しーん3
お客様、どうなさいました、そのような隅で・・・
泣いていらっしゃるのですか。
ご心配召されなくとも、お客様は必ずお戻りになれますよ。この私が保証いたします。
・・・え、はい、・・・違う?では、なぜ・・
私、でございますか?何か粗相をいたしましたでしょうか?
・・・そんな、ことで・・
お客様、お客様はとてもお優しくていらっしゃる。
門番というものは、そういうものなのです。
お客様にも覚えがおありではないですか。
ご自分の時間と労力を割いて何かをお造りになったことが。
ええ、ではそれを、なんの対価もなく引き渡せと言われたなら、如何ですか。そう、良い気持ちはしませんでしょう?
そうとなれば、引き渡せと言った者にも、良い感情を持つことは難しいはず。
門番はそういうものなのです。私は、それを承知でこの役目を賜っております。
お客様が、私を哀れんで心を痛めることはないのですよ。
さあ、こちらの椅子にお戻り下さい。こんな所に座り込んでは、体が冷えてしまいます。温かいお茶を入れましょうか。ホットミルクもご用意できますよ。
では、甘めのホットミルクに致しましょう。私もお相伴に与らせていただいてもよろしいですか?有難うございます。では失礼して。
・・・はい。
悲しい、と思うことはありません。私はこの仕事に、誇りを持っておりますから。
・・・でも、そうですね。
淋しいと思うことはありますよ。
この場所に来ることが出来るのは、創造主と、神に喚ばれた人だけですから。
こんな風に誰かと一緒にゆっくりと過ごすというのは、もう何百年ぶりになりますか。
・・・・
いえ、お客様は喚ばれたわけではありません。私の印もございませんし。
まれに、本当にまれに、ですが、お客様のような方がいらっしゃるのです。
ただ、どのような理由からなのかは分かりかねるのですけれど。