門戸は開かれてはいた
王立中央学院は基本的に留学生を受け入れてはいない。
正確には、王国民以外に大公国貴族子女が学生として在籍するが、
兄弟国という位置づけの為、留学生扱いはされていない。
入学が義務付けられている者は、王国の貴族、準貴族の子女。
ここを卒業しなければ嫡子であろうとも家を継ぐ資格は喪失する。
また、王国の平民であってもここへの入学は可能であるが、
その場合は高難易度の入学試験を通過する必要がある。
大公国出身の者は、貴族子女ではある為入学試験は行われない。
しかしながら大公国内での学力や素行など、資格審査は存在する。
何せ入学すれば、国家機密や軍事技術なども学ぶ事になるのだ。
不審人物が潜り込めぬようにするのは当然の処置である。
本来この学院は、次世代の王国を支える者達の為に存在している。
厳しい言い方をするならば、役立たずは通う資格すらないのだ。
ゆえに平民で入学を成し遂げた者は皆、一様に基礎能力が高い。
努力を怠った下級貴族や準貴族の子女など相手にならない程に。
◆
さて。
王国でも大公国でもない、別の国の者達は入学出来ないかと言えば、
一応「出来なくはない」。
王国内で身元保証人を得た上で、平民と同様に入学試験を受ける事。
王国に害を成すような者は当然受け入れられない。無能も然り。
これは他国民に対する最低限の譲歩である。
それを理解していない者が、今学院に文句をつけていた。
「貴族は無試験で入学すると聞いている!
なぜうちの息子は入学許可証が送られて来ないのだ!」
王立中央学院内の応接室。
大声を張り上げるのは都市国家同盟の貴族。爵位は伯爵らしい。
服装こそ高級品であるが、着こなしはどうにも下品で見苦しい。
その横には彼の妻と、彼をそのまま小さくしたような男児。
三人とも根拠のない自信にあふれた顔をしている。
担当する学院の職員も、彼らの家についてはある程度聞いている。
王国からの輸入品を都市国家同盟内で売りさばき財を成していると。
ここ数年で爵位を買い取り男爵へ、賄賂攻勢で伯爵まで上り詰めた。
つまりは王国頼みのコバンザメなのだが、誇りは人一倍らしい。
そもそも、王国や大公国の貴族は爵位の売買など不可能である。
売買できる物、つまりは商品ごときに何の名誉があろう。
「貴家は王国民ではありませんな。都市国家同盟の方ですゆえ。
その時点で無試験入学の資格はありません。
また、大公国民でもない。貴族としては扱えないのですよ」
大体、都市国家同盟でも高等教育機関は存在するのだ。
通称「学術都市」。古代遺跡が存在する事で発展した都市国家だが、
出土品の研究をする多くの者が集うために研究機関が集中する。
一部学問では王立中央学院に匹敵する「学術院」が存在している。
そこへ入学すればよいのだ。それが出来ないという事はつまり。
学術院側が男児を入学に値しないと判断したに他ならない。
そんな「はずれ」に入って来られても迷惑。
そもそも王立中央学院は学術院のすべり止めですらない。
婉曲的に伝え続ける学院職員だが、伯爵一家はひたすらごねまくる。
果ては息子を入学させれば多大な寄付を学院に行うとも。
入学をどうしても拒否するのならば、学院を財力で潰すとも。
職員は溜息をつき、こう言い放つ。
「どうぞご自由に。やれるおつもりなら」
ただの職員が偉そうに、後でせいぜい後悔するがよいわ、
と捨て台詞を残して伯爵一家は学院を後にした。
◆
一か月後。
都市国家同盟で、ある成り上がり貴族の家が潰れたらしい。
その家はなんでも、王国との貿易によって財を成していたそうだが、
王国の取引禁止相手に指定されて瞬く間に干上がったと聞く。
爵位は売り払われたそうだ。借金返済の為に。
一か月前、件の学院職員は無論伯爵一家とのやり取りを報告した。
入学させろとごねまくり、挙句脅迫と賄賂で丸め込もうとしたと。
王立中央学院の現学院長は、四大名家筆頭のランツァドゥラ家。
現軍務大臣の弟の一人で、その妻は現財務大臣の姉である。
当然この報告は王家にまで届く。都市国家同盟にバカがいるぞ、と。
学院の人事すら調べようとしていない者が、よくぞ言ったものだ。
第一、財源となる相手を自ら捨て去ってどうする。
王国は特に都市国家同盟へ表立った抗議などしなかったが、
取引禁止がなされたからには他の貴族も何があったか調査する。
伯爵一家の思い上がりと息子の出来の悪さは知られる事となり、
それまで付き合いのあった貴族達は即座に手を引いていった。
王国側は別の商人とやり取りすれば良いだけなのである。
取引相手は一家だけではないのだし。
顔も名前も知られているので、再起の目は最早ないだろう。
あの家は息子だけではなく、親達も知性に欠けていたようだ。
裏口入学って未だにあるんですかね?
なんか子供の頃ドラマとかでよく見ていたけど。
あ、王立中央学院と学術院の交換留学生はいます。




