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Prologue

「はぁ……はぁ……」


 彼は無心に走っていた。目的地などと言うものは全く思い浮かばない。そもそも行くべき場所など何処にもないのかもしれない。それでも、立ち止まれば確実にアレに殺される。空を漂うあの漆黒の影から逃げ延びる事が出来るなら何処でも良い。あるかどうかも分からないその場所を、彼はひたすら目指していた。


「はぁ……はぁ……うっ!」


 影から光が降り注ぐ。その仄暗い輝きに照らされた近くの家屋が一つ、爆砕した。粉塵と共に大量の瓦礫が彼の元に降り注ぎ、全身に傷を作る。その痛みは、ひ弱な少年を動けなくするには十分過ぎるものだった。彼はもう痛みに疼く身体を押さえながら無様に呻き声を上げのた打ち回る事しか出来ない。誰か、助けて……そう心の中で叫ぶ。その直後、そんな事をしている自分に気付き、情けなく思った。


――ああ、なんて無様。なんて……無力


 彼は、あまりの無力さを実感した。逃げ回っているからではない、弱くても良いと思う。だが、危機に立たされ、顔も知らない”誰か”の助けを身勝手に求める……そんな自分が、この上なく無力に感じた。

 何の見返りもなしに他人を助ける人間など居はいない。誰一人とて助けられない自分のことなど、誰一人とて助けてくれはしない。そう思い直し、なんとか立ち上がろうとする。しかし、想いに応えるのは更なる痛みだけだった。痛みに耐えられない彼は再び地べたを舐める。そこに、無慈悲に最後を告げる影の紅い瞳が向けられた。瞳孔が鋭い光を放つ。彼には思わず目を閉じるしか選択肢はなく、直後に身体に大きな振動を感じ取った。しかし、どれだけ待っても身体を射抜かれる感覚はない。代わりに、心地よい振動が彼を包み込む。


「……?」


 彼が目を開くと、そこは大きな掌の中だった。見上げればその手の持ち主は巨大な鋼の騎士、周りは果てしなく広がる……とは行かないが、土煙すら届かない青い空。少年は騎士に護られ、大空を飛んでいた。

 騎士の名を彼は知っていた。いや、この星において、知らない人間など居ないだろう。エスキナ教団所属大司教用VA『プラディナ』……この星の正教であるエスキナ教団が所有する人型機動聖像『ヴァルキュリア・アーミーシリーズ』の頂点に立つ平和の守護者。

 その最強の聖騎士に護られて、少年は地下シェルターの入り口まで連れて行かれた。彼を降ろしたプラディナは、元凶たる黒き影に向かい勇敢に飛び立っていく。強大な力を持つ悪に恐れずに立ち向かうその姿は震えるまでに美しく、少年にとっては紛れもなく、伝承にのみ姿を残す”救世主”そのものだった……。


 その頃からだ、彼が”救世主”という存在に憧れ続けているのは。


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