはうまい事立ち回れてるみたいなんだが、それ以外のヤツらはどうにも苦戦してる……なんとかこっちに来てくれよ、射撃戦はお前の得意分野だろ?』

「そんな事言われても……」


 ルエイユは口ごもる事しかできなかった。できる事ならすぐにでも駆けつけたいが、まずはここから出なければ話にならない。その為の出口は先程探したのだが、結局それらしい物は見つからなかった。


「良く分からないけど、何故かこの部屋はハッチしかないんですよ」

『ハッチしかない部屋って……噂のVA格納庫か!?』


 まるで都市伝説かのように語るラスティだったが、ルエイユは誰にも伝え説かれた記憶はない。一瞬貴重な情報なのかと思い、少し身構えた。しかし、どうやら彼の思い過ごしだったらしい。特になにか求める訳でもなく、ラスティは話を続ける。


『他区画からは何処ともアクセスしてなくて惑星外部からしか入れないっていう、開発中の秘匿VAを隠しているって噂の区画があるらしいんだ。眉唾な話だから人に売ってはいない情報だけどな』

「なるほど、秘匿VA……」


 確かに、あった。今彼の眼前にそびえている漆黒のVAなどまさに秘匿中の秘匿だろう。もっとも、その神体は開発中どころかずっと昔から戦い続けている相手だったのだが。しかし、そんな事とも知らずにラスティは『あるんだな』と確認をしてきた。


『だったらなんでも良い、借りて来い。さっきも言ったが、そこは多分出口がハッチしかないんだ。宇宙服か神体がないと外には出られないと思う。で、ついでにそれで戦ってくれよ。プラッテだけだと結構厳しいんだ』

「そんな……」

『お、補給が終わったみたいだ。じゃあ俺は前線に戻るから、お前も早く来いよ』


 無茶な、までルエイユが言い切るより早くそれだけ言うと、通信は一方的に切られてしまう。非常時とは言え、流石に無理な事を言ってくれたものだとルエイユは思う。神体とは誰でも乗れるという物ではない。構造の秘匿もあるし、心ない人間が乗れば心強い神の加護もただの暴力となる。神体は予め騎士の登録がなされ、それ以外の人間に乗る事は出来ないのだ。当然、ここにある神体にルエイユのデータが登録されているはずもない。


「……待てよ?」


 途方に暮れていた所でふと思い当たり、ルエイユはポケットを探る。出てきたのは一枚のカード。先程ハルコから借り受けた物だ。マスターキーだと彼女は言っていた。ならば、恐らくこの神体を動かす事も可能だろう。一瞬、頭の中でこれに乗って援護に向かおうかとも考える。”邪神”の強さは誰もが知っての通りだ。あれだけの性能があれば、ルエイユの腕でも十分戦力として活躍する事は出来るだろう。しかし、


「……いや、駄目だ」


 仮にこれで支援したとして、他の騎士達はどう思うだろう。一応”邪神”は常に黒い霧の様な粒子に覆われ、その姿を見る事は出来ない。VAとしての外観を知っている騎士はルエイユだけだろう。だが、その武装を見て”邪神”だと気付く者も出てくるのではないだろうか、という懸念が残る。そうなれば味方からの攻撃の恐れも出てくる上、下手をすれば教団も潰れかねない。教団がしてきた事は疑いようもなく信者達に対する裏切り行為なのだ、事が露見すれば確実に暴動が起こる。そうなったら今度は何人の騎士が犠牲になる事か。


「でも、だとしたらどうやって……!?」


 不意に再び大きな揺れが起こる。この区画は随分頑丈なつくりのらしい。天井に当たる部分が揺れているだけで、格納庫内には傷一つ出来なかった。この場所に居れば安全は確保されたも同然だ。脱出は実質できない以上、言い訳も立つ。ルエイユは今、ある意味誰よりも安全な位置にいると言える。その事実が、どうしようもなく彼を不快な気分にさせた。


「護るための騎士が、安全な場所にぬくぬくしていてどうするんだ」


 ルエイユは苛立ちを込めて呟く。そう思ってからの行動は早かった。すぐさま”邪神”に駆け寄り、コックピットから垂れている昇降式のワイヤーにつかまる。それを軽く引くと、ワイヤーが縮み彼を神体の胸部へと導いた。


「!? ゲホッ、ゲホッ……」


 到着すると同時に思わずむせてしまう。コックピットの中は驚く程埃まみれだった。全体的に白くもやが掛かったような外観になり、使用感といった物が一切ない。これは本当に誰かが乗っていたのかと疑いたくなる。ルエイユは口元を押さえつつもう片方の手で埃を払った。


『マスターキー認証』


 申し訳程度に機械周りだけ掃除したところでカードを読み込ませる。どうやら機能自体は生きているらしい。環境は酷いものだが、動かせるだけ幾分マシだ。シートの埃を簡単に払うとルエイユはそこに座ってレバーを握る。モニターを見る頃には既に閉じていたハッチの向こうに宇宙空間が見えていた。神体の起動と同時にハッチが開く仕様になっているらしい。少数でも発進が行える為の配慮なのだろうか。無論それで困るような事はない、利用できるものは徹底的に利用しなくては。ルエイユは足元のペダルに軽く足をかけた。


「システムオールグリーン、メインブースター点火……発進!」


 動ける事を確認し、ルエイユがAIに指示を出しながらペダルを踏みしめる。神体が大きく揺れ、どうやら発進が成功した事が分かった。しかし、


「――――ッ!?」


 全身に何とも言えない苦しさが走る。胃を逆流する吐き気、息を吸う事の叶わない肺。押し潰される様な圧迫感に、ルエイユの視界は白く染まっていった……。


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