勇者ご一行のお荷物
ある村にどうしようもない男が居た。
どれほどどうしようもないかと言えば本当にどうしようもないのだ。
なにせ、殺人を含むあらゆる悪事に手を染めている。
金も物も盗むし、強盗も強姦もしてきた。
それだと言うのに誰も彼を罰することは出来なかった。
理由はただ一点。
「俺は勇者の危機を救う男だ」
そう。
ある予言者がそのように予言をしたのだ。
今、世界を支配している魔王とそれを打ち滅ぼす勇者の予言。
――そして、そんな勇者を救うと予言された男。
彼は半ば既定路線のように勇者の仲間となり旅に加わった。
勇者と共にあれば少しは変わるかと思ったがとんでもない。
そのどうしようもなさは却って『勇者の仲間』という肩書を得たことで酷くなり、勇者やその仲間がいくら諫めても変わることがなかった。
かと言って一行から追放するわけにもいかない。
なにせ、予言者は由緒正しき大預言者だったのだから。
一行は彼を嫌った。
彼を疎み一行から離れる者さえもいた。
離れていく者を彼は嘲る。
「世界の危機に小さな事を気にするなんて、どうしようもねえ奴だ」
勇者が止めてもお構いなしだ。
「俺はいつかお前を救う男だぞ」
そう言われてしまえば勇者もまた黙るしかない。
しかし、勇者は常々彼を諫め続けた。
「勇者一行の肩書は『犯罪許可証』ではない」
「人聞きの悪い。俺はただ協力してもらっているだけだ」
「罪のない人間を殴ること、美しい女を襲うこと、これらが協力だと?」
「当たり前だ。心が満たされなきゃ万全の状態を維持出来ねえからな」
あまりの言い草に勇者は一度とならず彼を追放しようとしたが、その度に民草が言うのだ。
「勇者様。どうか我慢を。我々なら平気ですから……」
歯がゆい思いをしながらも勇者は彼を迎え入れる。
その度に彼の傲慢な態度は増徴していく――。
「始めから俺にしたがっていりゃ良いんだよ」
勇者一行の事実上の支配者と化した彼の横暴。
それも遂に終わる日が訪れる。
――魔王との最終決戦。
共に満身創痍の中、魔王は人質を取った。
言うまでもなく、あの男である。
「知っているぞ。お前がこの男を大切に扱っているのを――」
命乞いである。
魔王は本心からこう言った。
「よく聞け。この男の命が惜しければ今は見逃せ。この状況だ。我も約束は必ず守ろう」
満身創痍の勇者の仲間たちは固唾を飲んだ。
二度と来ないチャンス。
しかし、囚われたのは魔王殺しの最後のピースとなるかもしれない存在。
男は何事か叫び続けているが、その様にさえ余裕がある。
当然だ。
彼は自分の価値をよく知っているのだから。
――対して、勇者は。
躊躇いもせずに男の首を刎ねた。
「なっ!?」
驚愕する魔王。
その隙は勇者の攻撃が命を奪うのに十分な時間。
いつか、勇者の危機を救う。
あの日の予言が今、ようやく成就したのだった。
後世は勇者の危機を救った男の名前を遺していない。
誰も遺すつもりもなかったからだ。
代わりとばかりに勇者一行が幸せに暮らしたと言う結びの言葉ばかりが現代にまで遺っている。




